10―鍛冶屋と言って連想するのは?―
ヒルデから魔法やらについて授業を受けた翌日、銀二は最後に話に上がっていた黒鉄が気になったのかブラブラとドゥールの街を歩きながら鍛冶屋を探す。串焼きなどの食べ物関連の露店通りを抜け、冒険者ギルドの看板が見えるところまで抜けてくると、カンカンと甲高い音を上げ煙突から煙を出す店が一軒見えてくる。ヒルデが教えてくれた武器屋兼鍛冶屋である。
咥えていたタバコを携帯灰皿に入れて紫煙を吐き出し、ドアノブを回して店内へと入れば所狭しと壁に立てかけられた武具達が出迎える。
「おぉ、こりゃすげぇや」
「いらっしゃいませー」
そんな武具達の奥の方、カウンターから店員が声をかけてくるのに目礼し武具に視線を戻す。元の世界ではただの医者だがやはり銀二もれっきとした男子。剣や槍などを見てテンションが上がっている。クレイモアと呼ばれる巨大な両手剣や騎乗して使用するランスなどがあるが、基本的に鉄やミスリルと呼ばれる蒼い銀の金属しかない。やはり黒鉄の武具はないようだ。
「(まぁ宝具、なんて大層な代物なんだしそりゃすげーもんだよな)」
ジョリジョリと顎髭―ちなみにちゃんとヒゲは毎朝剃るが、何分電気シェーバーなどない世界である。髭剃り用の小刀をおっかなびっくり使うので剃り残しが多い―をいつものようにさすりながらのんびりと品物を見て回る。そうこうしてる間に、奥から絶え間なく響いていた金属音が途絶え店の奥から一人の男がのっそりと姿を現した。
子供ほどの背丈でありながら、子供では考えられないくらいに盛り上がった筋肉にもっさりと蓄えられたヒゲが特徴的な男。サブカルは人並み程度の知識な銀二でもわかる、ドワーフと呼ばれる種族だ。先ほどの音や首から下げたタオルで顔を拭う仕草から一仕事終えたのであろうその男は、手に持ったパイプ―それこそ某ホウレン草大好きな船乗りが使うような大きな代物―に火を入れて紫煙を吐き出しカウンターの店員と話し始める。
「親方、お疲れ様です。どうした?」
「おう、最近じゃあんまり無かったがいい鉄だ。よく仕入れた」
「ありがとうございます。最近は鉄鋼の仕入れも難しくてかないませんよ・・・」
「ったく困ったもんだ。ここ十年でドンドン帝国の鉄もミスリルも減ってやがる・・。鍛冶にゃぁ持って来いのもんなんだがなぁ・・・」
「ですねぇ・・。聞いた話じゃ、帝国の炭鉱が今結構ヤバいらしいですよ。魔物が活発になっちまって炭鉱夫達も満足に掘れねぇって話で」
「魔物ね・・・、世も末だなあ。っと、なんだ客がいるじゃねえか。すまねぇな愚痴っぽいの聞かせちまってよ」
店内をうろついていた銀二を見つけ、頭をかきながら声をかければ銀二も苦笑しながらカウンターに近づく。強面のドワーフの男だが存外話しやすそうではあった。
「やぁちょいと邪魔してるよ」
「ああ、ゆっくり見てってくれ。中々のモンは揃ってんぜ」
「普段あまり剣は使わないんだが、それでも良いもんだってのはなんとなくわかるさ。っと、そうだ一つ聞きたいんだが、黒鉄ってのは使えねぇってのはホントかい?」
問いかけた直後、というよりは黒鉄という単語を耳にすると露骨に顔をしかめるドワーフの男。店員の方も一度きょとんとした顔をした後は苦笑し始める。
「ゴミ黒か・・・ありゃ無理だ」
「僕も仕入れで色々な国の鍛冶職人や精錬所の職人とも話すんですが、黒鉄の加工に成功したというのは・・」
「・・・おい、アンタ。その杖はもしかするのか?」
「らしいな。俺もこの町の知り合いと話して初めてすげー代物だって知ったんだがね」
「「おおー!!」」
ひょいと黒杖を軽く掲げれば二人は興奮した様子でカウンターから身を乗り出す。すげー食いつきっぷり、とぼやきながら軽く身を引いて話を続ける。
「こいつは預かりもんなんだが、黒鉄ってのはそんなに厄介な物なのか気になっちまってね。ちょいと鍛冶屋覗いて話聞いてみたかったのさ」
「なるほどな。まぁ確かに俺らの界隈じゃ有名だが、一般的には知られちゃいねぇからな。それより、ちっと触らせちゃくれねぇかい!?」
「お、おう。かなり重いから気を付けてくれよ。俺も身体強化しないと持って歩けやしねぇ」
重そうな体でガバっと実際にカウンターを飛び越えると、銀二から黒杖を受け取るドワーフ。手に持ち銀二が手を離した際にグラリとよろけるが見事な踏ん張りで耐えると、マジマジと見分を始める。
「こいつぁ・・・すげぇ!おい、見てみろ!混じり無しの純粋な黒鉄の杖だ」
「これは・・・確かに見事なものです。あの黒鉄をここまでに仕上げるとは・・。ましてやこの宝玉の部分も見事です」
「くーーっ!ここまで完璧なものを見せられると悔しさよりも賞賛しかできねぇな。アンタ、さっきこりゃ預かりもんって言ってたが、そいつぁ何者だ?」
「まぁ俺の師匠みたいな人さ。所謂巡礼者、って人間で長い事この大陸を歩き回ってたって話だぜ」
「巡礼者・・か。もしこいつを誂えた奴を知ってれば是非に話を聞かせてほしかったんだがなぁ・・・」
その言葉に肩を竦めることで返事をする銀二。その姿を見てドワーフの男はがっくりと肩を落とすが、気を取り直して銀二に杖を返却すると、自身の背後―先ほどドワーフの男が出てきた扉―を親指で指し示す。
「よし、いいもん見せてもらった礼だ。実際に鍛冶場に入らせてやる。ついてきな」
「お、そいつはありがてぇ」
そういって二人は店の奥へと足を踏み入れると、先ほどまで炉に火が入っていたためか熱気が二人を歓迎する。ぐるりと中を見渡すと使い込んだ金床や火を落としたばかりの炉が目に入ってくる。
「うちは仕入れた鉄なんかも使うが、冒険者から仕入れた原石なんかも精錬してたりするんだ。っと、ほれそこにある黒いぼた山が黒鉄よ」
そういって指さした場所には言葉通り黒い山が出来上がっていた。顎髭をさすりながら近づけば確かに持っている黒杖と同じ金属の塊だった。そしてよくよく見れば歯抜けになったように所々に穴が開ている。
「その穴になってる部分に別の金属があってよ、一緒くたに炉に入れれば黒鉄だけが残って他が溶け出すって寸法よ」
「ほかの金属が溶けても形が変わらねぇのか・・・」
「だから純粋な黒鉄をってのは割と簡単に作れる。が、問題はそこからで何をしようともてんで加工ができねぇ。一昔前くらいまでは何とかできねぇかと頭ひねる連中もいたんだが・・・結論は、な」
「なぁるほどねぇ・・・」
ドワーフの男の声が耳に入るのを客観的に感じながら、銀二は視界に入る文字列をぼんやり眺める。
=黒鉄(純度100%)=
精錬済み(?)の黒鉄。アストリア世界において最も硬く、最も熱に強い。また1立法当たりの質量も最も重い。金属の結合力も強い為、他の金属類と結合して発見されることが多い。魔力の浸透率は低く、魔力を流した場合表面を伝うだけにとどまる。なお、加工するには帯電させ熱を与えることで原子配列が変化し硬度が変化し加工することが可能。
「(世界の謎をひとつ解明してしまったでござる)」
思わずござる口調が出現。看破スキルの恐ろしさである。一部の情報が入ればあとはほかの情報を保管してしまうのである。
「(そうか、この世界だとまだ電気の概念がないのか・・。魔法や魔導なんていう便利なものがあるからそこら辺の発達が遅いのか・・?)」
「おう兄ちゃんどうしたボンヤリとして?」
「あ、ああ。いやこうして実際見てみると厄介そうだなぁとな。・・・なぁ、モノは相談なんだが、このぼた山譲ってもらうことってできるかい?」
「あ?ああ、まぁ本来なら業者に金払って捨ててもらうからな・・・。タダで持ってってくれるっつーならうれしい話だ」
そういいながら蓄えたヒゲをもじゃもじゃしながら言えば、銀二も顎髭をジョリジョリしながら頷く。
「だが分かってると思うがこいつは重いぞ?大丈夫か?」
「ちょいとこれに詰められるなら・・・。お、入った入った。大丈夫だ」
「おお、アイテムバッグか。中々いいもん持ってるな。しかし良いのか?エライ学者先生や昔の職人たちが匙投げた代物だぞ?」
「ああ。ま、巡礼の旅の途中の暇つぶしに使わせてもらうさ。それじゃもらってくぜ?」
「ああ、持ってってくんな。まぁこの量なら・・・万が一加工できれば鎧に剣だって作れちまうな」
ガハハと笑いながら紫煙を吐き出すドワーフの親方。その声を聞きながらいそいそと黒鉄の山をアイテムバッグに詰め込んでいく。作業をしながらそう言えばとふと先ほどの店員との会話が思い起こされる。
「なぁ、さっき店員と話してた話題だけどよ?」
「ん?鉄の仕入れの話か?」
「そうそう。帝国の炭鉱で魔物がどうのこうのって話があったけどよ、そういうのって多いのかい?」
あっという間に詰め込んだ銀二はそう言いながら振り返れば、親方は神妙な表情で頷く。鍛冶場の隅にある椅子に座って銀二にも勧めるとよっこらせと声を出しながら銀二も座った。ちょいちょいおっさんくささがにじみ出ている。
「かれこれ・・・そうだな、もう10年にはなるか。最初はちょっとした噂だったのさ。やれ最近魔物を見かけることが多くなっただの、大人しいとされる魔物に襲われることが増えただのってな。それでもまぁ気にするようなことじゃない。魔物は基本的にほかの生物に襲い掛かるし、見かけること自体は当たり前のことだからな」
噂を聞いた誰もが気のせいだと言ったものさ、とその背を椅子の背もたれに預け呟きながら紫煙を吐き出した。
「後になって聞いた話だが、最初は冒険者ギルドも軽く考えてはいたみたいだ。だがそれと同時に慎重な奴もいたんだろう。各地を旅する冒険者に噂話を聞く体で魔物の被害状況を調べだし、結果としてその調査は重大なものになった」
「噂は事実で魔物が活発になってるってことかい?」
「そうだ。帝国では炭鉱を始めとした各地で魔物が活発になり、隣のグラナドス連邦では鎮守の森と呼ばれる森で異常なほどの魔物の増殖が確認されてる。この王国もそうだ。ここ数年でほかの魔物とは違う特異的な魔物が姿を見せるようになった」
「特異的な魔物・・?」
「そうだ。・・・とはいってもありゃ本当に魔物といっていいのかわからん。討伐に成功したってんで一時話題になってその死体を見たことがあるが・・・」
そういうと露骨に表情をしかめ、まさに思い出したくもないといった雰囲気を醸し出す。
「ありゃ元はゴブリンだったんだろう。小柄な体に薄い緑色の体色、ちょいと尖った耳や鼻はゴブリンそのものだった。だったんだが・・・ありゃなんて言えばいいか・・黒い触手の様なものが腹や背から食い破っていたし、なにより片腕が黒く染まって異常に肥大化していた」
そういって足を組み―とは言ってもがっしりとした体形なので右足のくるぶしを膝の上に乗せる程度―組んだ膝の上に肘をつき頬杖をつく親方は、紫煙を吐きながらパイプを持つ手を銀二に向ける。
「戦闘した冒険者が言うには、非常に狂暴なうえに近くにいた同族すら巻き込んで暴れまわっていたって話さ。ゴブリンとは思えない膂力に、胴体から伸びる触手がゴブリンの意思とは関係なく攻撃していたってのも言ってたから何かに侵食されたってことも言ってたな」
「何かに侵食された・・ね。
「ああ。おめぇさんも巡礼の旅なんだろ?もし旅の途中で見かけたなら逃げるこった。さっき話した冒険者は上位冒険者、しかも魔物討伐で飯を食ってるモンスターハンターだ。そいつらが体中に傷を作りながら戻ってきたんだ。逃げて近くの町の冒険者ギルドに応援を呼びな」
「おう。命あっての物種とも言うし、無理はしねぇよ」
銀二がそう言えば親方もその強面をニカッと崩し、最後に紫煙を吐き出すと椅子から立ち上がる。
場もお開き、とばかりに互いに手を伸ばし握手を交わす。
カンカンカン!と先ほど店に入る前に聞いたような、だが町中に響きまわるその金属音―警鐘が鳴り響いたのはそんな瞬間だった。
ストーリーが進んでいるのかわからない(白目)




