力
もくもくと白煙が舞い起こる。それは一瞬にして切り払われた。
「…一体、何が起こったんです?」
煙を払ったのはアニー先生だった。そしてその凜とした声が静寂を切り裂く。
「ソルが…ソルの魔法で…。」
微かに声がした方を向く。そこには、恐怖という文字が合う程顔が真っ青になり、腰を抜かし座りこんでいるリーゼリットがいた。アニーはすぐさまリーゼリットの近くに行き、ぎゅっと抱きしめる。
「大丈夫ですよ、まず深呼吸しましょう。そう、ゆっくり…。」
優しく抱かれるリーゼリットはじわじわと瞼に涙をためていき、遂に泣き出したしまった。アニーは背中を軽くさすりながら当人に問いかける。
「…ソル君、一体何があったのですか?」
「…すいません、僕にも何がなんだか。」
「そうですか…では、この20分間の出来事を出来る限りでいいので思い出していただけませんか?」
「…わかりました。」
そう言ってソルは20分前に思いを馳せる。
「あれは確か……………
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「ーーー“火炎”!!」
勢い良く放たれる小さい炎、それはリーゼリットの手元を離れ、5m先ぐらいで消えていった。
「やった!どうソル?私だってこれぐらい出来るんだから貴方にも出来るわよ。」
「うん、リズちゃんは凄いね。」
「そう?フフッそうなのかな?」
リズを褒めながらも自分は魔法を打たないソル。それは決してめんどくさいからという訳ではなく、制御のやり方をイマイチ理解しきれてないからである。
(撃てば一発で分かる感じはするんだけど、一撃が大き過ぎる気がして撃ちたくないんだよなぁ…)
だからソルは傍観に徹さざるを得なかった。だがリズが喜んでいる姿を見るのが好きだった。だから、ソルにとってはその時間はなんの苦痛でもなかった。
「おいソル、なんで魔法撃たねぇんだ?」
…この特異点が来るまでは。
「…やぁ、シグくん、別になんの意味もないよ。撃ちたくないから撃たないだけ。」
シグ=ジド。クラス一の悪戯っ子、もとい悪ガキ。同じクラスの奴らだけでなく、先生にまで悪戯を仕掛け、日々怒られている。
「へぇ?ホントにそうなのかぁ?」
「うん、ちょっと気分が悪くてね、でもリズちゃんが近くにいてくれるから、心配いらないよ。」
「…ホントお前はリズリズうるせぇよな。付き合ってんのかよ。」
「…馬鹿なこと言わないでくれる?あと私はあんたにリズ呼びを許した記憶はないけど?」
リズは唯一、このクラスの中でシグにだけ嫌悪感を直接向けている。リズ呼びを許してないのもその一環だ。
「良いじゃんよ、他の人には呼ばせてるんだから俺が呼んだって。」
「嫌よ。貴方なんかには名前すら呼ばれたくない。」
「まっ…まぁまぁ二人とも落ち着いて?…それで、シグ君は何のようで来たのかな?」
いがみ合う二人を制止し、ソルは問いかける。ハッとしたようにシグはソルの方に向き直った。
「そうだ、ソル。お前と魔法勝負をしに来たんだ。」
「……魔法勝負?」
「そう、魔法勝負。ラインを決めてその場所から魔法を撃ち、どっちのが威力が出るかの勝負だ、簡単だろ?」
「でも僕、具合が悪くて…。」
「へっ。どーせ言い訳だろ?ホントは魔法なんて出せないんじゃねぇの?」
「あなた何勝手なこと言ってるの!?」
リズは声を荒げた。だがシグの言葉は止まらない。
「リズが5m程度だったんだ、お前なんか3mとかしか飛ばないんだろ?」
ピクッと、ソルの眉が動いた。そして顔を見られないよう伏せる。
「…5m“程度”?」
「俺はその倍は行けるぜ?それに比べたら5mなんてヘボいヘボい。」
「なるほど、気が変わったよ。さっさとやろうか。」
伏してた顔を上げ、満面の笑みを浮かべるソル、だがその笑顔は貼り付けたものであり、見るからに怒気が混ざっている。シグは一瞬気圧されながらも、鼻で笑った。
「…はっ、いいぜ、そう来なくちゃ!」
「でもちょっとルールの確認をしたいな、ラインっていうのは二人とも同じじゃなきゃだめなのかな?」
「あー…いや、普通はそうなんだが、今回はお前は俺と一緒のラインじゃなくてもいいぞ、ハンデハンデ。」
見るからに馬鹿にしてるシグ、リズはオロオロと二人の顔を見回している。なんと声をかけたらいいのかわからないのだろう。
「ありがとう。先行は君に譲るよ、お手柔らかにね。」
「そうか?じゃあ遠慮無く。」
シグはそう言って小走りで向こうの壁まで行き、大股に歩きながらおよそ10m程の距離で止まった。
「うっしゃ行くぜ!…その灯は永遠なりて。“火炎”!!」
その炎は勢いを保ったまま直線に向かい、壁にあたり大きな衝撃音がする。パラパラと音を立て軽く崩れる壁に向かってシグは吠えた。
「ハハッ!どうだソル?これを見てまだやろうってか?」
「うん、すごいいい攻撃だね。」
実際にシグの魔法はソルの予想以上だった。シグの得意分野は『炎』だったのだろう。炎に関していえば同年代で類を見ない程度といっても差し支えない。…が、今回は相手が悪かった。
「じゃぁ次は、僕の番ね。」
そういってソルは同じように距離を測り始めた。その距離が10mを超えたあたりでシグが顔を顰める。15、20と進んでいき、ついに反対側の壁に当たった。
「僕はここからでいいかなぁ?」
口に手を当てて音を増幅させるソルに、シグは勝ち誇ったような顔で返した。
「全然問題ないぜ!」
実際シグはこの時価値を確信していた。ソルはそのまま逃げだすと思っていたからである。だがその余裕を、結果として呪うことになる。
「じゃぁ危ないからリズちゃん、シグくん僕の後ろにおいで。」
怪訝な顔をするシグ。逃げ出すと思って近づかないようにすると思っていた。リズは無言で立ち止まるシグを抜き去り、ソルの後ろの岩に座った。シグはそれを見て我に返り、ソルの横に立つ。
「じゃぁやろうか。…。」
ここで思い出してほしい、前世の彼、ソル=フリードが最初に使った魔法を。ソルは小さく息を吐き、覚悟を決めて右腕を前にだす。その身には大切な人を馬鹿にされた怒りをもって。
「太陽は地に落ち、海は赤に沈む。亡くなった空の境界消えることのない咎。すべてを染めろ“黒天”」
“黒天”炎系魔法が特異な者でも、見たことがないと言われる原点魔法の最上位。ソルは基本的どんな魔法も使いこなす、だが好き好んで使っていた魔法が唯一この魔法だった。『通常詠唱』で唱えられた“黒天”はソルの小さな右手に収まるぐらいの大きさになり、ぐっと軽く押し出すと、徐々に速度を上げながら前に進んいく、それは進むごとに大きくなっていき、濃密な魔素と深淵にすら見える黒い球体は、見る者の生気を少しづつ吸い取り大きくなっているように見えた。
そしてそれは壁に当たる寸前一瞬で縮んででいき、直後大爆発を起こした。
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「シグくんと魔法対決を行ったんだけど、僕の魔法が暴発したみたいに威力が高くなっちゃって、それで…。」
ある程度の真実と虚偽を折り混ぜた、どうせほんとのことを言っても信じてもらえないだろうから。
「…暴発ですか?」
「うん、初めて撃った魔法だったからかな?」
「…そうですか。…感情の高ぶりなどでも、威力は変わります。ですがそれは、自分も危険な目に合う恐れがあります。言わなかった先生も悪いです。だから、ごめんなさい。でも、つぎからはしっかり注意していきましょう。」
そういって優しく抱きしめてくれる。その時、頭に痛烈な痛みのようなものが入り、眩暈が起こる。立っていられないほどの眩暈に意識が闇に落ちた。
今回はこちらの事情により随分と短くなってしまった気がします・・・。
なので次回はなるべく長く書けるよう頑張ります!
次回から物語が少しづつ動いていく!・・・といいなぁ。
ではまた一週間後に!