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34―もう子供から見ればオッサンなので言われても傷つきません―

「なんか面白そうな依頼でもあったか?」


支部長を見送った後、受付を離れた銀二は煙を吐き出しながら見目麗しき女子たちの元へと近づいていく。その声に振り返ったライラ達は一つの依頼書を指さし、それを追って内容を確認する。


「んー・・薬草の採集か?」

「そうそう。ほら、依頼人のとこ」

「精霊教会・・・孤児院?」

「ああ。こうして大きな街には精霊教会の支部があるのだが、ここには孤児院も併設してあるみたいでな。それでちょっと気になって・・」

「なんだか依頼文読むと、子供たちが依頼してるみたいなんだよね」

「わかったわかった。しかし大人じゃなくて子供がねぇ・・?」

「なにか事情がありそうですねぇ」


クラリッサの言葉に頷きながら依頼書を掲示板から剥がし、受付に戻って手続きを行う。


「ギンジさん達は・・ああ、混成パーティーだったんですね。わかりました、受け付けておきます」

「この依頼主はなんか事情でもあるんかい?」

「事情というか・・単純に言えばいつの時代も孤児院の財政は厳しいもののようで、質素倹約を心がけているとか」

「ふーん・・?」


依頼書にサインを書き銀二へと渡した受付嬢は頭を下げて彼らを送り出す。どこか釈然としない思いをしながらも孤児院へ向かう銀二達であった。


――


街中を暫く歩き見えてきたのは中々に歴史を感じさせる教会である。石造りのその建造物の入り口、その柱や壁面に蔦が巻き付き一種の門と繋がってグリーンカーテンを作っている。


「ほぉ~、こりゃすげぇ」

「すごいねぇ!草木でアーチが出来てるや」

「これだけでも観光地として人気が出そうなもんだな」


木漏れ日が入る自然のアーチに従って入口に辿り着き、ギィィっと音を立てて重厚な扉を押し開く。教会の内部は数人の参拝客が長椅子に腰かけて祈りを捧げている。それらの姿をなんとなしにグルリと見渡し、そして教会の奥の祭壇にいる老齢の神父へと視線を固定する。


「おや、こんにちは旅のお方。この火の精霊神の家に何か御用ですかな?」

「ああ、こんにちは神父様。ちょっと話を聞きにね」

「ふむ、説法が必要ですかな?」

「いや、話を聞くのは奥の孤児院で、なんだが」


銀二がそういうと、神父は床にすら届きそうなほど長いヒゲをしごきながら、はて?と首を傾げた。どこかヤギを思わせる姿を眺めながら、懐から取り出した依頼書を彼に見せる。


「ふむ・・ふむ。なるほど、事情はわかりました。あの子たちの為にわざわざありがとうございます」

「なぁに、連れが孤児院からの依頼ってのに興味を持ってね」


その言葉に後ろに控えていたライラ達が軽く頭を下げる。その姿をみて微笑ましそうに目元を緩ませた神父は、スッと腕を横に伸ばして扉を指し示す。


「あちらの扉から孤児院へ入れます。私はここにおらねばならぬので案内はできませんが・・・」

「いや、仕事中に邪魔したのはこっちだ。それに、子供たちの面倒を見ている人もいるんだろ?」

「ええ、修道女のマリー達がおりますので、お手数ですがそちらでお話しください」

「ああ。それじゃ」


手を挙げてその場を離れ、神父が指し示した扉を開くと中庭に続く通路に出る。中庭もきれいに整えられており、それを見たアリエルが再度ほぁーっと声を漏らす。その様子に苦笑しながら隣接する建物の扉を開くと、二人ほどの大人の女性と十数人の子供たちが思い思いに過ごしていた。


「もし、お邪魔するよ」

「あ、はい。あの・・どちら様でしょう?」

「冒険者ギルドから来た者だ。依頼を受けてね」

「依頼・・・?そんなもの出したかしら?」

「あーっ!やっと来てくれたんだ!」


そんな大きな声を上げて立ち上がったのは、まだ10代前半であろう茶色の髪と垂れた犬耳が特徴的な女の子だった。活発に走ってきた女の子に合わせて、よっこらせと呟きながらしゃがみこむ銀二。


「ねぇ!おじさんが依頼を受けてくれた人?」

「ああ。俺と、後ろにいる姉ちゃんたちがそうさ」

「おぉ~!お姉ちゃんたちなんか強そう!」

「そうだなぁ~。あのお姉ちゃんたちは強くて頼れるからな。よし、じゃあ・・あのお姉ちゃんたちに依頼の事話してくれるか?」

「わかった!」

「お前らも、その子から事情とか聞いておいてくれ。俺はこっちで話しておくから」


銀二の言葉に頷いた女子たちは近くのテーブルへと行き、座って話し始める。それを確認しながら立ち上がり、困ったように頬に手を当てて眉を八の字に下げている修道女へと向き直る。


「一応、冒険者ギルドには正式に受理されているみたいなんだが」

「そのようですね・・もう、あそこは荒っぽい方も多いから近づいてはダメと言ったのに・・」

「・・・言いつけを破ってまで頼まなきゃならんことがあったんじゃないか?依頼は薬草を集めてくれってことみたいだが」


チラリと横目に彼女たちの方を見れば、犬耳の子が身振り手振りで話をしており、それを微笑ましそうにライラ達が聞いていた。


「薬草・・・そういうことですか」

「・・なにか心当たりが?」


視線を修道女に戻して問いかければ、やはり困ったように微笑む姿があり、銀二の言葉に頷いて返す。


「少し前から病に臥せっている子がいるのです。重い病という訳ではないみたいなのですが、治っては臥せり、治っては臥せりを繰り返しておりまして・・・。来ていただいた治癒師の方には、体の栄養が足りてないため病に抵抗できないのだとか・・」

「免疫力の低下か・・」

「はい?」

「いや、こっちの話さ。ってことは、滋養強壮の薬草あたりかね」

「トゥーモ、という薬草があります。とても生命力が強く、茎から切り取っても翌日には元通りになる草なのですが」

「ですが?」

「なぜか不思議なことに、ヒトの手によって栽培された物には薬草としての効果が低く、自生している物が良いとされているのです。この近くですと、北方街道沿いの森林で自生しているので・・・」

「なるほど、子供たちだけじゃ確かに行けんわな。それに、今日から暫くは北方街道が封鎖されるそうだ」

「封鎖・・ですか?」

「ああ。なんでも、帝国のお偉いさんが闘技大会を見に来るってんで、その通り道を封鎖しているらしい」

「そう・・・ですか・・」

「恐らく一般人は通行を止められる。冒険者も止められる可能性があるが、別件で森に入る者たちがいるからな、ちょいと話を通せば入れてもらえる可能性もある。・・・図らずとも、薬草を手に入れるためには冒険者の力を借りるしかない状況ってことだな」

「そのようですね・・・。申し訳ありませんが、宜しくお願いします」

「ああ」


話を終えた二人は依頼主である犬耳少女の方に向き直ると、どこから持ってきたのか少し古い植物図鑑を広げてトゥーモという草を指さしていた。それを女性陣三人が覗き込み、クラリッサが人差し指を立てながらなにやら講釈を行っていた。


「それが取りに行くっていう薬草か?」

「ん、ああ。トゥーモという薬草だ。比較的大きな森で自生することが多い薬草の一種だな」

「私も旅をしながらなんどか採取したことがありますわぁ。滋養強壮剤にもなりますし、簡易的な傷薬にもなるので重宝します」

「ねぇギンジさん。クラリッサさんの話だと、取りに行くのは北方街道の森になるんだけど、さっきギルドで封鎖がどうこうっていってたじゃない?大丈夫かな?」

「恐らくだが、大丈夫じゃないか?森に入る前に鳴響玉ってのを持っておくことを条件にすれば、森の調査組の別動隊ってことで通してもらえるかもしれんし」

「そっか・・じゃあこの後またギルドだね」


アリエルのその言葉を合図に全員が椅子から立ち上がる。それに合わせて犬耳の少女も立ち上がり「あの!」と声を上げ、銀二は再度しゃがみこんで視線を合わせる。


「おう、どうした?」

「あの、えっと・・・よ、よろしくおねがいします!」

「ああ。任せておけ。この姉ちゃんたちはすっげー強いからな!」

「うん!お姉ちゃんたち、よろしくお願いします!」


銀二の言葉に苦笑しつつも、少女の願いにしっかりと頷き返す三人。心強い応援に背中を押されながら孤児院を後にするのだった。


―――


「そんなわけで森に入り込んだわけだが」


ボンヤリと呟きながら、静まり返った森の中で周囲を見渡す銀二。深く濃い緑に囲まれた空間に圧倒されながら、腰の袋に入った手のひら大の玉に触れる。


「でもよかったね、ギルド側がすんなり話を通してくれて」

「そうなぁ。フォレストウルフの事を報告したってことを加味してくれたみたいだな」

「一応先行調査という形だが、あくまで優先はトゥーモの採集にしてくれたのはありがたいな」


スンスンと鼻を鳴らしながら周囲を見渡すライラも会話に参加してくる。クラリッサが言うには、少し癖のある匂いがするので探しやすい部類らしい。

そのクラリッサはといえば、カサっと頭上から音がしたと思った瞬間、銀二の背中に抱き着くようにして樹上から降りてきた。


「うぉっと・・びっくりするから次は普通に降りてこい」

「えぇ・・いいじゃないですかぁ?そ・れ・と・も・・私、重いですかぁ?」

「人が落ちてきたとは思えないほど軽いから大丈夫なんだが、びっくりするっつってんの。んで?上からなんか見えたか?」

「いいえ。見えるどころか、なにも聞こえませんわ」

「待てクラリッサ。『なにも』聞こえなかったのか?エルフのそなたが?」

「ええ。・・・どうやら、この森に異変が起きているのは間違いないみたいですねぇ」

「ふぅむ・・・各自、鳴響玉の確認だけはしてけな」

「はーい。えっと、鳴らす回数で意味が変わるんだっけ?」

「そうだ。一度は交戦状態、もしくは戦闘中に音で怯ませる為に使う。連続して二回鳴れば救援要請。三度鳴らせば逃げろ、だ。非常に危険な存在に遭遇してしまった際、二次被害を防ぐためのものだな」

「魔力を込めたら上に投げるんだったよな?」

「その通りだギンジ殿。非常に大きな音だからな、手元で鳴らすと鼓膜が破れるから注意してくれ」

「了解っと。・・・・それと、今更なんだが」


タバコを吸いながら軽く周囲を見渡す銀二に、鳴響玉の確認をしていた三人が首を傾げる。


「アイツ、どうした?」

「エルノのことか?彼なら孤児院の依頼を受ける直前で別れたぞ。ギンジ殿が丁度支部長たちと話していた時だな。なんでも・・昔馴染みがいたから顔を出してくるとか・・」

「ふーん・・。・・・まぁ奴さんの目的は首都だもんな」

「それより、薬草探しにいこーよ」

「ああ、そうだな。では、私が先頭・アリエルがその後で警戒、ギンジ殿がその後ろ。クラリッサは後方で警戒をしながら進もう」

「はいよ」

「りょうかーい」

「わかりましたわ」


そうして一行は隊列を組んで森の奥へと入っていく。背の高い草も多く、ましてや樹木が中々に大きいため根も地面からせり上がっている部分が多いせいもあって見通しが利かない。鼻の良いライラと耳の良いクラリッサでカバーするようにして進んでいくのであった。


―――

――


前方に森林を視界に収めた集団は現在進行を止め、隊列中央にある一際目立つ馬車の周囲で数人の者達が簡易テーブルを広げて集まっていた。見ればギョレの街で銀二達が見かけた黒い軍服と同じ出で立ちの者達である。


「報告、先行していた伝令から通信」

「申せ」


その場に駆けこんできた一人の男が敬礼しながら言うと、20歳程の金髪の青年が腕を組んで先を促す。


「現在北方街道の森林地帯において異常発生の可能性大」

「異常・・?」

「ハッ、比較的知性が高いとされるフォレストウルフが群れごとここから移動した可能性が高く、森林において何らかの異常があるとのこと」

「―――ベールマン、貴様はどう考える」

「この者が申した通り、フォレストウルフは知性が高い存在。そんな者達が群れごと尻尾を巻いて逃げ出したとなれば、考えられるのは二つ」


金髪の男の声に、脇で控えていた軍服の上からでもわかるほど鍛えられた金荷が見て取れる大男が間髪入れずに答えていき、一度言葉を区切ると金髪の男は視線で先を促す。


「群れを圧倒する程の戦闘能力を有する個体が現れたか、または何かしらの魔物が生態系のバランスを崩すほどの異常繁殖をしたか、ですな」

「――それで?」

「前者であれば我が軍で包囲すれば討伐は容易いかと。しかし後者の場合は逆に包囲され一網打尽にされる可能性が」

「ギョレの街の冒険者ギルドが調査に乗り出すとの事。万が一遭遇した場合は鳴響玉での合図を行うと」

「情報提供といい、中々に頭の回転が速いな。流石は音に聞こえた賢者、か?」

「賢者エトムント、ですな」

「ギルドの支部長で収まるタマとは思わなかったが・・まぁ良い。それでベールマン、どうする?」

「・・・本来であれば御身に降りかかる火の粉を想定すれば引き返し、安全が確認されるまで逗留すべきかと」

「しかしこの旅は元々ギリギリのスケジュールだ。このまま足止めを食らえば式典に出席することはできん。それは帝国の威信にもかかわる事だ。わかるな?」

「ハッ!我ら帝国軍人、御身御守護の大任は万事恙なく遂行して見せます!」

「よろしい、ならば出立するぞ。時間は無駄にできん」

「ハッ!全軍へ通達!これより進発する!なお、森林内にて異常な個体、または異常繁殖した魔物の発生が考えられる!警戒態勢で森を進むぞ!」

「「了解!」」


ベールマンと呼ばれた大男が声を張り上げるのを背に感じながら、金髪の男は悠然と馬車に乗り込む。


「ヤレヤレ、だ。これ以上、何も起きなければよいがな・・・」


忌々しそうに呟いた男は、背凭れに身を預け尊大に座るのだった。

ちょっとエルノ君は一旦離脱でござい

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