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41―異世界でイキモノを殺すことについて―

今回はちょっと短め

長テーブルを挟んで帝国要人とギョレの重鎮達が歓談をしながら食事をとる中、エトムントはちらりと一つだけ空席になっている椅子を見てから隠れてため息を零す。隣に座っている商業ギルドの人間種の男もヤレヤレと零していた。


「我らが市長殿はこの大事な時に体調不良とは。帝国の皇太子との会食とは滅多にない、それこそ千載一遇の好機ともいうべきものを」

「商魂たくましい狸人にしては、確かに珍しいですねぇ。はてさて・・」

「フン、我らとしては確かに貿易についても話し合える良い機会だとは思っていたが、それは交流を深めた後でもよかろう。それよりも、かの有名な賢者エトムントと話ができる方が興味が尽きぬと言うモノ」


小声で話していた中でも耳聡く拾い上げた帝国の貴人に少々驚きながらも、エトムントも一口ワインを飲みながら視線を貴人へと向ける。どこか覇気を伴う男の姿に一つ頷いて口を開く。


「アレクシス皇太子殿下に名を覚えて頂けるとは、光栄ですねぇ」

「古代文明の研究は我が帝国でも行われているが、貴様の論文が謎に包まれていた古代文明滅亡を解き明かす鍵となったからな」

「古代魔法文明の興亡ですか。一度遺跡を目にすれば分かりますが、あれ程までに栄えた文明が滅びたという事実は中々衝撃的なものですよ」

「まったく、余も自由に動けるのなら遺跡を歩き回りたいものだがな。この時ばかりは自身の生まれに恨み言の一つでもつきたくなるものよ」

「ハハハ、皇帝陛下が聞いたら悲しみますぞ殿下」

「ベールマン。そうは言うがな、帝国一帯の文化や風習に触れるというのも面白いものだが、古代文明の遺跡と聞けば心躍るものがあろう?」


足を組んで座った状態でひじ掛けに肘を置き頬杖を突くアレクシスは、皮肉気に口を歪めながら言えば列席している帝国軍人の将官たちが苦笑し始める。特にハイデルはアレクシスのすぐ隣で笑っている。


「であれば、国に戻った後はまたエルフ達に話を聞きにいきますか?」

「ハイデル、そういうことではない。余のこの目で遺跡を訪れたいと言っているだけよ」

「わかっていますよ。一度陛下に奏上してみてはいかがです?」

「・・・遺跡にはいけるであろうが、またぞろ無理難題を押し付けてくるに違いあるまい」

「頑張ってくださいね」

「ふん、そうなれば貴様らも一蓮托生で連れ出してやるから覚悟しておけ」

「これは藪蛇でしたか・・・。ベールマン閣下、私は帝国に帰り次第離隊休暇を頂きますね」

「通すわけないだろう阿呆」


そういうと場がドッと笑いに包まれる。そうしてしばらく歓談を続け、宴も酣と言ったところで一度アレクシスは姿勢を正してエトムントへと顔を向ける。


「エトムント支部長、先も言ったが、此度の冒険者の加勢・・・まことに感謝する。彼奴らがいなければ今頃我らは蜘蛛共の胃袋の中であったであろう」

「そうでしたな。聞けばハイデルへ忠告をしてくれた者があの場に駆けつけてくれたとも聞いている。殿下の命を救って頂いたこと、帝国臣民として深く感謝いたす」

「冒険者のギンジ達ですね。私の方から感謝していたと伝えておきましょう。彼らも首都へ向かうでしょうから、もしかしたら殿下もまた会えるかもしれませんね」

「ほう?確か一人獣人の女がいたが・・闘技大会にでるのか?」

「いえ・・彼女は出ないでしょう。出る理由が無いのと同様、出られない理由もまた彼女にはありますから」

「ほう?・・・まぁあの女を含め、ギンジという男達には非常に興味がある。首都で会うか、それとも帝国で会うか。どちらにせよ、楽しみにしておこう」


そういってアレクシスが立ち上がると、それに続いて帝国兵達も立ち上がる。それなりにアルコールが入っていたはずだが、全員が何もなかったかのような立ち振る舞いはエトムントをして感心している。


「では、今宵の歓待感謝する。エトムント支部長も帝国へ来た折には我が居城へ顔を出すがいい」


そう言い残して堂々とした歩みで以てその場から出ていく。未だ20を過ぎたばかりの男とは思えない威風であった。


―――

――


夜が明け朝日が昇りそしてそれが大地に熱を与えたころ、ガヤガヤとした人の声がそここかしこから聞こえてくる。耳をすませば、「市長が」・「事故?」「殺人」などの単語が一行の耳に入ってくる。その声がライラの耳に入って隣を歩く銀二をちらりと見るが、当の本人は気にした素振りもなく咥えたタバコから煙を吐き出すだけである。


「ギン――」

「ライラ、首都のルドニに行くわけだがどういうルートを通るんだ?」

「あ、ああ。ルドニはここからまた西へ行くのだが、途中に一つ街があってそこで補給する形だよ」

「んじゃ物資は昨日買ってもらった分で足りるか。じゃあギルドに顔出して出発するかー」


そう言ってポンと頭の上に手を置くと冒険者ギルドへと歩いていく銀二。ガヤガヤと屈強な男達が扉から出ていくのを見送った後にギルドに入れば、受付嬢と共にエトムントの姿があった。彼は扉から入ってきた銀二を視界に収めると、かけていた眼鏡のブリッジを押し上げて銀二へと声をかける。


「おや、いらっしゃいましたか」

「その分だと俺らが来るのはわかっていたか」

「ええ、あなた方の事情を考慮すれば見えてくることかと。まぁそれよりも、さるお方から感謝の意をお預かりしてます。改めて、加勢に感謝すると」

「あいよ。あちらさんはまだこの街にいるのかい?」

「あと二日ほどはいるでしょうね。・・・・そういえば、街の騒ぎには気が付きましたか?」

「あれだけ騒いでいればなぁ~。ま、なにか事件があったみたいだな?」

「・・・・」

「・・・・」


カウンター越しで表面上はにこやかに語り合う二人。しかし周囲の人間には首の後ろにチリチリとした感覚が走っている。

10秒か1分か。しばらくの間にこやかな睨み合いをしていた二人だが、銀二が何も語らないと悟りエトムントの口からため息が一つこぼれる。


「まぁ、分かっていたことですがね。・・・ご存知かもしれませんが、市長のリチャード・ウォーズリーが何者かに殺害されました。また、彼と裏取引を行っていたマフィアも壊滅していまして、現在衛兵たちが現場の調査を行っています」

「ほぉーそりゃ大変なこった」

「・・・街の重鎮方が関連部署を纏めるという形をとりますので街の運営はなんとかなりますがね。どこのだれかのお陰で私も仕事が増えまして、恨み言も言いたくなります」

「あらら、そいつはご愁傷様だな。優秀過ぎるのも考えものかねぇ」


のほほんと言ってのける銀二に多少イラつきながらも、その背後にいるエイルノートの姿をチラリと認めると額を抑えながらヤレヤレとため息を零す。


「それで、貴方達は首都へ?」

「ああ、北方街道ってのが封鎖されちまってるんじゃグルっと回ってくるしかねぇからなぁ~」

「そうですか。まぁ残念ながら首都方面への護衛などの依頼は現在無いのですが」

「あらら」

「闘技大会に出るか、または観戦しにいく冒険者も多いものでしてね。道中の路銀稼ぎにと皆こぞって受けていきましたので」

「それもそうか。まあ無いならないでしょうがねぇな」

「・・・最近は義賊を名乗る者達が街道などに出没することもあるみたいですからね、気を付けて行かれるとよいでしょう」

「ご忠告、どうも。アンタも頑張ってくれや」


そう言って手をヒラヒラと振りながら出ていく銀二とその仲間たちを見送り、その姿が見えなくなったところでため息を一つ吐く。


「まったく・・・想像以上に読みにくい方だ。まるで善悪の境界線の上にいるかのような・・・」

「支部長・・?」

「いえ、なんでもありません。さて・・私も忙しくなります。今まで以上に各部署での報告連絡は密に行っていきましょう」

「はいっ!」


―――


その後孤児院のシスターが薬を袋に抱えて運んでいる姿を見て二・三話して別れた後、銀二達は無事にギョレの街を出ることになった。

ガタゴトと道行く場所の中、馭者席に座りながらタバコをふかしている銀二の隣に、ライラが腰かける。


「さて、ギンジ殿。話してもらえるのだろうな?」

「硬いねぇ~。まぁ・・ある程度は察しがついている通りだろうさ」


そう言って幌の中にいるエイルノートの姿をチラリと見るが、彼は何食わぬ顔で外の景色を眺めて暢気に声を上げている。


「それでは市長を・・」

「誓っていうが、何も私利私欲でやったわけじゃない。ちゃーんと法の名のもとに行われてることさ」

「・・・」

「なにか疑問があるか?」

「いや・・・時々ギンジ殿が分からなくなると思って・・。時に大勢の怪我人を治療したかと思えば、今回のようなこともするし」

「そーそー。ギンジさんの故郷ってこことは比べ物にならないくらい安全で、しかも武器の携帯もできないんでしょ?」


そういってにゅっと顔を出したのはアリエルで、なんとなしに言われた言葉にふと銀二の動きが止まる。


「ギンジさん?」

「ん・・・・いや、確かに・・こっちに来るまでは人を殴ることすらしたことがなかったからな」


鼻から煙を出しながらふむーと唸る銀二に、それとなく手綱を預かりタマを操るライラ。


「思えば魔物だろうがなんだろうが、殺すことに特別なにか思うことはなくなったな・・」

「どうしたんですかぁ?」

「クラリッサか。いや、こっちに来てから人も魔物も殺したり傷つけたりしても、思うことが無いなぁってな」


革袋に入った水を銀二に渡しながらクラリッサも顔を覗かせる。渡された水を飲みながら言えばクラリッサはなるほどーと呟きながらピンと人差し指を立てる。


「旦那様、こちらに来てから宝杖を持ち続けてきたじゃないですかぁ。もしかしたら、精霊様の精神に引きずられたのかもしれませんねぇ」

精霊ポチの?」

「精霊様にとって、人間的な倫理観などお持ちではないですからねぇ。ましてや精霊様はそれこそ長い年月を生きた存在。むしろ存在するだけで人間の精神を変質させる事にはなるかとー」


その言葉に深々と頷くライラ。ある意味で最も精霊による被害が大きいのが彼女である。


「火や水などの精霊様と違って、闇の精霊様は混沌とした性質をお持ちですしねぇ」

「あー・・・なんか納得したわ」


そう言って物陰から黒鉄のガントレットを取り出して魔力を纏いながら装着すると、その違和感のなさと言うか元の鞘に収まるような感覚になる。


「この前、鎧姿で魔力を身に纏ったとき、なーんか安心するっつーかそんな感じがしたんだよな」

「旦那様は魔力が大源マナで出来ていますから、精霊様の影響も非常に大きく受けやすいのかと思いますわぁ」

「・・・そうか」

「なんだ安心した声出して。あれか?俺が殺しを楽しむようなサイコパスになったか心配だったか?」

「サイコ・・というのはよくわからないが、まぁ変になったわけではないとわかったというか」

「殺すことを楽しむようになった覚えはないなぁ~。どちらかというかその辺がマヒしちまった様なだけっつー感じか」


ケラケラと笑いながら銀二が言えば、それぞれが苦笑しながらその様子を見るのだった。

闇の宝杖は持ってるだけで精神汚染が始まる。


・・それなんて呪いの装備?

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