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26―闘技大会はお約束!だがしかし―

「―――フッ!」


鋭い呼気と共に突き出される木の棒が、ヒュンと空気を裂きながら宙に止まる。その様子を厳しい視線で睨みつける様に見ているアリエルと、銀二から一時的に預かった黒杖を頬擦りするクラリッサ。


「踏み込みをもっと鋭く!その勢いを殺さないように腰を捻って!」

「シ―――ッ!!」

「上体がブレてる!もっと重心を落として!」


普段の朗らかさがまるで嘘の様に厳しい声が周囲に響く。その指示に従う銀二の体からは滝の様な汗が流れ、動作と共に雫が飛ぶ。武術に関して素人同然の銀二の動きは未だ及第点には届いていないのか、首を振りながら銀二に近づき、後ろからポンポンと意識する場所を叩いていく。


「腰を使うためには股関節を柔軟に使うんです。お尻の筋肉を意識して」

「こう・・か?」

「上半身を前傾させない!最初に教えた構えが崩れてる!こうです!」


見かねたアリエルが銀二の後ろから手を回し、体を支えながら腰を落とさせる。バランスを崩しかけアリエルに体重がかかるが、成人男性のよろめきをものともせず、そのまま抱き着く様な姿勢で銀二の体を支えるとそのまま構えを取らせる。


「こうです、・・・そう、しっかりとお尻の筋肉を使って支えるんです。いいですね、上手です」

「よっと・・・こう・・か。なるほど、なんとなくコツは掴めてきた」


構えを取り直し、そこから槍に見立てた棒を振り、払い、突く。ゆっくりとした動きだが、まるで自分の体と会話するように一つずつ確認する銀二の姿を、再度離れたアリエルは感嘆の声を上げて頷く。


「すごい、見る見るうちに良くなってきてる」

「旦那様はどちらかというと理論派なんでしょうねぇ。ああやって体の使い方を理論的に理解すると上達がはやそうです」

「はい。感覚派の方を否定するわけではないけど、ああやって理論的に体の事を理解したほうが後々に響きますからね」


スススと近づいてきたクラリッサの言葉に再度頷きながら返すアリエルだが、ふと先ほど銀二の体を支えたときに着いた汗の匂いが気になる。


「スンスン・・」

「?」


何故か匂いを嗅ぎながら顔を赤らめるアリエルを怪訝そうに見たクラリッサは、ふとなにかに気づいたのか得心がいったとばかりに頷くと彼女の耳に口を寄せてなにかを呟く。


「―――」

「ち、違います!」

「お?今のなんか間違ったかー?」

「あ、ごめんなさい!こっちの話です!」

「おー」


顔を真っ赤にしたアリエルを不思議そうな顔で見た後、また素振りに戻る銀二。それを見届けた後小声で叫ぶという特技を発揮しながらクラリッサに抗議するアリエル。


「うふふふ、ヒトはそれぞれ趣味嗜好が異なりますし、そう恥ずかしがる必要はないんじゃないかしら?」

「で、でででも・・!それじゃボクがまるで変態みたいじゃないですかっ」

「旦那様の汗の匂いを嗅いで顔を赤らめればそう思われるわよぉ」

「―――っ!」

「・・・なんの話をしているんだお前たちは。ギンジ殿!食事の準備ができたぞ!」


コソコソと話す二人を呆れながらライラが近づいてくれば、訓練の終了を銀二へと告げる。その声に動きを止めて構えを解くと一つ大きなため息を吐く。


「ふぃー・・・あー疲れた」

「ああ、アリエルの厳しい声が焚火の方まで聞こえてきたぞ。食事前に水浴びしてきたらどうだ?」

「ん、あー汗くせぇわな。ちょっくら汗流してくるから先食っててくれー」

「ああ、わかった」


サクサクと木陰に入っていく銀二を見送り視線を二人に戻せば、まだ小声でなにやら話している。はぁとため息を吐きながら、そして指先をバチバチ言わせながらそんな二人に近づいていくライラであった。


―――


「おー、アレがグラナドス首長国連邦最初の街か」


渓谷を抜け赤茶けた荒野が広がる様になってきた頃、ガラガラと馬車の車輪が音を立てながら進む中、視界の先にぽっかりと緑に囲まれた街が一行の目に入ってくる。手綱を握る銀二の声に、幌の中からライラが顔を覗かせる。


「ああ、あそこがネフトの街だ。この辺りは見ての通り荒野になっているが、ああやって湧水池が所々に点在している地区でもある。そういう場所に人々が開拓を進めてあのような街になるのだ」

「しかし湧水の規模がすげぇな」

「まぁ・・・湖といったほうが正しいか」

「建物は・・・煉瓦で造られてるのが多いか」

「煉瓦やガラス、鍛冶など火を使うモノに関しては特産である街が多いからな」


道なりに進んでいくと魔物除けの塀と門が一行を出迎え、鉄門の傍に控える尖った犬の耳をした男たちが手を挙げて馬車を止める。


「止まれ。―――旅の者か?」

「ああ、護衛ついでに巡礼の旅・・あれ逆か?」

「護衛か・・ということは冒険者か」

「ああ。連邦出身の奴がこっちに帰るってんでその護衛さ」

「なるほど。貴殿がパーティーリーダーか?それならば貴殿の身分証と、馬車の中を検分させてもらう」

「あいよ」


そういって門番にギルド証を提示し、他の門番たちが幌の中を検分し始める。中には当然の様にライラとクラリッサ、そしてアリエルが座っており門番に目礼する。


「獣人に人間と・・貴殿はエルフか?」

「はい~ダークエルフです」

「ダークエルフ!いやはや珍しい・・・、おっとこれは失礼。荷台は・・・特別問題なしっ!」

「了解。・・・協力感謝します。ようこそ、ネフトへ」

「ああ、お勤めご苦労さん」


そういうと銀二はタマの歩みを再開させて街へと入っていく。それを見送りながらいると、中を検分していた門番が首を捻りながら近づいてくる。


「どうした?」

「いや・・今通った一行の中に獣人がいたんだが・・」

「それが?その獣人の帰省の護衛らしいが」

「どこかで見た様な気がしてな・・。はて、どこで見たんだったか」

「まぁ獣人なんてこの国に星の様にいるわけだし、あまり気にしなくてもいいんじゃないか」

「そんなもんか」

「ほら、そんなことより仕事に戻るぞ。ただでさえ人が多くなる時期なんだからな」


―――


冒険者ギルドすぐ横の厩舎に馬車とタマを預けた一行はその足で冒険者ギルドへと入っていく。昼過ぎという事もあり数人の冒険者しか見えないものの、ギルド職員は通常通り営業しており、入ってきた一行に視線を向けると笑顔で対応する。


「いらっしゃいませ、ここは初めてですかね?」

「ああ、さっきこの街に着いたばっかりでね」


そういって銀二がカウンターに歩み寄るとその横にライラも立ち、懐からドゥールで書いてもらった依頼書を提出する。それを受け取りササっと目を通すと、納得したように頷き書類に判を押す。


「はい、確認しました。依頼者ライラ様と受注者ギンジ様の間で交わされた指名依頼ですね。ではライラ様はこちらに報酬をお納めください」

「(回りくどいなぁ)」

「回りくどいですがまぁ一応規定ですので」

「ああ、分かっているよ。ではこれを」

「はい、いちにー・・・はい確かに。それではギンジ様への報酬はこちらになりますね。それとギンジ様、ギルド証の提出をお願いします」

「ん?ほいよ」

「拝見しますね。えーっと、採集依頼に討伐依頼・・今回で護衛依頼も達成されて・・あ、ドゥールでギルドの直接依頼もされてたんですね」

「治癒術が一応使えるんで、救護室みたいな真似事をね」

「なるほど、ではそれも加味して・・・そういえば王国からの道中で狩った魔物などはいます?」

「ああ、それなりに数が多いんだけど、解体部屋あるかい?」

「ええ、あちらの奥になります」

「あいよ、あと後ろの二人の登録もお願いするわ」


銀二が後ろのアリエルとクラリッサを指させば受付嬢も二人が手を振っているのを見る。それを頷いて答えるのを見ながら奥の部屋へと入っていく銀二。

部屋の奥にはツナギを着た大柄な男が鉈の様な包丁で肩を叩きながら扉から入ってきた銀二を見やる。下あごから飛び出した牙と少し潰れた様な鼻から、イノシシか何かの獣人だろうか。


「ん?見ねぇ顔だが、他所からのモンか?」

「ああ、出身は違うんだが王国から旅をしてきてね。道中魔物が多かったもんでこっちに直接ね」

「おぅおぅ、霊峰越えか。いいぜ、どんなもんか出してみな」


言われた通りにアイテムバッグから道中狩ってきた魔物の素材などを取り出す。


「アッシュウルフにホーンラビット、コボルドにゴブリン・・と。王国側でよく見る奴らだな」

「それと、首だけなんだがコイツもな」

「コイツは―――」


取り出したのはいつぞやのオーガキングの首。その大きな首もさることながら、男が驚いたのはそのオーガキングの死に際の表情である。


「オマエ・・・オーガ系統の魔物は恐怖知らずって言われてんだぜ?それが・・どうやったらこんな恐怖に歪んだ表情するってんだ」

「まぁ・・あれだ。世の中には知らない方が良いこともあるってことで」

「コイツはお前ひとりが?」

「いや、連れと一緒にな」

「・・・俄かには信じられん。このでかさや角からするとオーガキングなんだろうが、オーガキングは上位冒険者がパーティー組んで狩るもんだぜ」

「とは言っても狩っちまったもんはしょうがねぇだろうがよ?」

「ふーむ・・」


フゴフゴと言いながらオーガキングの首を持ち上げジロジロと検分する男は、次いで銀二の足元から頭の天辺、そして手に持つ黒杖を目にすると納得したように頷かせる。


「その杖、まさか・・・黒鉄か!」

「どういうわけか見つけたのをそのまま使ってるだけだがね」

「その大きさからすると、それだけでも相当な重さの筈だが・・・いや、そうか。オマエから漂う魔力の匂い。相当な身体強化の使い手か」

「そんなもんまでわかるのか」

「伊達にこんな鼻をしてるわけじゃねぇ。だがオマエみたいな魔力の匂いは初めてのような・・いつも感じてるような・・・よくわからんが、一つ分かるのはオマエさんが相当特殊な能力を持ってるってことだ」

「そうかい?それで、納得はしてくれるかね」

「ああ。ちょっと待っていろ」


男はそういって備え付けの机から一枚の書類を取り出すと、銀二が提出した魔物の素材をもう一度サッと目を通し何やらサラサラと書き記していく。5分もするころに男が一つ頷き、書類を銀二へと手渡す。


「これを受付に持っていきな。それで素材の清算ができる」

「あいよ、お勤めご苦労さん」

「おう。・・・しかし、黒鉄を使うなんざ変わった野郎だ」

「重宝するぜ、重いが硬いから何ぶん殴っても大丈夫だしな」

『――』


手をヒラヒラさせて扉から出ていく銀二をしげしげと眺めながら、そして解剖台に置かれたオーガキングの苦悶と恐怖に歪んだ顔を見る。


「ホント、変わったやつが来たもんだ」



ガヤガヤと賑わう食堂の一角で、銀二達は久しぶりの手の込んだ料理を堪能していた。銀二は野菜多めのクリームスパゲッティ。ライラは豪快にステーキ、アリエルはなんともアメリカーンなサイズのハンバーガー。クラリッサはサラダボウルのみとなんとも偏った連中である。


「でもギンジさんすごい騒がれてたねー」

「前代未聞だろう、低位冒険者がオーガキングを倒すなど」

「でもぉそのおかげで中位に上がれたようですし良かったんじゃないですか?」

「それに、中位が二人になったことで低位の指導という事で混合パーティーも組めるようになったし良い事尽くめだろう」

「うふふ、初めて冒険者になりましたわ」

「一応ボクは軍籍あるけど、それだとこうやってほかの国で自由にできないからね。冒険者になるのは渡りに船だったかも」


見る者の目を引く美女たち(アリエルは今クラリッサコーディネートのスカート姿でボーイッシュな美女)がバクバクと食べる姿は圧巻で、別の意味で目を引いているが本人たちは気にしていない。


「ま、おかげでギルドの受注期間も中位に合わせられるのは俺らには助かるな。んで、これからの予定だけど・・ライラ、お前さんの実家はまだ遠いのか?」

「そうだな・・・途中の街を素通りするなら2週間はかからないくらいか」

「俺自体は急ぐ旅じゃねぇが、お前さんの実家からすれば早く戻したいだろうし・・・街によりつつ特になければライラの実家に行こうか」

「ライラさんの実家ってどっち方面なんですか?」

「ここは大陸の中央やや西側、という形だが・・そうだな、ここから北西になるな」

「北西・・確か鎮守の森と呼ばれる領域がありますねぇ?」

「そうだ。火の一族として鎮守の森一帯を治めているのが私の実家になる」

「へぇ~!でもこうしてみるとこのパーティーってなんだかすごい面子ですよね」


アリエルがそういって一行の顔をぐるりと見渡すと、食事を終えて一服を始めた銀二も頷き返す。


「火の一族に闇の精霊の一派、さらには何ともな血筋の光のお嬢様ってか」

「まぁ一番とんでもないのは・・・」

「どう考えてもぉ」

「ギンジさんだよね!」


美女3人からの視線に肩を竦めることで答えた銀二は、煙を吐きながら店の外の通りに視線を移す。


「しかし、ここも結構な人通りだがいつもこんなもんなんかね?」

「そういえばすごい人がいっぱいいるね」

「ん・・・ああ、そうか。これはアレだ。数年に一度行われてる闘技大会の祭り騒ぎだろう」

「闘技大会!」


ライラの言葉に目をキラキラさせたアリエルがガタリと席を立つが、ライラに目で窘められると恥ずかしそうに席に座りなおす。


「獣人の国は基本的に力が強いモノが上位者になることが多い。まぁ部族によってそれは様々だが・・・」

「それで腕比べする文化が生まれたって訳か」

「うむ。出場する者もそうだが、一大イベントと言ってもいいものだからな。国中を始め、帝国などからも観戦に来るものが多い・・・らしい」

「らしい?」

「我が一族は基本的にそういう催しには参加できないからな」

「えー!そうなんですか!?」

「火の精霊様の加護を得ている、という事はこの国では相当な意味を持つ。無闇に衆人に晒すものでもないからな」

「まぁ国にとっても最重要な存在だろうしなぁ」

「それと・・・ウズウズしているアリエルには酷だが・・・」

「えっ・・まさか・・・」


わなわなと震えるアリエルに、言い淀むがしかし意を決したライラが顔を上げる。


「・・・闘技大会は獣人だけしか参加できん」

「な、なんだって―――!!」

残念ながら闘技大会はスルーでございます

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