49―必殺技・・・そういうのもあるのか(真顔)―
早いもので50回目の投稿と相成りました。
ブクマしてくれたり評価してくれたりと多くの方の目に留まって幸せでござる。
夜の闇に紛れそうなその黒い槍がバリスタもかくやという勢いでリゲルへと迫る。だが超重量高威力のそれを片手で踏みつぶすと、追従してきたアリエルの大剣の横薙ぎをその大きな口で噛んで受け止め左右へと振り回し最後には上空へと投げ飛ばした。
「うわわわ!?」
「アリエル!」
落ちてくるアリエルに大きな口で迎えようとしているリゲルに、再度黒槍を放る。威力と言うよりは数で牽制するためか、オーバースローではなく下投げに手首のスナップを加え、地球で言う所の銃弾の様に槍を回転させながら投擲されたそれは、しかしてリゲルの肩や腕へと突き刺さる。オーバースローの全力投槍ではないにせよ、超重量のそれがライフル弾よろしく体を貫けば、その巨体すらも吹き飛ばせるのは自明の理。
「あれ、これは結構いいんじゃね?っと、いけね」
全力投槍の一撃ならクレーターも作れるがこれはこれでいいのでは?と思いながら、手足をバタつかせながら宙を下に向けて泳いでいるアリエルの体を横抱きに抱き留める。
全身鎧系女子のアリエルだが、日ごろから黒杖などで知らず筋トレしていた銀二はその重さを感じさせず、体勢を立て直そうとしているリゲルから離れるべく場㏍ステップで距離をとった。
「(不謹慎ながら、この体勢はイイかも・・っ!)」
「ふぅ、あぶねぇあぶねぇ。アリエル大丈夫か?」
「う、うん。まさか剣を口で止められるとは思わなかったけどね。あ、ギンジさん下ろして、重いでしょ?」
「羽の様に軽いですよっと。・・・巨体に見合うだけの咬合力はありそうだな」
ガランガランと重い鉄骨が地面に落下したような音に二人で振り向くと、背から突き破った触手を器用に使い刺さった槍を引き抜き落としたリゲルが、口から涎を垂らしながらこちらを睨みつけていた。
傷口が煙をあげジュクジュクと音を立てながら再生していく。無数のヒトを喰ったせいか体を大きくそして強靭にしていくにつれて、もはや人だった頃の面影が無くなったリゲルに憐憫の視線を向けながら影から追加の槍を取り出す銀二。
「ギンジさん、その槍何本あるの?」
「鎧作る時に黒鉄の加工の試作品で結構作ったからな。それなりにはあるぞ。溶かして繋げて棒状に成形して先を尖らせただけの簡単なもんだし」
まるで木の棒の様にくるくると手元で回転させながらリゲルの動向を睨みつける。次いでチラリと初手に投げて踏み潰された槍を見ると、傷一つつくことなく地面に埋められていた。
「ふーん・・?」
「グルルル・・・」
此方を中心とした円を描くように睨みつけながら気を伺うリゲルに、体内の魔力を漲らせる銀二とアリエル。アリエルの体の周囲は仄かに輝きを放ち、銀二の体からは陽炎の様に周囲が歪む。余人がいれば息をのむほどの魔力濃度を放つ二人に、リゲルも最大限の警戒を向け淀んだ魔力を体内にためていく。
そしてその魔力の籠った巨腕を地面に叩きつけると、魔力が地面を伝い岩の槍となって二人へと襲い掛かる。
「――ッ!」
「フゥッ!?」
寸前で一歩下がり切り払ったアリエルと、ギリギリ体を反らせて顎先に掠らせた銀二。純粋な戦闘経験の差が現れるが、大量の魔力に物を言わせて自身の傷を即座に塞ぐ銀二は、その視線の先に体を屈めて今まさに飛び掛かってこようとするリゲルの姿を捉える。
果たしてそれは神経伝達の強化の賜物か、色を失い酷く遅くなった世界で地面を弾けさせながら飛び上がり片腕を振り上げ飛び掛かってくるリゲル。流石に防御なしに食らえばミンチは確定か、とどこか他人事の様に思いながらそれでも体は自然と動き、巨腕の軌道線上に杖を差し込み防ぐことに成功する。
「ふぐっ!」
さながらハンマーで叩きつけられたような衝撃が、銀二の足を伝いその足場の石畳が捲りあがる。ギリギリと音を立てて耐えているその横で、貯めに貯めた光の魔力を剣に籠めて切っ先をリゲルに向けるアリエル。
「テエエエエエエヤアアアアアアア!!」
閃光が夜の闇を祓い、リゲルのその汚染された体を焼きつかさんと貫いていく。膨大な魔力の塊であるそれはリゲルの巨体を吹き飛ばし、銀二は加算された重力から解放される。
閃光によって目をしばしばさせながら銀二が巨体を支えて痺れた腕を振り払う。
「あー重かった・・・助かったアリエル」
「ハァ・・・ハァ・・・ッ!」
「おう、大丈夫か?」
「ハァ・・・!さ、流石にここまで全力で・・魔力使ったことないから・・!」
「確かにさっきのは凄かったな。新しい技か?」
「はぁ・・・・ふぅーー・・・うん。前に光剣の魔法使ったときに、魔力の調整が難しいって言ったら何も考えずに全力出せばいいんじゃないかって言われて」
「お、おう・・・・」
ポンとアリエルの肩に手を置き、さりげなく魔力を流し込んで回復させる銀二。無尽蔵の魔力タンクによってリチャージ可能なレーザー兵器とかなにそれ怖いという状態である。
チラリとリゲルが吹き飛んだ先を見ながら魔力を流す銀二だが、煙に包まれた先でグチュリグチュリと生生しい音が響いていることから、まだまだリゲルは健在かとため息一つ零す。
「グウウウウウウウウオオオオオオオオオオオオオ!!」
叫びと共に衝撃波がその煙を吹き飛ばすと、焼け爛れた皮膚を晒しながらも殺意マシマシな眼光で二人を睨みつけるリゲルの姿があった。
「アレでもダメかー頑丈だな」
「・・・さっきアイツ地属性操ってたけど、もしかしてリゲルの異能だったってことかな?」
「あー・・・大地の異能?こう・・・硬いとかそんな感じか?」
「多分、それで耐久力も高くなったんじゃないかな」
「なるほどねぇ・・・・まぁでもアレだろ?」
感覚が戻った手をグーパーさせながらリゲルを睨みつけ口元を歪める銀二の姿に、どことなく嫌な予感を覚えるアリエル。銀二がやる気を出してニヤリと嗤ったときには大抵ろくなことが起きてないことを、これまでの旅路で学んでいるアリエルである。
「耐久力がいくらあっても、殴り続ければいつか死ぬだろ」
「え、ちょっ」
足裏から噴出させた魔力で空気の壁を突破しながら吶喊した銀二が、その魔力の残光の軌跡が辛うじて目で追える中、瞬時にリゲルの鼻先に現れると勢いを回転力に変換させて顔面に黒杖を叩きこみ半開きだった口を強制的に閉じさせる。
まさかの脳筋思考に染まった銀二の蛮行になんとか思考を戻すと、再度魔力を剣に籠めるアリエル。一方の銀二は叩きつけたことで下がった顔を駆け上り、背から突き破っている触手を掴み取ると強引にそれを引き抜く。
「グウウウウウウウウオオオオオオオオオオオオオ!!」
「ハハッ!こっちもいてぇか!?オラァ!」
「(なんかギンジさん生き生きしてるなぁ)」
引き千切り赤黒い返り血を浴びながらも口角を上げて触手の守りの薄くなった背を力一杯ぶん殴る。黒杖から骨が砕ける感触に手応えを感じながら、二撃三撃と続けざまに攻撃を加えると堪らず残った触手で背の上を薙ぎ払い銀二を弾き飛ばす。
そうしてフレンドリーファイアの心配が無くなったアリエルが再度レーザーを放ち、今度はぐしゃぐしゃに潰れていた顔に直撃させる。
顔から首にかけて焼き尽くすが、その傍からすぐさまに再生を始める異様さに顔の血を拭いつつアリエルにリチャージしている銀二の頬も引き攣る。
「俺が言うのもアレだけどよ、際限無さすぎだろ・・」
「うわぁ・・・顔が溶けてるのに再生してるぅ・・・」
ボコりボコりと泡立つように肉が盛り上がり再生していく様は、普通に見ていて気持ち悪い。ましてや元通りになるどころか、顔からも触手が突き破りまるでメデューサの髪の様に蠢く様は明らかにこの世の生命体とは思えぬ気色悪さである。
「次、瘴魔と戦うことがあったら初手でぶっ潰した方が良さそうだなァ」
「同感・・流石に毎回こんなの見たくもないよ・・・」
顔から突き出た触手がギョロリギョロリと振り回されると、銀二達がいる方向を向いてピタリと動きを止める。
「触手ってよりは触覚みたいだな・・・ってかアレか?目玉までは再生できなかったのか?」
「暢気に分析してないで!攻撃くるよ!!」
叫ぶアリエルの言葉の通り、土煙の砂を凝縮しそして金属片へと変換させるとそれを弾丸の様に撃ちだしてくる。機銃掃射の様に雨霰と撃ちだすそれを、アリエルの首根っこを引っ掴んで飛びずさり回避する。流れ弾は庭の石畳や石造りの噴水、そして邸宅の壁を破壊していく。
目が見えてない事で精密射撃ではないが、恐らく魔力かなにかしらをあの触覚で感じ取っているのだろう、と迫りくる金属片を回避しながら思考に耽る銀二。問題は、金属片が周囲に着弾する事で土煙が巻き上げられ、今度はそこからも金属片を形成・射出してくることだろう。
「ギンジさん!左、あと後ろから!!」
「っと、あぶね!」
振り向きざまに頬を掠め血液が舞う。するとその濃密な魔力を感じ取ったのか触覚を完全に銀二に向けるリゲルは、トドメとばかりに四方八方に金属片を作り出す。
「ひとまず・・・うりゃぁ!!」
「きゃあああ!?」
逃げ場が無くなる直前にアリエルを邸宅の窓に投げ飛ばして避難させると、いよいよもってキラキラと僅かな光を反射させる金属片が周囲を埋め尽くす。
舌打ち一つ、それが合図になったように一斉射撃を行いアリエルのそれとはまた違う光の雨を銀二へと降らせる。
「ギンジさん!!」
金属同士が空中で当たり甲高い音が周囲に鳴り響き、地面を削岩機のように削り取る。一瞬にしてもうもうと土煙が立ち込めて銀二の姿が隠れてしまう。
しかし次の瞬間には凄まじい程の突風が土煙諸共金属片を吹き飛ばしていく。
「ん?なぁんか威力強めちまったかね?」
「え・・?」
ジャリジャリパキンパキンと瓦礫を踏み砕きながら背後から聞こえてきた声にアリエルが振り返ると、口布で顔の下半分を隠して女性が姿を見せる。胸元を大きく広げた上衣に、深々と入ったスリットのスカート、片手にナイフもう片手にはガチャガチャと音を立てる麻袋を持ったその女性。長い桃色の髪を翻しながら現れたのは、昨日夕食を共にしたアスタその人であった。
「あ、アスタさん?なんでここに?」
「アァん?アスタなんて美女は知らないねェ」
「美女とまでは言って・・・」
「アア?」
「あ、なんでもないデス」
ビュゥビュゥと風が吹き荒ぶ庭を他所に顔を合わせた二人は、視線をその音の元へと向けると竜巻がすべてを弾き飛ばし、そしてやがて竜巻が消滅するとほぼ無傷な銀二が姿を見せる。
「ギンジさん!」
「おう、ビビったぜ。想定以上の風が吹くもんだから何だと思ったんだが、アスタが助けてくれたのか」
「だぁから、アスタなんて美女知らないっての!」
「どう見てもバレバレだって・・の!!」
アスタの起こした風の異能によって魔力が攪乱された現状はリゲルにとって煙幕を張られたのと同様であった。途端に触覚を慌ただしく動かすリゲルに向けて、黒槍を放ち手足を庭に縫い付けてその隙に二人へと合流を果たす。
「よ、助かったわ」
「・・・フン、庭先で煩くされたら商売アガッたりだからね。ついでだよついで!」
「商売って・・・」
リゲルの邸宅に堂々といるアスタに戸惑いの視線を向けるアリエルだが、そんな彼女に猛獣の様に目を細めたアスタは手に持った袋を揺らしガチャガチャと音を立てる。
「この豪邸の主がパクられたって聞いてネ。さぞお宝を貯めこんでるんだろってことで、アタシが有効活用しに来たのさ」
「ま、見てわかる通り賊の類だよアスタは」
「アスタってナイスボディの美女じゃネェっつってんだろ。あと、賊は賊でもアタシは義賊だ!私利私欲で盗みに入る奴と一緒にすんな。んなことより、アンタ。さっきアタシの風になんかしたね?」
ギロリと睨みつける様に銀二を見たアスタの視線に、肩を竦めることで答える銀二。その耳で揺れる碧のイヤリングに魔力の残滓があるのを目敏く見つけたアスタは、目を細めてそのイヤリングを見る。
「そのイヤリング・・・相当な代物だね?」
「ま、値段はつけられるもんじゃーねぇな」
風の宝具である風脈のイヤリングに触れながらリゲルに顔を向ける銀二。彼が語る気がないことを悟ると、アスタも一度肩を竦めて銀二の視線を追い、そして血を噴き出させながら触手で手足の黒槍を引き抜き捨てるリゲルの姿を捉えて頬を引き攣らせる。
「な、なんだいアレ・・・」
「お前さんが盗みに入ったこの家の家主だよ」
「ハァ!?アレが!?どう見たってバケモノじゃないのさ!」
「金と権力に溺れたバケモノってな。・・アイツに直接風で攻撃するのはやめておけ、あの傷が再生しちまう」
「・・・・ハァ、とんだ厄介事に巻き込まれたネェ」
体に空いた風穴から血を滴らせながら触手を伸ばしてくるリゲルに、忌々し気に舌打ちをつくアスタ。顔は口を残して後はのっぺらぼうとなっているリゲルは、触覚となった触手を忙しなく振り回しながら周囲に顔を向けている。
「アイツ、目が見えてないのかい?」
「目はアリエルが潰してくれた。んで、どうやら魔力をあの触手で辿って獲物を見つけようとしてるみたいなんだが、さっきのお前さんの風で魔力がかき混ぜられて見えなくなってるみたいだ」
「ふーん・・?なら、アタシが風吹かせてやるから、さっさとぶっ殺しちまっておくれよ」
「んじゃアリエルよろしく」
「あ、そこはボクなんだね・・」
「一撃の強さならアリエルのが強いからな。アスタ、アリエルの周りは特に風吹かせて攪乱しておいてくれ」
「だぁからアスタなんてナイスボディで絶世の美女の名前なんか知らないっての。ったく、ちゃっちゃと終わらせて帰って呑むよ」
そういってアスタがナイフを持った手を振ると、庭全体に強風が吹き荒ぶ。巻き上がった土煙も金属片に変換する前に風で散らされ、苛立たしさからか叫びを一つ上げて長く伸びた尻尾で周囲を薙ぎ払う。
「行くぞ!!」
「はいっ!」
ドン!と地面を弾けさせながら駆けだした銀二は、アリエルの居場所を徹底して隠すために陽動として魔力放出で移動を行い、更には取り出した黒槍に魔力を流して存在感を出す。
リゲルからしてみればノイズだらけのレーダーに点々と敵影を捉えているような状況だろう。ただし銀二の移動速度が速すぎるのも相まって追い切れずに、気付けば側面へと接近されていた。
「もらったァ!」
放たれた黒杖の打撃はその衝撃がリゲルの胴を突き抜けていく。そしてそれが直撃したリゲルの巨体も再度くの字に折れ曲がり、ふわりと宙へと浮き上がる。すかさず巨体の下を潜りぬけ、反対側から魔力放出をしながら巨体を蹴り上げる。
「――我が魔を以て魔を制し、
朗々と詠うアリエルの声と、聖剣もかくやと言わんばかりの剣の輝きが視界に入る中、宙に浮きあがったリゲルに自由を与えないようにと銀二も地を蹴りリゲルの更に上へと躍り出る。
――我が光によって穢れを浄めん」
空中で体を捻り回転させた一撃を背に打ち込み、地面へと叩きつけてトドメとばかりに黒杖を全力のオーバースローで投げつけ、リゲルの胴体を貫きまたもやリゲルを地面へと縫い付ける。
「アリエル!」
銀二の合図に大剣を大上段に構えて応えると、チャージした魔力を開放する。
「『聖剣顕現』!!」
大上段から振り下ろされた光の帯がリゲルの体を焼き祓い浄化していき、更には周囲に溢れていた破落戸たちの臓腑や血だまりすらも蒸発させていく。
そして追撃とばかりに更に一歩踏み込み、振り下ろした聖剣を逆風に切り上げその聖なる光が首都の空を貫いていく。
光が収まり周囲一帯の瘴気が浄化されたことを肌で感じ取ると、大剣の切っ先を地面に突き刺し倒れ込みそうになる体を支えつつも満足気に一つ頷く。
「浄化、完遂です!」
『――――!!!』
「あー・・・スマンスマン。大丈夫か?」
『――――!!!!』
「熱くて眩しくてとても嫌だった?ってそんだけかーい」




