祝う事が許されない誕生日
途中ルドガー視点
プレゼントを買ってから数日後、ルドガーの誕生日を迎えた。
ルドガーは7歳になる。
私は勉強に行く前にプレゼントを持って彼がいる屋根裏部屋へと向かった。
攻略したら部屋も屋根裏部屋から私の隣の空き部屋に移したいな。
トントン
ノックをするが返事はない。
うん、いつもの事だ。
今日に限らず、私は毎朝彼の部屋を訪ねている。
特に用はない。
どうせ開かないドアなので用事など必要ないのだ。
だけど、部屋にいない訳じゃない。
ちゃんと彼はこのノック音を聞いている。
だって彼は今から一時間前に剣の自主練から帰ってきているのだから。
部屋に戻ったのを確認してからノックしてます。
私達の勉強が始まった翌日から欠かさずにやっている。
ほぼ決まった時刻になるノック音。
ルドガーの心に馴染ませるように、彼の心が開かれるように響かせてる。
だけど、今日は用事がある。
さて、このドア開けるべきか否か。
…うん、開けない。
私がルドガーの立場なら開けて欲しくないもの。
絶対に無理矢理こじ開けないからノック音を許してくれているのだ。
下手に開けたらそれさえ許されなくなる。
なのでドア越しに声をかけることにした。
「ルドガー、誕生日おめでとう!
ドアの前にプレゼント置いておくから使ってね!」
大きな声で言って私は足早に去った。
今日の授業、ルドガーは普段使っている中古の教科書を持ってきた。
どうやら使ってくれないらしい。
相変わらず、勉強は得意不得意の差が激しい。
先生は優しく根気強く教えてくれるが、宗教に出てくる神様の名前が発音が難しい上に長ったらしくて覚えづらい。
てか、実在しない物の名前なんぞ覚えてなんとするのか。
私はアップアップしているのに、ルドガーはさらりと覚えてしまい、複雑な宗教の成り立ちを年表も見ずに空で言ってのける。
本当に頭がいい。
6歳…いや、もう7歳か、には見えない。
実は彼も転生者なのではと疑うレベルだ。
「ルドガー凄い!」
今日も安定のよいしょをして授業を終える。
部屋の前に何かが置いてある。
「…」
うん、私がルドガーの部屋の前に置いたプレゼントだ。
どうやら突き返された模様。
私は再びルドガーの部屋の前に行きノックする。
返事はない。
「ルドガー誕生日おめでとう!
ドアの前にプレゼント置いておくから使ってね!」
朝と全く同じ事を言ってその場を去る…ふりをして息を潜める。
ルドガーが出てくるまで暇なので宿題でもやるかと手元の教科書を開こうとして…
ガチャリ。
ドアが開いた。
「…!」
「…ルドガー、誕生日おめでとう!」
プレゼントを差し出した。
「…」
「…」
暫く互いに睨み合う。
逸らしたら負けだ!
先に視線を逸らしたのはルドガーだった。
よし、勝った!
「…らない。」
「うん?」
よく聞こえない。
「いらないって言った」
「そっかぁ、はい。プレゼント」
気にせずルドガーの胸に押し付ける。
押されて思わず受け止めてしまうルドガー。
「だからいらないって!」
「本当にいらないものなら捨てていいよ。
私が勝手にルドガーの誕生日を祝いたいだけだから。」
「祝うようなものじゃない。」
「私が祝いたいから祝うのよ。
貴方は大人しく祝われていればいいのよ」
ルドガーの言う通りこの世界において彼は生まれてはいけない存在だ。
故に祝われるようなものではない。
だけど、私は祝いたい。
勿論、彼の為なんかではなく、私の為。
私は貴方を攻略したいのよ。
ルドガーの攻略において誕生日のお祝いは結構大事だ。
ゲームでは主人公に人生で初めて誕生日を祝ってもらい図らずも嬉し泣きしていたのだから。
残念ながら7歳のルドガーは迷惑そうな顔をしている。
嬉し泣きなんてしそうにない。
そこは私が悪役だからか、はたまた誕生日で嬉し泣きする程まだ孤独を拗らせてないからか。
…両方かな…
まあ、いい。
とりあえず渡せたし。
…好感度上がった気は全くしないけどね。
私は突き返されないうちにとっととその場を離れた。
***
最早毎朝の日課と言っていいノック音が部屋に響く。
最初こそいつ部屋に乱入してくるのかとビクビクしていたが、最近ではドアの方すら見なくなった。
ノック音がしたら勉強に行く時間。
時刻を知らせる鐘がわりだと思っていた。
だけど、今朝はいつもと違った。
ドアの前に見慣れない包みが二つ置いてあった。
リボンで飾ってあり奇抜なそれは警戒対象でしかない。
おそるおそる手に取ると一つはそれなりの重量がありもう一つは軽い。
開けてみたい衝動に駆られるが面倒ごとになりそうな予感がしたので、授業に行く前に姉さんの部屋によりドアの前に置いておく。
これで終わったと思った。
本日二度目のノック音がした。
勉強終わりにノック音がするのも毎度の事。
要件は一緒に宿題をしようとかだろうが、一緒になんていてはいけないのでドアを開けたりなんてしない。
しかし…
「ルドガー誕生日おめでとう!
ドアの前にプレゼントを置いておくから使ってね」
などと言われてもしやまたあの包みが戻ってきたのかと焦りドアを開けた。
果たして目の前には包みを持った姉さんがいた。
「ルドガー誕生日おめでとう!」
そう言われて差し出してくる。
受け取る訳にはいかない。
不幸が移ったら大変だ。
暫く睨み合うが、姉さんに勝てるわけなかった。
仕方ないのでいらないと言ったのだが通じず
プレゼントを押し付けられてしまう。
僕はこの世界に不幸を呼ぶのに、そんな僕を祝ってはいけないよ。
僕はぐっと腹に力を込めて零れそうになる涙を堪える事しかできなかった。