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勇者は 自重を 覚えた !!  作者:
始まり
5/9

想いの違い

「ははっ!やっぱお前がこの洞窟主だったか!!」


眼前には妖艶な女性が、後ろの紙を守るように立っている。その顔は恐怖に怯えていた。


「流石勇者といったところかしら?いったいいつから私だってわかってたのかしら?」

「あぁ?そんなのお前・・・。」


口元が裂けたように笑う。対象に女性はさらに表情を強張らせる。


お前が倒れてた時から(さぁいしょから)に決まってんだろうが。あそこはダンジョンの地下40階だ。あんな場所に女一人で?倒れてる??仲間に見放されただぁ?その実力で!?…ハハっ。どう考えても()()()()()()()。もっとマシな言い訳を考えておけよ、あんた。」


「っ…!()()()()()()っていうのに、随分な物言いね貴方。」

「あ?あぁ…。」


つまらないこと聞くなよと言いたげに深いため息をはく。


「あん時さぁ、一回でも俺あんたの名前呼んだ?さすがに俺も本名じゃ無い奴の名前呼びながらはイけないわ。」


チッと舌打ちをする女性。それを見てソルは嗤う。


「・・・いいね、いい顔をし始めた。ここに来て初めて見せた表情だ。今なら殺せるかもって思ってるか?」

「…無理でしょうね、この部屋、この最下層は私が有利になるように強力な結界で私の力を増幅させてるのに、それでも貴方の魔力に敵わない。でも。」


覚悟を決めたように彼女の目が据わる。ソルの口もどんどん裂けていく。


「ここで貴方を止めなきゃ、私たちの創造主(あのおかた)達のところに行くんでしょ…!!」

「いい表情だ!俺も全力をもって応じよう!!それに俺も確かめたいことがあんだよ!!・・・()()()()()()ってのをなぁ!!」


「戦火の果、光さす道しるべ、消えぬ栄光をここに誓わん。この力『民』の為に。“戒刃”!!」


右手を腰まで下ろし、一閃薙ぐ。するとその右手には白輝(しらきみ)に光る白刃が何もないところから出現した。それはここまで戦ってきたすべての者への安寧を願い進む道、消えることのないこの白輝(しらきみ)の輝きの誉れ、『民』と呼ぶに相応しい覚悟を持つ相手を称え、天へと還す祝詞。ソルが作ったものだった。


「さぁ、始めようか。此処から俺の、漸減人生(リスタート)だッ!!」


ソルは吼え駆けた。本能がそうしろと叫んでいるかのように。


「くっ・・・!!来な!“朱雀”!“白虎”!」


彼女が唱えるとたちまち両隣には羽が燃えている大きな赤い鳥と、それと同じくらいの大きさの黒い模様が入った虎を呼び出した。


「ハッ!“略式詠唱”何かで止められる。なんて思ってるわけじゃねぇよなぁ!?」


刃片手に走り出したソル。一瞬で朱雀の前に行くと、その首目掛けて刃を振るった。しかしその攻撃は首を捉える前に横から来た白虎の爪を弾くことになった。普段の魔獣なら触っただけで消えていくその刃を弾いてもなお煌々として煌めく爪に少し怪訝な目をするソル。そして空中で無防備な体制になったソルに対し、朱雀は灼熱の炎を吐き出す。寸前にソルは白虎に刃を当て無理やり朱雀にぶつける。炎は寸前で軌道をずらし、着地したソルの地面の横をドロドロに溶かした。


「当たり前でしょう!!慣れ親しんだ魔法に長い祝詞は必要ないの。知ってるでしょ?」

「なるほどな!確かにそんなこと言われた気もするわ…!!」


次々に繰り出せれる息の合った連携を避け、捌きながらも、ジワジワと後退させられていくソル。そしてついに壁に背中がくっついてしまった。二匹は一瞬距離を離した。白虎は勢いよく飛びかかり、ソルをその爪で抉らんとする。朱雀は白虎の爪に炎を吐いた、それは消えることなく爪に纏わり、より一層死線が見える。


「貴方の行動は全部予測済みよ!!力で勝てないなら小手先で押し切るまで!!」

「へぇ…頑張ったじゃん。」


ソルは真顔のまま溜息をこぼした。


「でも3点。面白かったけど、それ以上に言う言葉が見つかんねぇよ。」

「ふふ…口では何とでもいえるものね、さぁやっておしまい!!“朱雀”!“白虎”!!」


鈍い金属音がした。ソルの体は三つに裂かれ炎上し、後ろの壁にも大きな爪跡が溶けながら抉られた。その様子をじっくり観察し、女性は勝利を確信した


「…ふふっ。大口をたたいていても所詮はこの程度なのよ、勇者様。召喚魔法を極め、神獣すら操れるようになった私には敵わなかったようね!!まさに・・・。」

「…“井の中の蛙”ってか?あぁ確かにそうだな、この洞窟、こんな暗くて狭い場所にいたんだから、そうなっちまうてもんだ。お前も、俺も。」


不意に聞こえた死人の声。よく見ると先ほどの場所には何もなく。嫌な静けさが漂っていた。注意して辺りを見回すも何も見えず。空耳かと安堵した。直後。

…直後、二匹の神獣の首から上は重力に倣い。ボトリと地面に落ちた。


「…えッ。」


目の前には死んだはずのソルが居た。何もわからないまま立ち尽くす女性にソルは光刃を貫く。


「何も理解できないってワケじゃないだろ?()()()()()()()使()()()()()()()()()。」


そういって、斜め後ろに刺していた刃を向ける。そうするとそこには先ほど刺したはずの女性が苦虫をかみつぶしたような顔で刃先を見つめていた。


「なんで貴方が…その魔法を!?」


その言葉が聞きたかったとばかりにニヤリと笑うソル。


「いや何、あんたの魔法はこの地下で嫌ってほど見せられたからな。少し参考にさせてもらった。いわゆるコピーってやつさ。」

「魔法の…模倣!!?ありえない!!!」


女性の顔が驚愕に染まる。


「ありえないって言ったって、それが真実だ。それ以外に言いようがない。」

「いいえ無理よそんなこと!私は原理はおろか属性すら教えてないのよ!!?」

「あぁ、そこが理解できな(わかんな)くてなぁ、『火』で合ってるか?」

「違うわ『地』よ!!それにあれは微かに存在を其処に残せて自身の存在を隠す魔法よ!しかも今、自分が強化されてるから使えるだけであり本来は緊急回避なんかには到底使えないわ!!」

「あ、そうなの?じゃぁこれは完全俺オリジナル。名前は…。そうだな、“影狼(かげろう)”だ。

原理としちゃ簡単なんだぞ?まぁ原理がわかんなかったからな、主な属性は『火』何だが、『天』の属性も混ぜさせてもらった、一瞬で浮き、そのまま重力を使い切り落とす。」


ほら、簡単だろ?と言いたげな口調、表情に彼女は恐れ慄いた。本来魔法は祝詞がある特性上、コピーなんてする前に正規品を覚えた方が早い、ましてや創るとなると、熟練の魔導士たちが一年掛けてようやく祝詞の一節が完成するというとても時間がものである。それをこの男は時間間隔が洞窟で正確に分からないものの、短くて数日、長くて数十日の中で完成させたというのだ。


「ば…化け物・・・。」


口から自然と漏れ出した言葉、彼女の本心からの言葉だった。それを聞いたソルは一瞬きょとんとした顔をして、空いてる左手で顔を覆いクククと笑った。


「あぁ、あの世で覚えとけ、()()()()()がこの世界のすべてを諦めたもの(勇者)だってなぁ!!」


光刃を強く握りしめる。魔素を必要以上に注ぎ込み、青白い光になった刃を一文字に首を切る。天へと送る県では血は出ない。だが初めてソルは人を殺した。


「…。」


殺人への後悔、()()()()()相手を殺した悲しみ、そんなものは一切沸いてこなかった。高揚感も倦怠感も、狂気も恐怖も喜びも悲しみも。何一つとして沸いてこなかった。あるのは倦怠感、強敵と闘ったという理由の倦怠感だけしか、ソルにはなかった。


「化け物。か、ハハッ、その通り過ぎて何も言い返せねぇな。」


~~~~~~~~~~~~~~~~~


随分と長い夢だった、気がした。だがソルは何時ものように何時もの時間に起床し、顔を洗いに外に出る。


だが今日はそんな気分じゃなかった。気持ち悪いなんてもんじゃない。初めて人を殺した感覚を、壊れていない精神のまま見たのだ、しかもその前には強敵との戦闘もあった、心臓は今にも破裂しそうなほどバクバクと音を立て、息はマラソンを走り切った後のように速い。


(体を洗おう…汗ばんでて気持ち悪い。)


そう思い、数分かけて立とうとするソル、やっとの思いで立ったところで、吐き気に耐えられず吐いてしまった。だが今はそんな物より冷静になりたかった。



(何だあれは…どこまで堕ちればあんな簡単に人を殺せるんだ!…いや分かってる。十分分かってるさ。)


ソルは彼の記憶を見れる。だからなぜあんな風になってしまったかも十分理解している。だが手に残る切った感覚。彼には残らなかった感覚が、いつまでも手から離れない。


やっとの思いで水浴び場に着く。思いっきり体に冷や水を浴びせた、幾分かは冷静さを取り戻したが、いまだに手の感覚が取れない。


(僕は彼のことわかってた気になってただけなのかな…。)


そんなことはない、わかってる、これは価値観が違くなってしまったから、だから彼は平然と人殺しをやってのけた。それだけである。わかっているさ。


「…。あの魔法、あんな意味があったんだね、っていうか、僕がつけたんだね。なんとまぁ、素直な祝詞をつけたものだ。」


気晴らしに違うことを考えた、魔法の祝詞だ。この魔法は僕では到底使えないな。そう思ってしまうほどにこの魔法にはソルの素直な気持ちが入っているのが分かった。これは彼にしか使えない祝詞、純粋にそう思えた。


「・・・。あっ、そうか、あれは“殺し”じゃなく、彼にとっては“救い”だったのか。」


冷や水を頭に浴びてしっかり冴え渡った頭。そして祝詞の意味を理解した時、ソルは彼に。彼にはもう何もなかった、人々を守りたいとなんて全くなかった、神なんてもってのほか。そんな彼が『勇者の責務』を果たそうと、『人々を救おう』と思ったとき、()()()()()でしか救えないと考えたのだろう。


ソルは彼に対し畏敬の念を抱いた。彼は『人』を、『神』を『世界』を恨んだ。それでも『勇者』として、恨んだ世界を救うため、その手に剣を取った。僕には到底できないと、ソルは思う。


「僕だったら、そうだなぁ。『繁栄の礎、(たいせ)届かぬ闇までの道筋(つなみんなを)絶えず終わらぬ幸福(ひとりでもまもれ)をここに誓わん(ますように)。この力『友』の為に。“栄刀(えいとう)”』…とかね。」


ハハハと笑いながら頭をかく。自分には彼と違いその手ですべては守れない、でももし守れるのなら、その時は喜んで力になろう。そんな綺麗事をほざいた自分を嗤う。その手の逆の手。なぜか少し重たい。…ん?重たい??何で?、ゆっくりと右手を上げる。そこには。


「…嘘でしょ。」


呆れて笑い声が出てしまった。自分も体外化け物だったらしい。その手にはソル=フリードの刃より長い、刀のような紅い光が握られていた。


「えぇ…。自分で祝詞作っちゃうくらいだしいいのかなって思ったら案の定だよ・・・。でもよかった、変な意味をつけなくて。」


その祝詞には自らが出した勇者へのあこがれと『彼』という元勇者の存在に対する気持ち、そして守るべきものにこの力を使いたいというソル=ライオネットの『気持ち』が込められている。だから、そる=フリードの“戒刃”は姿を変え此処に顕現した。


「・・・たとえ僕はどんなことがあろうと人は殺せないんだろうな。でも、僕が犠牲になって助かるなら、喜んで犠牲になろう。皆には見えない暗い道にいる人も、僕が助け出せるなら助け出そう。悲しんでいる友達がいるなら、いくらでも力になろう、なんたって僕は、『勇者様()』の記憶をしっかり受け継いだ『勇者もどき(彼のなりかけ)』何だから!」


朝日が上る、手にはまだあの感覚が残っている、だがもう大丈夫だ、(ライオネット)(フリード)の気持ちを理解したうえで乗り越える。そう決意した。


「さて、今日も一日、謙虚に生きましょう!」

前回のソル=フリード君の豹変の理由、弱いですかね?気になるのでまた書き直すかもしれません。何卒コメントをいただければ。

後今回「体を重ねた」と入れましたがこれはフリード君が「そこまでしても人を信用しない人」ということを強く表現しようと思った結果です。下ネタ嫌いな人にはごめんなさい。此処も書き直し対象です。コメント待ってます(笑)


今回ソル=フリードとソル=ライオネットの意見の違いをはっきり分けるのがすっごい難しかった…、もう少しいい言葉が出てきたら、またそのうちシレっと全部書き換えます。

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