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30―血塗れ?ああ~俺は絶対嫌だね―

―予防線―

今回京言葉っぽい、それらしき言葉が出てきますが、あくまでそれっぽい・異世界の訛り ということで細かいことは目をつぶって頭空っぽにしてお楽しみください。

―予防線―

まるで世界の時間が遅くなったかのように、スローモーションで木の槍を振る銀二。一つ一つの動作、その最小単位を確認する銀二の姿に、設営したテントから顔を出したエルノが感嘆の声を漏らす。


「フゥーー・・・。ん、起こしちまったか?」

「あっと・・いやぁ見ての通り狼人なもんで音と匂いに敏感なんスよ。むしろ俺っち邪魔しちゃったっすか?」

「構いやしねぇよ。もうすぐ日が昇るって時限に動き回ってる俺が悪いんだからな」


短槍を指と手首のスナップで器用にヒュンヒュンと回す銀二。中々どうして様になってきている姿に、再度エルノが頷きながらほぉーっと声を上げる。


「見たところ短槍術の基礎って感じっスけど、旦那って聖職者っスよね?もしかしてアレっすか、武僧モンクって奴っスか?」

「ハハッ俺が僧侶ならそりゃ破戒僧ってやつだな。・・成り行きで精霊教会の関係者になってるけど、正式な僧侶とかってわけじゃねぇんだ。この短槍術にしたってアリエルが我流で戦う俺を見かねて教えてくれたってだけさ」


木の枝にかけていたタオルを手に取り額から流れる汗を拭く銀二。


「それに教わったのは基礎も基礎・・・お前さんからしたらまだまだだろうよ」

「アレ、俺っちそんな評価されてるんスか?」

「音もなく馬車の幌に乗る程の身のこなし、クラリッサは気付くのが早かったみたいだが、アリエルやライラに気づかれないでそこまで接近したんだ。大したもんだろう」


もう終わりとばかりにいつもの様に懐からタバコを取り出し火を着けながら銀二が言えば、エルノは調子に乗ったとばかりにドヤ顔で胸を張る。


「ふふーん!そうなんスよ!これでも故郷の同期の中では一番強かったんすよ!」

「へぇ?なんだ、学校みたいなのでもあったのか?」

「ガッコウってのはよくわからないっすけど、成人するまでは戦い方や狩りの仕方を年長者から教わるんすよ」

「なるほどねぇ・・まぁそういう文化なら統率もとりやすくなるか」

「まぁ俺っちはお堅い暮らしが嫌いだったんで成人したらさっさと里を出たんすけど~」

「ハハッ確かに、お前さんは軍人とかってより冒険者とかの方が似合ってる気がするな」

「あっちこっちフラフラしてる方が性に合ってるってもんスよ」

「そうかい。・・・・ん、そろそろ日が昇るか。お前さん、ちょいと薪集めてきてもらえるか?もうちょいで薪が無くなりそうなんだわ」

「リョーカイっス!」


そういうとエルノはテントから自分の剣を取り林の中へと入っていく。その後ろ姿を顎髭をさすりながら眺めて、ふとバッと音を立てて振り返る。


「・・・監視はアイツじゃなかったか」


姿の見えない監視者の視線に、肩を竦ませながら呟く。


「厄介だなぁ・・・参ったね・・どうも」


―――

――


「厄介事ぉ?」


ピコピコと尖った狐耳を動かしながら、書類をしたためていた女性が扉から入ってきた者に問いかける。


「はい。どうやら狸共がコソコソと動き回っている模様です」

「ほんにもう・・・あの狸はんは裏でなにかするのがお好きどすなぁ」


鳥人の抜け羽で作られた高級羽ペンをペン立てに置きながら、困ったように頬に手をあてる女性は入口に控える男性に視線で続きを問う。


「例の通信魔導具・・でしたか、アレの試運転がてらに報告が届いたのですが、どうやらネフトの街で火の一族を見かけたとか」

「なんや・・・まさか火の一族に手を出しはる気やの・・?」

「そのまさかの様です。どうやら手の者に尾行させたりギルドを通さず非合法に冒険者を雇ったりとしているみたいです」

「あの狸がどうなろうと知りまへんけど、火の一族はあかしまへん。万が一にも何かあったら・・・」

「火の一族の仲間を想う絆の強さは・・・特に族長殿は・・」


苦り切った表情の男の言葉に、深々と頷く女性は深刻な表情をしながら扇を取り出して口元を隠す。どうやら思案に入ったようだと入口の男は口を噤み様子を見守る。


「ん~~、せやけど・・・火の一族が外に出たなんて聞いて・・・へん・・?」

「お気付きのように、現在火の一族の者が鎮守の森を離れているのはただ一人です」


女性の脳裏に過るのは十数年前にあったきりの、表情があまり動かないが父親の民族衣装の裾を不安そうに掴む銀髪の女の子だ。その事実に徐々に顔色が青くなっていく女性に、入口の男も額からじわりと汗がにじむ。


「正直、よりにもよってこの時期に戻ってきてしまったかと私も思ったのですが」

「鎮守の森から出たて聞いた時は驚いたもんやったなぁ・・・族長はんがよく許しはったなぁて」

「聞いた話では、半ば家出に近い状態で飛び出したとか・・・」

「あらぁ・・・族長はんも荒れたやろなぁ・・・」

「後を追うのを一族総出で止めたとか。・・・如何しましょう、私共もなにか手を?」


男の声に、毛並みのよい狐耳をピコピコ揺らし、扇を閉じてトントンと机を叩く。そうしてしばらくした後に目をつぶって顔を横に振る。


「やめときよし。下手につついて事を大きくしたらあかしまへんえ。せやけど、なにもせんゆーのも薄情やなぁ」

「ならば火の一族に一報を入れるだけに留めておきましょうか」

「せやなぁ。火の一族にはウチから伝えておきます。皆にも無理に手ぇださんと伝えとっておくれやす」

「畏まりました。また何か変化があればお伝えします」

「よろしゅうなぁ」


頭を下げた男が退室した後、困ったようにため息一つ零す女性は、近くに置いてあった煙管を手に取り一服し始める。


「暫くは荒れそうどすなぁ・・・」


――

―――


「おう、そっち抜けたぞぉ!」

「了解っス!セェァ!」


跳び込んできたフォレストウルフを習った型通りの動きで払い抑え込んだ銀二の横を、別のフォレストウルフがタマに駆けていくのを、二刀流に構えたエルノがその進行ルートに躍り出る。

右の長剣を順手に左の短剣を逆手に持ったエルノは、短剣をけん制にしつつ一瞬の隙を見つけると鋭い長剣の突きが閃く。キレイに口から喉に突きこまれた長剣は容易く命を奪い、くたりと力を失ったフォレストウルフを払い捨てる。


「ひゅー!やるじゃないの!」

「――、でっしょ~!?俺っちにかかればこれっくらい楽勝っスよ!」


普段は見せない冷たい視線をしていたエルノに声をかけると、気を取り直したようにハッと表情を変える。


「あ、そう?ならこっちもお願い~」

「止めてくださいアリエル=サン。死んでしまいます」


三匹まとめて相手をしていたアリエルが一匹をエルノの方に蹴り飛ばすと、空中で体勢を整えたウルフがエルノに襲い掛かる。


「ぎゃー!あっぶ!あっぶねぇっす!!」

「言ってる割に案外余裕はありそうだな・・おっと」


武器の特性上、他のメンバーより一歩離れて戦場を俯瞰しているライラが冷静に告げて鞭を振るう。ライラの言う通り、叫び声こそ上げているものの振るわれる爪も噛みつこうとする牙も紙一重で避けている。そうこうしていると、すれ違いざまに首に黒鉄の一撃を入れた銀二が、今しがた倒した一匹をエルノが相手している個体に蹴り飛ばして当てる。


「旦那ぁ!助かったっす!」

「口より前に手ぇ動かせ!」

「アイアイ!!」


死体の下でもがくウルフの首を切り落とし、別の方向からタマに近づく個体へ向けて音もなく踏み込む。それこそまさに狼を彷彿とさせる低い姿勢から弾丸の様に空気の壁を裂くように踏み込むと、その勢いのまますれ違う形で逆手の回転切りで目を潰し、後ろに回って長剣の兜割りで首を落とす。


「さすがは狼人、動きが早くそして的確だな」

「いやぁそれほどでも・・・・あるっスけどね!!」


腰に手を当てて、なっはっは!と笑い声を上げるエルノの背後から、一際大きいフォレストウルフが今にも噛みつかんと飛び込んでくるが――


「一匹様、ごあんな~い」


その背に足を乗せたクラリッサが、フォレストウルフを踏み込むのと反対に手に持つ鎌を引くと慣性にしたがって鎌がフォレストウルフの首を切り落とす。


「どわぁ!?わぶぶ!」

「あらあらうふふ」


当然、血が噴き出ることになるが向かうのは正面に立っていたエルノ。文字通りの血の雨を全身で浴びることになった彼は、ついで完成に従って落ちてきた首の無いフォレストウルフの体に押し倒されるのであった。


――


「ひどいっスよクラリッサの姐さん!」


銀二が樽に出した水を木陰で浴びてなんとかさっぱりしたエルノが、タオルで髪を拭きながら涙目で抗議する。


「でもぉ、戦場で高笑いして警戒を怠った罰としては軽いでしょう?」

「うぐぅ・・」

「まぁ血塗れになったのはどうかとは思うが、逆に言えば命が無くなってもおかしくはない状況だったのだ。それで済んでよかったな」

「ライラの姐さんまでぇ・・・」


がっくり項垂れるエルノに苦笑しながら、周囲のフォレストウルフの死体を一纏めにする銀二とアリエル。


「まぁそんくらいにしておけって」

「そうだよ~。それよりも血抜きとか手伝ってよ~」

「ああ、そうだな。しかし、林とはいえ街道にフォレストウルフが出てくるとはな」

「整備されてるし、結構馬車とか通ってるから安全かと思ってたんだが、案外出るもんだな」


一仕事終えたとばかりにタバコを吸いだす銀二がそういうと、ライラとエルノが首を傾げて反応する。


「私はここ数年こちらにいなかったから何とも言えないが・・少なくとも、一昔前はそんなに出ることはなかったはずだ」

「そっスねぇ。俺っちも大概あっちこっちフラフラ旅してるっスけど、街道にまで出てくることは稀っスよ」


二人の獣人の言葉にふむ?と首を傾げて煙を吐き出す銀二。


「まぁた何か厄介事に知らず巻き込まれてるってオチかぁ?」

「とはいうが、ウルフ種が狩場を変えるなどよっぽどのことが無ければないはずだ」

「特にフォレストウルフは定住してる森から出ることはほぼ無いんスよ。フォレストウルフがいるってことは、それだけ獲物になる動物が多くいる豊かな森ってことっスから」

「となると、定住している森から逃げなきゃならない脅威が現れたか、定住していた森の動物が消えていったか」

「どちらにせよ、自然の摂理ではないことは確かだ」

「ん~・・・まぁここで考えても仕方がないし、次の街とかで衛兵の人とかギルドの人に言って注意してもらうしかないんじゃないかな?」


死体入れとして使っている小さめの容量のアイテムバッグ(それでも結構な量は入る)にフォレストウルフを詰め込み、それを馬車の中に入れて戻ってきたアリエルがそういうと、そうだなぁと銀二が呟いて話を切る。


「アリエルの言う通り、こっから先はここに住む連中の問題だ。さっさと移動してギルドに伝えておこうぜ」


銀二の言葉に全員が頷き、馬車に乗り込んで移動を再開するのだった。


――


「フォレストウルフが街道に・・?」


辿り着いたヴァルデという街で冒険者ギルドに立ち寄った一行は、フォレストウルフとの遭遇戦を報告すると、受付嬢が怪訝そうな顔で銀二を見る。


「珍しい事だってのはウチの連中にも言われるさ。場所としては・・・ここ、この街から半日もかからねぇくらいのこの林だ」

「フォレストウルフが森ではなく林に・・。あり得ない話ではありませんが・・・やはり珍しいですね」


銀二の情報をサラサラと紙にメモを取ってそれを別のスタッフへと回していく。掲示板に貼ってある紙と同じものに書き直していることを見るに、どうやら調査依頼をすぐに出してくれるようだ。


「先程、解体さんからの話も聞きましたが・・あれほどの数が林にいたというのはあまりに不自然すぎますね」

「住んでいた森を出る必要があったってことなんだろうが・・・」

「そうですね・・・もしかすると・・いえ、憶測で話すことは止めておきます。情報提供ありがとうございます」

「ああ、どうにも最近は馬車の通りが多いって話だからな。被害が出る前でよかったよ」

「そうですね・・・。もしまた何かあれば最寄りのギルドへご報告をお願い致します」


深々と頭を下げる受付嬢に、片手を挙げてヒラヒラさせて答えてギルドを出ていく。外に出れば夕陽になろうかという程度には傾いた陽が目に入る。


「さて・・・今日はここで宿をとるか」

「良かったっス・・っ!若干血のにおいが落とせてなくて気になってしょうがなかったんスよ!」

「馬車で幌に入らず馭者席にいたのはアレか、風で臭いをごまかしてたのか」

「多分アリエルちゃんとかクラリッサの姐さんには気づかれないんでしょうけど、ライラの姐さんは絶対わかるっスからねぇ」


ぞろぞろと歩く一行は直ぐ近くのギルド直営の宿へと入っていく。なおタマはそのままギルドの厩舎でお泊りである。

受付を済ませて各自鍵を手にしたとき、思い出したようにエルノが「あっ」と声をあげる。


「ん、どうした?」

「いやぁ、前に金を貸した奴がこの街にいるんスよ。ちょうどいいからちょっと金返してもらいに行ってくるっス!」

「おう。んじゃあれか?そっちで寝泊まりするか?」

「いやぁ絶対無理っス。そいつマジで部屋きったねぇんすよ。臭いとか耐えられないっス」

「お、おう。お前さんがマジな顔で言うからには相当だな・・・」

「それじゃ、ちょっくら行ってくるっス」

「あいよ。あと一時間もしたら飯食いに行くからそれまでには戻れよ」

「リョーカイっス!」


また後程ー!と言いながら駆けだしていく姿を見送ると、それを見ていたクラリッサが銀二へと近づいていく。


「よろしいんですか?」

「言ったろ?放っておけって。んなことより今日の晩飯どこで食うか決めようぜ~」

「うふふ、かしこまりましたぁ」

一応、大陸内は共通言語を使用していますが、地方・種族・人種等々で訛りがあってしかるべきかな、ということで色んな方言などを取り入れていきます。基本は標準語でいきますけども・・・。

が、前書きにもあったように細かいことは気にせずお楽しみください。

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