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4-ギルドのお約束(暴れるとは言ってない)-

もうちょっと説明会は続くんじゃよ

キィと軽い音を立ててスウィングドアを開いた銀二に、中にいた男たちはチラリと視線を向けるが、何事もなかったように視線を戻していく。銀二も周囲を見渡し中の構造を把握していく。その姿を見かねたのか、一人の男が銀二の肩をポンとたたく。


「おう、ここは初めてか?なら真正面のカウンターで相談しな」

「ああ、あそこか。いやぁすまんね~」


にへら、と銀二が礼を言いながら笑いかければ、肩をたたいた男もニヒルに笑う。片手をあげて礼をしながら正面カウンターにいけば、やり取りを見ていた女性職員が笑みを浮かべながら待ち構えていた。


「ようこそ、冒険者ギルドへ。クエストの依頼ですか?」

「ん?ああ、いやギルドへ登録したいんだが・・できるかい?」

「はい、大丈夫ですよ。でも珍しいですね?」

「ん?あー俺みたいな年の奴が登録するってことかい?」


顎髭をジョリジョリとさすりながら問いかければ、女性スタッフはパタパタと手を振る。


「いえいえ。登録自体はいろんな年齢の人がしますので。私が言ったのはそのローブですよ。精霊教会の方ですよね?」

「ん・・ああ、そういうことか。いや、紛らわしくて申し訳ない。俺ぁ正式な教会のもんじゃねぇんだ。このローブも師匠っつーか恩人っつーか。まあそんな感じの人から譲り受けてね」


何食わぬ顔でカバーストーリーを組み立て話していく銀二。


「本人はあんまり自分のこと話さなかったんだが、村を出て迷ってた俺を助けてくれた爺さんでね。色んなことを教わって半分弟子みたいにしてもらってたんだが、年齢のせいかね・・・さすがに隠居するってんでローブやらこの杖やら預かったんだ」


闇の宝杖で床をゴンゴンと軽くたたき存在をアピールする。その姿を見て、なるほどとばかりに頷きながら、カウンターの上に書類を出すスタッフ。その書類を覗き込みながら話を続けていく。


「爺さん自体は大陸中の精霊教会を巡礼していたってんだが、さすがに足腰がきつくなったらしくてね。それで爺さんの後を継いで俺が巡礼しようってことになったんだ。それならってことでギルドへ登録しておけって助言ももらってね。えーっと、ここに名前書けばいいのかい?」

「ええ、そこに名前と得意な武器等書いていただければ」

「ほいほい・・。―――っと、これでいいかい?」

「確認させていただきます。えーっと、お名前はギンジさん、武器は杖と・・棒、ですか?」

「ああ、こんなナリしてるが得意なのは近接戦闘でね。田舎生まれなんで、上等な剣術やらってのは習ってなくてね。素人は刃物振るより鈍器振るったほうが強いってもんさ」

「なるほど・・。―――はい、これで登録完了です。こちらがギルド証になります」


そういって渡したのはドッグタグほどの大きさの銅板だ。細かな文字が焼き付けられたかのように書かれており、銀二の眼には自動的に文字が翻訳される。


「(そういや何気なく文字書いたが問題なかったみたいだな・・・。)おう、どうも~」

「どうされます?もしお時間があるならばこのままギルドの説明をさせて頂きますが」

「お、なら頼もうかね」

「はい、ではそちらへどうぞ。少々長くなりますから」


そういって勧められたのは奥のテーブルスペースだ。カウンターテーブルが一段低くなり対面で座りながら説明してもらえるようだ。地下室からここずっと動きっぱなしだったということもあり、ようやく一休みできると思いながら席に着く。


「それでは、説明させていただきますね。まず、登録されたばかりのギンジ様は低位冒険者というランク付けがなされています。こちらは冒険者としての活動などで変動していきますので、活動を続けてさえいれば一定のランクマでは上がっていきます」

「あれか、見習いから始めてどんどん認めてもらうって感じかい?」

「そうですね。そして冒険者ギルドでの活動は主に4つの種類に分かれます。薬草や特定鉱石などを納品してもらう採取クエスト。行商人や貴族といった方の依頼で同行する護衛クエスト。魔物や賊の討伐を行い、定められた部位等を納品してもらう討伐クエスト。そして最後に街等の人々が依頼する一般クエストという形です」

「採取に護衛、討伐と・・一般クエストと」

「歴史を辿ると、冒険者ギルドも元は討伐クエストのみを行っていて、その他は商工ギルドや薬師ギルド、傭兵ギルドなどがそれぞれになっていたんですがね。基本的に根無し草になる冒険者の場合、こうも受付口が多いと面倒だったということで、各ギルドが連携していくことで合意し、基本的な窓口を冒険者ギルドに統括しようということになったのです。その流れから、冒険者ギルドは各国から独立した組織として確立されることになったのです」

「なぁるほどね~」

「その為、依頼主と冒険者が直接やり取りすることはなくなりました。何か依頼があれば各ギルドが冒険者ギルドへ依頼し、冒険者がそれを納め、ギルドが引き渡す・という形ですね」

「おー、俺ぁ育ちがよくねぇからな。その方がゴタゴタ面倒が無くてよさそうだ」


顎をさすりニシシと笑いながら銀二は頷き、それをみたスタッフも苦笑する。


「実際、以前のやり方だと色々と問題が多かったみたいです。冒険者は基本的に・・その、ね。騙されやすいといいますか」

「はっはっは!まぁ体を動かすばっかりに頭が足りねぇってんだろ?わかるわかる」

「あはは、えーっと・・お話をもどしますね。それで、基本的に冒険者の方々は日々このクエストをこなしていただき、その報酬を得るということです。特にクエストを受ける傾向が偏りなければ低位・中位・上位とだけランクアップしていくのですが、例えば魔物討伐を専門とした場合などはモンスターハンターなど、ちょっと別の言い方で呼ばれるようになります」

「まぁその道の専門家ってわかりやすければ、急になにか入用になっても頼みやすいものな」

「そういうことです。特に、ギルドが受けた依頼の中で特定の条件を満たした方に優先して勧める、ギルドクエストなんていうものもありますので、参考になさってください」

「ほいほいっと・・」

「次に、罰則等のことですね。特に覚えて頂きたいのは、一定以上の期間クエストを行っていただかなければギルド員として認めることができなくなります。まぁ低位であれば1カ月に1度、中位であれば3カ月に一度といったくらいなので、よほどのことがなければ資格停止なんてないんですけどね」


副業程度にやるなんて方もいますしーと言いながら説明用の冊子をペラペラとめくっていく。


「まぁ大まかに説明しておかなければいけないのはこんなところですね。この冊子、お渡ししておきますので、時間のある時に読んでおいてください」

「ほいよ。っと、そうだ説明ついでに聞いておきたいんだが、どっかに周辺の地図とか調べられるところはあるかい?」

「あら、早速巡礼に?」

「ああ、まあね。可能だったら爺さんに巡礼のことを話してやりてーし・・」

「詳細な地図っていうの国家機密にあたるんですが、冒険者ギルドが独自に情報を集めた地図というのでよろしければその奥の資料室にありますよ。あんまり資料室使う人いないので埃っぽいですが・・・」

「お、そうかい。ついでに色々調べておくかな・・。資料室は自由に使ってもいいのかい?」

「ええ、ただし持ち出しは禁止です。なにか必要な情報があれば備え付けの紙に写してくださいね」

「おう、わざわざすまんね」


そういうと銀二は席を立ち、資料室へと入っていく。え?鉄板イベント?そんなものは知りませんな。


―――

――


ガッシャガッシャと慌ただしい足音が響く城内の一室で、一人の男が項垂れていた。

銀二にのされた地下室の男、騎士マルテインである。


「それで、賊の顔を見たということだが?」

「ええ・・この近隣では見ない彫りの浅い平坦な顔、日焼けが強く浅黒い肌。ぼさぼさの髪をした男です。私のローブを盗んでいきましたので、騎士団のローブを今も着用しているかと・・。」

「ふむ・・・木を隠すには森の中、ともいうしな。騎士団儀礼用ローブを着用しているものは検問にかける様外門の門番に伝えておこう」

「はい・・・。あのっ」

「ん?どうした」

「奴の追跡、私にもさせては頂けないでしょうか!」


バンっと机をたたき勢いよく立ち上がる彼の顔は、くやしさに満ち満ちておりこめかみには青筋すら浮かんでいる。


「そうはいうが、君は騎兵隊のものだろう?賊の捜索などは基本的に官憲の者たちの管轄だ。私とて、このあと情報を彼らに引き継ぐのが精いっぱいだぞ」

「く・・・っ」

「不意を突かれて悔しいのはわかるが諦めたまえ」

「はい・・・」

「ほら、もう聞きたいことは聞けた。まだ殴られた箇所も痛むだろう。今日はもう帰れ」

「はい・・・失礼します」


明らかに気勢を削がれ、肩を落とし歩いていく姿は哀愁さえ漂っていた。


そんな城の上層部では、金髪碧眼の美女が苛立ちを隠さず雰囲気を重くしていた。


「それで、まだ見つからないのですか!!」

「は・・はっ!城下町へと逃げていく姿は捉えましたが、その後の足取りまでは・・・」

「被害に関してはどうなっているのです!」

「はっ!宝物庫にあった大量の金貨数十枚及び銀貨も同様に盗まれております!それと・・・」

「それと、なんです?」

「あの・・・『宝具』も盗まれております」

「なんですって!?それがどういうことかわかっているのですか!?」

「はっ!官憲隊は総動員で探させております!!」

「当たり前です!!あれが公になってしまえばこの国は危険なのですよ!!さっさと見つけ出しなさい!」


バン!!と先ほどのマルテイン騎士よりもさらに強く机をたたきつけ、報告に来ていた騎士たちを震え上がらせる。彼女がこの王国の王女、マルハレータ・アフネス・フェルメールである。

彼女は切れ長の目尻をギリリと音がしそうなほど釣り上げると、周囲の騎士たちを追い払う。盗品・強奪品の宝具が世に出てしまえば、そしてその出所が知られてしまえばこの国は終わりだ。焦りと恐怖がさらに彼女を苛立たせ、そして周囲の雰囲気を重くしていったのであった。


――

―――


そんな城内の様子など知ったことではないという今噂の賊、銀二はギルド内の資料室に入り埃を立てぬように慎重に資料を引き出していた。


「これがこの大陸の大まかな地図・・・。王国が大陸の東部分ってとこだから・・・」


ぶつぶつと呟きながら地図を転写していく。

彼が見ている大陸地図は確かに詳細とは言えないが、要所要所になにがあるのかはきちんと載せられている。大陸の北の大部分を占めているのが、この大陸最大の国家ヴァレンシュタイン帝国。その南西にあり、大陸の西側を占めているのがグラナドス首長国連邦。南側には蛮族と呼ばれる者たちがおり、詳しい国家の情報はなく、地図もほとんどが埋められていない。そして東には現在銀二がいるフェルメール王国がある。


「旅の目的は各地の精霊教会に宝具を返納すること。一番遠いのは・・・帝国にある大地の精霊教会か。ならここは最終目的地として・・・」


卓上旅行を繰り広げながら、銀二の異世界の初日は終わろうとしているのであった。



宿代をうまい事浮かした銀二なのであった。

次から旅立ちますきっとたぶんおそらくは。

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