表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/62

23―暗殺未遂事件解決編・・ってわりにやっぱこうなるのか―

ちょっと今回少し長め?

それから数日、銀二達は監視してると思いきや監視されてるギュスターヴの不安を徐々に煽っていく。予断を許さない状況から徐々に回復傾向にある、と伝えれば隊士達の安堵のため息の反面、不安と焦りによるため息を吐くギュスターヴ。

お決まりとなった朝食時の食堂での噂流しのため着ていた隊士服を脱ぎ(未だにギュスターヴにバレていない)いつものローブ姿でフードを被れば、これまたお決まりとなった茶会へと流れ込む。


「それで、昨日はそっちはなにやってたんだ?」

「ああ、昨日王国側のルートから到着した一団の中に知り合いがいてな、情報収集がてら少し話を聞いていた」

「旦那様とライラちゃんがたまに話している、黒い触手付きの魔物・・・瘴魔の話題がチラホラと」

「瘴魔の?穏やかじゃねぇなぁ」

「どうやら徐々に目撃される事が増えてきているらしい。中にはドゥールで共に戦ったものがいて、魔法は危険だという忠告があったから何とか倒せたらしいが・・・」

「以前は数年に一度くらいしか見てなかったっていう話なのが、最近になって増えてきてる・・・なにかが起きてるのか起ころうとしているのか。やれやれ、参ったね・どうも」


タバコを摘み煙と共に深く息を吐く。その銀二の様子をニコニコとクラリッサが見守り、ライラはティーカップにお代わりを注ぐ。

気を取り直してとばかりにタバコを咥えなおし、モクモクと煙草をふかしながら状況を振り返ると、ポツリと呟く。


「そろそろ、かねぇ」

「あら、漸くですかぁ」

「むしろ短気を起こさずにいたことが驚きだが・・・。それで、ギンジ殿今後はどのように?」

「んー・・この状況下で奴さんが取れる行動は二つ。警備が厳しい中なんとか掻い潜って未だ回復していない筈の隊長さんを襲うってのが一つ」

「・・・なんとなく予想はつくが、もう一つは?」

「ここ数日護衛もなしにそこらへんをフラフラと出歩いて、時たま人気のないところでタバコを吸ってる――」


――


ジャリ、ジャリと背後から聞こえる足音に、隊舎の裏手の井戸の近くでタバコをプカプカとふかしていた銀二は振り返る。

月明りとタバコの火だけでぼんやりとしか見えない薄暗がりの中、影から現れたのは黒い装束に身を包んだギュスターヴその人である。


「――遅かったじゃないか。待ちくたびれたよ」


銀二の飄々とした表情とその言動に、ピクリとその表情を動かしてその意味と現状を悟る。


「――そういうことか。なるほど、好機と見たが誘い込まれただけだったということか」

「お前さんが取れる行動は二つに一つ。警備の厳しい隊長を襲うか、まるで警備の無いフラフラしてる治癒師を襲うか。実に予想しやすいとは思わないか?」

「さてな。危険を承知で隊長を殺す、ということを取った可能性すらあったと思うが」


チャキ、チン。チャキ、チン。と身に着けている直剣の鍔を親指で押し出し、そして離す。音を立てて鞘から出し入れする姿は、言外にいつでも斬れるという威嚇かそれとも動きを読まれていた内心の焦りからか。


「危険を承知で?入念に隊長の行動を調査し、思考をトレースした上で暗殺者に手を出させたアンタが?なるほど確かに腕の立つ剣士と見たが、それでもアリエンを含む複数の隊士達と立ち回れるとは見えないがね」

「それでも・・・ああ、それでも――」


言葉と同時にシュラと音を立てて抜剣したギュスターヴは、月光を反射する鈍色の切っ先を銀二へと向ける。


「剣すら持たぬ、見るからにひ弱な貴様を切り捨てるには十分だろう?」


猛烈な殺気を発しながら、しかしてそれでも受ける銀二は意にも返さずタバコを吸い続ける。一見ただの暢気な男にしか見えぬ様に、フンと息を吐いて一歩近づき銀二の眼を見た瞬間――。


『――――――!!!』

「っ!?」


脳内に鳴り響く叫び。黒く呑み込まれそうな瞳。その中の別のナニかに全てを見透かされる根源的な恐怖がギュスターヴを襲い、その足を止めさせられる。

ブワッと噴き出す冷や汗が背中を濡らし、そして額から顎を伝って地面へと落ちる。


「なん・・だ今のは・・っ。なんなんだ貴様――っ」

「なんだ、と聞かれてもねぇ。低位冒険者、精霊教会の関係者(仮)、旅の治癒師。俺を説明するのはそんな陳腐な言葉だが・・・アンタが望む答えはあるかい?」


顎をさすりながらタバコを咥えたまま喋れば、暗がりの中を火の軌跡が目に焼き付く。光すら呑み込まんばかりの闇を見たギュスターヴからすればその火はある意味で救いにも見えた。


「――汝、心せよ。深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗いているのだ」


深くそして昏い瞳でギュスターヴに語り、そしてタバコをつまんで放り投げれば黒いナニかに飲み込まれるようにしてタバコが消えた。

人工的な灯りが消え、月明りだけが場を照らす。幼いころ―そう、物心がつくようなまだ本能が自身を支配していた時に、ただの暗がりに怯えたことを唐突に彼は思い出した。


「まぁ、この言葉を残した哲学者はそんな直接的な意味で言ったわけじゃないんだが――」


手に持った杖を地面に立ててこちらを見るローブ姿の男に、ギュスターヴはそこで初めて自身の選択が誤っていたのだと気付く。

剣を持つ手が震える。握った柄が汗で滑る。抑える様に落とさぬ様にと両手で剣を握る。


―恐怖。これが恐怖か。


はぁ‥はぁ‥と荒い息をしながら、それでも頭の片隅で冷静な自分が呟くのを確かに感じた。今まで命の危険を感じることは何度もあった。魔物に襲われた時、故郷で言葉も通じぬ蛮族との戦に身を投じたとき。何度も恐怖を感じてきたし、それを乗り越えてきた。


―だが違う。


ただの生命の危機というだけでは説明がつけられない、根源的なそして本能的な純然たる恐怖。逃げられない、そもそも逃げるという選択肢が与えられていない。まるで自分の影が、そして周囲に広がる闇が自分の足を縫い付ける様に、縛り付ける様にして動きを止める

ガチガチと音を立てて怯えながらも、それでも命綱であるとばかりに剣を手放さない。寄らば斬るとばかりに、怯えた獣の様にすら見える男に銀二は肩を竦めてそして周囲を見渡す。


「そう怯えずとも、手を出しはしないさ。―――俺はな」


そう言った瞬間、ギュスターヴも弾かれるように周囲を見渡しそして顔を顰める。ボッと着けられた松明の火が自分とこの得体の知れない男を囲み、そしてその灯りの中から隊士達とアリエンが姿を見せる。


「ギュスターヴ・シェベク。ヴィクトル隊長への暗殺未遂の容疑で貴様を拘束する」

「・・・副長」

「抵抗するな。抵抗すれば斬る」


普段の朗らかさを感じる姿とは打って変わり、冷徹な瞳をギュスターヴへと向けるアリエン。アリエンの言葉に周囲の隊士達がジリジリと距離を詰め、捕縛しようとした瞬間、彼はその手に持った剣を閃かせ隊士達を退かせる。


「来るんじゃねぇ!」

「――抵抗するな、と。そう言ったのだが」

「うるせぇ!!テメェ等なんぞ切り捨ててやる!」


吠える様に叫びその剣を振り回せば、しかしそれでも腕の立つ剣士であることは否定できず、隊士達は迂闊に使づけなくなる。その様子を一歩離れてみていたアリエンはため息を吐き、そしてそれをさらに離れてみていた銀二は、タバコを取り出すと暢気に吸い始める。


「俺の故郷には因果応報、という言葉がある。善い事をすれば善い事が返ってくるし、悪い事をすれば悪い事が返ってくる。実に単純なことだが、しかし真理でもある。さて、ギュスターヴという男にはどんな報いが返ってくるかと言えば」


脳内にいる冷静な自分が銀二の声を拾うのと同時に、その耳が別の人物の足音を捉える。


「よもや、貴様に命を狙われるとは思いもよらなかった」

「――ヴィクトル・・・隊長・・・っ!?馬鹿な、まだ傷は!?」


視界に入ったのは傷など無かったかのように悠然と立つ、生きた伝説。その姿を見た瞬間、ギュスターヴの中ですべてが繋がる。いつの間にか少し離れたところで暢気にタバコを吸う男を睨みつけて唸るようにつぶやく。


「そうか・・・最初から・・・予断を許さないという事すら」

「貴様を炙り出すために流したブラフだ」

「ふ・・ふふふ・・・」


一瞬諦めたかの様に力なく笑うギュスターヴ。しかし、懐から取り出した小さな笛の様なものを取り出すと、ピィィィィと甲高い音で吹き鳴らす。


「貴様、何をした」

「ハハハハ!何を?何をだと!?俺が、この俺が何も考えずにその男を殺すとでも!?その男を殺し、この笛で魔物を引き寄せ騒動を起こせば貴様を警備する奴らを引き離せる。そう考えていたが状況が変化したのでね・・ハハハ、そら魔物が来るぞ!」


その言葉とほぼ同時に、見張り台から警鐘がガンガンと鳴らされる。チッと舌打ちしたヴィクトルは、視線をアリエンに向けるとアリエンは周囲の隊士達に指示を出す。


「貴方達は防衛の加勢に」

「了解!」


ギュスターヴを取り囲んでいた男たちは取って返して加勢へと向かっていく。それをみて銀二も上、隊舎の屋上にいたライラとクラリッサに視線を向けると声を張る。


「ライラ、クラリッサ!お前らも手伝ってやれ!」

「了解した!」

「旦那様もお気をつけてぇ~」


そういって姿を消した二人を見送り、再度ギュスターヴへと視線を戻す。剣を持った手をだらりと下げたギュスターヴはブツブツと呟きながら片手を顔に翳す。


「ギュスターヴ。貴様ほど義侠心を持つ男がなぜこんな事をした」

「なぜ?なぜだと!?それは俺のセリフだろう隊長殿ォ?」

「――何だと?」

「なぜ、なぜ貴様ほどの剣の腕を持ち、アリエンという王族の血を手に入れながらなぜこの国を正さんと立ち上がらない!」

「貴様―――」

「そうとも、知っているとも!アリエンが名を、身分を隠した王族であることも!貴様が近衛騎士の子で従士としていたことも!そしてアリエンの守護にいることも!!」

「・・・」

「この国は狂っている!腐っている!だから正そうとした!誰も変えないというのであれば、俺が変えてやる!その女を使って俺が王になる!だから・・・ああぁだから隊長度ォ・・・アンタは邪魔なんだよォ」


血走った眼をギョロギョロと動かし、ヴィクトルにそしてアリエン・・アリエルに向けるギュスターヴは、誰が見ても狂気に染まっていた。


「金に狂った政治家を殺してやる!薬漬けになった女共の首を晒し、民を顧みない貴族共を根絶やしにしてやる!革命だ!正しき王の元、正しい王国へと革命を起こすのだ!」

「貴様程度の剣の腕、そしてその頭で何が出来るというのだ」

「フン、本来ならばここで使うものではないがやむをえまい」


ヴィクトルの声が聞こえているのかいないのか、ブツブツと呟きながら懐から物を取り出す。球体の様なそれは、よくよく見れば魔法陣によって球状に封印されたもの。その中には黒く蠢くナニかが今か今かと脈動している。

その黒いモノを見た銀二は強い既視感を覚える共に、入ってきた情報に納得する。そんな銀二を他所に、ギュスターヴは取り出した物体を自身の胸に押し当てると解除の呪文だろう言葉を発する。


「なん・・だ、それは」

「・・・っ」


解き放たれた黒い物体は解放された喜びを表すように蠢き、そして幾本も触手の様なものを出すと近くにいるギュスターヴに深く突き刺し、その体に侵食していく。


「ぐぅぅぉおおぉおぉ!!」

「くっ・・下がれ!!」

「ハイッ」


叫びと共に強力な魔力の発露が衝撃波となって二人を襲う。咄嗟にバックステップをすることで避けた二人はギュスターヴのその変容に言葉を失う。

日に焼けながらもそれでも白い肌は青黒く変色し、頭部には黒い角が伸びる。そしてその背中を食い破るように二本の触手が腕の様に蠢く。


「オォォォ!力が、力が漲る!!ハハハ!!これならばあのヴィクトルすら!!」

「魔人・・・だと!?」


驚きの声を上げるヴィクトルに、近くまで歩いてきた銀二は否定の声を上げる。


「魔人とは似て非なるモノ。魔法陣で封じていたのは瘴気、そしてそれに取りつかれた個体を瘴魔と呼ぶ」

「瘴魔・・・」

「巷で噂の黒い触手付き、と言ったほうがわかりやすいか?」

「触手付き・・!アレがそうなんですか!?」

「人間に侵食したのを見るのは初めてだな・・・アレに魔法はやめておけ、食われて元気になるのがオチだ」


銀二の言葉に無言で頷く二人。そしてその声にピクリと反応し、狂気に染まりながらもまだ理性のある目で銀二を睨むギュスターヴ。


「貴様が・・貴様さえいなければ上手くいったものを・・・!」

「そうかい?例えここでアリエルの嬢ちゃんを手に入れても、その次で躓くのがオチさ」

「フン!この力ならば邪魔するものを皆殺しにすることすら容易い!!」


その言葉にため息を吐く銀二は、フードを少しだけ押し上げてジロリとギュスターヴを見やる。


「――汝、心せよ。怪物と戦うとき、その過程で自身が怪物になることに気を付けねばならない。深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗いているのだ」

「先程からゴチャゴチャと訳の分からんことを!」

「金狂いの政治家、薬漬けの貴族婦人、私腹を肥やす貴族。なるほど、不正を行い民を食い物にする貴族はまるで化け物だ。しかし、それに戦おうと宣ったお前も・・・邪魔な者を殺そうと平気で裏切るテメェもまた、化け物に成り下がったのさ」

「黙れ!」

「気に入らない者は殺すのか?」

「黙れ!」

「欲しいモノは殺してでも奪い取るのか?」

「黙れ黙れ!」

「容易く人を裏切る者を、屍山血河を作ろうという者を、そんな化け物に誰が着いていくってんだ。暴君に成り果てると分かっているものを、誰が助けようだなんて思うんだ」

「黙れぇぇぇぇええええ!」


渾身といわんばかりの大上段からの兜割りを、ただ冷静にその軌道上に遮るように黒杖を構えれば、バキィンとギュスターヴの剣が砕け散る。ただの一撃も持たなかった剣に一瞬呆然としたギュスターヴの隙を、音に聞こえた大剣士は見逃さなかった。


「シッ―――!」


横一文字。

言葉にすればただそれだけ。しかしその踏み込み、その剣速は尋常のものではなかった。高速の戦闘術を誇るクラリッサと同等、否、それ以上の速度で振るわれた身の丈ほどの大剣はギュスターヴの腹を斬り裂いた。


「グゥゥゥアアアアアァアアアァ!」

「―――浅かったか」


寸でのところで一歩引いたギュスターヴは、しかしその一歩が命を救った。裂かれた腹から大量の血と腸があふれ出てこようとするが、その直前に煙を上げながら急速に再生していく。


「本格的に化け物の仲間入りだな」

「全く、嘆かわしい」

「二人とも冷静に言わないでくださいよ・・・ハァッ!」


のんびりと呟くおっさん二人を叱りつけながら、回復しきる前に殺すと言わんばかりにアリエルがその剣を振るう。大剣を振るう姿がどこかヴィクトルを彷彿とさせるあたり、師弟関係であることは明白だった。

剛剣とでも言うべき斬撃がギュスターヴを襲い、その左腕を切り飛ばす。しかし、背後に蠢く触手と同じものが傷口から伸びると、宙を舞っていた腕を捕らえて強制的に再生していく。


「気色の悪い・・・っ。こんなのがボクを嫁にしたいとか考えてたかと思うと吐き気がする!」

「アリエンンンンンンン!!」

「うる・・・さい!!」


黒い触手がまるで液体の様に腕に纏わりつくと硬質化したかのような強度となり、火花を散らしながらアリエルの剣戟を捌いていく。

金属すら弾く肉体となったギュスターヴだが、しかしオーガキングすら両断すると言われたヴィクトルには問題ないとばかりに腕を切り飛ばされる。


「なるほど確かに瘴気というのは厄介のようだが・・・」

「ズンバラリンと切り捨てて言うセリフじゃねぇぞ?」


腕を再生するその合間に滑り込んだ銀二が、光を発するほど凝縮した魔力を掌に纏わせギュスターヴの腹に触れると、その背中が突如弾け飛ぶ。


「グゥゥゥアアアアアァアアアァ!!!」

「それは治癒術か・・・?」

「圧縮した魔力を体に浸透させ、深部で圧縮を解く。そうするとあーゆー風になるってわけだ」

「え、えぐいなぁ・・・」

「貴殿の魔力を貰った身からするとぞっとしないな」

「ん~?いやぁ、昔から言うだろ?」


魔力による大ダメージのせいか後方によろけているギュスターヴを横目にしながら、ジョリジョリと顎をさする銀二は眠そうにしながらもその実ギラつく瞳で二人を見る。


患者オマエの命は医者オレの掌の上ってことを忘れるなってな」

「「―――」」

「はっはっは―――冗談だよ、冗談」


そういって視線を引きつった表情をする二人からギュスターヴに戻せば、遅くなった傷口の再生に専念しながらも怨嗟の籠った視線を三人に向けていた。


「殺してやる!コロシテヤル!こロしテやル!!」

「ついに瘴気が脳にまで回ったのかね?」

「グルゥゥゥゥァァァ!」


最早正気の欠片もない状態となったギュスターヴは、背中の傷をものともせずに突撃しその腕の一振りで銀二の体を弾き飛ばす。


「おっとぉ!?」

「ギンジさん!!」

「よそ見をするな!!」

「ぐっ!!」

「アリエン!」


侵食が進むほどギュスターヴの体が巨大になっていく。その剛腕を辛うじていなすものの、背から伸びた触手が鞭の様にしなってアリエルの体を打ち付ける。

痛みに膝をつくアリエルにヴィクトルが駆けつけようとするが、自律行動をするかのように触手が迎撃を行い近づかせない。


「アりえン・・・!」

「ぐぅっ・・・」


首をつかみ軽々と持ち上げるギュスターヴに、アリエルがせめてもの抵抗とばかりに蹴りを放つが意にも返さない様子でその握力を強めていく。

酸欠によって霞む視界の中見えたのは、触手を切り払い進もうとするヴィクトルの姿。しかしギュスターヴの体を突き破るようにしてその数を増やした触手が彼の動きを封じる。

もはやこれまでか、暗くなり始める視界に声が響く。


「魔力を解放しろ!!」

「―――」


声に従うまま、ただ魔力を放つ。


「光・・・っ?」

「ガアアアアアアアアアアア!」


アリエルを光の膜が包み、彼女の身を守ると同時にギュスターヴのその腕を焼き焦がす。ギュスターヴの拘束から逃れた彼女は、失った酸素を取り戻そうとせき込みながら体制を整える。


「げほっ・・けほっ・・・」

「アリエン!無事か!?」

「な、なんとか・・・」

「アりエン―――あリエん!!」


焼けた手を再生させながら、それでも手を伸ばして再度アリエルを捕まえようとするギュスターヴ。しかし彼の動きは何かによって縛り付けられる。


『――――』

「なに?混ざり物は嫌い?好き嫌いしてほしくねぇんだがなぁ・・・」


その足を触手をそして胴体を、足元の影や周囲の暗闇から伸ばした腕がギュスターヴを捕らえる。それと同時に影から銀二が痛む腹を押さえながら出てくる。


「嬢ちゃん、トドメは頼むわ。その魔力なら倒せるだろ」

「ギンジさんがこの魔力の事をなぜ知ってるのか、後で聞かせてもらいますよ――!」


手に持った剣に光を纏わせるその姿は、まさに聖騎士と呼べる様。それを見たヴィクトルは遠い昔、父の背を追い従騎士としていたときに見た、かの王の威光を思い出す。


「ハアアアァァ―――!!」


横一文字。

まさにヴィクトルと同じ剣筋で振るわれたそれは、今度こそギュスターヴの体を両断し、そしてその光がギュスターヴの体を内側から焼き滅ぼしていく。


「アあああアアあアあああアアアあアああア!」

「貴方のその国を思う気持ちは、なるほど確かに烈士と呼べたのかもしれません。しかし、なればこそ手段を択ばねばならない道だったはず。さようならギュスターヴ・シェベク。語られぬ憂国の烈士よ」


魔力の残光を纏わせたその姿は、聖女とも呼べるものだった。

アリエルの後姿をタバコを吸いながら見ていた銀二と精霊ポチ


『―――』

「危なかったなあ・・・流石のお前さんでもあの光はだめか」

『―――――』

「熱くて眩しいから嫌い・・・ってそれだけかい」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ