目覚め
夢を見ていた。
銀髪の少年と茶髪の少年三人が、ダンジョンの地下へと進む夢だ。先頭を進む銀髪の少年は薄汚れて、対象的に茶髪の少年等はキレイに着飾りニヤニヤと少年を笑っている。
「ね…ねぇ、っもうやめようよ。」
「うるせぇ!!ここまで来たんだ、お前だって俺たちの仲間にしてほしいだろ?」
「それは…そうだけど…。」
「じゃぁ黙って俺たちのいうことに従えよ!」
ドカッと思い切り足をけられる銀髪の少年。痛みで怯える姿を見て後ろの少年たちは笑い声をあげる。
「ーー様ぁ。この辺でやめといてあげればぁ?」
名前のところがうまく聞き取れなかった。
「そうだよ、勇者様メチャクチャビビっちゃて可哀想じゃないですかぁ。」
ケタケタと笑い声をあげる少年たち、対照的に銀髪の少年はびくびく震えている。
「おいおい…まだここは27階層目だぜ?そりゃ子供の俺たちからすれば結構進んでる方だけど、父さまたちに比べれば半分も行ってないぞ、なぁ勇者様?お前だって『まだまだ全然』余裕だよなぁ?」
「…うん。」
「だよなぁ?よし、じゃあ気を取り直して、どんどん行こうか!」
肩に手を回され、軽く喉を絞められながら頑張って声を上げる銀髪の少年。進もうとした直後、ダンジョンの階層一つ一つが激しく揺れるほどの、大きな唸り声が轟いた。
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(…転生前の僕は今と変わらず人の名前を覚えるのが苦手だったんですね。)
ソル=ライオネットは物憂げな表情で浅い眠りから覚醒した。他にはまだ誰も起きておらず、ソルはいつものように外へ顔を洗いに行く。あんな夢を見始めるようになったのはずいぶん最近の話だ、五日前くらいならまだ優しい夢だったのだが、ここ最近の夢は…、控えめに言って酷かった。今日のはまだ優しい方と考ええてもいいくらいである。勇者だと予言で知らされてから、周りの者の見る目が一遍した瞬間は想像を絶していた。
(疑念と期待、見てくれからの絶望…。ですかね、王様の何とも言えない顔、王子様の新しいおもちゃを見つけた顔もまた鮮明に記憶に焼き付いてる。)
親も次第に厳しくなり、ついには暴力まで振るうようになった、幼少期の時点で、自分の居場所が何処にも無かったのである。
「僕だったら、心が壊れる自信があるなぁ。」
つい言葉が口から洩れてしまう。朝日が遠くの山から顔を出し始めた、そろそろみんな起きる時間だろう。
もう一度顔に冷や水をぶつけ、陰鬱な雰囲気を吹き飛ばすように、いつもの言葉を笑顔で宣う。
「…さて、今日も一日、謙虚に行きましょう!」
振り向くと母親がこちらに手を振っていた。ご飯が作れたのだろう。少し駆け足になりながら、ソルは朝の涼しさを感じていた。朝食を食べ終わり、学舎に向かうために家を出た。
「お、ソル。おっはー。」
「やあリズちゃん、今日も元気いいね。」
少し歩いたところで幼馴染のリーゼリット・マルティネスが声をかけてきた。彼女の両親とうちの両親がかなり仲が良く、頻繁に家族ぐるみでのお付き合いがある。しかも彼女の両親が良質な宝石を販売している資産家であるため、ソルはかなり良くしてもらっている。
「そういえば、また宴会をパパが開くらしいから、オジサマに言っといてくれる?」
「ん、了解。…いつもながら楽しそうだね、リズちゃん家は。」
「えぇ、全く退屈しないわね。もちろんソルも来るでしょ?」
「うん、これから予定が入らなきゃね。…っともう着いた、じゃぁ先生に挨拶しに行こう。」
山の入り口の崩れた所、洞窟のようになっている岩場に入り、狭い岩道を抜けるとそこには机といすが置かれている空洞に出た。空洞の上からは薄く太陽の光が差し込み、なんとも幻想的な空間を作っている。すでに何人もの子供がここにきており、ここでやりたい事をやっている。
「おや、ソル君、リーゼリットさん、おはようございます。」
ソルたちが入ったとほぼ同時に、全身が岩で覆われている女性が、優しそうな声で語りかけてきた。僕たちの先生である、アニー先生だ。
「おはようアニー先生。」
「おはよセンセッ!でも私のことはリズって呼んでって毎回言ってるじゃない!」
「うふふ…すみません。これは癖みたいなもので、みんなの名前が眩しいからかしら、ついつい略さず言いたくなってしまうのですよ。」
「ふぅん…そういうものなの?」
えぇ、と優しくうなずくアリア先生。普段から怒ることの少ない先生だが、この時の目は慈愛に満ちていた。
「センセーの話はたまにわからないのよね・・・。」
リーゼリットには難しかったらしく、ウンウンと唸っている。
「フフ…いずれわかりますよ。さぁ、そろそろお勉強のお時間です。席でおとなしくみんなを待ちましょう。」
パンっと手を叩いて席へと促す。元気よく返事をし、自身の席に着いて皆を待つ。隣にはリーゼリットが居て、雑談をしていると、いつの間にか席が埋まっており、先生が壇上に立った。
「さて、じゃぁ今日は、“魔法”についてお話ししようかな。この前お話しした、“ダンジョン”の話は覚えてるかしら?」
「はーい!ダンジョンの中には“魔獣”がいて、とっても危ないんだよね。」
「そう、魔獣は獣人と違い、私たち人間を襲うわ。魔法は奴らに対抗するための一つの方法よ。」
こほん、とかわいく咳払いをし会話を続ける。
「そうね、見てもらった方が早いかしら、じゃあ校庭に集合。」
いうが早く、席の座ってた皆が立ち上がる。そして入り口とは逆の方向にある空洞、そこに入るとただただ広いだけの空間に出た。皆でそこを校庭と呼んでいる。
「魔法には“通常詠唱”“略式詠唱”“簡略詠唱”の三種類があります、まず“通常詠唱”から。」
そういってアニーは静かに目を閉じた。
「之は“力”。すべてを燃やし盾と成る力。“双火”」
両手を前に伸ばすと両方から蒼い炎が洞窟を照らす。それは一直線に向こう側の壁に走っていく。それを壁にぶつかる寸前、先生が左手と右手を重ねる。瞬間、二つの蒼い炎は重なりあい、一つの小さな爆破を起こす。それは軽く壁を抉り、パラパラと音を立てる。
「はぁ…この通り“通常詠唱”は祝詞と呼ばれる詠唱をして、威力が高い魔法を撃てます。魔法というのは皆さんも体内に持っている“魔素”と呼ばれるものを使用します。これは体力と同じように使用していく度に疲れていきます。個人差もあるのでどれぐらい使えるかの判断はしっかりしましょう。」
少し疲れたのかため息を漏らす、がすぐ笑顔に表情を移し説明を挟む。
「ここまでで、わからないことってあるかな?」
沈黙、だがそれをアニーは答えとして、話を続けた。
「よろしい、次は“略式詠唱”について。こっちは祝詞は一切使いません。魔法の名前を呼べば発動できます…。“双火”」
再び蒼い炎が洞窟内を照らす。けれども先程のものとは違い隣側の壁に穴を開けることはなかった。
「見てもらったとおり、“略式詠唱”は通常と違い、威力が半分程度になってしまいます。相手を怯ませて逃げることや目くらましに使うことが主ですね。そして、最後は…。」
アニーは片手を前に差し出し、目を閉じる。すると2つのとても小さい蒼い炎が手のひらの中でくるくると回りながら現れた。
「“簡略詠唱”は心で唱えるものです。口に出さず、心の中で魔法を呼びます。魔素の使用は最小限で済みますが、威力はほとんどなく、『“地”“火”“水”“風”“空”』の五大元素の力だけを取り出します。例を挙げるなら、『火』の魔法はこの通り、明かりになったり、『水』の魔法はちょっとした水たまりを作るなどです。」
ふっと、アニーは息を吐く、その息に触れた炎が揺らぎ、そして消えた。
「ざっとの説明はこれくらいですかね、魔法の属性には得手不得手があり、それぞれの得意分野を伸ばすのが一番だと思いますが…そうですね。まずみんなで、“火炎”という魔法を習得しましょう。祝詞は『その灯は永遠なりて』です。よく覚えておきましょうね。」
そうして5~6人グループで集まって練習し始めた。その20分後突如として起こった大爆発に全員の目が見開いた。
遅れた気がする…まぁいいか!(ごめんなさいm(_ _"m))
今回は説明会になってしまったのであんまり面白くないかも…?
でも楽しんでいただけたら幸いです!