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35―山や森に入る時は獣除けを持っていこうな―

ガサガサと草木をかき分けて進んだ先に開けた場所に出ることができた銀二達は、周囲を警戒しながら中央に自生している野草を目にする。背の高い茎に多数の葉をつけたそれは、クラリッサが頷くことでトゥーモであることを確認する。


「これが例の?」

「はい~。これがトゥーモですねぇ」

「(見た感じ、昔離島に旅行した時に見たアシタバと似てるなぁ)」

「これを薬にするってどれくらい必要かな?」

「薬効があるのは葉っぱだけですが、滋養強壮剤なら一度水で洗ってからよく乾燥させて粉末にしますからぁ・・・大体茎一本についてる葉で一日分でしょうか?ただ茎から切り取るとすぐに劣化してしまうので、薬師の元には茎のまま持っていくのがいいですねぇ」

「わかった!よいしょー!」


クラリッサの言葉を聞いて、手に持った大剣で横薙ぎにして切り払っていくアリエル。そんな彼女を横目に、周囲の警戒をしながら銀二はクラリッサに話しかける。


「流石にお前さんでも薬は作れんか?」

「作れなくはないですが・・・結構な手間と時間が必要なので、専門の薬師さんにお願いしたほうがいいと思いますねぇ」

「なるほどねぇ。ま、薬師のとこに持って行って孤児院に届けるくらいまではやっておきますか」

「そういえばギンジ殿ならその病の子を治すことができたのではないか?」


アリエルが薙ぎ払ったトゥーモを紐でまとめていたライラがふと顔を上げて銀二に問いかける。その問いに対して顎をさすりながら首を傾げて空を見上げる銀二。


「病を治すことはできる・・・が、それは根本的な解決にはならねぇな」

「・・・と、いうと?」

「孤児院のシスターも言っていたが、病自体は軽いんだがその軽い病を繰り返し発症している。根本的な問題は、おそらく栄養失調によって体内にある病に抵抗する力が低くなったことだ」

「そうか・・・治癒術では失った血は戻せないのと同様に、そういった栄養なども補えないのだな」

「そーゆーこった。完璧ってーのは滅多にないってことだなぁ。そんなのがあったら薬師も廃業してるだろうよ」

「なるほどね~。っと、これくらいあれば十分かな?」

「ひのふのみ・・・まぁ大体一月分はあるし、余った分は孤児院の子供らで分ければいいだろ」


紐でまとめられたトゥーモを丸ごとアイテムバッグに詰め込むと、パンパンと手に着いた土汚れを払う。


「さて、これで主目的は達成したわけだが・・・ちなみに今森のどのへんだ?」

「まずこの森だが、北方街道が中央を縦断しているため、東西で分断されているのだが・・・」

「私達は西側の・・中央からやや南よりですねぇ」

「結構深くまで入ってたんだな」

「ある意味では森の最深部・・とも言えるな。ギンジ殿、そろそろ帰路につかなければここで夜を迎えることになるぞ」

「何が潜んでるかすらわからん状況なら、夜にいるべきじゃない・・か。いったん引き返そう」


銀二の言葉に全員が頷き来た道を引き返そうと準備を整えた直後、まさに猛獣の遠吠えの様な叫びが森中に響き渡り全員に緊張が走る。


「今のは・・っ」

「隠れろ!」


ライラの声に即座に反応した全員は、近くの木陰に飛び込む。その数秒後には木々の枝を跳び移って一つの巨大な影が現れる。

毛皮はなく、青黒い肌を晒した四本脚の獣。傍目から見てもはっきりとわかるほどの異常なまでの筋肉量、狼の様に伸びた鼻先と大きく裂けた口、そしてその口から伸びる鋭い牙はガゼルのような動物を咥えこんでいる。なによりは四つ這いでも3mはあろうかという巨体は、離れてみている銀二達ですら圧倒される存在感を醸し出していた。


「マンティコア・・!馬鹿な、こんな場所に出る様な魔獣ではないぞ!」

「ここは奴さんの巣ってことか・・・」


匂いが強く背の高いトゥーモが群生していたこともあり、身を潜めてもマンティコアからは見つかっていないようだ。


「それで、奴さんどんな?」

「・・・見てわかる通り、非常に大柄かつあの筋肉量を維持するために大量の獲物を食べる必要があるとされている」

「この森の異変はアイツが原因ってことかな?」

「アイツも・・が正しいな・・」


スッと伸ばした指の示す先には、やはり樹上から跳び移ってきた別の個体が姿を現す。先に来ていたマンティコアと違い、その肌は赤黒い色をしている。


「色が違うのは・・?」

「青い方がオス、赤い方がメスだ。つまりこの森を繁殖地として定めたのだろう」

「さっきライラちゃんが言ってたように、マンティコアの食事量は相当な量ですからぁ・・・」


視線の先では二頭のマンティコアが合流し、オスが咥えていた獲物をメスに食べさせオスはそのまま周囲を見渡している姿がある。


「正直、今はトゥーモで隠れているから見つかっていないが、ここから離れれば気付かれるだろう」

「アイツはそんなに索敵能力高いのかよ・・」

「視覚・嗅覚・聴覚、いずれも非常に優れている」

「となれば、先手を打ってやるしかないわけだが、アイツどんくらいの強さ?」

「オーガキングが餌になるレベルだ」

「・・・・」

「私達なら・・・アリエル、クラリッサ、私の三人が全力でかかって一匹互角に戦える・・・と、思う」

「あとは俺次第、かね。オスとメスで厄介なのは?」

「メスだ。牙から麻痺毒を分泌させ、尻尾の棘を射出する。オスは単純に力が強いだけだから避ければ問題ないな」

「・・・鳴響玉をあいつ等の中間に投げ込む。驚いている最中にメスを叩いて引き離す。お前らはオスの相手を頼む」

「かしこまりましたぁ~」

「任せて!」

「ギンジ殿、十分に気を付けてくれ」


三人の言葉に頷き、腰から玉を取り出すと魔力を込めて相手をにらむ。一度、二度、深呼吸を繰り返し、三度目短くそして鋭く吐きながら玉を投げる。


「いくぞ!!」


直後、落雷の様な轟音が広場を包み込んだ。


――


ドゴォ!とゴムタイヤを思いっきり叩いたような、それでいて何倍も強く大きくしたような音が鳴響玉でハウリングしているアリエルの耳に届く。銀二が食事に夢中だったメスへと踏み込み、その顔を黒杖を全力のフルスイングで吹き飛ばした音だ。視界にその姿を認め、それと同時に下段に構えた大剣の切っ先で地面を削りながら、大音響で苦しむオスへと駆け出す。


「ハァァァア!」


最後の踏み込み、その直前に体を捻りヴィクトル譲りの身体強化による怪力と遠心力を掛け合わせて回転切りをオスの鼻っ面に叩き込む。


「(硬いっ!!)」

「――シッ!!」


ギャリリと生物に切りつけた音とは思えない異音を発し、その手ごたえの無さに歯噛みするアリエル。その彼女に向けて焦点を合わせたオスが、その豪腕を振り上げ叩きつけようとした瞬間に、銀閃がアリエルの目に映る。

パパァン!と乾いた音をその身から響かせたオスは一瞬体の動きを止められ、その隙を飛び込むようにしてアリエルが股下を転がりぬけていく。


「グルァアアアアアアア!!」


振り下ろされた豪腕が地面に叩きつけられた瞬間、その衝撃で地面が捲り上がり周囲に衝撃波を発生させる。だがその衝撃波の壁を突き抜ける様にクラリッサが目にも止まらぬ速さで駆け抜け、影から引き抜いた大鎌で叩きつけた前腕を切りつけようとする。

しかし、数多くの魔物の首を切り落としてきた彼女の鎌も、鉄よりも固いマンティコアの筋肉を切り裂くことはできなかった。


「グルァ!

「あらあら・・・っ!」


腕を斬り裂こうとした鎌を受け止め、その腕を振り払うことで木の葉の様にクラリッサの体が宙を舞う。その姿を捉えたまま今度はオスが駆け抜け、木々の幹を跳び移りクラリッサの頭上に躍り出ると体を縦に回転させて尻尾を叩きつけた。


「「クラリッサ(さん)!!」」


ゴム毬の様に吹き飛ばされた彼女は、地面に激突する瞬間、その身をトプン・・と影の中へと沈み込ませていく。


「デリャアアアア!!!!」


その姿に安堵をしながらも、キッとオスを睨みつけたアリエルは大剣の刃を光り輝かせながら駆け出し、着地をしたオスの、そのがら空きになった顎を切り上げて顔面と前腕を再度宙へと打ち上げさせる。

そしてがら空きになった腹部に、その身を帯電させたライラがまさに雷のような速さで跳び込み、手に持った黒鉄の杭を突きこむ。


放電ディスチャージ!!」

「グルアアアアァアアア!?」


青白い閃光が広場で輝き、その場にいる者の目を焼く。その間に、ライラの出した光によって濃くなった木の影からクラリッサがずるりと姿を現す。


「大丈夫!?」

「ええ、油断しましたわあ・・・」

「クラリッサさん、腕が・・・っ」


アリエルの言葉の通り、クラリッサは肘から先の途中で折れた腕をぶら下げていた。それに対して困ったように眉尻を下げながらため息一つ零す。


「困りましたねぇ。これでは流石に大鎌は振れませんし・・」

「ええ・・その程度の反応なの・・」


そうこうしていると、大きくバックステップをして下がってきたライラが合流する。チラリとクラリッサの腕を見て眉を顰めるが、すぐに視線をオスへと戻す。


「どの程度だ?」

「精霊様のお力でなら戦えますわぁ」

「流石にあそこまで硬いと斬れないかなぁ。ボクも魔法で戦うよ」

「なら・・私が近接戦闘で気を引こう。あとを頼むぞ」


視線の先で、雷撃によって体を痙攣させながらもこちらに殺気をバシバシと飛ばしているオスを見ながらいうと、再びライラの体の表面を電流が奔る。トン、トンとステップを刻むライラの姿を強く睨み、痙攣が無くなってきた体を若干沈み込ませた瞬間、パンッと弾ける様な音と共にライラの姿が消える。

そしてその姿は、今まさに飛び掛からんとしていたオスの側面、前腕すぐ横に現すと掌に集中させた雷撃をその腕へと叩き込む!


「グルウウウウウウァアア!」

「シッフッ!」


パァン!パァン!とスパークさせた音が周囲に響き、収縮を誘発させられたオスはバランスを崩して地面へと転がっていく。この旅の道中に(主にクラリッサ相手で)特訓した賜物である。

その雄姿を後ろで眺めながら、クラリッサは右足でトン・トン・トンと地面を踏む。前・・右前・・左後ろ・・体の軸をブラさずに行われるそれは、草に隠れて見えづらいが黒い魔法陣が徐々にその範囲を広げている。


「まずは・・・『闇矢シャドウアロー』」


トン!と最後に地面を強く踏むと、四方八方の木の影から黒い矢が無数に発射されてオスの体に突き刺さっていく。しかしてそれはただの矢、というよりはまるでワイヤーの様に木の影から伸びたままで、マンティコアのその巨体を拘束し始めていく。


「物理的な攻撃より魔法の方が効果がある・・アリエルちゃん?」

「はい!撃ち抜け、『光剣シャインセイバー』!!」


大剣を逆手に持ち、それを杖に見立てて魔法発動体として機能させたアリエルは、マンティコアの直上に輝く光の剣を三本産み出すとそれを一斉にオスへと向けて突撃させていく。

一本は真上から、一本は左斜め上から、一本は右斜め上から。その全てがオスの体へ突き刺さり、そしてその光は辺りを照らしマンティコアの体を焼いていく。

徐々に光が強まるにつれ、そのマンティコアの腹下の影は色濃くなっていく。それを見ながら再度地面をトントン、と踏みしめているクラリッサは、最後にチラリと体からスパークを奔らせ充電しているライラの姿を確認する。その視線に一つ頷いて答え、クラリッサもまた頷くと最後の一歩を強く踏みしめる。


「刺し、穿て・・・『ホルカナンカ』」


直後、地面から飛び出した闇の槍は背に刺さる光剣と対称的にマンティコアの腹へと突き刺さり、そしてその身の動きを完全に封じ込める。まるでドリルの様に抉りこまれる穂先は激痛を生み、傷口を焼いていく光剣とは違い出血を強いる。その痛みに絶叫を上げるマンティコアに、身体強化を全力で使ったライラがその頭上へ飛び上がり、組んだ両手を天高く振り上げる。


「トール・・ハンマァァァァァア!!」


それはまさに雷神の振り下ろす槌そのもの。極光を伴い光速で飛来したその一撃は、マンティコアの体を焼き焦がし、その衝撃は周囲の草木を吹き飛ばす。

衝撃波に髪を揺らしながらも、三人はマンティコアの最期を視界に収め、そして沈黙したことを確認すると武器の構えを解く。


「はぁ~~~~・・・魔法疲れるぅ~~」

「あらあら・・・今回みたいに物理攻撃よりも魔法の方が効果が高い敵がいるって考えると、練習しておいて損はないですよぉ?」

「はぁ~い。魔力操作とか戦闘中に細かいことするの苦手なんだよねぇ」

「・・・それなら、先程の私の様に微調整など必要ない技でも考えたらどうだ?」


パリ、パリと未だに帯電させているライラが苦笑交じりにいえば、その手があったか!と言わんばかりに表情を明るくするアリエル。そんなアリエルにクラリッサとライラはさらに苦笑を深めていく。


「あ、そうだ。クラリッサさん大丈夫?」

「ええ、これくらいなら支障はないですよぉ。あとで旦那様に治して頂きますねぇ」

「そのギンジ殿は・・・」


ライラがそういって視線を巡らせた瞬間、この世のモノとは思えないほどの獣の悲鳴が森中に響き渡る。その悲鳴を感じながら頬を引くつかせるライラ、濃密に感じる魔力に頬を染めるクラリッサ、あまりの音量にビクッと体を震わせるアリエルは、一斉に銀二が消えていった方向をみる。


―ずる・・ずる・・


―ぐちゅり・・・バキ・・・ゴリ、ゴリ・・・


―ぴちゃ・・・ぐちゃ・・・


三人がいる場所とは対称的に、暗く光の届かない森の奥から生々しい物音だけが響き渡る。蒼い顔のライラと赤い顔のクラリッサもまた対称的であるが割愛しよう。

気が付けばあれ程叫んでいた悲鳴もいつしか嘘のように消えており、やがて森の奥からざり・・ざり・・と足音がどんどんと近づいてくる。

ゴクリ、とだれかの喉が鳴ったのを三人が感じ取った瞬間、木陰から血みどろになった銀二がゆっくりと姿を現し、ニヤリと嗤った。


「ぎゃあああああああ!」


条件反射並みにSANチェック失敗したライラの悲鳴が、再度広場に響くのであった。

もちろん返り血

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