火事
遅れて大変ごめんなさい
朝。いつものように目が覚めたソルは、少し異臭がすることに気が付いた、気になって外へと出てみると、それはすこし遠くの山での山火事のようだった、パキパキと大きな音を立てて燃える木々に
「早く川の水を持ってこい!!魔法でもなんでも、とりあえず水をこっちに寄こせ!!」
と、近場の村の自警団らしき人たちの頑張る怒声が聞こえる。ソルは何時ものように顔を洗い、持ってきたタオルで顔を拭う。そして。
「“騰水”」
顔を洗った川に手を入れ、山火事との距離を測る。そして一気に手を水に沈ませると、山火事の場所、その近くから、大きな音と地割れとともに、水が吹き出してきた。
その水は意識を持ったかのように火事の火を消すように散布し、すぐに山火事は消え去った。近くの自警団の人たちはぽかんと口を開き山火事の跡を見ている。
「・・・ふぅ。今日も一日、謙虚に生きましょう!!」
ソルは清々しい顔で顔を上げ、笑みを溢した。
…その後ろにキラリと光る眼光2つ、ソルはそれに気づかなかった。
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「お願いします!私たちの村を救ってください!!」
「…は?」
ここはソルの家から少し上に行った山火事の現場、その後の経過を見に来たソルに、突然声が掛かった。
「えぇ…と、君は?」
背丈はソルと同じぐらい、何故か少し頭の上の方が膨らんでるフードを深々とかぶり目元まで隠している少女にソルは驚き、声を漏らす。
「あ!…っご、ごめんなさい!名乗りもせずに…私、ウィズといいます。隣の村…と言えば良いのでしょうか…、そこから来ました。」
「隣の村?それは自警団の人たちの街のところ?」
「いえ、そこより少し離れた村です。」
「えっ、そんな場所には村なんてない気がするんだけど…。」
ソルはこのあたりの地図をあたまに広げるが、そのどこにも少女の言う村は見当たらない。
「…そうですね、その認識であってます。…少しこちらへ来てください。」
途中でソルの耳元で囁くように言って現場から少し離れた。人気がないところへ連れて行かれた、ソルは少し不安が募る。だが少女はフードから出てるもみあげをイジイジと触り、少し頬を赤く染めている。
「あの…それでですね?お話の件なんですが…。」
「うん、やっぱり何度思い返しても村なんて無いと思うんだけど。」
「…えぇ、そうですね。とりあえず、これをご覧ください。見れば貴方ならすぐにわかると思います。」
そう言って、キョロキョロと周りを確認し始めるウィズ、誰もいないことを確認すると、そろぉりとフードを取った。そこには、先ほどまで不自然に膨らんでいたフードの正体が現れた。
「わぁ…。猫耳。」
そこには、人間にない耳が生えていた。
「はい、…私は“砂猫族”、獣人です。村の存在をご存じないのは、私達の村は隠れ里なので、当たり前なのです。」
「へぇ!獣人ってまだ生きて…いや、ごめん。言い過ぎたよ。」
「…いえ、そのお年でそのことを知っていて、恥じる事ができるのは素直に尊敬します。…ご存知の通り、私達は魔獣との戦争に負けてなお、生き永らえているものです。最も他の種族ははほんの僅かにしか知りませんが。」
そういうと少女は、再びフードを目深にかぶった。
かつてこの地の至る所に存在していた“獣人”それが今や“魔獣”という存在が現れてから、目に見えて存在が消えていったことを覚えている。その中で“砂猫族”、彼らは俊敏に動ける体、そしてある“特有のモノ”によって、いち早く戦線離脱し、身を隠したことは世界中から好意的に知られている。“何と言う素直な種族なのだろう”と。
「うん…それで?その獣人さんが僕に何の用なの?」
「あ!そうでした!!私の村を助けてくだしゃい!」
ソルの言葉に慌てだし、急いで頭を下げる少女、そのせいか少し噛んでいた。緊張した顔だったのに気が緩む。
「うーん…でも僕みたいな子供に助けられるものって何?」
ソルは魔法さえなければただの少年である。魔素はもともと他の人には見えないし、魔法はバレなきゃだれが打ったかわからない、そういうものなのだ。ソルは“騰水”を撃ったとき近くに人はいないと思っていたため、ただの子供として話を進めようとしていた。
「ご存知かと思いますが私、というより、砂猫族の固有魔術は“隠密”です。だから見てました。あなたがあの山火事を鎮火させたことも、その前の不思議な刀の事も。」
先程言った“特有のモノ”というのが固有魔術だ。固有魔術というのは獣人族の持つ特に優れている魔術だ、これは種によって違く、多種多様の魔術があるが、人間に理解できる魔法は少なく、使えるのは種の獣人のみの魔法となっている。
「…なるほど、僕の魔法を見たから話しかけたのか。じゃあ、何を助ければいいのかな。たぶん、大抵のものは助けられるよ、。」
「ありがとうございます…それで、報酬。のお話なのですが…。」
「報酬…?別に何もいらないよ。」
「はい…って、えっ!?」
ソルがしれっと答えた問に対し、ウィズは驚きの声を上げる。
「それで、何を助ければいいの?」
呆気に取られている少女は我に返り、しかしさっきより訝しそうな目をしている。
「すみません、少し確認させてください。・・・本当に報酬はいいのですか?」
「うん、別に今欲しいものなんてないし。」
「失礼を承知でお伺いします。それは、『いざとなった時』の言い訳ですか?」
「・・・あぁ!なるほどね。」
この少女には、ソルの言葉は『報酬は要らない、最悪僕はこの村をあきらめて逃げるからね』と言っているように聞こえたのだろう。
「ごめん、ならこうしよう。報酬は終わった仕事量でこっちで決める。だからまだ要らない。…これならいいかな?」
「・・・わかりました。信用させてください。」
ウィズの縋るような、消え入りそうな声で彼女は言葉を紡いだ。その声から事の重大さが見て取れる。ソルは少し優しい口調で話しかける。
「大丈夫。」
「・・・えっ?」
「大丈夫、僕は絶対。約束を守るよ。」
ウィルの顔を見て、安心させるようにソルは笑った。その行為に、ウィルも少し笑った。
「ありがとうございます、勇者さま!。」
「ゆ…勇者さま?」
「はい!獣人である私の村を助けてくれると言ってくださったのは貴方以外いませんでした、貴方は私の勇者様です。」
それにそのぉ・・・お名前を聞きそびれてしまいまして。と小声で付け加えるウィズ。ソルは溜息を零した。
「とりあえず僕の名前はソル、よろしくね。あと勇者様って言うのはやめよう。僕にはあんな器は持ってないよ。」
「?わかりました…。」
ソルが少し曇った顔になってしまった。その理由がわからないウィズは顔に疑問を残したまま肯定した。
「それではソル様。村の今の状態についてお話いたします。」
そういってウィズは、次のことを話してくれた。
1つ、最近近隣の村で子供が攫われていること。
1つ、その時期から、村では大人子供かかわらず、減ってきていること。
1つ、獣人は今では珍しく、人身売買ではかなり高値で売られること。
この3つから、最近起こっている『人攫い』に攫われているのではないかということを、ウィズは話した。
「『人攫い』かぁ、厄介なのがこの辺に来たねぇ。」
「はい、親身にしていた他の人間の村にも『お前らがやった』と難癖をつけられ拒絶され、今村では飢饉の苦しみもあります。」
「なるほど、とりあえず村の現状を詳しく知りたい。村に連れてってくれないかな?」
「わかりました。ですが…。」
「わかってる、これ以上損害は出させないよう、他言無用にするよ。」
「ありがとうございます!!」
ウィズは嬉しそうに笑顔を見せ、先導していく。
「そういえば、何でウィズは獣人は高値で売られてるって知ってるの?」
ふとした疑問を思い出し、ウィズに話しかけた。
「それは…その、私、一回売られてるんですよね。捕まって。」
「えっ・・・。」
「村の外で木の実を取ってたらいきなり麻袋を頭にかぶせられて、魔法で眠らされて、気づいたらオークション会場に…。その時同い年くらいの女の子と比べて、遥かに高かったんですよね。私。」
アハハと笑う少女。ソルはそれに少し怒りを感じた。
「笑い事じゃないよ!大丈夫だったの!?どこかケガとかさせられた!?」
「だ、大丈夫です。私を買った人間は優しくはなかったですが、そういうことはしませんでしたし、なぜかすぐ私を返してくれました。」
「・・・返した?」
「えぇ…『こんな使えない愚図は要らないよ!!他の子を買うんだったわ!』なんて言われていまい…。」
「……急いで村に向かおう。嫌な予感がする。」
言葉を少しかぶせ、ソルは歩き始める。ウィズはそれを見て急いでソルの前を先導する。
しばらくすると、黒い煙が上がっている場所が現れた。先程の山火事よりは規模は小さいが、煙からしてしばらく燃えてたことが予想できる
「えっ…!?」
ウィズはその場所のことで呆気にとられ立ちすくんだ。対象にソルは嫌な予感が的中したことに舌打ちをしながら、煙の方向に走る。
「くそっ!“天水”!!」
ソルが魔法を唱えると近くの川から勢いよく水が空へと向かっていき、一定の高さから降り注いだ。それは一気に煙の中心に降り注ぐ。
「“浜凪”!!」
魔法を唱え腕を払う。すると何処からともなく。暴風にも似た風が吹きすさんだ。お陰で煙をある程度吹き飛ばした。
「走ってウィズ!!せめてもの生存者を助けるよ!!」
ソルは走りながらウィズに怒鳴った。その勢いでハッと我に返りソルの方に走り始めた。
ソルは肉体強化の付与魔法を自身につけ、思いっきり加速する。
そして、たどり着いた先に。地獄を見た。
「・・・。」
そこは“もう何もなくなっていた”、生存者など到底いるはずもなく、ソルはその場で息を呑む。
「ソル様!!待ってくださ…」
「来ないでウィズ!“黒蝕”!!」
言葉を遮る。そして、ソルは黒霧をウィズの視界に混ぜ、遮る。
「…ウィズ良いかい?いま、君の目の前に、君が知っていいつもの日常とはかけ離れた事が起きている、気が触れてしまうかも知れない。そしてそれを引き起こしたのは君かもしれない。」
「えっ…。」
「でも僕は君を助ける。だから、落ち着いてくれるかな?これから見る物も冷静でいられる?」
「・・・善処します。」
「…まぁ無理でも僕が止めてみせるよ。…覚悟はいい?」
「・・・大丈夫です。」
「ありがとう。黒霧、晴れていいよ。」
さぁぁっと晴れた霧。晴れていく度にウィズの顔は絶望に染まっていく。
「そ…ソルさん・・・こっ、これ。」
「たぶん、君を買ったのが“魔術師”の端くれだったんだろうね、見事に追跡された。」
ソルは淡々という、だが内心は怒りに震えていた。
疲れた・・・とても疲れた。この度は投稿が遅れてしまい申し訳ありません。
理由が私事過ぎてさらに罪悪感が・・・出来れば遅れたくなかった…。
次からはこうならないよう気を付けます。