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8章 ふたりぽっち

ラミが息を引き取った後、マリンとジャックはラミの墓を作ってやることにした。

とはいうものの、きちんとした墓は作れないので簡易的なものだ。

だが、そのまま放置しとくよりは幾分かマシだし、マリンが自分で作ってあげたいと言うのだ、止められるはずもない。

ジャックが自身の胴に空いた穴を擦りながらシャベルで埋めるための穴を掘っていると、マリンが冷たくなっているラミの胸に顔を埋めたまま感謝の言葉を並べている。

ラミが息を引き取ってすぐは、それはもう赤子のように泣き叫んでいたが、今はもう泣き止んでいる。

それでも、見ていて胸が苦しくなるのには変わりはないのだが。

「マリン、掘り終わったよ」

ジャックが言うと、マリンは目をくしくしと擦って顔を上げる。

目が赤く腫れ上がっているのがわかる。

「…ありがとうございます」

マリンが離れ、ジャックがラミを持ち上げて掘った穴に寝かせる。

「何か言い残したことはあるかい?」

土を被せる前にマリンに聞く。

きっと泣き出しそうになるのを我慢しているのだろう、下唇を噛んで首を横に振った。

二人で土を被せてあげた後は、マリンの提案で花を供えてあげた。

一緒に合掌していると、隣から嗚咽が聞こえる。

目を開けてそちらを見れば、マリンが肩を震わせているのが分かった。

ジャックはそっと、マリンの小さな体を抱き寄せた。


ラミを埋めてやった後は、戦いの跡の残るその場所から少し先に進んだところで休むことにした。

夕食にしたが、ジャックもマリンも、食が進まなかった。

身の回りを片付け、消えかかった炎に枯れ木を放り投げる。

テントを建てたマリンを寝るよう促すと、今日は傍にいて欲しいと言うため、ジャックもテントの中に入る。

ジャックはマリンやラミとは違って体が大きいため多少窮屈にも感じたが、その窮屈さが返ってマリンの寂しさを緩和してくれた。

簡易的な布団に横たわったマリンがジャックの手を握り、ジャックもまたマリンの手を握り返す。

しばらく続いた沈黙はマリンが破った。

「ねえ、ジャック」

その時の声音は、いつものようにどこかしっかりとしたそれではなく、幼い少女そのものの、甘えるような声音だった。

「私と、ラミと、ジャック。三人皆が笑ってて、幸せで。足早に過ぎていく日々を三人でゆっくりと進んで、皆何も変わらなくて。そんなふうに、ずっと三人でいられるような日常は、未来は、無かったのかな」

握ったマリンの手が震えているのがわかる。

今すぐにでも消えてしまいそうなそんな言葉を、無かったことになんてさせまいとジャックは言う。

「無いわけないじゃないか」

「ほんと?」

ジャックを真っ直ぐ見つめるアメジストの瞳を見て、ジャックは誓った。

きっとその場所がジャックの目指す場所なのだ。

「本当さ。約束するよ。君が望み続ける限り、私がその未来を探し続ける」

その決心から強く握ってしまったマリンの手が痛かったのか、はたまた別の理由かは分からないが、マリンの目は潤んでいて、一層輝いて見えた。

「それじゃあ、安心だね…」

その言葉を最後に眠ったマリンの頭を優しく撫でてからジャックはテントを出た。


翌朝、マリンがテントから起きてきた。

「おはようございます、ジャック」

「おはよう、マリン」

ジャックが挨拶を返すと、マリンはしばらく何かを考えているかのようにこちらを見て何も言わない。

何か顔についているかな、と頬に当たる部分をぺたぺたと触っていると、マリンがジャックの座っている丸太の丁度隣に座ってこんなことを言いだした。

「見張り番お疲れ様です。あの子がいないんですけど、知りませんか?」

ジャックは声をつまらせ、何も声を発せなかった。

それほどにも彼女の言葉は軽く、そして重かった。

昨日あったことは決してこのようにふざけ半分で言ってはならないことだし、きっとマリン自身そんなことはしない。

となると。

「……覚えてないのかい?昨日のことを」

マリンの真偽を確かめるべく、重く、多少の重圧を掛けるように問う。

すると、彼女はジャックとマリン、ラミが出会った初日の事を楽しそうに語り始めた。

楽しそうに語る彼女の瞳は真っ直ぐで、とても嘘をついているようには見えない。

彼女は、マリンはきっと本気なのだ。

本気で昨日のことをなかったように思っているのだ。

「…本気で言っているのかい?」

ジャックがそう聞くと、どうしてですか?と首を傾げて聞き返されてしまった。

昨日本当にあったことを告げるべきか迷ったが、今告げて気を狂わせてしまってばかえって可哀想だ。

ジャックは本当のことは告げない方針をとった。

「い、いや、あんな大変な旅だったのに、楽しいって言ってくれたからね」

「とっても楽しかったですよ。初めてのことばかりでしたし、もっと早くに外に出てれば良かったな、なんて思ったりもしました」

言い訳のようなジャックの言葉に、笑顔でそう言ってくれるマリン。

マリンのその純粋な笑顔を見る度に、ジャックの胸はきりきりと傷んだ。

その後、マリンにラミの居場所を聞かれたが、急用ができて先に隣町に言ったとまた嘘をついてしまった。

朝食をとった後に、二人はまた隣町に向かって歩き出す。

道中様々な場面で楽しそうにしているマリンを見ると、胸が張り裂けそうになる。

私の選択は正しいのだろうか、そうラミに問いかけても返事なんてない。

亡き者はもう戻らないのだ。

ふたりぽっちの旅は、今始まってもう時期終わる。

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