15-休憩場といっても休めるとは言ってないんだよなぁー
徐々にブクマつけてくださる方が増えてきてちょっと驚いていますわ
・・・自分の妄想垂れ流してるだけなんですが。
「まさか、決闘の後にも手続きやらで足止め食うとは思わなかったわなぁ・・・」
馭者席でしみじみと呟く銀二と、同意するように頷くライラ。言葉通り、結局銀二達は朝に出発の予定がずるずると伸び、昼過ぎに出発することと相成ったわけである。
「ぶっちゃけ出発を明日に回す、まで考えた」
「でもお互い宿を引き払っていたからな・・・」
「昼過ぎにギルド前の通りでヒルデの嬢ちゃんと出くわしたときの視線よ・・・見たか?」
「『なんでこいつらまだこんなとこにいるの?馬鹿なの?』と如実に語っていたな、アレは」
カッポカッポガラガラと蹄の音と車輪の音が響く森の中で二人のため息もまた木霊する。そこでふとライラが顔を上げて銀二のすぐ近くに座りなおす。
「そういえばギンジ殿、あの決闘の時にほぼ傷を負っていなかったのはどういう事だ?」
「ん~?」
「短慮さが非常に目立ったアレックスだが、アレでも魔法の腕は高い。特に『炎爆』や『爆轟』などは発動の速さや効果範囲の広さ、殺傷能力も高い魔法・・・」
「簡単な話さ。あれがヒルデの嬢ちゃんが使う魔導なら防ぐのにもっと苦労したが、魔力の塊なだけの魔法なら・・・より強い魔力をぶつければいい」
「・・・・は?」
「この前ヒルデの嬢ちゃんに魔法と魔導の違いを教わった時に理解したが、要は一から十まで一切合切魔力で作る現象を魔法、物理現象の過程の一部を魔力で代用したものが魔導ってことだ。ってことは、魔法を防ぐにはより多く、より密度の高い魔力をぶつけてやればその効果はこちらには届かない」
ドヤァ!!と頭上に文字が見えそうなほどの見事なドヤ顔をしながら語れば、急な頭痛に頭を手で押さえるライラ。
「強いて言うなら、魔力のオーバーフロー現象とでもいうべきか」
「そんなことできるのは多分ギンジ殿だけだと思う・・ああ、頭が痛い」
「なんだ風邪か?気をつけろよ?」
「・・・この人はっ」
分かっていながらのほほん告げる銀二は、ライラをいじる事でちょっとした意趣返しを行うのであった。
―
そんな二人が進んでいるのは、何度か話に上がった霊峰山脈のまだまだ麓の樹海である。日本の富士山の麓に広がる樹海をさらにスケールアップしたと言えばわかりやすいだろうか、いや分かりにくいか。霊峰はその高さもさることながら、山脈として広がる横の広さもまた巨大の一言で表される。
銀二達が現在いる大陸は、非常に大雑把に言えばひし形と表現することができる。その北側半分ほどを占めているのがヒルデの出身であるヴァレンシュタイン帝国と呼ばれる大国。南側半分のうち東側が銀二達がいたフェルメール王国、西側にこれから向かうグラナドス首長国連邦という具合である。ちなみに最南端あたりには蛮族と呼ばれる者たちがいるが割愛する。
「しかし、ギルドの地図でも見たけどこの霊峰ってのはすげーんだなぁ」
そう零す銀二の言葉の通り、霊峰はすごいのである(小並感)。具体的に言えば、ひし形の中央から東と南に線を引っ張り物理的な国境として体現するほどである。王国と連邦との間は険しい山道ながらにも、麓は両者ともになだらかで、山道も作れたために交通がある。しかし、山脈が北に行けば行くほど麓の傾斜は恐ろしいほど急こう配となり、帝国と王国の間には高さ4000m級の断崖絶壁となるため通行が不可能なのである。
「今はまだ麓なので樹海が広がるだけだが、登っていくうちに木々は消え岩肌の険しい山道に変わっていく。特に山道の頂上周辺は気温が非常に下がるため、雪に包まれている事の方が多いのだ」
「旅の準備でアレだけ厚着させられればなんとなくでも察しがつくけどな・・・」
「急な天気や気温の変化についていけず霊峰越えをあきらめる者も少なからず出る。そういう意味では行商隊も生半可な鍛え方では国を跨いで稼ぐのは容易ではない、ということだな」
「今ので商人のイメージがガラッと変わったわ・・・」
よくある大荷物を背負った太っちょ商人のイメージが音を立てて崩れ、ボディービルダー並みの筋肉がシャツを押し上げるような姿に作り替えられる。そんな銀二を見てライラも苦笑しながら頷く。
「まぁ国境を越えて商売を行う商会はそこまで多くはないが・・・下手すると冒険者より腕の立つ商人も中にはいる。そういう行商に賊が立ちふさがれば、――――ああなる」
そういって指さす先には、大木の幹に槍ごとぶら下がった白骨死体。蔦が巻き付き随分と時間が経っているようだ。
「山頂の関所なら兎も角、この樹海の中では国の軍隊も身動きが取れないからね。案外山賊が多いのだ」
「山賊もおっかねぇが商人も怖すぎるだろ。見ろよ、槍の穂先どころか柄まで食い込んでるじゃねぇか」
「金は命より重いと豪語する商人だが、それでも命あっての物種。迫りくる盗賊を商品で撃退した、などという話は枚挙に暇がないよ」
「それがわかってても山賊が襲ってくるってんだからおっかねぇもんだ」
「まぁ賊からすれば勝てば大金が手に入るからな・・・」
そうこう話している間にも馬車は進み、段々と空が赤くなり始めたころ数軒の山小屋と行商隊が見えてくる。最初はお互い警戒するように見ていたが銀二が教会のローブを着ていたことと、ライラが馭者席に座り顔を出しそれを見た冒険者が商人に伝え、警戒を解いたことで無事に山小屋に近づくことができた。
「やぁ、邪魔するよ」
「いらっしゃい、とは言っても私どもも先ほど着いたばかりですが」
筋骨隆々としながらも丁寧な物腰で近づいてきた男。先ほど刷新されたイメージ通りの商人のようだ。にこやかな表情をしながらも、視線はギンジの身なり等を見ている。
それに気づいていながらも気にせずに懐からタバコを取り出し火を着けると、少し感心したように頷き次いで頭を掻いた商人。
「お宅らは連邦から?」
「ええ、貴方も吸っているタバコなどは王国でも人気の商品ですし、それ以外にも連邦のモノは質がいいですから」
「確かに・・・いくつか王国でタバコは試したが、一番はコレだったなぁ」
言いながら紫煙を吐き出す銀二と同意するように頷く商人の男。空いている山小屋の中を確かめていたライラも、自国のものが褒められてうれしいのか無表情ながら尻尾がフリフリと揺れている。
「そちらはこれから連邦に向かうようですが・・・なにか入り用のものがございましたら多少融通は利きますよ?」
「そいつはありがたい。何箱かストックは買っておいたが、向こうにつくまで持つかちょいと心配だったんでね」
元の世界で言う3カートン程タバコを受け取り、代価を払う銀二。銀貨を受け取りながら銀二から目を離すことのない商人に、訝し気に片眉を跳ねさせる。
「どうしたい?俺になにか用事でも?」
「ああ、すみません・・・。見たところ精霊教会の方だと思うのですが・・・」
「まぁ・・・関係者ではある。それがどうしたい?」
「いえね、この先の関所でチラリと聞いた話なんですが、どうやら薬師や治癒師を探してるみたいでして。少々乱暴な方が多い場所ですから気を付けたほうがよろしいかと」
「ほぉ~?急病でもあったのかね?まぁこんな山奥じゃあ滅多に医者にかかれんだろうしなぁ・・。しかし、関所の奴らってのはあんまり良い噂聞かねぇなぁ」
「色々と噂はありますな。破落戸上がりの軍人の左遷先やら、貴族抗争に巻き込まれて左遷されたものがいるとか、あとは・・この山の一部の山賊と繋がっていて商人を襲わせているとか」
「全部が全部本当ってわけじゃねぇだろうが、火のないところに煙は立たないって言うしなぁ」
「なるほど、言い得て妙ですな。まぁしかし・・・あの『雷公』殿を連れているならば問題はないでしょうな」
そういって商人は銀二の背後、他の冒険者と情報交換しているライラに視線を向け、つられて銀二も彼女に視線を向ける。
「それにしてもうらやましいですなぁ。あのような美女と二人で旅とは」
「残念ながら浮いた話ではないがな。色々あって治癒師として彼女に同行してるって形さ」
「ふむ?至って健康そうに見えますが」
「今のところは至って健康、問題が起きたときに対処ができるようにな。ついでに実家に戻るってんで護衛をってことで治癒師である程度動ける俺が選ばれたってだけさ」
「ギンジ殿がいう『ある程度』ほど信憑性がないものはない、とここ数日で分かってきたよ」
視線が気になったのか冒険者たちと別れて銀二達の元へ戻ってくるライラ。彼女が苦笑気味に言えば、銀二は肩を竦めて答える。まるで旧友の様に気心の知れたやりとりに、今度は商人も苦笑し始める。
「なるほど、なるほど」
「何を納得してるんだか・・・。そういやお宅、触手付きの魔物の話って知ってるか?」
銀二がそう言えば商人を始め、周囲の冒険者たちが静まり視線を彼に向ける。紫煙を吐き出し同意を得る様に周囲を見渡せば、彼らは頷きながら話の続きを促す。
「数日前、この先のドゥールの街で触手付きが出た。以前はゴブリン一匹だったようだが、今度はコボルドの群れ数匹だ」
「なんと!そ、それでドゥールは?」
「そっちのライラ達中位冒険者が倒したんで街は無事さ。その場にいた魔物は倒したが、もしかしたらまだ残ってるのがいるかもしれん。アンタらも気を付けてな」
「・・・貴重な情報、ありがとうございます」
「ま、俺らがここに着くまで特に問題もなかったし大丈夫だろうが・・・」
「それでも警戒しておくに越したことはありません。護衛の彼らもそれは重々承知の様ですし」
商人がそう言えば、周囲の屈強な男たちがそろって頷く。その後2,3話を続け日が暮れてからはお互い山小屋に入り体を休める。
街を出る前に買っておいたサンドイッチにかぶりつきながら、同じように尻尾を揺らし食べているライラへと視線を向ける。
「そういや・・・お前さん『雷公』ってのはなんの話だ?」
「もぐ?むぐむぐ・・・」
「ああ、飲み込んでからでいいから」
ゴクリと飲み込み、水で喉を潤したライラは口元を拭きながら銀二へと向き直る。
「雷公というのは・・・まぁ、私の通り名とでも言えばいいだろうか・・。自分から名乗ったわけではなく、いつの間にかそう呼ばれていたが」
「ほーん・・・いわゆる二つ名ってやつか」
「ええ。大体上位の方に着けられることが多いようだ。私に着いた時には恐縮したものだが」
「ほうほう。そう考えると有名人と旅をしてる貴重な体験ってことか」
「言うほどのものではないと思うが・・単純に、私の異能が雷を纏うものなだけであって・・・」
「異能・・・雷・・・雷ねぇ・・」
「うん?・・ああ、そういえば異能についてはあまり話していなかったか」
言ってサンドイッチの残りをパクっと食べ終えると姿勢を正す。口元にパン屑が着いているのは気づいていないようだが。
「異能、というのは簡単に言えば獣人のみが使える身体強化の強化版・・といったところか」
言いながら掌を天井にむけ、その手からバチッバチッと光と音が発生する。銀二にとっては久しく見ても聞いてもいない電気の音だ。
「いわば属性を身に纏った身体強化、だな。私の一族ならほぼすべてが火を纏う。私のはとても珍しく、まるで雷のようだと」
「そうか・・・属性のくくりに雷はねぇのか」
「ええ。誰も使ったことがないもので詳しい使い方は自分で試すしかないが・・・」
「それ、武器とか物とかにも纏わせる事ってのはできるのかい?」
食事を終えた銀二も水を飲んでパンに持っていかれた水分を補充し、次いでタバコに火を着ける。ふわっとタバコの匂いが部屋に漂うと、ふむ・・と顎に手を当てて考え込むライラ。ついでに無表情なライラのその尻尾が機嫌良さげにフリフリと揺れ始める。
「確かに、一族のもの達は武器に火を纏わせていたが・・・そういわれればあまり試していなかったな。ただの身体強化として使うだけでも他の者より強力だし・・」
ぼそぼそと呟くライラは、ふと腰につけている水鉄の鞭を手に取り、バチっと電気を流す。その後ふむふむと頷き、荷物からリンゴを取り出し離れたところに放り投げ、空中のリンゴに鞭を巻き付け、バチバチッとひときわ大きく音が鳴る。
リンゴを手繰り寄せて鞭を外せば、一筋の焦げた跡がリンゴに着けられている。
「うん。問題なく使えるようだ」
「なんでもないように言うが、鞭の扱いうますぎるだろ。曲芸かよ」
「ははは、そうは言うがこうでもしないと生き残れない。それこそ、手足の延長の様に扱えなくては」
「まぁそこは流石中位冒険者、というとこか。・・いずれ街に着いたら一つ頼みたいことがあるんだが」
「うん?ああ、他ならぬギンジ殿の頼み――――待て」
話の途中で言葉を切り、その耳をピクリと動かして鞭を構える。緊迫した雰囲気を醸し出すその姿を見て銀二も手元に杖を引き寄せ身体強化をし始める。
「―――やれやれ、今日は厄日かね」
しみじみと呟いた直後、雨戸をぶち破って影が飛び込んでくるのであった。
ちなみにアレックスは顔面陥没(特に鼻)ですが生きてはいます。




