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25―ようやく連邦入り・・え?街までまだかかる?ソンナー―

今回から連邦編でございます

パッカパッカガラガラと今日も馬車を走らせ西へと進む銀二一行。関所を出てから2週間ほど・・徐々に道が下りになってきた頃、珍しく馭者席で手綱を握るアリエルが声を上げる。


「おー見えてきましたね!皆さん、大渓谷が見えてきましたよー!」

「あらぁ・・王国側と違って、河が大きいのですねぇ」

「うむ。霊峰山脈の山頂から流れる雪解け水が一度合流し、山肌を削り幾重にも枝分かれしたために、いくつもの渓谷が出来上がったと言われている。・・・・ギンジ殿、大丈夫か?」


アリエルの他にクラリッサとライラは幌の中から馭者席側へ顔を出し、雄大な自然を目にしながら感嘆の声を上げる。そんな中、気遣うようなライラの視線の先には、幌馬車の中で足をさする銀二の姿があった。


「おーさすがにもう大丈夫だ。いやーしかし参ったねぇ」

「なんでも卒なくってイメージだったけど、ギンジさんにも苦手なことってあるんだねぇ」


しみじみと呟くアリエルの言葉に、頭を掻き苦笑しながら馭者側へとくる銀二。


「俺だって人間だからなぁ、自分にできることしかできんよ」

「とはいえ、クラリッサの速さにも対応できるほどだから問題ないかと思ったが・・」

「まさか、アッシュウルフの様な魔獣に傷を負うとは思いませんでしたねぇ」

「ははは・・・恥ずかしい話、今まで戦ったことがあるのは人間とかヒト型の魔物だけだったんだわ。獣の動きがあれ程厄介だとは思わなかったぜ」


ライラとクラリッサの間を抜け、馭者席のアリエルの隣に腰を下ろしてタバコを吸い始める銀二。彼らの言葉通り、昨夜襲ってきたアッシュウルフという魔物の群れと戦闘した際に珍しく銀二が負傷したのだった。


「アッシュウルフはとても賢い魔物とも言われてるからね、群れで連携して巧みに狩りを行うんだ」

「加えて個体の身体能力も高い。ヒトとは違う動きに翻弄される形となったな」

「突っ込んでくるかと思って杖で突こうかと思ったら急に止まるし、そうしてる間に横に回ってた別の奴に足噛まれるし・・散々だったわ」

「でもライラさんすごかったね!ビュンビュン音が鳴ったと思えばウルフがどんどん吹き飛んでいくんだもん!」

「これでもそれなりに冒険者をしてるからな・・アッシュウルフの様な相手とも多く戦ってきたから慣れているんだよ。それにアリエルも流石は大剣士ヴィクトルの直弟子、見事な剣捌きだったじゃないか」

「そ、そうですか?えへへ」


金髪銀髪コンビが仲良く話す姿をぼんやりと(やっぱりファザコンだなぁと思いつつ)眺めながら、銀二は先程アリエルが言っていた視線の先に広がる大渓谷に目をやる。


「・・・グランドキャニオンに鬼の様に水流して植物を鬼の様に生やしたらこんなんなるのかね」

「グランドキャニオン?ギンジ殿の故郷にもこういう場所があるのか?」

「住んでた国とは違うがね。太古の昔から流れる河が岩を削ってできた大渓谷がある。とはいっても、その河も大分水位が低くなってたし、荒野に近いからこんなに植物は多くなかったと記憶してる」

「旦那様の故郷のお話はすごく聞きたいのですけど、その前にこの先のルートはこっちであってるんですかぁ?」

「おっとそうだった。アリエル、そこの奇妙な像がある分かれ道があるだろう。そこを右に進んでくれ」


クラリッサの言葉にハッと気づいたライラは、指さす先にチラッと映る奇妙な像を指さす。その手前で道が二又に分かれているが、ライラの言う右側のルートは程良く整備されているのに比べ、逆のルートだろう道は草が茂り辛うじて道だと分かる程度であった。


「ライラさん目良すぎじゃない?まだ何かあるなーくらいしかわからないよ」

「身体能力全般高いのが獣人の特性だからな」

「んー・・?あー、あれか。しっかしなんの像なんだアレ」


よくある狼男の様に二足歩行の獣。顔はどちらかと言えばライオンっぽいネコ科系で、首元もファーコートのように鬣が生えている石像だ。


「一説には、アレは火の精霊神様を模った石像だと言われている」

「え、そうなのか?」


ライラの言葉にヒトの女性と同じ姿だった大地の精霊神の姿を思い出す銀二。アリエルもへぇ~と声を上げて興味深そうにまだ離れている石像を見る。


「火の精霊神は獣人たちの祖、とも言う者たちがいる。その精霊神と同位体がいる我が一族はこうして獣人という事もあって通説となっているな」

「ほぉ~・・・んで、それはまぁ興味深いからあとで聞くとして。その精霊神サマの大事な像がなんだってこんな場所にあるんだ?人里だってまだ遠いだろここ」


銀二がそう言えばライラも然りとばかりに頷く。そしてスッと荒れた道の方を指さすと、銀二達もそちらに視線を向ける。


「あの荒れた道の先に遺跡があるんだ」

「「遺跡」」

「・・・いずれ行こうか。コホン。太古の昔に滅びたとされる文明の遺跡、という話だが・・・その石像も当時の者達が領土を示すためだとか、旅の道中の安全を祈願するための石像だとか言われている」

「道祖神のようなものか・・・。火の精霊って聞くとなんか強そうだし、その加護を得たいっていう気持ちが信仰の中でああなったのかねぇ」

「異国の文化って感じで面白いなぁ~」

「滅びた文明に、その遺跡。なるほどなるほど、中々面白そうじゃないの」

「ウフフ、旦那様もアリエルちゃんもはしゃいで・・・ほらぁ、アリエルちゃん気を付けてねぇ」

「おっとっと、ごめんなさい。というか未だにちゃん付けて呼ばれるの慣れませんねぇ」


ゴトンと音を立て道の窪みで車輪を揺らしたアリエルがそう言えば、ライラも深々と頷き同意を示す。


「でも二人共可愛い女の子ですからぁ・・ねぇ、旦那様?」

「ん~?そーなー。二人共野郎共ばっかりの中で暮らしてただろうから慣れてないんだろうが、二人共美人なんだしこれを機に慣れたらいいんじゃねぇの?」

「さらっと美人っていわれると滅茶苦茶恥ずかしいんですけど!?」

「ギンジ殿はすぐそうやってからかうからな」

「そう言って嬉しそうに尻尾揺らすライラちゃんも可愛いわぁ」

「わっぷ、こら抱き着くな頭を撫でるな尻尾をさするな!」


きゃっきゃうふふと後ろが騒ぎ出すのを苦笑しながら背中で感じつつ、横目でアリエルの様子を見やる。関所にいたときよりニコニコしてることが増え、風景などを楽しそうに眺めている彼女にすこし安堵する。


「(まぁ・・いつバレるかもわからん隠し事に悩むこともなくなってストレスから解放されたって感じかね。ヴィクトル隊長サンから離れて不安でもあるみたいだが)」

「・・・?どうしたんですか?ボクの顔になにかついてます?」

「あーいや・・なに、こんな細っこい腕であんな大剣ぶん回すなんてなーってな」

「細い・・ですか。そうですねーもうちょっと筋肉着いてくれればもっと義父さんのように戦えるんですけど・・・」

「あれで十分な気がするがねぇ・・・」

「いえいえ!いずれは義父さんを超えるような剣士になるのが夢ですから!」

「ほほぉー大きく出たな。しかしあれだぞ、そしたらお前さん・・・丸太をただの握力で支えて素振りするようになるぞ・・?」


思い出すのは関所を出発するまでの数日、アリエルが離隊休暇という名目で関所を離れるために引き継ぎ業務をしている傍ら、ただの丸太を握力で握ってぶん回すというオーガ顔負けの筋肉お化けの姿だった。


「義父さん自慢の丸太素振りですね!ボクもいずれはしてみたいなぁ・・・」

「(ファザコンで済む話かコレは・・・)」

「なにか名誉の様な不名誉の様なことを考えてません?」

「なに、嫁の貰い手はいるのかねぇと・・」

「あー!ギンジさんまで義父さんと同じこというー!酷いですよ!」

「丸太素振りする女の子はちょっと・・・とか言われたらどうすんだよ・・っていうか大体の男はそういうよ俺だっていうよ」

「うぐぐぐ・・・」

「あ、ほれここ右だぞ。タマーここ右なー」

「ぶるるる」


御意、という二文字が何故か頭上に表示されるのを幻視させながらタマが自然と右に曲がっていく。ドゥールで購入した時に比べると二回りくらい大きくなった体で、威風堂々とばかりに悠然と歩を進める姿に、改めて感嘆の息を吐く。


「このタマ、本当に普通の馬ですか?」

「買ったときは普通のサイズだったと思うけどなぁ」

「ぶるるる」

「頭もいいし、体もでかいし・・大人しいかなって思ってたら昨日のアッシュウルフは蹴っ飛ばすし」

「ぶっちゃけ俺より戦果だしてたからなぁ」

「ぶるるる」

「・・・確か日常的に魔力を与え続けた植物がある日根っこを器用に使って歩き回ってたっていう話を聞いたことが」

「移動中はずっと治癒術かけてるからなぁ」

「ぶるるる」

「・・・・」

「・・・・」


カッポカッポと気分よく歩くタマをよそにお互い視線は合わさずに先の方だけ見続けている二人。


タマタマだ。うん、何も問題はなかった」

「うんうん、たとえ馬以外のナニかだったとしてもタマはタマです!」

「―――ふぅ、やっと引き剥がせた。ん?どうしたんだ二人共、遠い目をして」

「世の中不思議なことが多いなって話さ」

「よくわからないが・・・それよりもそろそろ日が暮れる。もう少し行った先に行商隊が良く使うキャンプ場があるからそこまでは進もう」

「あいよ~」

「ぶるるるる!」


―――


「――あん?戦闘訓練?」

「ギンジ殿、スプーンを咥えたままは行儀が悪いぞ」


焚火を囲みながら夕食中にアリエルが言った言葉に、銀二がきょとんとしながら答えればライラがその姿を窘める。


「昨日のアッシュウルフの事もあるし、それにギンジさんの戦い方ってなんというか――」

「素人剣術ならぬ素人棒術ですからねぇ」

「力任せ、ともいうな」

「お前らおっさん虐めて楽しいか?まぁ故郷じゃ荒事何か無縁の生活だったからな」


皿に入ったスープを飲み干し、口元を拭った銀二がしみじみと呟けばあまり事情に詳しくないアリエルは意外そうな顔をする。


「荒事には無縁って・・・住んでた場所は魔物とか来なかったんですか?」

「魔物なんてそもそもいねぇし、なにより俺がいた国は警察・・・官憲みたいな連中とか軍隊みたいな連中以外武装してたら捕まるような場所だからな」

「えええ・・それって大丈夫なんですか?」

「まぁその警察って連中がしっかりやってくれてたしある程度は安全な国さ。夜に女子が一人で歩いてても大丈夫な国って外国の奴らにも評判だったみたいだし」

「女子が一人で・・・それはすごい」


食事中の三人に煙がいかないように風下に座りなおしながら言えば、感心したように三人ともが頷く。


「んで、俺の戦闘訓練っていうがどうするってんだ?」

「あ、そうでした。棒術とは違いますけど、ボクは一応槍術も修めていますし、基礎だけなら教えられますよ」

「へぇー器用なもんだ」

「その黒い杖は比較的長いから・・短槍としてならいけるかな、うん」

『―』

「今何か聞こえた様な・・?あれ、クラリッサさんぼうっとしてどうしたんですか?」

「今はクラリッサはほっとけ。発作みたいなもんだ」

「ハァハァ・・」

「大丈夫じゃない様な・・・」


一瞬聞こえた精霊ポチの声―因みにいい加減杖として使えという抗議―にうっとりしだしたクラリッサに、ライラがその肩に手を乗せるとパチン!と乾いた音が周囲に響き、一瞬クラリッサの体が跳ねる。


「あふん!」

「大分ライラも手馴れてきたなぁ」

「イイ実験台がいるからな」

「ええ・・・・」


くたりと力が抜けたクラリッサを地面に転がすのは流石に気が咎めたのか、自身の肩に頭を乗せる様に支えてやりながら語るライラにアリエルが思わず声を上げる。


「ま、戦い方を習っておいて損はないし、お願いしようかね」

「はい!ゆくゆくは丸太素振り出来るぐらい鍛えていきましょうね!」

「案外根に持っていたか・・・?」


ニコニコと嬉しそうなアリエルに、思わず裏を疑う銀二ではあるが彼の被害妄想である。


「生憎私は鞭なんていう変わり種を使っているからあまり協力はできそうにないが・・・」

「アハハ・・・というか、剣とかみんなが使うような武器使ってるのボクだけのような気が・・」

「そこに気づいてしまったか・・・」


劇画調に表情を変えた銀二にライラが苦笑する。無事グラナドス首長国連邦に入った初めての夜はこうして和やかな空気が流れる一幕となったのであった。

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