53―不良が捨て猫構ってたり、強面の奴が花屋やってたりするとギャップがすごいよねー
雷続きでおっかないですね
主に執筆中の文章が消えると(白目)
ジャリジャリと足元の土が歩みと共に音を鳴らし、それを心地よく聞きながら険しい道なき道を進む。周囲は夕闇だけではない暗さがあるが、足音の主であるアスタは自分の庭の様な足取りの軽さで迷いなく進んでいく。
仕事の成果を売り払い、さらには追加で収入も得られた彼女は機嫌よく歩を進める。
「にしても、今回はツキが回ってきてたねぇ。あいつ等の喜びそうな酒も手に入ったし」
アイテムバッグの中に入っている安酒の樽を思い浮かべながら、盗賊団の本拠地であるイフリートの暴威を進んでいくと、土と岩だけだった景色に徐々に人工物が見え始める。自分たちが住み始める以前から存在していた住居跡。遺跡といえば遺跡なのだろうが、神殿やダンジョンの様なものではなく、村の跡のようなものだけだった。
「・・・思えば、この遺跡も変なもんだね。誰だか知らないケドなんだってこんな場所に住んでたんだか」
崩れた家の石壁や壊れた木製の家具を視界の隅に捉えながら、頭に叩き込んだルートを通って進んでいくと、岩をくりぬいた洞窟が次第に見えてくるとその入り口の小さな岩に腰かけてタバコを吸っている男もまたアスタの姿を認めた。
「ん、おう。アスタ、帰ったか」
「ああ、ただいま。姐さんいるかい?」
「いつもの様に奥にいる」
「そうかいそうかい。んじゃ帰還の挨拶だけしてくるかね」
「・・・・・なぁ、おい」
そう言いながら男の横を通り抜けたとき、背後から男が声をかける。何事かとアスタが振り返ると、顔には大きな傷が左目を縦断するように頬まで延び、その左目を眼帯で隠している強面の男が頭を掻きながら言い淀んでいた。
「なんだい?姐さんとこ行かなきゃいけないんだけど?」
「あー・・・なんだ、ほれ・・・その、よ」
もごもごと口を動かすがそれ以上続かない様子に、ふと見当がついたアスタがやれやれとばかりに溜息を一つついてから口を開く。
「・・・ガキんちょどもかい?」
「お、おう。アイツら、元気にしてたか・・?」
「気になるくらいならテメェで行きなって言いたいとこだけど・・・」
「テメェの面のことなんざわかってんだよ。こんな顔じゃガキどもに怖がられちまうだろ」
「アンタの笑顔見たら殺し屋が命取りに来たのかって思っちまうからね。ああ、元気にしてたよ。昔に比べりゃみんな肉付きも良くなってきたし、ここんとこは体調崩す奴もいなくなったって話さ」
「そ、そうか」
洞窟・・義賊団の塒の奥へと入っていくアスタを追う様に強面の男も続いていく。入口こそ廃坑のようにボロボロになっているように見えるが、奥へと進むにつれて程良く整備されていることがわかる。
「こんな強面の男がガキ好きだとはねぇ」
「チッ、顔は関係ねぇだろーが」
壁に取り付けられた灯りが増えてくるにつれて、段々と人の気配が感じられるようになってくる。ガヤガヤと騒ぎながら手に持ったカードで一喜一憂していることから、賭けでもしているんだろう。
「ん?おう、アスタ!戻ったのか!」
「ああ、帰ったよ。姐さんに報告したら酒持ってきてやるから大人しくしてな!」
「そいつぁいい!」
諸手を挙げて喜ぶ男達に苦笑しながら歩みを進めていくと、最奥に鉄の扉が見えてくる。形だけでもノッカーでゴンゴンと扉を鳴らすと、返事を待たずに入っていくアスタと苦笑しながらそれに続く強面の男。
「姐さん、入るよ」
「入りながら言うことではないな。お帰り、首尾はどうだった?アスタ」
「こっちの言い値で買い取ってもらったよ。いつも通り、7割はスラムと孤児院に。残りは取り分として」
蒼銀の髪に褐色の肌。息をのむ美貌の持ち主が読んでいたであろう本を閉じながら尋ねれば、上々とばかりにアスタが答えてそれに頷く。
「あ、そういやぁね」
「うん?」
「ルドニで商人に買い取ってもらった後だけど、ちょいと捕物騒ぎに巻き込まれてね」
「なに?」
「おいおいおい、大丈夫だったのかよ」
戸惑いの声を上げる男に呵々と笑い応えるアスタは、懐から取り出した一つのバッジを取り出して指で弾いて飛ばすと、蒼銀の髪の女がそれを手に取る。
「これは・・・」
「リゲルってタヌキの評議員がいたろ?ソイツがなんかやらかしたらしくてね、その捕物に巻き込まれたのさ」
「そのリゲルの評議員のバッジか」
「・・・なんでそんな奴のバッジをオメェが持ってんだよ?」
「んなの、ソイツの財産くすねに屋敷に忍び込んできたからに決まってんだろ」
にかっと表情を崩し腰に手を当てながら笑うと、アイテムバッグから別の麻袋を取り出してテーブルの上に音を立てて置く。口から覗く輝きは金色で、それを見た二人の目の色も変わる。
「おぉー!すげぇなこんな金貨見たことねぇぞ」
「ふふん、そうだろう?あのリゲルって奴は結構なお宝持ってたみたいでね。これも高く売りさばけたのサ」
「この金の分も含めて、奴らには渡したのか?」
「そりゃーね。でもこれで暫くはアタシらも連中も頑張れるだろうさ」
「ああ。よくやってくれた。お前の事だから皆に酒でも買ってきたのだろう?」
「お見通しか。オイゲン、このアイテムバッグに樽入ってるから野郎共に持って行きな」
強面の男、オイゲンにアイテムバッグを投げ渡すと嬉しそうに受け取って部屋から出ていく。ギィィと鉄の扉が音を立てて閉じられると、アスタは目の前の女に顔を戻す。
「まだ何かあるのか?」
「なにかって訳じゃないんだけどね・・ちょいと気になったことがあったもんで」
「ほう?」
「姐さん、緑色の宝石がついたイヤリングって知ってるかい?」
「・・?話が見えてこないな。エメラルドのイヤリングなら街の宝石店でも売っているだろう」
「じゃなくて・・アタシの風に干渉したみたいでね。持ち主はなんも言わなかったけど、その後しばらくは魔力の残滓はあったからそれだと思うんだよねぇ」
「風に干渉する緑色の宝石のイヤリング、か。・・・・有り得ないと思うが心当たりは一つある」
「お、本当かい?」
「・・・間違いでは無ければ、恐らく風脈のイヤリングと呼ばれる宝具の一つだ」
「宝具・・?宝具ってあれだろ、精霊様の加護を受けたって一品」
アスタの言葉に神妙に頷く女。テーブルの上の金貨を金庫に入れると、そのテーブルの上に大陸図を広げる。ふむ、と一つ息を吐いて現在地であるイフリートの暴威を指でトントンと叩くと、ツツツと指を動かしてその北の鎮守の森で止める。
「この国の象徴である火の一族がいる鎮守の森、ここに火の宝具焔剣フランベルジュがある。最北の帝国に土の宝具の大地のローブが、その南西にあるベイツェという街・・元は皇国ベイツェというのだが、そこの湖に水の宝具である清水の指輪が。そして霊峰の北側の麓、エルフの森に風の宝具である風脈のイヤリングがそれぞれ祀られている」
「へぇー、相変わらず物知りだ。んじゃ、ギンジが使ってたのが風脈のイヤリングってわけか」
「もし、そのギンジという輩が風脈のイヤリングを持っていたのであれば、ただ事ではないな」
「へ?」
「考えてもみろ。宝具が先に言った場所に無いという事は、この国で言うなら火の一族に忍び込んで宝を盗んだ奴がいる、ということだ」
「・・・それがギンジだっていうことかい?でも、ギンジが寝泊まりしてた場所は、その火の一族の迎賓館だよ?」
「・・・訳が分からないな。宝具を盗んで何食わぬ顔でいるのかもしれないし、盗まれた宝具を取り返して、精霊繋がりに火の一族と知り合ったのかもしれない」
トントンと指で地図を叩きながら悩む女を他所に、ふむ?と首を傾げながら思案するアスタ。酸いも甘いも嚙み分けるタイプの男に見えたが、盗みを働く様なタイプではないと感じていた。
「ソイツはまだルドニに?」
「いや、そこまで長居はしないって言ってたっけね。確か北方街道が使えないってんでこっち来たって言ってたし、ティビリに行くんじゃないかい?」
「ティビリ・・・狐人の街か」
「あそこは西方街道行って、そのあと山を越えるか隧道を通るかしないとねぇ。こっちからならただ西に行けば着くけど」
自分用のアイテムバッグから取り出した高級そうな瓶の酒を取り出すと、勝手知ったるとばかりに戸棚からグラスを取り出して注ぎ始める。その芳醇な香りに、思考に沈んでいた女の意識も引き上げられ、じっとアスタを静かに見続ける。
「(普段はクールビューティーって感じだけど、時たま仕草が可愛いんだよなぁ姐さん)」
「・・・・」
「はいはい、姐さんの分もあるから。・・ほら」
物欲しそうな視線を受けて苦笑しながら別のグラスに注ぐと、それを受け取ってチビリチビリと飲み始める。扉の向こうからやいのやいのと声が聞こえてきたことから、オイゲンが酒樽を開けたのだろう。この義賊の長である目の前の女も、今回の酒には満足したのかピコピコとその長く尖ったエルフの耳を揺らしている。
「アスタ、二つ仕事を頼みたい」
「ん、なんだい改まって」
「先に言っていたギンジという男がどのようにして宝具を手に入れたのかという調査と・・・個人的な事情にはなるがティビリの下調べだ」
「ティビリの?」
「あそこは魔物の多い隧道の為か気楽に行ける場所ではない。そのためか悪党が逃げ込みやすい場所でもある」
「個人的っていえば、姐さんも大事なモノが盗まれたんだっけか?」
「ああ。袂を別ったとはいえ、一族の秘宝をね」
そう言って少し寂し気に微笑みを浮かべる彼女は、グラスを一気に傾けて空にしてしまう。義賊団の仲間について詮索はしないという暗黙の了解がある以上、踏み込みはしないがグラスへと追加の酒を注ぎながら一つだけ尋ねる。
「んで、下調べって言ったって何を探しゃいいのさ」
「杖だ。・・・黒い宝玉がついた、黒い杖。わかりやすいだろう?」
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「へぇ・・・・・・っくしょいぃやぁ!ちきしょーめぇ!」
盛大なくしゃみをしながら、吸い込んでいたタバコの煙を一気に吐き出す。あまりのくしゃみの大きさに近くにいたライラは驚きから体を震わせ、アリエルとクラリッサは思わず笑い声を上げる。
「すごいくしゃみ、ギンジさん風邪でも引いた?」
「あー・・・いや、風邪じゃねぇな。だれか俺の噂でもしてるのかねぇ」
「旦那様の噂・・・有り得ない話ではなさそうですねぇ」
「イイ男がいるってか?」
「あらあらうふふ」
落ちそうになっている煙草の灰を灰皿に落としながら言えば、クラリッサが口に手を当ててクスクスと笑い声を上げる。その向かいに座っていたライラは音に驚いて毛羽だった尻尾と耳の毛を撫でて落ち着かせていた。
「んで、どこまで話してたっけか。確か西方街道進んで・・・」
「ティビリに行くには山道を進むか、隧道に入るかになるのだが・・・」
「確か、山道は馬車が通れる道ではないんですよねぇ」
「そう。なので必然的に隧道に入るわけだが、山道を進むよりも早く着く反面・・難点が一つ」
「魔物が多い、か。厄介じゃないといいんだがねぇ」
「「「・・・」」」
「そこで全員黙るのは無し、ってか俺の顔みて諦めたような顔すんな」
苦い顔をしながらタバコを咥えなおして蛍火を灯らせる。そんなちょっと拗ねた様子に女性陣三人が再度クスクスと笑い声を上げれば、ムフーと鼻から煙を噴き出させる銀二。
「ギンジさんが悪いわけじゃないんだけど、それでもこの旅トラブル多いからねぇ」
「俺が面倒事を抱え込んでるわけじゃねぇっての。あっちから巻き込みに来るんだからしょうがねぇだろ」
「まぁ何事もなければそれでよし。なにかあっても、その疲れはティビリで取れると思うよ」
「ティビリって街はなんかあんのか?」
「私も行ったことがあるわけではないが、聞く話によればお湯が湧き出るオンセンというものがあるらしい」
「ほほう!温泉か!」
「あらぁ、その分ですと旦那様はそのオンセンというのをご存じでぇ?」
「ああ。なんつっても、俺の故郷は温泉が多い国でね。長い休暇が取れたときには行ったもんさ」
温泉と聞いてからテンションがグイグイ上がる銀二を微笑ましそうに見る三人。当の本人はそんな生暖かい視線を気にせず、温泉に思いを馳せる。
「ホント、無事に着いて欲しいもんだ」
待て而して希望せよ!




