サナ微妙な技術改革をする。
街についた。
ここは王都。
王のお膝元だ。
ここで揃わないものはこの国に無い。
護衛を横に侍らせて私はまず本屋に向かう。
教科書を買う為だ。
日本では本とは暇つぶしの小道具であり安価な物だが、印刷技術が未達なこの世界では高級品だ。
日本円にして教科書一冊が数十万円くらいする。
だが、我が家は公爵家。
王と血を連なる一族だ。
本など気楽に買える程の小遣いを私は貰っている。
と、いうか、使う機会がなくて貯まっていた。
欲しいものは小遣いを使わなくても父が買ってくれるからね。
とにかく今こそたまりに貯まった小遣いを放出するのだ。
私は本屋で教科書を見繕い会計を済ませる。
日本円にして数百万程使った。
金貨が重たかったから軽くなってほっとする。
まだ重たいから護衛に持って貰ってるんだけどね。
「これ、プレゼント用にラッピングしてください。」
「…らっぴんぐ?」
「…えっと、贈答品なのでそれように包んでください」
「そういうサービスはしてないよ。」
「え?そうなんですか?」
私は驚く。
ゲームで主人公がルドガーに本を送るシーンがあったが普通にラッピングされていたからだ。
「そもそも贈答品用に包むというのも意味がわからないのだけど…」
「人にあげるものだから綺麗な紙で包んだり、リボンで飾ったりする事なんだけど…」
「へぇ、貴族様はそういう事をするんかね?」
ちらりと護衛を見る。
護衛も本屋の主人同様困惑した顔をしていた。
「私も初めてききます。
人にあげるものなのだからと特別に包むのですか?リボンで飾る事に意味があるのですか?」
「…」
もしや、この世界にはラッピングという概念そのものがないのか?
だとしたら主人公がゲーム中贈った本のラッピングは自身でやったのか?
そんな細かく説明されてなかったから知らなかったよ。
「あっと、じゃあ、包まなくていいです。」
「はいよ。」
私はむき出しのまま本を受け取る。
次の行き先は文房具店に決定だ。
文房具店で私は大判の色紙とリボンを買った。
テープは家にあったから買わない。
「それで本を包むのですか?」
護衛が不思議そうに聞いてくる。
「そうよ。」
「どうなるのか想像がつきません」
「まあ、出来たら見せてあげるよ。」
さてプレゼント用に教科書を買ったが、プレゼントが勉強道具というのはどうにも色気がない。
プラスアルファが欲しいところだ。
主人公はゲーム中でルドガーには本しか贈ってなかった。
新作の小説や歴史書を贈り好感度を爆上げしていたが、現時点でその本は未発表だ。
大体、6歳のルドガーがどんな本を好むのかもよくわからないのに本をチョイスする勇気はない。
そろそろ夏だ。
夏に向けたものがいいかな。
…そういえば去年、私はルドガーの夏物の服を臭いという理由で破り捨てた。
その後服が増えた形跡がないからもしかしたら今年の夏は服が少なくて困るかもしれない。
よし、夏服を買おう。
私がいつも行く服屋ではダメだ。
あそこは貴族専用の煌びやかな服しか売っていない。
私が今着ている服を調達した店に行こう。
私は服屋に向かった。
服屋で男物の服を探す。
たくさんあって目移りしてしまう。
服を最小限しかもっていない彼の為にたくさん買いたいが、去年破ったぶんだけに留める。
たくさんは遠慮して受け取らないけど一枚なら渋々ながら受け取る可能性が高いからだ。
本当はルドガーの靴下に穴が空いていたから買いたいのだけど敢えて我慢。
靴下はクリスマスプレゼントに向けて毛糸で編んであげよう。
ついでに毛糸と編み棒も買うか。
私はシンプルな半袖のシャツと毛糸と編み棒を購入する。
念の為贈答品用に包めるかときいたら本屋と同じ回答だったのでむき出しで受け取る。
色紙もリボンも多めに買ったから問題はない。
さて、帰るか。
私は馬車に向かう。
その途中露天でハンカチを広げている店があったので覗くと中々趣味のよいものがおいてあった。
私は今日のお礼にと護衛にハンカチを買う事にする。
ついでに父にも機嫌取り目的で一枚買うか。
最早贈答品用に包めるかなどとは聞かない。
そのまま受け取る。
こうして私は欲しかったものを買い込み家に戻ったのだった。
自室に戻り私は早速プレゼント用に買った物を包む事にする。
まずは教科書。
四角いしある程度の厚みがあるから包みやすい。
ラッピングのプロではないが、包みやすい形のおかげで中々綺麗に包めた。
その後リボンをかける。
ちょっとおしゃれに斜めにかける。
うん、いっきにプレゼントな雰囲気になった!
次にシャツだ。
こいつは難しいぞ。
それでも畳めば形は四角だからまあまあ綺麗に包めた。
こちらは色違いのリボンを結ぶ。
最後にハンカチ。
小さいし薄いしで少々色紙を無駄にしてしまったがなんとか包めた。
リボンは小さく切って輪っかにしたのをテープで貼った。
私は今日お世話になった護衛の元へ行く。
包むのが出来たら見せると約束したので一番上手く包めた本と一緒にハンカチを持って行く。
世話になった護衛は使用人の休憩室で煙草をふかしていた。
私の姿を認めるとすぐに煙草の火を消して私のところへ来る。
「お嬢様、如何しました?」
「うん、ほら今日本を包む話をしたでしょ?」
私達のやりとりを偶々この時間に休憩を取っている使用人がチラチラとみている。
「ああ、しましたね。」
「包むとこうなるのよ。」
私は本を見せる。
護衛は目を見開く。
「ふぇ!凄い!
こんな綺麗になるんですか!」
「何?なんの話?」
私付きの侍女ユウリが声をかけてくる。
本人達は秘密にしているつもりかもだが私にはわかる。
この二人恋仲だ。
「ああ、ほらこれ見ろよ。」
「え?これ何?凄い可愛い。」
「贈答品用にお嬢様がわざわざ包んだんだ。」
「え!?凄い!お嬢様器用ですね。」
他の使用人も集まり凄い凄いと褒めていく。
ふふん。
なんか、前世の知識を使って技術改革って感じ?
…いや、しょぼすぎて技術と称するのも改革と称するのも恥ずかしいわな。
ちょっとセンスのいいご令嬢って事にしておこう。
「あ、これ今日のお礼。」
私は包んだハンカチを渡す。
「え?これ最後に買ってたハンカチですか?
これもわざわざ包んだんですか?
凄い嬉しいです。」
ばぁっと笑顔を見せる護衛。
うむ。満足じゃ。
その足で父の書斎へと向かう。
「お父様、戻りました。」
「ああ、お帰り。
危険な事はなかった?」
「何一つありませんでした。」
「それは良かった。」
「これお土産です。」
私は父にハンカチを渡す。
「うん?これは…なんというか装飾がすごいね。」
「私が包みましたの。」
「え?これを?」
「ええ、どうですか?」
「うん、可愛いね。斬新でいいね。」
「良かったです。」
私は笑顔で書斎を後にした。
ラッピングの評価は上々。
ルドガーは誕生日に渡すプレゼント喜んでくれるかな?
なお、この後護衛が夜の街に繰り出す度に包装されたハンカチを友人達に自慢しまくった結果、庶民に贈答品はおしゃれに包む事が広がっていき、父が仕事で王城へ行く度に仕事仲間の貴族に自慢しまくった結果贈答品はおしゃれに包む事がステータスとなり、数年かけてこの国では贈答品はおしゃれに包む事が当たり前となるのだった。
なお、贈答品用に包む事をこの国ではサナ包みと呼び、後日その事に気付いたサナはゲームでラッピング技術があったのは私が原因かと意味不明に呟きつつ悶えるのだった。