24―まぁいわゆる事の顛末ってやつだ―
今回はちょっと短めで
きっと戦闘の後の反動が・・・っ
バタバタとした夜も明け、呼び寄せられた魔物達も無事討伐され関所に日常が戻ってきた。事態の収拾を図るため陣頭指揮を執るヴィクトルの健在さは隊士のみならず商人たちにも心強いものだった。怪我人は少なからず出たものの、死者はギュスターヴを除いて一人も出なかったことは日頃のヴィクトルのしごきの賜物だったのだろう。
「さて、改めて私と今回の騒動でケガをした隊士達の治療に当たってくれたギンジ殿と、魔物討伐に当たってくれたライラ殿とクラリッサ殿には感謝する」
「ケガをした隊士達から感謝の言葉と、あと・・・タバコをなぜか預かってます」
「治療に金払うって言ったんだが、それだったらタバコくれって冗談を・・・」
「真に受けたようですが、それも彼らの感謝の気持ちでしょう。受け取ってあげてください」
苦笑しながらタバコを受け取る銀二に、いつも通り鎧を付けたアリエルはニコニコとしながら笑い返す。ヴィクトルの執務室で机を囲む皆は要した茶を飲み事の顛末を話していた。
「既に知っていたようだが、このアリエンは今は亡きヘンドリック殿下の実子。アリエル・フェルメール様となる」
「王族の血は流れてるけど、ボク自身はそんなに気にしたことが無いっていうか・・・」
「殿下の遺言で、王家の者として育てないよう言い含められたからな」
「・・・そもそも、この王国ってのはどうなってるんだ?おおまかな概要だったらちょいと知ってるんだが」
銀二の言葉にヴィクトルとアリエルは深くうなずき話を続ける。
「遡る事40年以上前になる。アリエルの祖父に当たるヘイスベルト王がその実弟エーヴァウトの叛逆によって窮地に立たれた際、近衛騎士の一人であった我が父にヘンドリック殿下とその許嫁として共にあったリーサンネ様を託し王城を脱出させた」
「ヘイスベルト王はその後自ら戦場に立ち騎士達と共に壮絶な戦いを繰り広げ、しかし最後には捕らえられ斬首されたと言います」
「・・・一方、王城を脱出した一行は叛逆に賛同しなかった貴族や領主たちを頼りながら逃避行を行い、この山の麓、ドゥールに身を寄せることになる」
「潜伏しながら各地の貴族たちと接触を図り、いつか再起をという思いが辛い逃避行を支えたと聞いています」
「ああ。いつか王国を取り戻す。その為の準備を着々と進めている頃、しかしそれを警戒したエーヴァウトも手を打つ。自身の王位に賛同しなかった者を処刑したり、僻地の領地に封じたりと力を削いでいったのだ」
「命を逃れ僻地に飛ばされた者の多くは、それでも父を支持していたようですが・・・」
「その跡継ぎ達はそうもいかない。粛清を恐れ、そして今までの暮らしを奪われ僻地へと追われた原因ともいえる殿下を恨む者さえいた。そして殿下を支持していた親から爵位を継いだ後は、現王たちへ尻尾を振るようになった」
「手を打っても味方が減っていく・・か」
「絶望が首を絞めてくるようだ、と決して弱音を吐かなかった男が初めて弱音を吐いた。そのころにアリエルは産まれていたが、産後の肥立ちが悪くリーサンネ様は亡くなられていたこともあって徐々に追い込まれていき・・・最後は心労が祟り病に倒れた」
過去を思い出し刻まれた皺を深くさせながらヴィクトルは重くため息を吐く。
「今わの際、殿下にアリエルを私の子として育てて欲しいと。この下らない王家の事など知らずに育ってほしいと願われた。そして私はそれを受け、アリエルを養子としそして男子として身と名を隠すことにした」
「・・・アンタ程の腕なら、アリエルを連れてでも国を出られたんじゃないか?」
「確かに、この国を出ていくという選択肢もあった。しかし――」
「王家と言われるこの身に流れる血と、受け継がれた使命を考えると迂闊に動けなかったんだ」
ヴィクトルの言葉を継いだアリエルはティーカップを置くと、自身の胸に手を当てる。
「そもそもフェルメールという一族は、光の精霊神を強く信仰する神官だったと言われています」
「神官・・?神官がなんでまた国なんか作ったんだ?」
「この王国は現存する大陸最古の国と言われていますが、伝承では精霊神の言葉に従い人々を纏め、王として国を興したと」
「精霊神に・・・ねぇ。そんなヒトに対して神ってのは口出しするもんかね?」
「王家の口伝では・・・この言葉を残した後、精霊神はとある存在を封印するため眠りについたとされています。神は自身が導くことができなくなると分かっていたからこそ、当時神官達を纏める立場にあったフェルメールに跡を任せたのかと」
「ふぅむ」
「ただ、ボク自身はこう思うんです。神は王としてではなく、ただの神官としてフェルメールに任せたんじゃないかって」
そういって掌を天井に向けると、ぼうっと光球が現れて部屋を照らす。一瞬クラリッサが眉を動かしたが、その後は何事もなかったかのように紅茶を飲む。
「代々王となるものには口伝として先程の伝承と、そしてこの光の魔力の使い方を教わります。ボクも父が亡くなる前や、義父のヴィクトル隊長から教わりました」
「殿下が何より恐れたのは王家の血が途絶えることではなく、口伝が途絶えることだった」
「そんな大事なものが伝えられてるのか」
「先のアリエルの話に少し出てきたが、精霊神がその身と共に封じたもの。当時の者達が言う『黒きモノ』という存在と、その対処を口伝として残したのだ」
「黒きモノ・・・」
「ギンジ殿、ここに来る途中・・クラリッサと出会ったあの洞窟の壁画がそれなのではないか?」
静かに聞いていたライラがふと思い出したように言えば、それを聞いたアリエルは頷き返す。
「お察しの通り、あの壁画は王家が口伝として残している内容を、当時の賢者が残したものとされています。それの真実を伝えるものがおらず、今では謎の壁画として伝わっているようですが・・・そして、その黒きモノも、昨夜のギュスターヴが変異したあの姿を見て納得がいきました」
「つまり、瘴気あるいは瘴魔とよばれる存在が、遠い昔にもいたってわけだ」
「光の精霊は封印をするとともに、それの復活を恐れた。だからこそフェルメールに跡を託したのだと思います」
「光の精霊と魔力同位体として繋がるからこそ、ってことか」
「・・・ギンジさんはどこまで知っているんですか?」
「知っているというか、分かっているというか。まぁ隠し事はできない様なスキルがあるとだけ言っておくわ」
「では門で会った時から・・・」
「まぁ偽名なんだろうなってことと、性別を隠してるんだってことはわかってたな」
タバコに火を着ける銀二に、困ったように表情を崩すアリエル。
「話を戻せば、要は瘴魔を封じるなり消滅させるなりするのがフェルメールのお役目だったってわけだ」
「そうなります。しかし長い年月でいつしか瘴魔の存在は人々からは忘れられ、王家のみが脈々と伝えただけになり・・・」
「ついにはその王家の連中にすら忘れる者が現れて、王の座から蹴り落された・・・」
「フェルメールは王としてではなく、ただの神官としてあり続けたほうがよかったのかもしれません。だから・・・」
「王位の正当性を訴えることなく、存在だけは知っていた瘴魔の動向だけをここで見ていたわけだ」
銀二の言葉に力なく頷くアリエルに、ヴィクトルも頷いて話を引き継ぐ。
「現王は暗愚として有名だが、貴族共からすれば私腹を肥やす傀儡として丁度いい。逆に言えば、ここで王位の正当性を訴えても誰も味方などしないだろう」
「王位に興味はありませんが、昨夜の瘴魔の強さを思えば・・・無視することはできません」
「あの再生能力は厄介だったなぁ・・・もしアレが大群になってきたらと思うと放ってはおけないよなぁ」
「はい。だからこそ、ボクはフェルメールの本来の役目を果たすまでです」
拳を握り、意思を固めたアリエルの様子を見ながらヴィクトルは一つ息を吐くと、姿勢を正して銀二へと顔を向ける。
「そこで・・ギンジ殿。無理を承知で一つ、頼みたいことがある」
「おん?」
「貴殿は大陸中の精霊教会へ巡礼する予定であると聞いた。その旅路にアリエルを連れて行ってもらいたい」
「義父さん!?」
「瘴魔が本格的に復活する可能性があるならば、他の精霊教会の者に知識を授けてもらう必要もあるだろう。しかしアリエルはこことドゥール位しか世界を知らん。旅などさせればそこらで野垂れ死ぬだろう。であるならば信頼できる貴殿の旅に同行させてもらいたい。この通りだ」
そういって深々と頭を下げるヴィクトルにアリエルはあたふたと慌て、対する銀二は困ったように頭をかく。
「とは言っても、俺には俺の旅の目的がある。はいそーですかと頷くほどお人好しじゃないんだがね」
「無論、彼女の旅の費用として路銀は用意しよう。それと・・・秘蔵の最高級タバコと20年物の蒸留酒を着ける」
「え、ええ!?」
「わかった、万事任せておけ!」
「えええ!?」
突如始まる喜劇にアリエルは慌て、ライラとクラリッサはニコニコと様子を見ている。そして男二人はアリエルの慌てようをある程度眺めると、満足したかのように呵々と笑い声をあげる。
「もう・・!」
「はっはっは!なに、娘を思う親心というやつだ。―――アリエル、俺もこの王国の中しか世界を知らん。それでも、幾らかは世界を知っている。王国の為ではなく、アリエルという一人の人間として、この世界を知ってこい」
「義父さん・・・」
「ついでに結婚相手でも見つけてこい」
「義父さん!?」
「男のフリをさせた俺が言うのもなんだが・・流石に将来が心配だからな」
「昨夜のあの横薙ぎの一撃はお見事だった・・・」
「ああ。書類仕事が得意ではあるが・・・どちらかと言えば何も考えず剣を振り回しているのが性に合ってるようでな・・・このままでは嫁の貰い手も・・・」
「大きなお世話です!!人を脳筋のように言わないでくれるかな!?」
「幼いころに、『大きくなったら義父さんのお嫁さんになる!』と言われた時の恐れ多いやら先行きが不安やらでなんとも複雑な思いをしたものだ」
「ぎゃーー!なんでそんなこと覚えてるのさ!!」
しみじみと過去を思い出すヴィクトルに、顔を真っ赤にしたアリエルが吠え立てる。そんな二人を見ながらカラカラと笑い声をあげる銀二達である。
「大人になっていくにつれて、当然だが女らしくなっていく姿を見てバレるのも時間の問題だとは思っていた。苦肉の策で副長として書類仕事のためにと執務室に詰め込んでいたが、そろそろ限界だっただろう」
「えっそんな理由だったの?」
「こんな山奥で飢えた獣の様な野郎の中に放り込むわけにもいかんからな」
はっはっはと笑うヴィクトルに、今度こそ力なく項垂れるアリエルなのであった。
―――
――
―
これは銀二達がアリエルをからかっているのと同じ時間帯に記録された音声である。
「それで・・・例の実験の成果は?」
「半分は成功と言っていいでしょうな。人間の魔核に侵食し体を変異させていく姿は興奮したものです。しかし、あまりの急速な変異に体がもたなかったのか、結局触手が出現してしまいましたが」
「侵食速度を抑える必要があるか。なるほど、では次回はそこに重点を置いて実験を行うことにしよう」
「しかし、あの状態となった被験者に傷を与えるとは・・・」
「遠目にしか見れませんでしたが、背筋が凍える様な濃密な魔力を放ったとみましたな」
「そのような魔力操作を行える人物・・・まさか、魔人か!?」
「さて・・・ローブ姿で殆ど確認できませんでしたからなぁ」
「ふむふむ。実に興味深いぞ!」
「もし見つけたらつぶさに観察させてもらうとしましょう」
「うむ。・・・ところで、君」
「はい?いかがされましたか?」
「君の背に何か―――ヒッ」
「な、なんだこれ――――」
―バキ・・ブチ・・・ゴリ、ゴリ・・・
音声はここで途切れている。
―
――
―――
「善因善果、悪因悪果、即ちこれ因果応報」
『―――――!』
アリエル・フェルメール 20歳 女性
騎士 聖騎士 聖女 光の魔力同位体。
生きる伝説と呼ばれる剣豪直伝の大剣術を扱う。
記憶力が良く、また頭の回転も速い。
が、頭空っぽにして剣を振っている時間が何より好き。
ファザコンの気質あり。
とある男のスキルに表示された文章より抜粋――。




