悪役代理
翌日、ジークハルトは我が家にやってきた。
可及的速やかにと言ったが、翌日朝食中にやってくるとは。
「おはようございます、ジーク様。
お早い来訪嬉しく思います。」
私は一応礼をする。
「いやだなあ、サナと僕の仲じゃない。
いつでも呼び出してよ」
うわぁ、ゼウスと過ごすうちに彼にも女誑しの性質がうつったか?
私は心の中で大きく彼と距離をとる。
「まあ、ありがとうございます。
では、こちらへ。」
私は彼を応接間に案内した。
「あ、僕まだ朝食食べてないんだよね」
「…用意させます。」
応接間に二人分の朝食が並ぶ。
フルブレックファーストなのでボリュームがあったのだが、ジークハルトはその細身に似合わない食欲を見せ素早く平らげていく。
こう、素早くバクバク食べる様は帝国人そのものだ。
因みに私は朝からそんなには食べれません…。
早々にリタイアして紅茶を飲みながら考える。
こっちの頭の中を整理する前に来やがって。
呼びつけたのは私だが、悪態をつく。
午後昼過ぎに来ると思っていたのに…。
そうこうしているうちにお皿が空になり、彼も紅茶を飲む。
「いやぁ、さすがフェルゼン家の朝食!
美味しいわぁ!」
帝国人らしい豪快さは普段のジークハルトからはかけ離れており少し引く。
「お、お口に合ってなによりですわ。」
「王国では色々食べたけど、ここの朝食が一番だね!」
笑いながら言う。
いくらなんでも持ち上げすぎだ。
さて、どうやってゼウスの話に持っていくか…
「で?今日はゼウスの件?」
ごふ。
思わず咳き込むが、必死で取り繕う。
紅茶を吹かなかった自分を誰か褒めて欲しい。
「ええ。そうですの。」
「婚約破棄でもされそう?」
そこまで知ってる?
おかしいだろう、決まったのは昨日だよ。
「ミカエル様の生誕祭でのフェルゼン公爵の呆れ具合を思えば誰でも想像つくよ。」
心の中を読まれたかのように的確なセリフを吐く。
「そう、その通りです…」
「で?サナはどうしたい?」
「破棄は避けたいですわ。」
「何で?」
「何でって…愛してますもの。」
「ふーーーーん」
胡散臭げに私を見る。
「で?」
「今回の破棄話が出た最大の理由です。
彼の女誑しぶりも非常識ぶりも金勘定に弱いのも最初からお父様はわかっていたはずですの。
なのに、破棄を言い出した…」
「知ってはいても、実際見たのはこれが初めてだったんでしょ?
なら、破棄を言い出してもおかしくないね。」
ちっ!
あのゼウスの馬鹿ぶりがお父様初見なの知ってやがる。
知らなければララの責任にしてやったものを。
ああもう、無理矢理ララにつなげちゃえ!
「でも、トドメを刺した存在があったはずですわ!」
「トドメ?」
「お父様から聞くところによると…ゼウス様は、ララ様と大変親しげだったと…」
紅茶が入ったカップをそっと置いて俯いて言う。
儚げに、悲しげに…。
「ああ、ダンスを連続で踊ってたね。」
さくっと言う。
もっとオブラートに包もうよ。
私がガチでゼウスに惚れてたら泣くぞ。
…あ、泣くか。
3.2.1
はらり。
私は涙を一雫零す。
丁度目から涙が溢れ溢れる瞬間を狙いジークハルトを睨む。
「ジーク様は意地悪です!」
「ああ、ごめんごめん泣くとは思わなかった。」
はははとちっとも悪びれずに言う。
おい、もっと驚くか怯むかしろよ!!
こっちが女優魂みせたっつぅのに。
「…ララ様とゼウス様が親しくしているのは知ってましたわ。
ええ、その事でララ様に物申した事もありましたもの。」
「うん、見てたから知ってる」
「それでも二人は親しげで、今回も彼が贈ったドレスを着て生誕祭に行きましたの。」
「ああ…」
何やら遠い目をする。
ララが着ていたドレスでも思い出していたのか?
「そして、彼のエスコートで生誕祭に向かいました…。
馬車の中でもお父様が言うには大変親しげだったとの事です。」
「結局何が言いたい?」
「ジーク様からお二人に言って欲しいのです。」
「何を?」
「二人は少し親しげだから、離れろと。」
「何で僕がそんな事。」
「ジーク様はお二人と親しい間柄ですし、私ではない誰かから言われれば耳を貸すのではと思いまして。」
「いや、貸しても理解しないでしょ。」
「ジーク様なら理解出来るよう言えるのでは?」
「無理無理。」
即答される。
「それに、もう破棄は決定なんでしょ?」
「ですが、ゼウス様が私だけを愛して下されれば破棄は回避出来ると思うのです。」
「うーーーん」
ジークハルトは頭を捻りながら自身のカップの中に紅茶を注ぐ。
「つ、ま、り、」
カップにミルクを注ぎティスプーンでくるくるかき回す。
「サナはゼウスとの婚約破棄回避に動きたい。
動くとしたら来週の夏期講習だけど、参加しないから動けない。
この夏期講習でまたララとゼウスの距離が近づくのをサナは恐れている。
そこで、僕に二人の邪魔をして欲しいって事かな?」
ぎくぅ。
わかっちゃった!?
結構、遠回しに言ったつもりだったけど…
否定したいが…したところでやっぱり最終的にはこの答えにたどりつくんだろうなあ。
「ええ、その通りです」
「あれ?否定するかなって思ったのに認めるの?」
「どう言い繕っても私の言いたい事は端的に言ってそうだからです。」
「ふーーーーん、もっと足掻くかなって思ったのにつまんないなぁ」
足掻くって…
つまんないって…
もしや、ここに呼びつけた時点で私の用件伝わってた?
やだ、この人、洒落にならない!
「それで、返事を頂きたいのですが。」
「その前に報酬を知りたいな。」
「報酬?」
「そう、まさかタダ働きしろって言わないよね?」
タダ働きさせるつもりでしたよ。
報酬って何があるのかな?
「…何が欲しいですか?」
「うーーーん。」
ジークハルトは天を仰ぐ。
「そうだねぇ、いつか僕に殺されても怒らないでね。」
怒るよ。
てか、何それ?
私は逆ハーして彼らの愛に包まれて死にたいのであってどこにでもいる殺人鬼に殺されたい訳じゃない。
「私を殺す予定でもお有りで?」
「どうだろ?」
私達は暫し見つめ合う。
正しくそれは腹の探り合い。
そしてどちらからともなく笑う。
「うふふ」
「あはは」
「では、そのよくわからない報酬支払いを約束しましょう」
「それは嬉しいな。
じゃあ、ちょっと頑張ろうかな。悪役。」
ジークハルトは楽しげに言ったのだった。




