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11-ヒーローは遅れて・・アッハイ遅れてすんませんー

カンカン!!と危機感を煽るその甲高い音に、握手をしていた親方と銀二両者ともに手を離し弾ける様に店の外へと駆け出す。


「おい、一体何事だ!?」

「親方!俺にもなにがなんだかさっぱりで!」

「チッ!おい、店の金を金庫に入れとけ!それとならず者が入ってこねぇように気を付けとけ!」

「アイアイ!親方はどちらへ!?」

「冒険者ギルドだ!あそこならなんかわかるだろ!おう兄ちゃん、ついてきな!」

「ああ、というより先に行くぞ!」


警鐘が鳴り響き、戸惑いながらも人たちは避難を始めている。そんな人のが流れを避けるために身体強化を強めて家屋の屋根へと跳び移る。幸い冒険者ギルドは近くにある。二度三度と家屋の屋根を跳び移りギルド前に着地する。スイングドアを開けば、いつもは喧騒がありながらもどこか和やかだった空気が張り詰め緊迫としていた。

入ってきた銀二に中にいた冒険者たちの視線が集まり、そしてカウンターの奥にいた受付嬢―イルセ―が銀二に向かって声を上げる。


「ギンジさん!ちょうどいいところに!こちらに来てください!」

「あいよ。おう、ちょいと悪い、通してくんな」


ザっと人だかりが割れ、銀二がその中を進んでいくと血だらけの男二人が椅子に座り止血の為に包帯を巻かれていた。


「ギンジさん、お二人の治療をお願いできますか!?」

「ああ、見たところ俺でも治療はできそうだ。早速治療するぜ」

「あ、ああ。すまねぇ、助かる」


言いながら男たちの視診を行いながら魔力を流す。見た目通りの切り傷や打撲といったものがほとんどだが、体内の魔力に黒い澱みの様なものを捉える。


「お前さん、何と戦ってきたんだ?」

「痛てて・・・アンタも聞いたことがあるかもしれないが、黒い触手付きだよ」

「・・・何年か前にゴブリンについてたってやつか?」

「ああ・・だが今回遭遇したのはコボルドの群れだ」

「群れ・・触手付きは同族でも関係なく暴れたって聞いたが」

「触手付きの個体たちは、それだけを同族とみてるみてぇだ。囲まれそうになったところを無理矢理突破してきたんでこのザマさ」

「だが生きてこれた。まずはそれで十分だろ。ほれ、傷は閉じたが失った血は戻ってない。安静にして肉でも食ってな」


会話をしながらも治療を続け、澱みの様な魔力に銀二の魔力をぶつければ中和されるように澱みが消えていく。もう一人の男も同じような症状ではあるが、豊富な魔力でゴリ押せば問題なく治療は完了した。

そうこうしていると入口からは鍛冶屋の親方ドワーフが、ギルドの二階の扉からは筋骨隆々の大男が姿を現す。視線を周囲に回しながら銀二は親方の元へと歩きだし合流を果たす。


「やれやれ、やっと着いたぜ。おう兄ちゃん、何事かわかったか?」

「ああ触手付きが出たんだってよ。今度はコボルドの群れだそうだ」

「なんだと・・?前回はゴブリン一匹であの被害だぞ・・」


二人でそう話している間に二階から現れた男が一階に降りて受付のカウンターへ歩み寄る。


「支部長!」

「おう、話は聞いた。手筈は?」

「街にいた冒険者に召集をかけほぼ全員が集まっています。しかし上位のモンスターハンターは・・・」

「あー・・ドレイク討伐で先日街を出ていたか。クソ、間が悪いことだ」


そういって髪をガシガシと片手で掻いた後、集合している冒険者に向き直る。


「諸君、召集に応じてもらい感謝する!聞いた通りコボルドの触手付きが少なくとも4体。下手すれば見つけていないだけで周囲に潜んでいる可能性もある。中位冒険者、特に前衛のものは各個体の動きを止め、弓矢や魔法などで遠距離から攻撃しろ!低位冒険者はバックアップとして動いてほしい!事態は急を要する!全員行動開始!」

「「応!!」」


その場にいた冒険者たちが慌ただしく動き出し、銀二の視界にも中位冒険者とわかるもの達はいの一番に外へ駆け出して行った。それに続いて杖を抱えたヒルデが銀二の近くへと歩み寄る。


「ギンジさんも来てたのね。それとアレハンドロさんも」

「おうヒルデの嬢ちゃんも来てたのか」

「こう見えても一応中位冒険者ですからね。・・・それより、ギンジさん。さっき発見者の治療してたみたいだけど何か変なところはなかった?」

「・・・変かどうかはわからんが、傷口近くの体内魔力の一部に黒い澱みの様な感覚があった。こちらの魔力で相殺するように消えていったが・・・」

「そう・・。ギンジさん、この騒ぎが終わったらまたウチに寄ってくれる?伝えておくことがあるから」

「おう、わかった。俺も準備できたら向かうが、そっちも気をつけてな」

「ええ。それじゃ、またあとで」


そういうとヒルデも外へと駆け出していく。先ほどとは打って変わってガランとしたギルド内で銀二と親方―アレハンドロ―の他に怪我人二人と数人の低位冒険者、そして支部長と言われた大男がいるばかりだ。そしてその大男がイルセと二、三なにやら話した後に銀二達の方へと近づいてくる。


「おうアレハンドロ、久しいな!」

「相変わらず声が大きいなラウレンス。・・・また厄介事が起きたな」

「ああ。まったく、触手付きなんぞ見ることはないと思っていたが・・・。それと、そっちの。先ほどの治療は見事だった」

「銀二だ。なんだ、治療を見てたのか?」

「ワッハッハ!遠見の魔法の応用でな、荒くれが多い冒険者が集まればろくなことにはならんから見張っておるのよ!」

「意外だが、こやつはこんなナリをしているが王国でも有数の魔法の使い手だからな」

「嘘だろ、アンタだったら魔法使うより近づいて殴るほうが早そうだぜ・・?」

「ガハハ!まぁそんなこともあるがな!さて、お前さんにも現場で動いて欲しいのだが」

「ああ。親方殿にさっき触手付きの話を聞いて気にはなってたしな」

「場所はわかるか?山門の方から町を出て道なりに進んでいけばわかるはずだ。街の衛兵と連携し冒険者が到着するまで遅延戦闘してくれている手筈になっているから人は多くいるはずだ」

「ああ、わかった。身体強化していけば割とすぐ着くだろ」

「イルセ君から君はまだ低位冒険者だと聞いている。あまり無理はするな」


歴戦の強者といった風のラウレンス支部長の言葉に肩を竦め気負った風もなく銀二が答える。


「ま、死なないようには気を付けるが、約束はできねえな。それじゃ俺も行くとするぜ」

「うむ、気をつけろ。触手付きは何をしてくるか予想できんからな」


言うや銀二もギルドを飛び出し、霊峰に向かって走り出す。


「ほーらやっぱり厄介事が追い付いてきやがった」


―――

――


王国では珍しい獣人の女性、ライラはもうすぐ上位冒険者になろうかというぐらいには腕の立つ冒険者だ。生まれも育ちも隣国のグラナドス連邦出身で、冒険者としてかれこれ十年は活動しここ数年は魔物討伐をしながら王国を中心に旅をしている。

そんな彼女も触手付きと呼ばれる魔物とは戦ったことはない。先行していたドゥールの街の衛兵と入れ替わり、使い込んだ武器の柄を触れながら視線の先の魔物に目を向ける。


「情報の通り、胴から食い破る黒い触手に・・常軌を逸した肥大化した身体。漸く見つけたぞ」


手に握る武器は銀二が見れば世界的に有名な架空の考古学者で冒険家の男を想像するであろう鞭である。だが普通の鞭と違い、しなるその部分は水銀ならぬ『水鉄』と呼ばれる金属でできている。鉄の様に金属的性質を持ちながらも強い粘りを見せるものだ。

共に駆けつけた冒険者達の中で盾を持つ耐久力自慢の男たちがアイコンタクトを交わし、群れの個体それぞれを盾で以て弾き飛ばし群れを分断することに成功する。それを俯瞰するように周囲を確認し、後衛の手が薄い個体を狙い瞬発的なスナップを利かせ鞭打つライラ。


「こちらの個体はジョーンズと私が受け持つ。貴君等は別の個体に集中してくれ!」

「応!そっちは頼むぜ!」


答えた狩人風の男は素早く身を樹上の枝に移し一矢また一矢と矢を放つ。それを煌めく銀髪に半ば隠れた目で見ながら意識を目の前のコボルトへと向ける。

先ほど鞭で強打した肥大化した腕からは、その衝撃で裂けたのか血が噴き出しているが痛みを感じている様子は見られない。その様子にライラの整った眉が顰められる。


「ジョーンズ!背部の触手に気をつけろ!他の個体が倒れるまで時間を稼ぐぞ!」

「了解ぃ!牽制は頼むぜ姐御!」

「誰が姐御だ、後で鞭打ちだ」

「そりゃねぇぜ・・・っとぉ!!」


数発、その鞭でコボルドの体を打つが幾ら肉を裂き出血を強いろうがコボルドの動きが鈍ることはない。一般的な魔物ではその一発で行動を止め命を奪うことすら容易な水鉄の鞭の一撃。それでも止まらぬその様相に、決定打に欠けると冷静に判断すると遅延戦闘へと行動を切り替える。

ジョーンズと呼ばれた禿げ頭の巨漢がその巨体に負けぬタワーシールドを以て、コボルドの肥大化したその剛腕を受け止める。そのまま追撃に入ろうというコボルドの足に鞭を打ちバランスを崩させる。

チラリ、と視線を別の個体に向ければ一体はベテランに入りかけた中位パーティーの連携で翻弄し順調に手傷を負わせている。また一体は盾持ちと狩人風の冒険者の矢で足止めしたところを、ヒルデが杖の先端から炎を放射しコボルトを火だるまに変える。

しかし――


「コイツ、魔法が効かない!?」


最低限の革鎧にローブという軽装、魔法使いの冒険者が放ったファイアーボールの魔法は、触手が接近した魔法に敏感に反応し打ち払うと、まるで吸収するように魔法が消えた。直後、その黒い触手が脈動したかと思えば腹から食い破るその触手が太さを増し、コボルドの腹から出血を強いる。

離れた場所から冷静に観察をしていたライラやその個体のターゲットを持っていた盾持ちは、その生命体としてあり得ぬ悍ましさに身の毛がよだつ。

だが自身の魔法がかき消された魔法使い―アレックス―は、それならばより強い魔法をと魔力を練る。


「よせ、アレックス!!」


先日までギルドから依頼された教官役、その生徒となっていたアレックスの行動に嫌な予感が走る。魔法使いとして魔力の扱いは確かに認めるものがあるが、視野が狭く短慮になりがちな思考からギルドでも中位に上げられないと言われていた未熟者。

アレと魔法の相性はおそらく最悪だ。使わせてはならぬと声を上げるがそれよりも早くに魔力を練り上げ、サイクロプスの巨体が使うような炎の騎槍―フレイムランス―を完成させ、その穂先をコボルドへ向ける。

離れていても感じられる魔力の奔流に、向けられた個体のみならず他の個体―ヒルデに焼き殺された個体は除く―が一斉にフレイムランスを、そしてその魔力の主であるアレックスへと反応する。


「「「―――――――――――ッ!!!」」」


それは果たして叫びなのか。とても生物から発せられたとは思えない、形容し難きその音を出しながらアレックスへと突如走り出す魔物たち。


「うわあああっ!?い、いけぇ!フレイムランス!!」

「くそ!援護を頼む!」


異形の魔物達が我先にと突進してくる姿に半狂乱となりつつも、そのうちの一体へとフレイムランスを飛ばす。流石の異形でも一瞬で消し去ることはできなかったのか、コボルドの頭部を貫くことに成功する。同時に声を上げ駆け出したライラに従い、樹上からは連続で放たれた矢が一体の触手を貫けばその身を痙攣させ地面へと倒れる。ライラ自身もその水鉄の鞭をコボルドに巻き付け、獣人自慢の膂力で宙へと放り投げる。


「ヒルデ君!!」

「了解です!!」


準備万端とばかりに杖に魔力を集中させていたヒルデが再度炎を放射し、コボルドを丸焦げにしていく。ドチャ、と丸焦げになったコボルドが地面に落ちたところを見届け、周囲を見渡して動かない魔物達を確認すると一つ息を吐く。


「ふぅ・・・。なんとかなったな」

「結果オーライとはいえ・・・おいぃアレックス!おめぇもそっと魔物の挙動に目を向けねぇか!」

「あ・・い・・・」

「ったく、その短慮とビビり癖をなくせばもちっとマシな冒険者になるんだが・・」

「う・・・うしっ・・・後ろだ!!」


震える指先で全員の後ろを指さすアレックス。反射的に後ろを振り向けば、頭を失ったコボルドが上半身をだらりと反らせながら立ち上がり――


「かはっ―――!」


数を増やした触手を槍の様に尖らせ、ライラの腹を貫いた。愛用している魔物の革で出来た革鎧を紙の様に貫き、焼けるような痛みをライラに送る。


「ライラさん!!」


痛みに強い獣人でも耐えられぬ痛み、さらには魔力を吸われる感覚に体の力が抜け、視界がかすみ自身を呼びかける声もどこか遠い。


「(ぬかった・・・せっかく触手付きの・・情報を・・・・国へ・・)」


立つ力も失い体勢が崩れるというその時、腹を貫いていた触手が断ち切られ体を抱きかかえられる。灼熱のような痛みとは対照的に、血を失い冷えた体に抱きしめる者の熱が心地よく感じられる。

暗転していく視界に移ったのは、同族の男衆の様に少し浅黒い肌の白いローブの男。そして手に持つ探し求めていた物と同じ刀身の剣。

未だ痛みは感じるものの、不思議と不安はなく安心するようにライラは目を閉じるのであった。

来る途中で衛兵がケガしてたんで治療してました(顎髭ジョリジョリ)

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