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33―年齢不詳ってゆっても程があろうに―

ガヤガヤと賑わう街中、銀二達一行は無事ギョレの街に到着していた。馬車から降りて手綱を引きながら歩く銀二は、ふと大きな建物の周囲で身なりの良い男たちが少し難しい顔をしながら会話を行っていることに気づく。


「商人・・か?」

「どうしたのギンジさん」

「ん、いや・・・ほれ、そこらで商人っぽい奴らがなんか話してるからよ」

「あ、ホントだね。でもみんな険しい顔してるねぇ」

「なんぞあったのか・・・。商人が話し合わなきゃいけないことねぇ・・嫌な予感しかしねぇわ」


もうこの世界に来てから存分に鍛えられた嫌な予感センサーがビンビンに反応していることを自覚する銀二。というか街に入る前から嫌な予感はしていたので珍しくローブは脱いでおり、道中の街で買っていたチュニック姿で街を歩いていた。


「まぁまぁ、一先ずギルドに行って話を聞いてみようよ」

「そうさな~」


そんなのんびり先を歩く二人をよそに、馬車後方で同じように周囲を見渡すライラとクラリッサ、そしてエルノの三人は街の様子に首を傾げる。


「ただ単に賑わっている、というわけではなさそうだな」

「そっスねぇー。俺っちみたいに首都に行くって連中も多いみたいっスけど、どうやらそれだけじゃないっぽいっスね」

「・・・帝国とか、封鎖とか聞こえますねぇ」


長い耳をピコピコ揺らしながらクラリッサが言えば、獣人二人組は感心したように声を漏らす。


「すごいっスねぇ姐御。俺っちは騒ぎが大きく聞こえすぎて内容までわからねぇっすよ」

「耳が良い分、聞こえすぎる弊害だな。しかし・・帝国と封鎖?」

「あっ」

「ん、何か知っているのか?」

「アレじゃないっスか?闘技大会を見にこようっていう帝国の貴族みたいな人らが来るから、街道を封鎖するとかそんな」

「幾ら外国の貴族とはいえ封鎖までするものか?経済的な損失も大きいだろうに」


首を傾げながら問うライラをよそに、前方二人はギルドの職員と話して馬車を厩舎に入れていた。熟考し始めるライラの腕を引き苦笑しながらクラリッサが銀二達の元へと向かう。

ギルド横で職員と話している銀二と合流すると、ふと周囲の視線が自分たちの後方に向けられていることに気づき、つられて全員が後ろを向く。


「軍服・・?」


ポツリと零した銀二の言葉通り、黒い詰襟を着こんだ男が佩いた軍刀の柄を押さえながらギルドへと入っていく。それを見送っていた厩舎の職員が、ああ~となにやら声をあげる。


「今のは?」

「ああ、帝国の軍人さんですよ。この先の北方街道をお偉いさんが通るって話なので、おそらく先触れにきたのかと」

「ほぉ~」


厩舎の青年の言葉に顎髭をジョリジョリさせながら唸り、そのままギルドの中へと入っていく。パッと見渡しても姿が見えないので、おそらくはギルドの支部長あたりと話しているんだろうとあたりを着けた銀二は、人がまばらにいる受付へと足を運ぶとペコリと頭を下げる受付嬢にギルド証を提示しながら話を切り出す。


「いらっしゃいませ、クエストの報告ですか?」

「いや、別件で一つ報告しておこうかとね」

「承ります」

「ここからは離れているから問題ないんだろうが、一応な。ネフトとヴァルデをつなぐ街道・・・地図で言うとこの辺だな。ここの林でフォレストウルフが群れで襲ってきてな」

「フォレストウルフが・・・?」

「ヴァルデの街でも報告はして調査クエストを発行してたみたいだが・・すまんがそっからの結果はわからん」

「いえ、情報提供ありがとうございます。しかし・・・フォレストウルフですか」


銀二の言葉を聞き、地図をにらみ始める受付嬢。そのしなやかな指先が地図をなぞり、フォレストウルフが出没した地点とそこから北西に指を動かす。最終的に指が止まったのは、このギョレの街の北、先程話に少し出ていた北方街道沿いの森林地帯だった。


「フォレストウルフの生息域は比較的広範囲ですが、その中でも北方街道と接するこの森は有名な繁殖地点。なにかこの森に起きている・・?」

「それじゃああの林に出たのは、そこの森から出てきた奴らってことかい?」

「可能性は非常に高いかと。ご存知かもしれませんが、フォレストウルフが居住地を変えることはほぼ無いと言っていいでしょう。彼らは比較的知能が高く、住み着く森を選ぶときに念入りにその他の生物を調べるからです」

「自分たちが生きていける環境かどうかを調べつくすから、よほどの事が無ければそこから動く必要が無いってことか」

「その通りです。最悪北方街道を封鎖・・・」

「うん?どうした?」


言葉がふと止まったところで、階上から扉の閉まる音が聞こえてくる。そしてコツコツと足音を立てて先程みた軍服の男と眼鏡をかけた細身の男が降りてくる。


「では支部長殿、よろしくお願いします」

「ええ、周知の方は行っておきましょう」


軍服の男の言葉に支部長と呼ばれた眼鏡の男は、クイっと眼鏡のブリッジを押し上げながら返答する。そのやり取りをカウンターで見ていた受付嬢が支部長へと声をあげる。


「支部長!お話の最中申し訳ありません」

「ハイ?見ての通り、お客様の対応中ですよ?」

「そのお客様に関係がある可能性が」

「・・・私に関係が?」


話しながら二人がこちらに歩いてくると、カウンター傍に立つ銀二へと視線を向け、それに対して目礼をする銀二。


「こちらの冒険者から一件報告が。北方街道沿いの森林地帯に異常発生の可能性が高いと」

「・・・穏やかではありませんね。根拠は?」

「ネフトとヴァルデの間、林道においてフォレストウルフが確認されました。あの辺りに出没するとした場合、まず考えられるのはアッシュウルフの方です。またその林は比較的小規模。フォレストウルフが群れで生息するには規模が小さすぎます」

「つまり、フォレストウルフが別の森林を出て偶然林道で遭遇した、と。なるほど、確かにフォレストウルフが多く生息するのは北方街道の森林が適切ではあります」

「そして当該魔物の特性として、一度住み着いた森林を出ることは非常に稀、と。つまり、我々の進行ルートにおいて何か問題が発生する可能性が高いという事ですね」

「はい。あくまで可能性の話ではありますが、お連れしている方の安全性を考えると知っておいて損はないかと」


支部長に視線を向け毅然と答える受付嬢の姿に、軍服の男は少し目を細めて頷く。


「――支部長殿、羨ましい限りですな」

「ハイ?」

「ここまで仕事ができる方を配下にお持ちなのが羨ましいという話です。・・・情報の提供に強く感謝いたします。情報源は、そちらの方ですか?」

「はい、中位冒険者のギンジさんです」

「どーも。闘技大会とかで一般人も多く移動してるって聞いてね。通りがかった街に注意喚起ぐらいはしといた方がいいと思った次第さ」

「貴方にも感謝を。この情報は本隊に伝えさせていただきます」

「・・・余計なお世話かもしれんが。連れの話を聞くに、件のフォレストウルフが居住地を移すってーのは、周囲の生態系を崩壊させるほどの問題があるってことらしい。中位、または上位冒険者達でもてこずる相手が出てくる可能性もあるってーのは念頭に置いておくといい」

「―――重ねて忠告痛み入ります」


銀二の言葉に浅く頭を下げた男に、再度眼鏡を押し上げた支部長が話を引き継ぐ。


「念の為、複数の冒険者達に調査を依頼しましょう。何か情報があればいいですが、そうでなくとも武装した人間たちが歩くことで牽制する効果はあるでしょう」

「・・・それだったら、万が一原因の相手と交戦状態になった場合、なにか合図みたいなのを挙げられるとそっちの軍人さんたちは逃げやすいんじゃないか?」

「ふむ、なるほど・・・」

「もし、そちらの冒険者の方々にお願いできるのであれば、最悪の場合は鳴響玉を鳴らしてもらえれば私共も即応いたします」

「分かりました。この依頼を受けて頂く者には徹底させておきましょう」

「重ねて宜しくお願い致します。さて、そうと決まれば私もゆっくりはしていられません。これにて失礼させていただきます」


そういって頭を下げ、颯爽とギルドから出ていく軍服の男を見送った支部長は改めて銀二の姿を視界に収める。


「情報の提供、合図の共有案に感謝しますよ。確か、ギンジ殿でしたか」

「ああ。ちょいとした旅の途中なんだが、役に立てたようで何より」

「旅の途中。闘技大会の観戦にでも?見たところこの大陸の生まれではないようですが」

「いや、連れが故郷に帰省するってんでね。それについていくってー話さ」


チラリと後方に視線を送れば、ライラ達が依頼掲示板でアレコレなにやら談笑しているようであった。銀二の視線を追った支部長の眼鏡がキラリと光ったような気がする。どこぞの少年探偵的なレベルで。


「・・・」

「・・・そういう、事情さ」

「なるほど。しかし、そうなると北方街道を通る予定でしたか?」

「お察しの通り、その予定だが?」

「残念ながら、本日から数日間に渡って北方街道は封鎖されます」

「街道封鎖ってのは、それこそ穏やかじゃねぇな。帝国からくるお偉いさんってのはよっぽどの人かい」

「―――帝国の象徴、とまでは言いませんが・・その関係者、とだけ」

「・・・マジか」


思わず顔を顰めた銀二に、支部長が眼鏡を押し上げて深いため息を零す。連邦においてヒトがギルド支部長の座にいるからにはヤリ手であろう男も疲れた顔で頷く。


「私もこの後市長や商業ギルド長など、この街の上役たちと会議です。闘技大会によって首都のみならず周辺都市にも多大な経済効果があるとはいえ、ややこしい事ですよ」

「お偉いさんにはお偉いさんの苦労があるんだなぁ・・俺は冒険者で気が楽なもんだが」

「羨ましい限りです。私も若いころの様に旅に出たいものですよ」

「若いころって、アンタもまだ若いだろうに」


その言葉に半笑いのように口角を上げ手を広げながら肩を竦める支部長に、受付嬢は苦笑し銀二は訝し気に見ていた。


「私ももう70歳ですよ?おじいちゃんです」

「70!?どう見ても30代から40代くらいだろ!」

「多かれ少なかれエルフの血が少し混じってましてね。おかげさまで見た目は若いんですが、それでも大半は人間の血なので所々ガタが来てまして・・昔の様にヤンチャ出来なくなっちゃいましたねぇ」

「はー・・・なるほどねぇ」

「まぁ、動かなくなりましたが今は別の趣味で一日潰せますからね」

「別の趣味・・?」

「支部長は古代文明の研究の第一人者でもありますから」

「古代魔法文明が如何にして滅びたのか、中々面白いものですよ」

「ほほー。いいねぇ、俺もゆっくり腰を据えられるようになったら色々と調べてみたいもんだ」

「その時はまたお話をしましょう。最近は帝国で通信魔導具なんていうものが作られるようになったみたいですし、聞けば離れた相手とも会話ができるとか」


便利な世の中になったものですと零す支部長は、最後に眼鏡を押し上げて受付奥の時計に目を移す。


「おっと。中々楽しい会話でしたが、私もこの後会議ですのでこの辺で失礼しますよ」

「おう、引き留めちまって悪いね」

「いえいえ、中々に面白い方の様で・・・。それと先程の依頼、発注まで行っておいてくださいね」

「はい支部長。すでに書面はできていますので、この後すぐにでも」

「よろしい。では、またいずれ」


そういってクルリと踵を返した支部長は階段を上っていき扉の奥へと消えていった。

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