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46―やったね銀ちゃん、呑み友ができたよ!()―

互いに自己紹介したあとは恙なく食事は進み、乗せる物が無くなった皿を給仕が下げた後は思い思いに食後の紅茶やら酒やらを飲み始めていた。

アスタと名乗った女もソファーに腰かけてその桃色の髪をゆるりと束ねながら、対面に座る銀二が飲んでいる酒の瓶を自分のグラスにも傾けている。


「ふーんふーんふふー、ふふっこんな上等な酒なんていつぶりかね」

「普段は酒飲まねぇの?」

「飲んでも安酒ばかりさ。アタシの仲間はそれが良いなんていうけど・・・気のいい仲間だけどそこだけは相容れないね」

「さよけ。んで、ちょいと気になったこと聞いてもいいかね?」

「ん・・・ああ、体重とスリーサイズ以外のことだったら答えようかね」

「是非とも聞きたかったんだが、まぁ本題はさっきの戦闘についてさ」


カラン、と傾けられたグラスが氷で音を立てる。銀二の言葉を聞きながらもグイグイと飲んでいたアスタだが、グラスから唇を離すとグラスに入った琥珀色の酒を通して照明を仰ぐ。


「あのナイフ使いが襲ってきた時、お前さんアイツの動きを捉えられるかどうかってとこだったろ?それが最後にゃビュンビュン跳び回る姿を完全に見切ってナイフまで避けると来た。一体どうやったんだ?」

「ん~?どうやったも何も、異能を使えば・・ってそうか、アンタ人間種だから異能のことそんなに詳しくないのか」

「異能ってアレだろ?属性を纏った身体強化みたいな」

「それは一番簡単なレベルさね。受け売りの言葉だけど・・・なんつったかね、えーっと、そう・・概念と象徴を身に纏う事が異能の本質である・・だったかな」

「概念と象徴・・」

「難しく考えることでもないさ、ようはイメージだよイメージ。風と聞いてなんて連想するかとか、火と聞いてなんて連想するかってだけ」


ケラケラと笑いながらアスタが言えば、なるほどなと銀二が呟きそして同時にグラスを傾ける。互いに喉を潤し唇を湿らせたところで、銀二は懐からタバコの箱を取り出してチラリとアスタに傾けて見せると、彼女も頷きそして人差し指を立てる。

喫煙者同士のアイコンタクトが成立すると、タバコを咥えた二人はその先端に火を着ける。そうしていると給仕から灰皿を貰ったライラが二人の間にそれを置くと、二人のすぐ横の一人掛けソファーに腰かける。


「お、すまんね。そういやライラの異能は雷だったよな?」

「ああ、そうだよ。今まで誰も使ったことが無いせいで、その概念と象徴が分からなかったけどね」

「分からなかった・・ってことは今はわかったのか?」

「旅の道中、ギンジ殿の故郷の話を聞いてね。中々興味深い話が多くて参考になったよ」

「あー、北欧神話とか日本の神話とかか」

「雷というものが神の怒りや裁き、そして破壊と言った概念をもつとわかってからは高威力の技が使えるようになったからな」

「この前の森の雷はそういうことか」


そういってマンティコアと戦っている際に鳴り響いた特大の雷を思い出し、納得しながら煙を吐き出す銀二。そんな二人の会話をぼんやりと聞きながら、アスタはライラの白い髪をぼんやりと見ながらふと呟く。


「・・・ライラサマってあれかい?10年くらい前に噂になったっていう?」

「火の一族から生まれた灰の女、というなら私だろうな。それと、呼び捨てにしてくれて構わないよ」

「ふーん?んじゃまぁ遠慮なく呼ばせてもらうさ。畏まった言葉遣いなんてしてたら肩が凝っちまうからね」

「んで、アスタの風はどんなイメージなんだ?」

「アタシ?そうさね・・・『速さ』と『自由』、時たま誰も逆らえない『天災』ってまぁそんな感じ」

「速さ・・・そうか、それで異能を使ってからあのナイフ使いを目で追えるようになったのか」

「せいか~い。まぁ異能の形は人それぞれ。王国人の魔法みたいに型にとらわれないから厄介なもんさね。同じ属性でも使い方が全く違うなんてことがあるからね」


グイっとグラスを一気に煽ってそう言うと、そのまま銀二に向けてグラスを向ける。その飲みっぷりにニヤリと笑いつつ銀二も酒を注いだ。ロックでやるには強い酒のようだが二人でパカパカと瓶を軽くしていく。


「しかし異能ってのは面白れぇな。魔法はどっちかっていうと学問的にガチガチに決まってるって感じだけど、こっちは多様性の塊みたいな感じで。どうしてこうも違うんだかね」


少しだけアルコールによって火照った頬をさせながら呟いた瞬間、ガチャリと重厚な扉が音を立てて開いた。アスタとライラは扉に振り返り、扉を背にして座っていた銀二は頭を後ろに倒して背後を逆さまに見る。


「獣人は名の通り獣を祖に持つが故に、人間種などに比べて自然よりの存在であり、自然の代弁者であるという学者がいる。であるから・・」

「「「・・・・」」」


人差し指を立てて喋りながら入ってきたのは、ピンと立った耳ともさっとした尻尾が特徴的な狼人の男である。ついでに少し慌てたように給仕が後ろから早歩きで近づいてきているのがチラリと見える。


「・・・んんっ!失礼した。つい興味深い話をしていたものでつい」

「ラディム様、ですからお待ちくださいと・・・」

「すまないね、敬愛するエドガー様からメッセンジャーの大役を預かったもので浮かれていたようだ。私はラディム、誇りある狼人の一員である。この度は我が首長、エドガー様より晩餐会への招待状を持参した次第」


そう言って演技がかった仕草でライラへと封筒を手渡そうとするが、その直前で給仕がその手紙を受け取り視線をライラへと向ける。それをさも当然とばかりに紅茶を飲みながらライラが頷くと、エプロンドレスのポケットから取り出したペーパーナイフで封を切る。


「・・・要約させて頂きますと、明日の夜に晩餐会を開催、是非とも参加して頂きたいと」

「ふむ・・・、ギンジ殿如何か?」

「ん、いや良いんじゃねぇの?彼方さんのメンツってもんがあるだろうし、こうやって迎賓館に泊めさせてもらうんだからそれくらはなぁ?」

「それもそうか。わかった、では我ら4人参加させてもらうと伝えてくれ」

「あ、ああ。承知した。ちなみにそちらの御仁は・・・?」

「彼か?彼は客人だよ。我ら火の一族にとってとても大事な客人だ」

「わ、わかりました。それでは失礼します」


給仕にインターセプトされてから停止していたラディム某だが、ライラの返答で再起動して既に視線を外して喫煙&飲酒に戻った銀二を見る。しかしライラの鋭い視線に本能的恐怖を感じたのか、若干顔を青くしながら足早に立ち去って行ったのだった。

そのラディムを見送った給仕が戻ってくると、ライラと銀二へと頭を深々と下げる。


「申し訳ございません。伺いを立てる前に踏み込まれてしまいまして・・」

「ああ、あれは先程の男が非常識なだけで、君が謝ることではないよ。それより、我々も急に押しかけてしまってすまないね」

「いえ、もとよりこちらの迎賓館は火の一族の方が何時来ていただいてもお持て成しできる様にしておりますので、皆様の別荘のように思っていただければ」

「こうしてみると火の一族ってのは本当にすごいんだねぇ」

「それな。ライラだけならまだしも、俺みたいに明らかに胡散臭いのまで丁寧にもてなされるとはねぇ」


ケラケラと笑い合う酔っ払い二人に、頭を上げた給仕もクスクスと笑いながら言葉をかける。


「ライラ様が大変慕っているように見えましたもので・・」

「ごふっ!?ケホっケホっ!」

「フフフ、冗談でございます。旅装のままですから街暮らしの者と違ってそう見えることはございます。それより、明日は晩餐会ということですが」

「・・そーいやぁ俺は正装なんてもっちゃいねぇぞ?」

「そう言われてしまえば私も民族衣装が正装に当たるわけだが、里に置いてきてしまっている。向こうも我々が冒険者として行動しているのを承知で明日などと言ってきたのだ。厳しく言われることはないと思う」

「んじゃ、まぁあっちのローブで行くくらいはしますかね」


銀二がそう言いながら立ち上がると、グラスを空けたアスタも少しだけ頭をふらつかせながら立ち上がる。そんな彼女の体を支える様にライラも席を立つと、いつの間にか移動していた給仕の女性が静かに扉を開ける。そんなグダグダ具合で首都初日の夜は更けていくのだった。


―――

――


暗い室内で一人の男が椅子に座らされ、その手足を椅子の肘掛けや脚に縛り付けられ更には頭には麻袋が被せられている。その様子を眺めながらエイルノートは手に持ったナイフを頭上に投げてはキャッチを繰り返していた。


「いー加減、だんまりは終わりにしないっスか?」

「・・・」

「はーぁ、旦那達は今頃美味しい料理と酒でも食ってるんだろうなぁ・・・」

「・・・」


黙ったまま動かない男の尻尾を見れば、汗をかいてびっしょりとなっているが狸の尻尾が見て取れる。銀二達の騒ぎの中エイルノートが確保していた、評議員リゲル・ウォーズリーその人であった。


「黙っててもアンタに得することは何一つないんスけどねぇ」

「・・・フン、話したからと言って得するという話でもなかろう」

「そりゃ当たり前っすよ。ただ、黙ってれば損をするだけって話っス」

「損だと・・?私の私財でも掠め取る気か?」

「お生憎。俺っちたちは盗賊じゃ無いんで盗みはしないっス」

「・・・・」

「まぁ、暗殺者なんで殺すだけっスよ」

「・・・ここで私を殺すか?」

「アンタの口から情報を話してもらいたいって言ってるのに殺してどうするんスか。殺すのは親兄弟親戚・・必要とあればペットまで殺すっスよ」

「―――ッ」


椅子から立ち上がったエイルノートが近くのテーブルに置いてある、一見工具の様な道具類に近づいていく。赤黒いナニかが付着したノミやらノコギリやらが並ぶ中、ペンチとハンマーを持ってリゲルに近づいていく。


「わ、私の身に何かあれば狸人全員を敵に回すことになるぞ!」

「ふーん?まぁ連邦の経済を牽引する狸人が敵に回ったら確かに辛いっスね」

「で、であれば――」

「でもあんた自身が一番わかってるんじゃないっスか?何よりも富を欲しがる狸人でも、一番失いたくないのは自分の命っス。反乱するって言うんなら、見せしめに一人ずつ殺していけばそのうち元の鞘に収まるっしょ」

「クッ―――」

「磔にします?それとも晒し首?あ、磔にしてから火刑にした方がショックでかいっスかね?もちろん、まずはアンタとアンタの家族が一番最初にそうなるんスけど」


リゲルの前にわざと足音を立てて近づいたエイルノートは、その手に持ったペンチで彼の指の爪を挟み込む。


「さぁて、いい加減銀貨一枚にもならないこんな会話より、建設的な話をしようじゃないっスか?」

「ま、まて!手に何をしている!」

「何って・・・喋らなかったり間違ったこといったら爪を剥ぐんスよ。それくらいわかるっしょ?」

「わ、わかった!言う!なんでも言うから―――!」


―――


ギィィィィと金属同士が擦れる音を響かせながら、重い扉を押し開けてエイルノートが明るい部屋へと姿を現す。そんな彼にスキットルを投げ渡すのはローブを脱いだ隊長その人であった。


「成果は?」

「あとでドッサリ報告書にまとめるっスよ」

「それは重畳」

「それより、そっちはどうだったんスか?」

「仕置きは済ませた。まったく・・・」


グビッとスキットルを傾けてぷはっと声を上げる。彼とスキットルの口から強い酒精の匂いが周囲に広がる。


「まさかアイツが旦那に手を出すとは思わなかったっスよ」

「ああ。目標が乗っていた馬車が離れていくのが見えて目を離した隙にな・・」

「・・・恐らく、俺っちと同じ格好だったから見逃してもらったみたいっスけど、旦那が本気だったら今頃どうなっていたことか」

「・・・ある程度はヤルと見たが、それほどか?」


隊長の訝しむ視線に珍しく顔を顰めるエイルノート。再度スキットルを傾けてから口元を拭う。


「ギョレの街で旦那にリチャード・ウォーズリーの件を助太刀してもらったんすけど、ありゃ狂戦士バーサーカーみたいなもんっスよ。殺された連中、ほとんどが原型留めてないんすからね」

「・・・」

「正直言って、俺っちも旦那とは戦いたくないっス。だから忠告しておくっスけど、よほどの事が無い限り旦那に手出しはしない方が身のためっス。ありゃ、火の一族の族長と同類って奴っスよ」


そうしてまたスキットルを傾けるが、逆さまにして舌を出しても一滴も落ちてこないのを確認すると、口を閉めて隊長に投げ返す。受け取った隊長はスキットルを軽く振るが水音のしないそれに軽く肩を竦ませる。


「そこまで聞くと逆に興味を覚えるがな」

「・・・死にてぇならこっちに迷惑かけないようにしてくれっス。アンタの巻き添えでミンチにされるなんてゴメンっスよ」

「分かっている。彼が獣人だったなら上に掛け合って闘技大会にねじ込んでもらいたいくらいだがな」

「旦那は面倒事を解決するならどんな手段でも取るタイプっスよ。さっさと終わらせるために最初から全力で潰しに来るに決まってるっス」


ギョレの街での銀二の暴れっぷりが脳裏を過り、思わず身を震わせたエイルノートなのであった。

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