16-はい、ここでアイディアロールに成功したあなた、SANチェックですー
「おらよっと!!」
木でできた雨戸をぶち破って入ってきた黒い影を一瞥し、次の瞬間には黒杖のフルスイングで出入り口の扉から外へとぶっ飛ばす。その後を追ってのっそり外に出れば、銀二の出した音で行商隊の面々も山小屋から外へと出てきていた。
「何事ですか!?」
「襲撃だ!警戒しろ!」
銀二の声に護衛の冒険者たちは瞬発的に反応して円陣を組み、商人をその中で守り始める。それとほぼ同時に山道から外れた森の中からガサガサと草木を揺らして何者かが近づいてくる。
「――次、数が多いぞ!」
「「応!」」
全員が武器を構えた次の瞬間に比較的小柄な影が続々と飛び出してくる。緑色の肌に尖った耳、全力疾走してきたのか口元から荒い息と共に涎を垂らす。力は弱いがその繁殖力から数の暴力で獲物を狩る魔物、ゴブリンの群れである。
開けた場所に出てきたゴブリン達は、その血走った目でグルリと周囲を見渡しヒトの集団に出くわしたことに気づくと手に持った棍棒を振り上げて襲い掛かってくる。
「よいこらしょー!!」
向かってきた一匹の首元に黒杖のフルスイングを叩きこみ頸椎を粉砕すると、その浮きあがった体を杖のスイングで回った勢いを利用した後ろ回し蹴りで集団に押し戻す。
仲間の死体が飛んできたことを意にも返さず叩き落とし、叫び声をあげながら複数のゴブリンが再度突撃してくる。
舌打ち一つしたあとに一歩だけ後ろに下がれば、銀閃が空気を裂いてゴブリン達へ襲い掛かる。
「サンキュー、ライラ!」
「ギンジ殿なら避けてくれると思っていたよ。―――シッ!!」
ライラがその腕を振れば、不規則な軌道で水鉄の鞭が戦場を飛び回る。パァン!と弾ける様な音が響けばゴブリンの皮膚が弾け飛び、その血を噴き出させる。さらに――
「ギャアアアアアアアアアアア!」
暴れまわる一体に鞭を巻き付ければ紫電が迸り、ゴブリンのその肉体を焼き焦がしていく。悲痛極まる同族の叫び声と焼き焦がされるその異様さに、漸くゴブリン達―ついでに冒険者たちも―の動きが止まりうなり声をあげて警戒態勢に移る。
「えげつなっ」
「ギンジ殿には言われたくないのだが」
「なんのことやら・・・。それより、こいつ等なんかおかしくないか?」
「ええ。こちらを襲撃に来たというより――」
ライラがそこで言葉を区切り、ゴブリン達の群れの一番後ろにいる個体に視線を向ける。銀二やライラ達を警戒する前衛の者と違い、奥の杖を持った個体だけはチラチラと後方――闇に包まれた森の奥に注意を払っている。
「何かに追われている・・か?」
「おそらくは。単純に逃走してきたルートが丁度山小屋にぶつかった、というのが真相でしょう」
ゴブリン達から視線を反らさず話し合っているその最中に、後衛のゴブリンがぎゃぁぎゃあと何かを喚けば、前衛のゴブリン達がジリジリと横に移動し始める。
嫌な予感がしながらも状況の推移を見守っている銀二の耳に、バキバキとなにかが割れる音が森の奥から聞こえてくる。
「木か枝が折れる音・・・か?いやしかし」
「ギンジ殿?」
「ライラ、この森の太い樹を折れる様な怪力か、あの高い位置にある枝が折れる様な巨体を持つ魔物で・・・ゴブリン共が恐れるような奴に心当たりは?」
「幾つか心当たりはあるが、その中でもこの樹海で出てくるといえば・・・オーガだ」
「グゥゥゥオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
ライラの言葉の直後に轟音と呼べるほどの叫び声が周囲に響き渡る。次いでバキバキと音を立て木々をへし折りながらその巨体が姿を現す。
3m程の巨体に赤い肌、まさに筋骨隆々とでも言うような筋肉の塊に額から伸びる一本角。理性の欠片もないような血走った目と口から覗く鋭利な牙、その手に持った巨大な鉄塊がその凶暴さをより強調させている。
「なるほど、鬼とは言い得て妙なもんだ・・どうするライラ」
「違う・・っ」
「あ?なにが?」
「アレはオーガじゃない・・・オーガキングだ!」
「グゥゥゥオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
ブン!ともボン!とも取れる様な音と共にその巨大な鉄塊を振り回せば、進行上にあった山小屋―銀二達がいた小屋だ―が吹き飛び無惨な状態となる。邪魔なものを無造作にどかした、程度の気軽さでこの惨状を作り出した張本人は、開けた視界をぐるりと見渡し逃げ腰になっているゴブリン達を見つけ出す。
次の瞬間――
地面が爆発したような衝撃と共にその巨体が空中に躍り出ると、手に持ったその鉄塊を振り上げ――、
着弾。
爆発。
四散。
ただの一振りでゴブリン達の群れをただの肉塊の山へと変貌させる。これには流石の銀二も頬を引きつらせる。ライラも緊張した面持ちをしながらも、後方にいた冒険者たちにハンドサインを送り後退させる。下がっていく彼らに一瞬視線を向けた後、すぐに視線をオーガキングに戻して小声でライラに問う。
「おい、全員でいったほうがいいんじゃねぇの?」
「正直、彼らでは役不足だ。と、いうよりは私でも危うい」
「それほどか」
「見ただろう。ただの一振りで屠殺場に早変わりだ」
―グチャリ、グチャリ
その言葉の通り、ゴブリンをただの肉へと変化させた張本人はその血の滴る生肉を音を立てて貪る。褒められたものではない食事マナーに銀二もライラも眉を顰める。
「オーガキングともなれば上位冒険者がパーティーを組んで討伐するような相手だ。正直私も逃げたい」
ピンと尻尾を立たせ警戒と緊張が解けないライラに、銀二はため息一つ吐いて黒杖を肩に担ぎなおす。
「逃げたところで、あのゴブリン達と同じ末路・・か」
「ああ。あの巨体であの機動力だ。逃げたところで追いつかれて食われるだろうさ」
「っていうか今なら逃げられるんじゃね?」
「・・・見つかった段階でももう手遅れだ。あの巨体、あの筋肉を維持するためにオーガは肉を食べ続ける必要がある。・・・ああして食べながらこちらの動向に気を払っている」
「ほんっと、今日はついてない。・・・俺が前衛、お前後衛な」
「・・・いいのか?」
「しょうがねぇだろ、魔力が多い俺のほうが身体強化し続けられるからな」
杖の握りを確かめながら言えば、ライラもフっとニヒルに笑い返す。チラリと互いの視線を交わし、頷くと同時に銀二が全力で駆け出す。
ジャリジャリジャリ!と杖の先端を地面に引きずりながら駆けるその横から、ライラの鞭が空気の壁を破ってオーガキングに迫りパァン!と破裂音が周囲に響き渡る。その直後、疾走する勢いを乗せた全力フルスイングがオーガキングを弾き飛ばす。
「硬ぇ!?」
「グルルァ・・・ッ」
衝撃で弾きはしたものの、大きなダメージではなかった。だが、おそらく自身の巨体が衝撃に負けたのは初めてだったのだろう、ライラが着けた一筋の傷をものともせずオーガキングが銀二達へと体を向け臨戦態勢へと入る。
ググっとわずかに沈む上体と握りしめられる鉄塊、相手の初撃を予測し杖を下段に構える銀二。次の瞬間には弾丸の様に跳び、大上段からの振り下ろしが銀二へと迫る。
「ッラア!」
ギィィィィン!と金属同士を激しく打つ着けた音が場に響き渡る。オーガキングの巨体を受け止めたその衝撃波がライラまで届き、さらには銀二の足元が陥没する。
鍔迫り合いとなった状況で動けないその巨体にライラの鞭が襲い掛かり、肌を裂くその痛打にオーガキングの意識が一瞬銀二からそれる。
「セイッ!」
「グルァ!?」
その隙に反応し杖を一瞬引き、オーガキングの体勢を崩す。直後、降りてきた頭に一回転した銀二の一閃が叩きこまれる。衝撃に頭から血を流し、一歩二歩と下がるキング。しかし、次の瞬間には傷口が急速に塞がり傷が治っていく。
「高速再生・・なんてレベルじゃねぇぞ」
辟易とした表情をしながら杖を一度払い構えなおす。そうしている間に傷が塞がり、次の瞬間には再度弾丸の様な速さで跳び込んでくるオーガキング。
「グルゥアアアアアアアア!」
「ちょっと!これは!!きつい!!っての!!」
着弾と同時に一発、そこから鍔迫り合いすることなく何度も銀二へとその鉄塊を叩きつける。
ギャイン!ギャイン!と互いの得物が音を立て火花を散らし、まるで削岩機のように銀二へと鉄塊を打ち付ける。段々とその回転速度は上がっていき、そして最後とばかりに大上段、両手で握った鉄塊を全体重をかけて銀二へとたたき込む――!
打ち付けた瞬間凄まじい衝撃波が周囲を襲い、そして銀二がいた場所は地面が捲りあがり砂塵と共に銀二の姿を隠す。
「ギンジ殿――!」
叫ぶライラの声がその場に響き渡る。しかし、次いで何かが風を切るような音が頭上から聞こえ、直後銀二達が入っていた山小屋にオーガキングの鉄塊、その半分ほどが突き刺さる。
「好き勝手殴り放題やりやがって・・・ちくしょう手がしびれただろー・・・が!!」
全力の攻撃を真っ向から弾かれ崩れた体勢、そのがら空きになった鳩尾に再度全力のフルスイングを叩きこむ。ズドン!と叩き込まれた衝撃を野生の本能故かバックステップで軽減し、追撃の杖の一撃をその巨大な拳で迎撃する。
しかし、さしものオーガキングの拳といえど世界で最も硬い金属の塊には勝てず、オーガの拳、その指からボキッと骨が割れる音と共にグチャリと湿った音も周囲に響く。
「グゥゥゥオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
ジュウ・・!と音を立ててその場で再生を始める拳。させまいと再度振りぬく杖を、今度はオーガキングが掴み、勢いよく銀二を振り回して投げ飛ばす。樹木に叩きつけられる銀二、その衝撃で息がつまり意識が一瞬遠のく。その一瞬で十分だとオーガキングがその身を宙に投げ出した瞬間、その首に水鉄の鞭を巻き付かせ手綱のように引けば、その巨体のベクトルをずらして地面へと叩きつける。
「これでも、食らえ!」
「グルウウウウウウウウウウアアアアアアアア!!」
チリっとライラの体から電気が走った次の瞬間、紫電が鞭を伝ってオーガキングの首を焼く。その雷電にたまらずオーガキングの筋肉が強制的に動かされ、ガクガクと痙攣し始める。肉の焦げる匂いが周囲に流れ、ひとまず巨体を封じたライラは視線だけをギンジへと向ける。
「ギンジ殿、無事か!?」
「おー・・いてぇっ、なんとか――――ライラ!!」
「なん、きゃあ!?」
鞭をつかまれ先ほどの銀二と同様に振り回され、銀二の元へと投げ飛ばされる。痛みを無視して無理矢理体を起こし、ライラの体を受け止める。
「きゃあ、なんて可愛いところもあんじゃねぇの」
「いつぅ・・・そんなことを言ってる場合じゃ!」
サッと顔を赤くしたかと思えば、オーガキングが飛来する姿にササっと顔を青くする。その百面相に苦笑し片手でライラを抱いたまま、オーガキングの振り下ろされた拳に掌を合わせ――
白い閃光がオーガキングの上体を吹き飛ばす。
「これ・・は・・」
「言っちまえば無属性魔法とでも言えばいいかね。といってもただ圧縮した魔力をぶっぱなしただけなんだが」
「相変わらず出鱈目だ・・・」
「それが俺だと思って諦めてくれ。・・・さて、鬼さんどうなったかね?」
樹木を巻き込んで吹き飛んだオーガキングに視線を戻せば、ゆっくりと体を起こしている最中であった。その姿にため息を零し、ライラを立たせて自分の後ろに隠してすぐ傍に落としていた黒杖を手に取る。
『―――――』
「ん・・・?」
「どうしたギンジ殿」
「いや・・・」
「グルルル・・・」
立ち上がり荒い息を吐くオーガキングは、それでも衰えない戦意を目に宿して銀二達の元へと歩を進める。それを視界の隅に収めながらも、視線は手元の黒杖に向けている。
「―――なるほどね」
「ギンジ殿、さきほどからどうした?」
「なぁに・・・ちょいと倒す手段がわかったんで・・ね!」
ブワッとまるで風の様に濃密な魔力が銀二から発せられ、背後のライラの髪を揺らす。ただならぬ気配を感じたのかオーガキングが立ち止まり、警戒の視線を銀二へと向ける。
「―――そら、久しぶりの食事だ」
『―――――!』
ドクン、ドクンと脈動する音が周囲に響く。そして脳内に響く声の様な不可思議な音。まるで理解することを拒むように聞き取れない音に、ライラの背筋が冷え尻尾の毛が逆立つ。
その膨大な魔力を手に持つ黒杖に、その杖に着けられた宝玉に流し込む。そして宝玉から黒い靄が杖から漏れる様に出てくると、銀二の頭上に集合して球体を作り出していく。
「グルウウウウウウウウウウアアアアアアアア!」
脳内に鳴りやまぬ警鐘に従う様に、その全てを晒す前にと銀二を殺さんとオーガキングが全力で飛び掛かり、その巨大な拳を振り下ろそうとした瞬間――。
その巨体すら小人に感じるほどの巨大な黒い腕が頭上からオーガキングを握りこむ。
「グルウウウウウウウウウウアアアアアアアア!?」
「―――すまんが、これでさよならだ」
その黒い瞳をオーガキングに向け、杖の先を地面に一度トンと叩く。次の瞬間、物凄い勢いでオーガキングが黒い球体に引きずり込まれ―――。
―グルウウウウウウ、アアアアアアアアア・・・
―ブチブチ、グチャ、ベチャ
引き裂かれ潰されそして咀嚼する音がその場に響く。その様子に口元を押さえ、顔面蒼白にしたライラがぺたりと地面に座り込んでしまった。
暫くそうしていたが、不意に黒い球体からポイっと何かが出てくる。何事かと銀二が顔を向ければ、先程まで戦っていた暴力の化身ともいうべきオーガキングの頭、恐怖に歪んだ表情のそれが地面に転がっていた。
『―――』
「ほい、お粗末さん」
銀二がそう言えば黒い球体は靄へと変わり、そして杖の宝玉へと流れ込んでいく。そうして全てが宝玉に入り込むと、異様なまでに緊迫した空気が弛緩する。
改めて周囲を見渡せば、倒壊した山小屋数棟に元ゴブリンの群れの肉塊の山、おびえた様子で座り込むライラ、そして物言わぬオブジェへと変わり果てたオーガキングの頭。
色々と考えることやらなにやらあるのだろうが、一先ず懐からタバコを取り出し、火を着け紫煙を吐き出す。
「――あー、疲れた」
面倒事を頭から排除して、ただただ休めることに安堵する銀二なのであった。
ちなみに厩舎代わりの建物はちょっと離れてたので馬は無事
ライラはSANチェック失敗。
オーガキングの全長は3m、黒い腕の掌はそれをすっぽりと握れる程の巨大さです。




