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44―気分転換に散歩してただけでコレだよ―

あれから一夜明け、そしてまた太陽が傾いてきた頃に銀二達の視界に大きな外壁と鉄門が見えてきた。とは言ってもその鉄門は大きく開かれ、その前を大勢の馬車が行き交っている。

その様子を馭者席に座った銀二と、幌の上で警戒を続けていたエイルノートが確認すると揃って感嘆の声を上げる。


「おぉーアレが首都ルドニか!でけぇ街だなぁ!」

「いやぁ漸く着いたっスねぇ~」

「完全に陽が落ちる前についてよかったわな」


ガラガラと音を立てる馬車の群れの流れに従って進むと、簡易的な検問が敷かれているがそれも身分証の提示くらいの簡単なもののようだ。ルドニに入ろうとしている人数はそれなりにいるようだがササっと入っていくのが見て取れる。

その検問の様子を見つつ、幌の上から顔を覗かせているエイルノートに手招きして近寄らせる。


「おい、ちょいと・・」

「お?旦那どうしたっスか?」

「いやよ、ライラを連れてきてるけど特別なんも言われねぇよな?」

「考えられるのは二通りっス。一つはエトムント支部長に通達されてたように最小限の接触のみにとどめるか、はたまた貴賓として迎賓館に呼ばれるかっスね」

「その場合は・・・」

「治癒術師として旦那が同行してるって情報は流れてるハズっスから顔はわからなくても旦那とその一行も呼ばれるっスね」

「・・・」

「もっちろん、俺っちはその辺でオサラバさせてもらうっスよ~。お偉いさんは苦手なもんでして」


二ヒヒと笑うエイルノートに恨みがましく視線を送るが、検問の男が呼びかける声に視線を戻して馬車を進ませる。見た所狼人らしき門番は槍を片手に馬車に近寄ると、空いている手を差し出しながら声をかける。


「乗員全員の身分証の提示を。それと来訪の目的は?」

「ほいっと。目的・・はあれだな、連れの故郷がこの国だっていうんでその帰省に付き添ってね」


そう言いながらギルド証を手渡してチラリと幌の中を見れば、ライラを筆頭とした女性陣三人がギルド証片手に待機していた。

ライラ達からもギルド証を受け取った門番は一つ一つ確認していき、ライラのギルド証でその動きを止める。その後チラリと銀二へ視線を送り、神妙に頷く銀二がそれに答える。門番もゆっくりと頷くと慎重な手つきでギルド証を銀二へと返して敬礼をとる。


「・・・お、お待ちしておりました。来訪された際には迎賓館へとお連れするよう評議員から厳命されております。ご同行、お願いいたします」

「ヒソヒソ(ライラさんってやっぱりすごい立場なんだねぇ~)」

「ヒソソソ(おそらくこの対応が連邦本来の認識なんでしょうねぇ)」

「ま、まぁ・・なんだ。ほら、俺ら全員冒険者だしよ、あんまり畏まられても不審に思われるだろ?普通に道案内程度の気持ちで・・」

「と、とんでもない!そ、そんな恐れ多いこと・・っ」


段々と顔色が蒼くなってきた門番に、離れた所で待機していた別の兵士も不審に思い出したのか首を傾げながらこちらへと近づいてくる。そして馬車のすぐ近くに来ると銀二と門番の双方へと視線を配る。


「おい、どうした?」

「あ、ああ。それが・・その・・」

「・・道案内をしてもらうって話になったのさ。『迎賓館』とやらに」

「なに・・?貴殿らなにも・・・の・・・・!?」


思いっきり視線がぶつかったライラは目礼だけすると、壊れたブリキ人形の様に首を軋ませて銀二へと視線を戻す。


「あー・・なんだ、こんな人通りの多さだ。騒ぎになるのも拙いからできれば静かに怪しまれず連れてってほしいんだが」

「・・・わかった。確かにこのような人混みの中で騒動を起こすのは私としても見過ごせない。私が案内しよう。・・お前は検問の続きを」

「りょ、了解。・・・お客人、ルドニへようこそ」


そう言って再度敬礼した門番に苦笑しながら手をヒラヒラと振り返して、銀二は先導する門番に馬車を進ませる。巨体であるタマからすればコンパスが違うためひどくゆっくりに感じるが、兵士の早歩き具合からすると早めに動いているようだ。


「そういえば、さっきの門番さんがお待ちしてましたーなんて言ってたがよ、俺らが来るの知ってたのか?」

「・・・評議員より警備隊に通達があったのです。近いうちに火の一族のライラ様と、巡礼の治癒師一行が訪れるだろうと。そして訪れた際には迎賓館へお連れするようにとも」

「行動が筒抜けだったってわけか」

「昨今は帝国から通信魔導具を入手した評議員の方が多いと聞きますから、街での様子などを聞いていたのかもしれませんね」

「通信魔導具・・か」

「便利なモノらしいですよ。特に評議員・・・種族の首長達は基本的にここで政治を司りますが、それぞれの種族も纏めねばなりませんし・・」

「遠く離れた場所でも通信できるとなれば憂いも減るってことか」


石畳の車道をゆっくりと進ませながら大通りを進んでいくと、視界の先に塔が見えてくる。


「アレは?」

「ああ、あの塔が連邦評議会と関係省庁です。あの最上階が評議会ですよ」

「ほうほう」

「・・・十数年前にあそこに行った覚えがある。ほら、父上が暴れたと言っただろう?」

「あーあそこでヤッたのか」


ケラケラと笑いながら言う銀二に対して、兵士の顔色は明らかに青くなり額からは汗が流れ落ちている。若干不憫に思いながらも他人事だと思うことにしてそっと知らぬ顔で手綱を操る。


「後日聞いた話ではあの塔を壊さないようにするのに気を使ったと言っていたな」

「ライラさんのお父さんってすごいんだね~。義父さんと戦ったらどうなるだろ」

「ヴィクトル殿か。かの御仁も相当な強さだと思うがどうだろうな」

「・・・ご歓談中申し訳ありませんが、こちらになります」


そういって兵士が指し示したのは大通り沿いにある大きな屋敷だった。鉄柵に囲まれ良く整えられた庭の草木、正面には噴水まである見事な屋敷である。


「こちら、火の一族の方専用の迎賓館となっています。評議会からのお達しで整えられておりますのですぐにお使いいただけます」

「ああ、案内に感謝する。さ、ギンジ殿折角なので使わせて頂こう」

「まぁ宿代が浮くと思えばいいか」

「それと、評議会の方にはご到着の連絡をさせていただきます。追って知らせが行くと思いますので・・」

「ああ、ありがとう」


ライラがそういうと兵士は一度敬礼をして先程話に上がっていた塔へと去っていく。しばらくそれを見送っていたが、気を取り直したように手綱を引いて敷地の中へと入っていく銀二達なのであった。なおエイルノートはいつの間にか姿を消していた。


―――


塔の最上階の一室、それぞれの控室で休憩をしていた狐耳の女性が、その長い耳をピクリと動かして入口に視線を向ける。それと同時にゴンゴンと重厚な扉を叩く音が響き、誰何の声を上げる。


「俺だ、エドガーだ」

「エドガーはん?入っとおくれやす」


ギィィと音を立てて扉を開き部屋に入ってきたのは狼人の男だった。エドガーと名乗った男は部屋に入り狐人の女性を視界に収めると、その顔に刻まれた深い皺を少しだけ浅くして話しかける。


「今しがた警備隊の者から伝達があってな・・・ライラ様がいらしたとのことだ」

「あらぁ、もう来たんどすか。知らせてくれておおきに」

「この後日程の伺いを立てて明日にでも晩餐会を開く予定だ。・・が、一つ問題があってな」

「あら、なんやろうか?」

「ふん、予想はついているだろう。リゲル評議員の処遇だ」

「あぁ~狸はん?」

「先日ギョレの市長で奴の甥にあたるリチャード・ウォーズリーが殺害されたのは知っての通りだろう」

「そうどすなぁ」

「・・・暗部からの報告でな、現地マフィアと人身売買及び麻薬取引そして殺人。今までもその嫌疑はあったが確証は得られなかったが、今回のライラ様と例の治癒師のお陰で尻尾を出してな」

「それでそのまま暗殺したんどすか」


扇で口元を隠しながら冷静な視線をエドガーに向けるが、対するエドガーは少し肩を竦めるだけだ。


「奴等によって甘い蜜を吸ってきたやつはごまんといるだろう。今回の闘技大会の騒ぎに乗じて助け出そうとする輩を引きずり出すのも必要ではあるが、今回はそのリスクを冒す前に決着をつける必要があった」

「リゲルはんを追い詰めるため・・どすなぁ?」

「然り。ましてや今後帝国の皇太子も来る。内憂を抱えたままではいられん。よって、今夜にはリゲルとも決着をつける」

「手段は如何様にするんやろか?」

「できれば捕縛し禁固刑に処す。が、抵抗するならば容赦はせん」


ギラリとその目を輝かせる様にクスクスと笑い声を上げる。そして笑いが収まると扇をパチンと閉じてその先端をエドガーへと向けた。


「もうええ歳やのにいつまでも子供みたいな目ぇしてはりますえ?」

「む、そうか?」

「・・代表鉄火場に出れるわけあらへんやろ?」

「むむっ、いや・・しかしだな・・・」

「しかしもかかしもあらへん。アカンもんはアカンえ?」


教鞭の様に閉じた扇を振ればついにはエドガーは観念したようにがっくりと項垂れるのだった。


「・・・・明日の晩餐会の出席者をリストアップしておいてくれ」

「はいな、かしこまりました~」


トボトボと歩いて部屋を出ていくエドガーを再びクスクスと笑いながら見送り手を振るのだった。


―――

――


日が暮れてすっかり夜も更けたころ、エイルノートは家屋の屋上からとある屋敷をぼんやりと眺めていた。いつかのようにフードに口布のアサシンスタイルである。

そんな彼の背後から足音一つ立てずに数人が近づいてくる。誰も彼もが同じ出で立ちである。


「様子は?」

「目標は屋敷に閉じこもったままっス。ただまぁ・・見ての通りこわーいオニーサン方がお庭をうろついてるみたいっスけどね」

「・・・エドガー様が望む平和的解決は難しそうだな」

「あの人が平和的解決なんて思うタマっスかねぇ・・?嬉々として鉄火場に獲物振り回して飛び込んでくるイメージしかないっスよ」


そういってケラケラと笑うエイルノートと男だが、最後尾にいた男が鼻息荒く反論する。


「エルノ、貴様口を慎め!エドガー様を侮辱する気か!?」

「アンタのエドガーサマ好きは相変わらずっスねぇ。正直引くっス」

「なんだと・・・っ」

「よせ二人共。あまり騒ぐと気付かれる。それにどうやら警邏が来たぞ」


先頭の男が指さした先に視線を向ければ、ぞろぞろと鎧姿の男たちが屋敷の正面玄関へと集まっていた

。そしてそれを確認した屋敷側も破落戸の男たちが集結していく。


「―――!」

「―――――!――!」


それなりに距離が離れているせいかお互い何やら怒鳴りあっているのはわかるが、流石に内容までは届いてこない。それをしゃがんで頬杖ををついたエイルノートがあーあと呟く。唯一表出している目は明らかに呆れの色が見て取れた。

その怒鳴り合いも段々とエスカレートしてきたのか、その場にいる者達がそれぞれの得物を持つ手に力が入る様子まで見えてきた。


「アレ、ほっといていいんスか?」

「警邏とて日頃から訓練している者達だ。あの程度の破落戸程度抑え込めなくてどうする」

「ま、それもそうっスね。それじゃ、俺っちは裏手に回るっス」

「動きがあれば――」

「鳴響玉なげて知らせるっスよ」


そう言い残すと音もたてずにその場を後にしたエイルノート。その様子を見ていた最後尾の男はケッと悪態一つ吐けて先頭の男に口を開く。


「隊長っ何でアイツを放っておくんですか!?アイツの態度は目に余ります!」

「それを許すだけの結果を見せているからな。貴様も人の事にケチをつける前に結果を示せ。そうすればアイツも貴様の言う言葉に頷くだろうよ」

「くっ・・・」


そういって(恐らく)唇を噛んだ男に対して、中間に立っていた男が頭を小突く。


「んなこたぁどうでもいーからテメェもさっさと持ち場に着けや」

「いってぇ!・・・りょ、りょーかいです」


シュバっと音を立てて姿を消した男に、残った二人は肩を竦めて見送る。そして改めて屋敷の庭に目を向けると、今まさに大捕り物が始まろうとしていた。


「穏便にはいかなかった、か」

「富と権力を手に入れて、それに固執するような輩が素直に捕まるとは到底思えませんがね」

「同感だ」


そうこうしているとエイルノートが向かった方・・・屋敷の裏手から鳴響玉が一発打ちあがりその名の通り離れた場所にいる二人にも届くほど音が鳴り響いた。

それを確認してから互いに口布をしっかりと引き上げて音もなくその場から姿を消してエイルノートの元へと急行する。


「エイルノート」

「ああお二人さんさっきぶりっス。あれを」


スッと指さした先には夜も更けてきた頃合いにガラガラと音を立てて走っていく馬車が二台。その数に二人の男が首を傾げる。急ぎ逃げるはずなのでは?とお互いに思っているのが見て取れた。


「一台はターゲット。もう一台は、奴さんの財産の一部っスね」

「呆れた・・・逃げる気はあるのか?」

「ターゲットにとっては自身の命と同等に財産もまたなければならないんだろう。俺も理解できんがな」

「しかしあの速度は危険です。夜ではありますがまだ街を歩くものは大勢います」


建物の屋上を駆け抜けそして跳びまわりながら馬車を追う三人だが、その危惧していた通りにふらりと車道に出た女性に向かって速度を緩めることもなく馬車は突き進んでいく。


「ヤバ、間に合わないっスよ!」

「チィッ!!」


呆然と目を見開いた女性が今まさに轢かれようとする直前、ふわりと女性の前に躍り出た白いローブの輩が馬に手を伸ばし、ゾッとするほどの魔力量を放出させてその勢いを完全に殺した。

それはまさに障壁とも呼べる代物で、自身の速度と障壁に板挟みになった馬は見るも無残に潰れ、、そして馬車も車体をいくらか潰しながら勢い余って後輪が浮き上がる。

数秒後にはズシャ!!と大きな音を立てて後輪が再び地面に落ちたのを確認すると、ローブ姿の輩はフードを少し押し上げてチラリと女性に視線を向ける。


「ケガ、ねぇかい?」

「(旦那あああああああ!?)」


呆然としている男二人を他所に、思わず脳内で叫ぶエイルノートであった。

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