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40―女性の買い物に口を出すのは止めておけ―

正面入り口からエントランスを中心に盛大に破壊された館の、その屋上で銀二とエイルノートは一息ついていた。銀二はヘルムを外しタバコを吸い始め、エイルノートもフードと口布を外している。


「それで、流れでサクッとやっちっまったがこれからどうすんだ?」

「俺っち達は暗殺の実行だけっすよ。細かい政治的な話やら、事後処理はそれ専門の奴らがちゃっちゃとやるっスから」

「想像以上にお前さんの組織はでけぇのな」

「連邦の中だったらどこにでもいるって思って欲しいっス」

「(なんか映画で見たCIAとかMI6みたいな感じか・・?)」


脳裏に特徴的なBGMが流れながらイケメンのエージェントやら渋いイギリス紳士が過るが、口から吐く煙と共に体から追い出す。

屋上の縁の方でしゃがみこんで庭を覗いていたエイルノートは、ズボンの裾に着いた埃を叩きながら立ち上がり、銀二へ体を向ける。


「さて・・・旦那、巻き込んだ俺っちが言うのもなんですけど、協力に感謝っス」

「まぁ・・いいけどよ。これでライラを狙う輩が減ったってことだろうし」

「そうっスねぇ。ライラ様になにかあったら、連邦がなくなっちゃうっスからねぇ~」

「しかし、基本的にそういう考えが連邦じゃ一般的なんだろ?火の一族には手を出すなって。にしては狸人は随分迂闊な真似をしたよな~?」


銀二の言葉に苦笑しながら頷くエイルノートはピンと人差し指を立てて得意げな表情に戻す。


「今回ヤッたリチャード市長の叔父にあたる人物が、リゲル・ウォーズリーっていう評議員の一人なんスけど、このリゲルが評議員になったのは大体10年くらい前っすかね」

「評議員ね・・」

「連邦は各種族で選出された首長が評議員となって、首都で議会を開いて政治を行うんス。なもんで、基本的に一族の長が代わるのは老衰とかでの代替わりが基本なんスけど・・・」

「10年前ってーと・・?」

「お察しの通り、狸人の先代首長はライラ様を愚弄したことで火の一族に再起不能にされて、強制的に代替わりする羽目になったんスよ」


話ながら銀二が懐から出したタバコの箱を少し傾ければ、ピンと立てていた指でそのまま一本摘んで吸い始めるエイルノート。ぽふーっと煙を吐き出した後は気を取り直して説明に戻る。


「多分、これが他の種族だったら、跡継ぎは火の一族に手を出そうなんて考えなかったと思うっスよ。基本的に首長は血統で受け継がれるっスから。けど、狸人は首長の選出が変わってましてね」

「大方一番金積んだ奴がなれるとかじゃねーの?」

「ハハハ・・・まぁ詳細はあれど似たようなもんス。言ってしまえば首長の座を買うんスよ。そんなだから先代首長がどうなったか知っていても、危機感が薄いんス」

「いい迷惑だ・・・」

「ウォーズリーの一族は昔から黒い噂が絶えない奴らだったんスけどね・・評議員になったあとは甥をこの街の市長にするために、このマフィアと色々やってたみたいっス。他にも金儲けのために御法に触れることもしたらしいスけどね。まぁなんやかんやうまく煙に巻くのが狸人の特徴みたいなもんなんで、こっちの捜査も中々進んでなかったんスけど・・」

「俺らを狙うあまりに派手に動き過ぎて、尻尾を掴んで芋づる式に引きずり出したか」

「そーゆーことっス」


ふー、と煙を吐き出して二人そろってタバコを地面に落として靴で火を踏み消す。


「ま、なんにせよこれで尾行もなくなるだろ。街でも街道でも視線が気になってしょうがなかったんだ」

「・・・狸人の尾行は街だけで、街道は俺っちが同行して担当してたから尾行はない筈っスよ?」

「あん?ってことはなにか・・?」

「・・・全く別のグループが尾行してるってことっスねぇ」


エイルノートの言葉に、力なく項垂れる銀二なのであった。


―――

――


所変わってギョレでの観光中の三人娘・・娘?アッハイ娘デス。まぁ三人は旅の途中で消費した食料だったり、あるいは服を買いに来ていた。食料品は既に買い終え、銀二から預かっているアイテムバッグ(銀二は最近闇魔法で収納を覚えたので)に詰め込んで服屋へと訪れていた。


「そういえば・・・」

「これと、これで・・・ふむ。下着セットが安いな。・・・ん?どうしたクラリッサ」

「ライラちゃんも、もうちょっとオシャレをした方がいいかなぁって」

「・・・里を出てからというモノ、冒険者としてしっかりと稼げるまでは金欠になることが多くてな。動きやすくて安いなら言うことなしだ」


ドヤっと胸を張りながら宣うライラに、困ったように頬に手を当ててほほ笑むクラリッサ。その背後では何故か怯えた様に周囲の婦人服を見ているアリエルがいる。


「アリエルちゃんは殿方の格好が長くて女性の服にあの調子ですし・・」

「どちらかというと、旅人だったり冒険者としては私やアリエルの反応が一般的じゃないか・・?どうみてもそのドレスよりは・・・」

「あらぁ、これは私達ダークエルフの民族衣装のようなものですよ。ちょっと変わった糸で織った生地のドレスなんです」

「民族衣装か・・・旅に出るときに行商人から普通の服を買っていたから里に帰らないと着れないな・・・」

「ライラちゃんのところはどういう物だったんですかぁ?」

「今にして思えば・・そうだな、踊り子の様な格好だろうか。連邦の北部で少し寒い地方なのだが、一族の特性上年がら年中燃えているからな。涼しい格好しかなかったな」


ハンガーに掛けられた服を手に取り、ふむと呟きながら籠に入れようとするのをやんわりと止めて、違う服を微笑みながら籠に入れるクラリッサ。


「お金はしっかり稼いでいるのですし、ちゃーんとオシャレしましょうねぇ」

「む・・むぅ・・」

「そ・れ・に、旦那様も男ですからオシャレした女性の方が好きですよ~。ほら、こんな下着とかぁ」

「ちょ、そ、それは破廉恥だ!」

「うふふ・・・でもやっぱり・・そういう時にセットで幾らの安物の下着では旦那様も・・・」

「そ・・それは・・その・・・」


顔を真っ赤にしたライラに微笑みながらそれとなく下着も籠に忍ばせたクラリッサは、背後で不安そうにキョロキョロしているアリエルに、スカート片手に近づいていく。


「アリエルちゃんはやっぱりスカート履いた方が可愛いですねぇ」

「す、スカートは悪いわけじゃないんだけど・・・やっぱりその、ズボンとかの方が・・」

「今日みたいにこうやって観光するときには必要ですよぉ。旦那様はボーイッシュな格好でも気にしないでしょうけど、やっぱりかわいい女の子の格好の方が好きですよ?」

「うっ・・・」

「まぁ最初からミニは厳しいでしょうから、ロングスカートで慣れていきましょうねぇ」


そういってニコニコしながら籠にスカートを追加するクラリッサ。オシャレ関係ではライラもアリエルも借りてきた猫の様に大人しくなってしまうのだった。


「さぁ、お会計しちゃいましょうねぇ~」

「「はい・・」」


そうしてカウンターでお金を払っていると、表の通りで数人の衛兵が走り抜けていく。ちらりと見えた表情はみな険しく、ただ事ではない雰囲気を醸しているためか待ちゆく人もその道を開けていく。


「なにかあったんでしょうかねぇ?」

「全員武装してるし、なにか事件があったのかな?」

「帝国の方が来ているというのに・・・まったく」


全員が口々に言葉を放つが、どことなく棒読みというかあまり感情が伴っていない。というのも、衛兵の姿を見送ってからというもの、脳裏に銀二がニヤリと笑っている映像が過っているのだ。


「・・・」

「・・・」

「・・・」

「お、お客様?お釣りですけど・・」


店員からお釣りを無言で受け取った三人は、荷物を無言で持つと素知らぬ顔で店を出ていく。無表情のまま道を歩き、すれ違う衛兵をやりすごして道中のカフェを無言で指さすと、全員が無言でうなずき入っていく。


「いらっしゃいま・・せー・・?」

「三人だ」

「はっはい・・どうぞそちらへ・・・」


ズカズカと店の奥のテーブルへ向かい椅子に腰を下ろす。そこで初めて全員が貯めこんでいた息を吐き出す。ライラは頭痛がするのか片手で額を抑えながらメニューに目を通す。


「そんなはずはないと思いたいが、どうしてもギンジ殿が関わってると思えてしまう」

「なんでだろうねー・・・」

「それに今日はエルノさんもお連れになったみたいですしねぇ」

「エルノか。あやつもよくわからないな、そういえば」

「エルノさんは旦那様も気にかけてましたねぇ。おそらく偽名ですし、なにかしら隠し事が多い方なのでしょう」

「・・・ギンジさんに隠し事って、無意味だよね」


経験者は語る、と言った風に苦笑しながら言えば他の二人もしみじみと頷く。少なくない日数を共にすれば銀二のことも理解することが出来てきている三人である。

それぞれが飲み物を注文し、そしてそれがテーブルに届くころ。店員と一緒に一人の男性が姿を現す。


「貴方は・・・」

「エトムント、この街の冒険者ギルドの支部長ですよ。ご一緒しても?」

「ええ、どうぞ~」


クラリッサの言葉に微笑み椅子に座る。そうしながら店員にコーヒーを頼んだ支部長は微笑みを浮かべたまま三人を視界に収める。


「支部長さんがボクたちに何か用があったの?」

「そうですね。見目麗しい女性を見かけたので、と言いたいところですが。あまりふざけていると家内に怒られますので、単刀直入に。街を司る一人としてご挨拶だけでも、と思いましてね」


そういってその視線をライラに向け、ライラも納得の様子でそれを受け止める。


「本来であれば市長ですとか、街の代表者のところで会食などをすべきなのでしょうが・・・連邦評議会からあなた方一行への接触は必要最低限に抑えるようにとお達しがありましてね」

「連邦評議会から・・?」

「貴女の身に何かあれば、貴女の御父上が怒って手を付けられなくなりますからね。それに、裏でコソコソと動いていた者へ牽制する意味もこめられていたのでしょう」


届いたコーヒーを優雅に口にしながら淡々と告げる支部長。カップをソーサーにコトリと静かに置いてから、眼鏡のブリッジをクイっと押し上げる。


「ですが、彼らもどうやら今までためてきたツケを支払う時が来たようでしてね」

「・・・先程から動いている衛兵たちですか?」

「ええ、匿名のタレコミがありましてね。この街始まって以来の大捕り物になるのでしょうが・・・ところで、昨日お会いしたギンジ殿はご一緒では?」

「・・・今日は余暇を過ごすようにしたので別行動ですが」

「そうですか・・・」


ふむ、と呟きながら眼鏡を押し上げる姿に、下手なことは口にすまいと両手でカップを持ち静かに飲むアリエル。クラリッサは相変わらずニコニコしているし、ライラは基本無表情に近いので読みづらい。


「・・彼は中々面白い視点で物事を見ているようですし、色々とお話が聞けるかとおもったのですがね」

「夜にでも宿で会うでしょうから、そのように・・・あ」

「?」


不意に表通りを歩く銀二とエイルノート―エルノ―の姿を見かけて言葉に詰まれば、その視線を辿って支部長も銀二に気付く。そして最近尾行されることが増えて視線に敏感になった銀二や、その手の感覚は鋭いエルノが揃って視線を店内に向け、ライラ達に気付いた銀二達はそのまま店内へと入ってくる。


「どーも支部長サン。なんだか不思議な組み合わせだな」

「ええ、ライラさんに挨拶のひとつはしておくべきかと思いましてね。そちらの方は?」

「旅の道中で合流したやつだよ。なんでも闘技大会にでるとかでないとか」

「ドーモー。連邦中をあっちへフラフラこっちへブラブラ、好き勝手に動き回ってるエルノってもんっス。アンタ、確かエトムントさんっスよね?」

「おや、私の事をご存知でしたか」

「ええ、噂は聞いてるっスよ~。・・・遺跡のフィールドワークはし過ぎると周辺住民に反感を買いますから気を付けたほうがいいと思うっスよ」


エルノの言葉にピクリと人間種にしてはちょっとだけ長い耳が動き、そしてなるほどと呟きながらコーヒーを飲み干す。そして懐中時計で時刻を確認したと思うと、静かに立ち上がる。


「ご忠告、感謝しますよ。さて、私はこの後急遽帝国の方と会食がありますのでこの辺で。・・・やれやれ、市長殿はどこへ行ってしまったのやら。それではお嬢さん達、お邪魔しましたね」


そう言って支部長は立ち去っていく。その後ろ姿を見送った銀二達は全員席に座りなおした。


「流石は賢者、一を聞いて十を知るって奴っスかね」

「アレだけで気付くか」

「ある程度の地位にいる人だったら大体知ってるっすから。それより姐御たち、今日はなに買ったんスか~?」

「うふふふ、旦那様をイチコロにする衣装ですわぁ」

「・・・振っといてなんなんすけど、まさか惚気で返されるとは思わなかったっス」


がっくりと項垂れたエルノに、ライラとアリエルは顔を赤くしてそっぽを向き、クラリッサはニコニコとほほ笑む。そんな様子を苦笑しながらタバコに火を着ける銀二であった。

話はあんまり進んでない感()

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