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51―見せてもらおう、火の一族の力とやらを!―

一夜明けて陽があと少しで真上に昇ろうかという時間。銀二は活気づく賑やかな大通りを一人で歩き回っていた。手には食べ物や瓶等が飛び出している紙袋を抱え、口には火のついていないタバコを咥えてピコピコと揺らしている。


「えーっと・・・クラリッサに頼まれた薬草類はこれで全部で・・・食い物もこれで補充できたか?」


呟きながら歩いている銀二だが、ふと視線をぐるりと周囲に巡らせると様々な人種が楽し気に露店を巡っている姿が目に入る。夏祭りの縁日のような賑わいに首を傾げるが、そういえば闘技大会が近かったなということを思い出した。


「エイルノートが出場するとか言ってたけど、ありゃ馬車に乗り込む方便だったみたいだし・・」

「呼んだっスかー?」

「うぉっ!」


狙ったようなタイミングで路地から顔を出したエイルノートに紙袋を揺らして驚く銀二。その姿を笑いながら、近くの露店で買ってきた飲み物を差し出してくる。


「これ、この前奢ってもらったお返しっス」

「お、おうサンキューな」

「それにしても、一人っスか?」

「ああ。アリエルは昨日の疲れでまだ寝てるし、クラリッサは人混みがあまり好きじゃないこともあってその看病。ライラは・・まぁここまで人が多ければ気付かれて騒ぎになるだろうってことで一緒に宿でのんびりしてるよ」


スヤスヤと幸せそうに寝息を立てるアリエルと、それをニコニコ眺めながらのんびりお茶をするクラリッサとライラの姿を思い出しながら言うと、エイルノートも「ああー」と納得するように声を上げる。


「そういうお前は?」

「俺っちも今日は休みっス。旦那達にくっついて旅の空でしたからね~」

「そうけそうけ。おっと・・・しっかし、すげぇ人混みだよなぁ」


子供を肩車した大柄な男がのっしのっしと歩いてくるのを、通りの脇に避けてやり過ごしながらもらった飲み物に口をつける。ベリー系のジュース・・と思ったが若干酒精が感じられることからアルコールがあるのだろう。


「ん、甘いがこれはこれでうまいな」

「でしょ?この国じゃお祭りと言ったらコレっスよ。今みたいに暑いときは冷たくしても美味いし、寒い時期はあっためて飲むと体が芯から暖まっていいんスよ」

「俺んところの甘酒みたいなもんか・・」

「旦那の故郷にも似た様な酒があるんスか?」

「ああ。米でできた酒の一種なんだけど、酒精を取り除いて子供でも飲めるんだ。まぁ、たしか製法の違いで酒精が含まれてるのもあったはずだけど」

「へぇ~米で酒・・・ドワーフに聞かれたら監禁されそうな話っスね~」

「・・・・ドワーフには黙っておくわ」


甘い酒を飲みながら苦い顔をするとは不思議なものもあったもので。野郎二人が肩を並べて歩き始め、いつぞやと同じように広場のベンチで座りながらタバコに火を着ける。


「ふ~~~。ああ~タバコうめぇ~」

「ホント旦那ってタバコ好きっスねぇ・・」

「最初は単にカッコつけみたいなもんだったんだけどなぁ・・そのうち吸うと思考が切り替わるって感じになって、もうタバコの無い生活には戻れんなぁ」


トンとタバコを指で叩いて灰を落とし、再度酒に口をつける。昼間から酒を飲むということに日本人的に背徳感を感じながらも、久しぶりに休日の様な安らかさに深く酒精の混じった息を吐き出す。


「あ”~うまい。・・・んで?俺になんか聞きたいことあったんじゃねぇの?」

「・・・お見通しっスか」

「まぁそれなりにはお前さんのことはわかってきたからな。無駄なことはしないタイプだろ?」


ニヤリと口角を上げる銀二に降参とばかりに苦笑しながら両手を軽く挙げる。


「んじゃ、お聞きするんスけど・・・リゲルの家にあったはずの財産、どこにいったか知りません?」

「財産~?紅茶なら昨日ちょいと頂いちまったけど、それ以外はどこにあるかは知らねぇなぁ」


脳裏に桃色の髪のナイスボディな美女アスタの姿を思い浮かべたが、それをおくびにも出さずにしれっと言ってのける銀二は、きっと頑張れば役者になれたかもしれない。そんな銀二に尖った耳をピクリと動かしながら見ていたが、終いにはふぅと一つ息を吐いて視線をきった。


「・・・そっスか」

「それを聞くためにわざわざ俺を探してたのか?」

「あくまで会えたら聞くってだけっスよ。関係者全員、旦那達が取ったなんて思ってないっスから、知ってたら聞く位で頼まれたんスよ」

「それでちゃんと聞きに来るあたり律儀なもんさ。さっきの、俺の心臓の音とかで嘘か確かめてたのか?」

「そっス。ヒトが嘘つくときって脈が変わるからわかりやすいんスよ」


リゲルの財産を盗んだのはアスタだと知っているが、彼女がどこに持ち去ったかは知らないので嘘はついてないと自己弁護した銀二は、内心エイルノートに謝りながらもコップをグイっと傾けて表情を隠した。


「この前チラッと話した義賊が最近特に首都周辺に出没するらしいんスよねぇ。上も今回のも義賊にやられたんじゃないかって言ってるんスよ」

「そういや、この街に入る前に野営した時にちょいと騒がしかったけどアレがそうだったんかね?」

「あー、そういえばそうっスねぇ・・・まぁ、俺っちに被害が無ければなんでもいいっスけど」

「それでいいのか」

「いいんスよ。聞く話じゃ、孤児院とかに大金の寄付をどこからともなく送り付けるらしいっスよ。接収された財産がどう使われるかわからないなら、孤児院に行っちまったほうがいいんじゃないっスか?」


ケラケラと笑いながら言うエイルノートに、銀二も苦笑しながら頷いて返す。そうしていると少し先に人だかりが出来てそこから歓声があがり、二人は視線を見合わせて同時に首を傾げる。

ベンチから立ち上がってフラフラと近寄れば、筋骨隆々の屈強な男達が大きな酒樽を囲みながら何やら話していた。


「こりゃ一体なんの騒ぎだ?」

「ん~?ああ、ほれ・・そこの優男の兄ちゃんが、腕相撲で勝ったら賞金だすって言っててよ」

「参加費銀貨一枚、負ければ没収勝てば賞金と今までの参加費分も全取りってな!」

「それで挑んだはいいが、全員負けちゃったってわけっスか?」


エイルノートが酒を傾けながら呟けば、屈強な男達も頷きながらゲラゲラと笑いだす。


「いやぁこれがつえーのなんの!」

「熊人が身体強化込みでやっても勝てねぇんだわ!こりゃもう笑うしかないぜ!」


ガハハと笑い声が響く広場、おそらく全員酒に酔っぱらっているようで赤ら顔で酒精の混じった臭いが立ち込めている。そしてそれをニコニコと微笑みながら眺めているのが、件の腕相撲チャンピオンなのだろう。年の頃は15,6のまだ幼さが混じった顔で、特徴的な赤髪に褐色肌でバンダナを被っている。その手のお姉様からすれば垂涎ものだろう。

その彼を見て納得したように頷く銀二を、彼もまた興味深げに見ていた。


「そちらの異国のお兄さんもどうです?一戦」

「俺か?」

「はい。どうやら中々魔力量が多いみたいですし、身体強化もありですから」


そう言ってニコニコしながら樽の上に敷いた布に肘を置き、銀二を待つ男。すると周囲も優男の少年と見た感じそんなに強そうじゃない銀二の一戦を囃し立てる様にして、気付けば銀二も樽の前に立たされていた。


「おうおう兄さん、坊ちゃんはやる気だぜ!?ここまで言われたらやるしかねぇだろ!」

「ま、せっかくの祭りだ。俺も楽しませてもらおうかね。・・・それに前哨戦にはなるか」

「前哨戦・・・?」

「こっちの話さ。ま、ひとつよろしく頼むよ」


ドン、と肘を樽に置いて男の手と組み合わせる。お互い手を握った時、ピリッとした空気が場を包む。この世界に来てからというもの、欠かすことのなかった身体強化は、最早呼吸と同レベルの域に達しその練度も磨き抜かれている。その銀二の全力の身体強化は、魔力知覚に優れる一部の獣人からすれば酔いも一気に覚めるほど。

対する少年と言ってもいい男も、予想以上の魔力量に一度目を見開くが直ぐに微笑み、さらには獰猛な笑みを浮かべて握る手を強めていく。

ピリリとした空気に誰しもが喉を鳴らしている中、ひょいひょいと二人の間に立ったエイルノートが二人の手に自らの手を乗せて開始の合図を今まさに上げようとしている。


「・・・・」

「――――」

「勝っても負けても言いっこなし!行くっスよ~?レディ~~」

「「―――」」

「ゴー!!」

「フッ―――!!」

「セッ―――!!」


ドン!!と衝撃が二人を中心に広がり、周囲の男たちの体を仰け反らせるがだれも二人からは目を離さない。ギリリリリ!と互いの手から音が鳴っているが、二人の手の位置は開始からピクリとも動いていない。

まさに実力伯仲かと誰しもが思ったその時、グググと徐々に少年が銀二の腕を押し始める。


「グっ・・!?」

「フゥゥッ!」

「兄さん頑張れ頑張れ!」

「坊主、そのまま押し切れ!!」


やいのやいのと外野が応援(?)をし始めるが、当の二人はそれどころではなさそうな様子である。このまま少年が押し切るかというほど、銀二の腕を押し下げていくがギリギリという所でピタリとその動きが止められる。

ざわりと周囲の男達が驚き賑やかになっていき、そして少年もまるで古代の大樹を押してるかの如くビクともしなくなった銀二の腕に目を見開く。


「坊主!一思いにやっちまえって!」

「バカ、ありゃマジで止められてるぜ」


そして両者の腕が動き始める。銀二が少年の腕を押し上げ始めたのだ。おおっと男たちのどよめきに合わせて少年の表情に苦みが走り始め、やがて腕の位置はスタートの位置にまで押し戻された。


「くっ・・!」

「おいおいおい、マジかよ!?」

「あの兄さんなにもんだ!?」


ミシミシと音を立てる樽に片眉を上げてチラリと見る銀二。そしてある意味では余裕にもとれるその隙を少年が果敢に攻めようと力を籠めるが、ビクともしない。まさに鉄腕とでも言うべき力強さに、一瞬だけ呆気にとられたがそれこそが隙となり、ほんの少し力が緩んだ瞬間に銀二が全力で押し込み始める。


「ぐぅ!?」

「よっ・・・せい!」


ドン、と少年の手の甲が樽に着き最初の接戦が嘘の様にまさに呆気なく勝負の幕が落ちた。それと同時にわっと周囲の男たちが歓声を上げる。


「おぉー!勝っちまったよ!」

「誰かあの兄さんに賭けてた奴いるかぁ?」

「あ、俺っち賭けてたっス!」

「かーっ、抜け目ねぇなぁ!」


酔っ払い共がゲラゲラと笑い声をあげ、それを苦笑しながら眺めていた銀二だが眼前に少年が近づいてくると手を伸ばして今度は握手の為に手をつなぐ。


「おう、お疲れさん」

「あ、はい・・完敗でした・・。でもお兄さん強いですね、今まで僕に勝てたの父くらいだったんですけど。最初、手を抜いてました?」

「手を抜いてたわけじゃねぇよ。お前さんの一族が滅法強いってのは聞いてたからどんなもんか知りたかっただけさ」

「えっ・・」

「しかしまぁ・・なんだってこんなとこにいるのかね?」

「一度、闘技大会見てみたかったんですよね。ほら、僕のとこ・・そういうのに出られないから」


困ったようにはにかむ少年に「これが若さか」と銀二が苦笑して納得の声を上げる。そして少年がゴソゴソと樽のふたを開けて麻袋を取り出すと、それを銀二へと手渡す。


「はい、こちらが賞金ですね。あーあ、結構自信あったんですけどねーこれ」

「俺を相手にしたのが間違いだったなぁ」

「にひひ、俺っちも儲けさせてもらったっス!旦那に感謝っスよー!」


こちらも麻袋を担いできたエイルノートに銀二が何やら悪戯を思いついた子供の様にニヤリと笑うと、周囲をぐるりと見渡す。まだ男たちが銀二達の激闘を熱く語り合っている最中で、立ち去ったものはほとんどいない様であった。


「おぉい、お前さんらよ!この賞金でいっちょパーっと呑もうや!」

「「おおぉー!」」

「ちょ、旦那!?」

「たまにゃーいいだろ。お前さんも・・そういえばまだ名乗ってなかったな。俺ぁ銀二ってんだ。どうだ、一緒に」

「あ、ソルって言います。でもご一緒していいんですか?」

「なぁーに、せっかくの祭りだ。固いことは言いっこなしだ。誰か食い物の露店と酒の露店の奴連れてきちまえ!稼げるってわかったら飛んでくるだろ!」

「いいねぇいいねぇ!よし、じゃあ美味い串焼き屋とベリー酒屋連れてくるぜ~!」


この後滅茶苦茶酒盛りした。

勝負がもうちょっと長引いていれば樽が砕ける相打ちエンドもあったのじゃよ

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