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36―やっぱ男なら憧れるだろ、仮〇ライダー―

バシャバシャと宙に発生させた水を被り、その身についた返り血をきれいに浮かせたそれを森の奥の方へと撃ち捨てる。水の宝具『清水の指輪』によって生み出した水は今日も一行の身を清めるのに重宝しております。先日の馬車事故の治療で着いた血もそれで洗い落としました。それでいいのか宝具。


「よっし、これで血は落ちたろ?」

「その代わりにびしょびしょですねぇ」

「風邪ひかないでよギンジさん」

「ま、大丈夫だろ・・・・ライラぁ、大丈夫か~?」

「ボクもギンジさんが木陰から出てきたときはびっくりしたけど・・・」


くるりと顔を向ければ、冷静になって叫び声をあげたことに恥ずかしくなったライラが真っ赤になった顔を手で覆いながら木陰でしゃがみこんでいた。

その様子を銀二に治してもらった手を頬に当てて見守っているクラリッサが、不思議そうにライラを見るアリエルに説明し始める。


「ライラちゃんは獣人で、ほかの人種よりも本能的に危険なものを感じ取りやすいのですね。特に、闇の精霊様は普通のヒトからすれば恐怖の対象になるでしょうし・・」

「確かに・・ギンジさん出てきたとき凄い量の魔力まとってたもんね」

「アリエルちゃん達人間種は魔力は感じ取ることはできてもそこまで敏感じゃないですからねぇ~。・・・実際に精霊様を見たらわかりませんけど」

「えっ」

「この調子だと、あんまり精霊ポチだすのはやめておいた方がいいかねぇ?」

「もう・・大丈夫だ。・・・取り乱して済まない」


未だ紅潮させた顔を俯かせながら近づいてくるライラに苦笑し、黒焦げになったオスをバッグに詰め込みながら「構わねぇよ」と答える銀二。口の小さな袋に巨体が呑み込まれていく様は何ともシュールである。


「さて、異変も解決したことだし、帰る――」


言いながら立ち上がった瞬間、離れた場所から二回連続で雷の様な音が森を駆け抜け、和やかになっていた空気が一変する。


「二回・・救援信号だよ!」

「音はあちらです!」

「東側・・・街道側だ!ギンジ殿!」

「ああ、行くぞ!」


荷物を手早く持った一行は、音が鳴った方角へと全力で駆け抜けていったのだった。


―――

――


時間は少し遡る。丁度銀二達がマンティコアの番と交戦を開始した時である。北方街道、その森林地帯を進行中の帝国軍一行も、銀二が放った鳴響玉の音を聞き取っていた。


「鳴響玉を確認!回数は一発、何者かが交戦を開始しました」

「ああ、こちらでも確認した。場所は!?」

「森の西部。距離は離れていることから、おそらく西部中央付近かと思われます!」

「・・・西への警戒を強めろ。だが、この森の異変が一個体だけとも限らん。全方位の警戒を怠るなよ」

「ハッ!」


ベールマンという大男が馬上から指示を出し、西方を睨みつける。異様なまでに静まり返った森は、なるほど確かに異変が生じていると思わせるほどだ。

森をにらみ唸り声を口から漏らす彼の後ろから馬車が一台近づき、その窓が開かれ金髪の男が顔を覗かせる。


「ベールマン。状況は?」

「ハッ!先ほど、森林西部より鳴響玉を確認。回数は一度、おそらく冒険者と思われる者達が交戦を開始したかと」

「貴様はどう見る」

「異変の主が一個体と確定しているならばこの隙に森を抜けますが、魔物が複数であった場合を想定し全周警戒で進行します」

「わかった。頼むぞ」

「ハッ!」


右手を胸に当てる帝国式敬礼を見た金髪の男は窓を閉じる。それなりに長い年月を帝国軍人として数々の戦火に身を投じてきた彼も、この森の異様さとどこからか感じるプレッシャーに背中からじとりと汗を流す。

その緊張感は伝搬したように進軍を続ける軍人たちの顔にも緊張が走る。そして一行が北方街道の森林地帯中央・・・まさしくこの森林の中央にさしかかった時、晴天だというのに森の西側に極太の雷が落ち閃光と轟音が目と耳を焼いていく。


「何事だ!?」

「詳細は不明!西部に落雷、しかし魔力反応を検知!」

「魔力反応だと!?魔法で雷を落としたというのか!?」

「魔法、それとも獣人の異能かは不明ですが・・どちらであっても驚異的な魔力運用です」

「戦略級、とまではいかずとも一つの戦場を一変させる力か・・・」


手に持った魔導杖―杖というが銀二が見たらSF映画に出てきそうな銃と言いそう―を構え、警戒をしながら呟いた次の瞬間、獣の声だというのに悲鳴としか思えないそれが森中に響き渡った。


「何事だ・・!何が起きているというのだ、この森で!」


杖とはいうが、細くて長いさらには薄いアタッシュケースのような箱型の形状にマスケット銃の銃床ストックを付けたようなそれを構えながら日光を遮り暗闇に満ちる森の奥を睨めば、たらりと額から汗が流れ落ちる。

五分か十分か、どれくらいの時間そうしていたかわからないが、再び静まり返った森の様子に魔導杖を下ろして自然と止まっていた息を吐き出す。


「ただ事ではないのは明らか・・全軍、急ぎ森を抜け――」

「8時方向!敵襲!!」

「東側だと!?」


報告と同時にパァン!とまさに銃声のような音が鳴り、そしてそれが連続して鳴り響いていく。馬を反転させライフル銃の様なでかさの魔導杖を片手で振り回して構えた先には、2mはありそうな巨大な蜘蛛が木々の間を抜けて列をなして隊列の斜め後方から襲い掛かってきていた。


「グランスパイダーだとぉ!?各員迎撃せよ!」


魔導杖内部でチャージされた魔力は、銃身バレル内部で金属の殻を形成しその魔力を内包させる。そしてそれが強力な魔力放出によって撃ちだされると、巨大な蜘蛛の魔物の腹を貫き、そして体内で弾丸に内包されていた魔力が急速に解放され、その体を内側から弾き飛ばす。

一匹、二匹と続々と殺害していくが、その死体を鋭い脚で踏みつぶし乗り越えながら多数の蜘蛛が姿を現す。


「射撃を行いながら後退せよ!」

「グランスパイダー、続々と姿を現してきます!」

「わかっているっ!くそ、鳴響玉を放て!」

「信号は!?」

「救援に決まっているだろうっ!!」


自身も魔弾をバラまきながら撃ち続け蜘蛛を弾け飛ばしていくが、倒してもキリがないほどの数の蜘蛛が森の奥から姿を現す。その蜘蛛の異常な数か、それともベールマンの鬼のような形相に怯えたのかは不明だが、兵士の一人が自らの頭上に鳴響玉を素早く二つ投げ飛ばし、そして爆発させた。


「(先程の交戦していた者たちが加勢してくれれば光明はある!)持ちこたえろ!!」


タァン!タァン!と魔弾を放ち蜘蛛を倒す中、ふとあることに気づく。


「(グランスパイダーにしては・・・一回り『小さい』。まさか、こいつら幼体・・!)」

「う、うわああああああああ!」

「っ!」


前線にいた兵士の一人が、叫び声をあげて空中へと放り投げられる。その体は太い糸でぐるぐるとまかれてしまっている。そしてその糸の先には、蜘蛛の軍勢よりも一回りいや、二回りはでかい蜘蛛が樹上でその口を開き待ち構えていた。


「(クソ!間に合わん!)」


照準を合わせるより先に、ベールマンの横をすさまじい速度で駆け抜ける者がいた。魔導杖を掲げる帝国軍人においてただ一人軍刀のみを携える男。ギョレの街でギルドに先触れに出ていた男である。


「ハイデルか!」

「―――シッ!」


切れ長の釣り目をさらに細めて睨み、抜刀と共に軍刀を振りぬくと目には見えない真空の刃が釣り上げていた蜘蛛の糸を断ち切る。


「確保!」

「ハッ!」


簀巻きの様に丸められた男が落下していくをの見送りながら指示を出し、下にいる兵士たちがなんとか受け止める。巨大なグランスパイダーの餌食になりそうな恐怖と、一部界隈で鬼と恐れられるハイデルという軍人に睨まれた恐怖に、助けれらた男の顔が恐怖に歪んでいるのを、他の兵士たちは笑えるはずもなかった。

捕食に失敗したグランスパイダーはその脚を器用に動かし、瞬時に森の奥へと姿を消すが、幼体の軍勢は未だにこちらを食いつかんと迫ってきている。


爆裂魔導弾グレネードを」

「ハッ!グレネーーード!!」


軍帽を押さえながら着地したハイデルが近くにいた兵に言うと、即応した兵士が腰から下げていた柄付き手榴弾を投げ込むと、最前列の少し奥で轟音と共に激しい爆発が蜘蛛たちの体を宙へと吹き飛ばす。


「魔力消費の激しいものは交代スイッチしなさい。残弾の少ないものが前線にいても邪魔です」

「ハッ!5秒後に即応せよ!5・4・3・2・1・今!」


前線で指示を出していた男の声と共に、後方で控えていた者が即座に交代を果たす。練度の高さが伺えるが、それで満足していないのか眉間に皺を寄せて物申したい雰囲気を醸すハイデルに、ベールマンが近づく。


「ああ、ベールマン閣下。お疲れ様です」

「・・・貴様は相変わらずマイペースだな。だが、間に合ってくれて助かったぞ」

「ギョレから急いではいたんですがね、何分徒歩なもので合流に遅れてしまいました」


グレネードによって一時的に炎の壁ができたおかげで小康状態になったが、それでも森の奥から虎視眈々とこちらを見ている軍勢に、顔を顰める二人。


「噂の、新型魔導杖が欲しくなりますね。魔弾を連発するんでしょう?」

「無茶を言うな。ようやく試作品が出来上がったというが、俺でさえ両手で腰だめに抱えねば持てんものだぞ。それに魔力消費も激しい」

「急ぐ旅のせいで装備を絞ったツケが回ってきましたね。明らかに決定打に欠けます」


銃声が鳴りやまぬ中世間話の様に会話をする二人。無論、ベールマンも射撃を続けているしハイデルも途中途中で指示を出し続けている。


「こいつらに襲われる直前まで、冒険者と思われる者が別の場所で交戦していたようだ。その者たちが加勢に来てくれれば或いは・・」

「先程の救援要請はそういう事でしたか。で、あればこのまま後退し続け遅延戦闘を行う方が――」

「ん、どうした?」

「いえ、待つ必要がなさそうです」


ハイデルがそういって軍帽を目深に押さえた瞬間、樹上から黒い影が蜘蛛の上に落下し凄まじい衝撃波で蜘蛛を吹き飛ばす。その衝撃に思わず仰け反ったベールマンが、馬を落ち着かせながら先を見やれば――


「デュラハン!?」

「いえ、よく見てください。ちゃんと首乗っかってますよ」


大陸全土に御伽噺で伝えれれている、妖精の一種の首なし騎士を連想させる様な闇の様に黒のフルプレートアーマーと、その関節部から火の様に漏れ出す昏い闇の魔力が、グレネードによって燃え広がる炎の壁の中で映し出される。

その手に持った黒い槍の様なものをブンと横に振り払うと、その風圧で炎が吹き飛ばされ周囲の影を広く照らす。

ベールマンが声をかけようと身を乗り出した瞬間、ハイデルが手で行動を止める。


「上空に魔力反応!!」

「今度はなんだ!?」


兵士の報告に上空を見れば光り輝く魔力球が無数に浮かび、そしてそれが槍となって雨霰の様に蜘蛛の軍勢へと降り注ぐ。


「光魔法か!」


光の槍が降り注ぐ中、デュラハン(仮)は物ともせずに槍の雨の中を走り抜け、撃ち漏らした蜘蛛をその手に持った槍で吹き飛ばしていく。

呆気なく殲滅していく姿を呆然と見ていると、ガサリと足音が鳴り街道の脇から三人の女性が姿を現す。


「おや・・貴女方、確かギョレの街のギルドで・・・」

「ハイデル、知り合いか?」

「いえ、冒険者ギルドで見かけた方です」

「冒険者・・・では先程の落雷は貴様らが?」


ベールマンがそう問えば鎧姿で暴れている銀二を眺めていたライラがその身に帯電させながら頷く。その姿に馬が嘶き暴れる前に落ち着かせる。

光の槍の雨を降らせた張本人、アリエルはその様子を視界の隅に収めながら苦し気に溜息を一つ吐くと、蜘蛛を貫き地面へと縫いとどめていた光の槍が、ガラスが割れるような音を響かせながら消えていく。その光景に誰もが感嘆の声を漏らすが、チラリと森の奥で漆黒の鎧がその手に持った槍を手の中で回転させ、逆手に持ってこちらへ構えている姿を目にする。

まさに地獄の焔の様に噴き出す闇の魔力が全身を、そしてその槍に収束していく。


「『――――――――』!!!」


キィィンと耳鳴りの様な、それでいて何かの叫び声の様な・・そして根源的な恐怖を感じる声とその姿に、その場にいる全員が緊張をあらわにする。

踏み込んだ地面から闇が噴き出し、捻る体からはギリギリと音が聞こえる。地面から伝わった力を余すことなく足へ腰へ、体幹へ。そして体を回旋させながら放った槍は黒い閃光となって兵たちの頭上を通り、ひときわ目立つ馬車の直上、今まさに圧し掛からんとしていた生体の蜘蛛を貫き、そしてその体を跡形も無く消し飛ばす。


「・・・・・」

「・・・・これは」

「・・・はぁ・・・また派手に・・・」

「あ、あははは・・・そ、それよりも!馬車の中の人、大丈夫かな?」


あんぐりと口を開けたベールマンと、その鋭い目をさらに細めたハイデル。そして規格外の槍投げを披露した姿に頭痛が痛いライラと空笑いしながら話題を逸らすアリエル。ちなみにクラリッサはほぼ発情していた。

アリエルの言葉に、ハッと気を取り直したベールマンが馬車へと駆けつけ扉をノックする。


「殿下、ご無事ですか?」

「ああ・・・。あまりの衝撃に椅子から転げ落ちたがな。まあ怪我はしておらんし、非常時故仕方なかろう。静かになったようだが、終わったのか?」

「ハッ!冒険者の協力もありまして、切り抜けました」


その言葉に「そうか」と言葉を零しながら扉を開く。馬車のステップを踏みしめながら降りてきた姿を見て軍人たちが右手を心臓に添える帝国式の敬礼をした。

彫りの深い目元に、高い鼻。輝く様な金髪に蒼い瞳。立ち振る舞いからして貴人とわかるそれに、ライラ達は表情を変えて視線を地面へと落とす。周囲を見渡していた金髪の男も、そんなライラ達に視線を向けた。


「貴殿らが加勢した冒険者か」

「はい。私達と・・あちらの・・」

「うん?まだいる・・・の・・か・・」

「・・・『無事か』?」

「――――」


ズシリ、ズシリと重い岩を落とした様な足音をさせながら近づいてきたデュラハン(銀二)の異様な姿と名状しがたい音声に、さしもの貴人の男も言葉が止まる。

『首無し騎士デュラハン』『暗黒騎士』『邪神の騎士』などの名称が何故か脳裏を過っていくのを、冷静な自分が捉えつつ、闇の魔力を頬に感じながら呆然とその姿をみていたのだった。

銀二、それ仮〇ライダーちゃう。ただの暗黒騎士や

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