2章 二人きり
朝の光が眩しくて、朦朧とした意識の中から現実に引っ張りあげられる。
とても長い夢を見ていたような気がする。
むくりと上半身を起こし目を擦る。
すると、指先に自分の肌以外の何かの感触を感じられた。
指を見てみると、そこには一粒の雫があった。
涙……?
目尻に溜まったそれを拭った後、隣を見る。
本来ならそこには布団が敷かれていて少女が眠っているはずだが姿はない。私よりも早く起きて外に出たのだろうか。
私も布団を畳んでからテントを出る。
テントすぐ近くには丸太が転がっていて、ジャックがこちらに背を向けてそこに座っている。
おはようございます、ジャック。
彼の背中に声をかける。
おはよう、マリン。
と挨拶を返してくれる。
でも、どこだか暗く、もの寂しげに感じられた。
夜の内は見張りで一睡もしてないからだと思う。
ジャックには礼をしてもしたりないくらいだ。食料から体調管理、道案内までなんでも彼のおかげなのだ。
でも、礼はしない。
だって、恥ずかしいし、そんなの柄じゃない。
本当はもっと仲良くなりたいし、敬語で話すのもやめたいけど、難しくてまだ出来ない。
見張り番お疲れ様です。あの子がいないんですけど、知りませんか?
ジャックの隣に座って問いかける。
すると、ジャックは驚いた、というように言葉をつまらせる。
……覚えてないのかい?昨日のことを。
彼が先程の挨拶よりも暗いトーンで私に言う。
しばらくの間考えると、私は昨日の出来事を口にする。
朝ジャックが私達に声をかけてくれたこと、隣町に行くために森へ入ったこと、湖で少女とぷかぷか浮いていたこと。どれも楽しいことばかりだったこと。
すると、またもジャックは驚く。
…本気で言っているのかい?
彼の言葉に私は頷き、どうしてですか?と首をかしげて聞いてみる。
い、いや、あんな大変な旅だったのに、楽しいって言ってくれたからね。
しばらく何事かを思案してから彼はそう言った。
とっても楽しかったですよ。初めてのことばかりでしたし、もっと早くに外に出てれば良かったな、なんて思ったりもしました。
昨日の出来事を思い返して、自然にウキウキとした気分になり、私の声は弾んでいた。
それで、話戻しますけど、あの女の子知りませんか?
私がジャックに聞くと、ジャックはしばらく困ったようにうーんと唸ってから言った。
彼女なら隣町に急用が出来たらしくて、朝早くに先に出ていってしまったよ。教会できっと会おうって伝えておいてくれと言われていたんだった。いやはや、忘れていたよ。
後頭部、というよりも後瓜部といった方が正しいのかもしれないが、ともかく頭を後ろを手で撫でながら彼は軽く笑った。
そうなんですか…。少し寂しいですが、早く会えるように早く隣町まで行きましょう。
私がそう言うと、ようし、まずは朝食だ。とジャックが朝食を作ってくれた。
それを食べてから私達二人はまた歩き出した。