9-頭がわれそうだ~-
昼下がりの賑わいを見せる街中を歩き、腹いっぱいになって少しばかり眠気が顔を見せながら銀二とヒルデはついでとばかりに露店で買い物をしている。
「いやぁ悪いわね、荷物持ってもらっちゃって」
「これくらいなら構わねぇよ。ややっこしい話をしてもらうんだし、礼みたいなもんだ」
「ちょーっと研究のために籠ることが多いから食糧ためとかないとつらいのよねー。よし、これでしばらくは大丈夫ね。それじゃ案内するわ」
そういうとヒルデも荷物を抱えなおすと、自らが借りている家に銀二を案内する。メインストリートから1,2本入った路地に面した小さな一軒家に辿り着くと、胸元から紫色の石を取り出し扉にかざすと、奥からガチャリと音が鳴った。
「ほー。そりゃ魔法具ってやつかい?」
「ま、そんなものね。正式には魔具っていうんだけど・・・これについても追々話しましょうか。さ、どうぞ入って。ちょーーーっと散らかってるけど」
「おう、邪魔する・・・・・・」
「?どうしたの?」
「きったねぇ・・・!なんだこの部屋!いや、部屋なのかここ!?」
「し、失礼ね・・・ちょっと散らかってるって言ったじゃない・・?」
「ちょっとなんてレベルじゃねーぞ・・!お前、これよぉ・・・」
「ぎゃあああああああああ!?や、やだなんで私の下着取り出すのよ!!」
「そこに落ちてんだよ!!掃除しろ掃除!」
「ぐっ・・きょ、今日の話が終わったらするわよ・・・」
「あっ・・・(察し)」
どこか生暖かい視線をヒルデに送ってから、何も言わず台所(らしき場所)の(おそらく)テーブルの上のモノをどかしながら荷物をそこにおろす銀二。もはや容赦が必要な相手とは思ってない模様。ヒルデもその辺に荷物を置くと、奥の扉を開き銀二を手招く。
部屋の中はまぁ汚いと言えば汚いが、文献や紙が散らかってるという形で散らかっているという状態だ。その中でバサバサと書類をどかし、ソファーを発掘すると銀二に座るように示した。
「そこ、座ってー。今飲み物用意するから」
「(食器とかちゃんと洗ってるんだろうか)」
「あ、食器とかは洗ってるから心配しないように」
そう言い残して台所(推測)に戻るヒルデ。カチャカチャと食器の音やお湯を沸かす音が聞こえ始める中、ざっと周囲を見渡して散らかった部屋の様子に眉を顰める銀二。
「ま・・・研究職っちゃこんなもんかね。大学に残ったやつとかも似た様な部屋してたっけな」
郷愁の念が過るのか一度目を閉じるが、再び開いたときにはその色は消えていた。そうこうしてる間にトレイにティーカップを載せたヒルデが器用に散らかった部屋をスイスイと進んでくる。
「お待たせ。はい、紅茶だけど大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ。すまんね」
「ふぅ・・よいしょっと。それじゃあ魔法のことについてお話ししましょうか」
「ああ頼むわ」
「そうねーまずは・・魔力についてから話しましょうか。ギンジさんは魔力についてどこまで知ってる?」
「そう大して知ってるわけじゃねぇな。世界中に漂って魔法を使うときに使うってくらいか」
「まぁ多くの人たちはそれくらいの認識だし、ぶっちゃけそれくらいでも十分なんだけど・・・。そもそも魔力というものは二つに分かれるの」
「ふたつ・・?」
「そう。さっきギンジさんが言ったように、世界中に漂っているものが大いなる源、マナと呼ばれるもの。そしてもうひとつは、生物がマナを体内に取り込み自身に溶け込ませる小なる源、オドと呼ばれるもの」
「マナとオド・・・ね。お、案外うまいなこのお茶」
「お口に合ってなによりだわ。・・・話を戻すと、基本的に魔法と呼ばれるものを行使するといった際に使用されるのは小源よ。世界中の空気や無機物といったものに宿っている大源を取り込み、自身の魔力として小源に変換する。これがどんな生物でも行う循環ね」
「ふむふむ・・・。魔力の循環についてはまぁわかる。が、しかし・・どうしてわざわざ小源に変える必要があるんだ?」
銀二の質問に微笑みながら頷くと、テーブルの上の眼鏡をかけて一つの紙を取り出す。
「いい質問ね。これを見て頂戴。魔法を世界に広めた人が書いた論文の写しなんだけど・・・」
「なになに・・?魔力と・・・属性についての考察?」
「そう!魔力の話をするにあたって切っても切れないのが属性についての話よ。この論文によってそれまで曖昧だった属性や属性同士の相関関係が明確にされたわけだけど・・・」
「お、おう・・」
「えーと、脱線しないうちにさっきの質問に答えるなら、大源を小源に変換することで、魔力は初めて属性という概念が付与されるの」
「属性が付与される・・?魔力っちゃ属性がないのかい?」
「そう。大源というのは言ってしまえば無属性といえるわね。だから大源だけでは属性魔法というものは使えない・・とされているわ。実際、自分に魔力を取り込んだら属性が付与されちゃからそのへんは実証した人はいないわ。まぁそれは置いといて、小源の話なんだけど・・・」
そういうと今度は透明な水晶を取り出し、銀二に手渡す。
「これは?」
「世界的に普及している属性判別用の水晶よ。それに魔力を流すと対応した色に光るわけね。ちょうどいいから一回試してもらえる?」
「おう・・・こう・・・か?特に色がつかねぇが・・・」
「えっ・・・?おかしいわね・・・、ちょっと返してもらえる?」
「おう」
「魔力を流せば・・・ほら、私なら茶色の土属性ってわかるわけなんだけど・・・」
「・・属性がないヒトってのはいるのかい?」
「・・・いない、とは言えないわ。理論上の話ではあるけど、無属性の人間というのがいる・という説を唱える論文はあるわ」
「あーなんだ。ややこしいならその話はあとにして、一般的なところから・・・っていうのはどうだい?」
「え・・ええ。えーっと、そうそう小源の話ね。基本的に小源の属性というのは一人につき一種類とされているわ。私なら土属性だけしか使えないっていうことね」
「属性は一人につき一つ・・と」
「この国の冒険者に魔法使いが少ない理由もそこにあるの。色んな属性を持つ魔物と戦うことが多いから、中々臨機応変な対応ができないし、冒険者になるくらい魔力が多いなら宮廷魔術師や王軍の魔法兵になったほうが割に合ってるしね」
「お前さんは・・まぁ帝国出身だからなにか違うのか?」
「そうね。一応国外での肩書は魔法使いにあたるわけだけど、帝国内では魔導技師ってことになるわ」
「ここで魔導ってのがでてくるのか」
互いにカップに口をつけ喉に湿り気をあたえる。語りが長くなって喉が渇いたヒルデと、部屋の埃っぽさが気になる銀二の違いがあるがあえて口にはしない。
「ふぅ・・。さてと、それじゃ魔法と魔導の違いってとこだけど、そうねー・・魔法は文字通り魔力に法則を与えて事象を起こすもの。例えばファイアーランスという魔法があるけれども、これは魔法使いが自身の火属性の小源を魔法陣や呪文の詠唱によって法則にあてはめて、炎の槍という形に編むという流れになるわ。ここまでは大丈夫?」
「ああ、なんとかイメージはつく」
「それは重畳。それに対して、魔導は特定の道具等を用いて、魔力を触媒に現象を起こすもの、といえるわ」
「あー・・?何が違うんだ?」
「大きな違いは使う魔力よ。魔法はさっきも言ったように小源を使う方法。対して魔導は大源を使うのよ」
「大源を使う・・?」
「そう。さっき魔法でファイアーランスという例を挙げたと思うけど、魔法は言ってしまえば術者の思い描いた姿を作り出す技術。魔導の場合は炎の槍なんていうものは作れないけど、炎を放射したり金属が誘拐するほどの熱を産み出す、なんていうことができるの。この杖を見て頂戴」
そういってヒルデが差し出したのは森で放り投げた杖だ。よくよく見れば幾何学的な模様が杖に幾条も走っている。
「これが魔導具の一つ。その試作品だけど、これは魔力を触媒に火や炎を出す仕組みよ。ギンジさん、ちょっとだけでいいから魔力を流してみて。ちょっとよ?」
「お、おう・・・こうか?」
そういって治療の時の様に少量の魔力を流すと、幾何学の模様にまるで血液の様に赤い光が流れていき、杖の先端に火を産み出した。
「おおー」
「うん、これは問題なく作動するわね。・・・さて、ギンジさん。さっき調べたときにギンジさんは属性が無かったわよね?」
「ん?ああ、そうだな」
「でも、今魔力を使って火を作り出した。わかる?これは結構すごいことなのよ?」
「確かに・・・これなら色んな敵が出ても対応できるな」
「その通り。この魔導技術は万人に多種類の属性を扱わせることができるようにするのよ」
「ほほー・・」
「そして魔法と魔導の大きな違いは、その現象が魔力でよってのみ作られているかどうか」
「ん?どっちも魔力を使うんじゃないのか?」
「確かに両者ともに魔力を使うけれども、魔法はそのすべての現象を魔力で賄っているの。つまり、術者の魔力が尽きたり、魔法に込められた魔力が無くなれば雲散霧消といった風に消えるわ。対して魔導は現象を起こす要因の一つまたは複数を魔力で賄うの。そうねー、例えばさっき起こした火だけど、物が燃えるには木なんかの燃える物が必要だし、そもそも火種が必要よね?」
「(ついでに酸素なんかもそうなるか・・・。火力が必要ならガスみたいなのも作ってるのかね)」
「焚火の時に薪は用意して火種は魔導具でつくる。そうした場合、魔法とは違って火は燃え続けるの」
「ふーむふむ、なるほど・・(一から十まで魔力で起こすのが魔法、魔導は一部を魔力で代用した物理現象ってとこか)」
顎髭ジョリジョリしながら思案顔で納得していく銀二。その銀二の様子を見ながら紅茶を飲むヒルデ。その視線は銀二・・というよりは銀二の黒杖に向けられている。
「・・・ねぇギンジさん」
「んー・・?おう、なんだ?」
「ギンジさんのその杖ってもしかして・・・」
「お?あーうん?」
「もしかして・・・黒鉄で作られてるもの?」
「お?おーたしかそんな素材だったような・・・」
「やっぱり!!ねぇ、それどこで作られたものなの!?」
椅子を後ろに倒す勢いで立ち上がったヒルデは銀二の襟につかみかからんばかりに身を寄せるが、銀二も背もたれに全力で寄りかかりながら体を引く。
「待ぁて待て!これも貰いもんなんだよ!俺にだって誰が作ったのかなんて知らん!」
「あ・・・ご、ごめんんさい。つい興奮しちゃったわ・・・」
「その・・なんだ。クロガネとかってのはそんなすげーのかい?」
「すごいのはすごいけど・・・別名鍛冶屋泣かせの素材、またの名を黒いゴミ」
「ご、ごみ?」
「世界で一番固くて、世界で一番錆に強くて、世界で一番熱に強い。さらに言うなら世界で一番重い金属よ。おまけにほかの金属なんかと結合しやすいらしくて、炭鉱で掘ればすぐに出てくるわ」
「そこまで聞けばまぁいい金属なんじゃないのか?」
そういうとヒルデは重い重いため息を一つ吐く。
「精錬所で溶かせばほかの金属が溶けても黒鉄は残るからある意味では精錬しやすいわね。けど、幾ら熱しても黒鉄は溶けていかない・・・。鍛冶職人が熱してハンマーで叩こうが全く形が変わらないのよ?いくら素材としてよくても形が整わなければ意味がないわ」
「ほー・・・」
「そのはずなんだけど、今私の眼の前に杖として存在している。これ以上驚くことはそうそうないわよ!」
「ほー・・・」
「もしそれについて詳しい情報があるならいつでも言ってね!」
「お、おう・・わかった・・。」
他人にペースを取られることが少ない銀二が押された珍しいシーンであった。




