吉兆と凶兆
さて、そうと決まったら早速攻略に乗り出そう。
今の私の近くにはルドガーという攻略対象がいるのだ。
さっさと攻略してしまおう。
それと同時に勉強をしっかりやろう。
今からやればゲーム開始時点でパラメータはマックス状態にもっていけるはず。
マックス状態でないと攻略出来ないカザン攻略に備えるのだ。
幸い私は勉強が得意だ。
たかだか15歳が学ぶ内容等余裕だろう。
私は自然と笑みが零れる。
やるべき事がはっきりしてると楽しいし、モチベーションが上がる。
まずは明日から来る家庭教師との勉強。
これを通してルドガーに近づく。
ゲーム中、ルドガーは度々主人公に勉強を教えるシーンがあった。
基本引きこもって本ばかり読んでいたから頭は同年代より良いのだ。
男は無知な女に物を教える事が好きな生き物。
私は明日からルドガーに勉強を教わるという大義名分の元ひっついてやる。
「はじめまして、私が本日よりお嬢様の家庭教師として雇われました、フローラ・ジャレンと申します。」
「はじめまして、サナ・フェルゼンと申します。
よろしくお願いします。」
「はじめ…」
「それでは早速はじめましょう。
本日は文字の勉強です。」
フローラはルドガーの挨拶をぶった切り勉強に入る。
そもそも彼女は私の家庭教師として雇われたと言っていた。
ルドガーは教える対象として勘定に入っていないのだ。
ゲーム通りならサナはこのまま勉強に入るのだろう。
でも、攻略に乗り出した前世持ちは違うのだ。
「先生、私の弟の挨拶がまだです。」
『え?』
図らずもフローラとルドガーの声がハモる。
「先生は私達に勉強を教えに来てくれたのでしょう?」
可愛らしく小首を傾げて言う。
可愛いが有無は言わせない。
公爵令嬢という身分以上にこの黒髪黒目の縁起物としての価値が物を言う。
私はこの髪と目の色のおかげで縁起物と言われている。
なんでもこの国の繁栄を齎す吉兆なんだそうな。
そんな私に嫌われるのはこの世界の人にとってとても怖い事のようだ。
勿論目の前のフローラも例外ではないらしく、ルドガーに視線を向ける。
「失礼しました、ルドガー…様。」
「い、いえ。よ、よろしくお願いします。」
対してルドガーは白髪白眼と私と対局の色味だ。
つまり、意味合いも真逆になる。
彼はこの国の滅亡を齎す凶兆。
故にこの世界の人から嫌われる。
好かれたら滅亡を呼ばれると信じられているからだ。
私にせよ、ルドガーにせよ、本当に幸運や不幸を呼ぶ力があるのかは知らない。
ゲームでもこれといって幸運も不幸も呼んでいなかったと思う。
当たるも八卦当たらぬも八卦の世界なんだろう。
「で、では、文字の勉強を始めます。
教科書をひらいてください。」
言われて私達は教科書を開く。
私は新品、ルドガーは中古品。
そうだ、お小遣いでルドガーに新しい教科書を用意してあげよう。
仲良くなるにはプレゼントも有効だ。
私もルドガーも特に問題無く授業についていく事ができた。
「では、今日はここまで。
明日までに文字の書き取りをしておきましょう。」
「はい。先生ありがとうございました。」
「ありがとうございました」
私達は先生に礼をして見送った。
先生が帰ったところで私はルドガーを振り返る。
ルドガーがびくっとする。
そんな怖がらなくても…と、思うが、記憶が戻る前にした数々の暴挙を思い出し、仕方ないなと納得する。
直近では地面に落ちたケーキを犬食いさせたのだ。
それ以外にも毎日のように暴言を吐き暴力を振るっていたのだ。
そりゃ、目が合えばビビるし、引きこもるのも無理はない。
「ルドガー、一緒に課題をやりましょう。」
「え…」
「そうね、私の部屋でやりましょう。
いい?」
ルドガーはすごく嫌そうな顔をする。
空気読め、嫌なんだ、取り消せとオーラが言ってる。
私はスルーする。
「わかった。」
結局、私に逆らう勇気のないルドガーは頷いた。
「ありがとう!」
「でも、書き取り用の紙がない…」
そういえば、授業中私はお父様から貰ったノートと鉛筆を使っていたが、ルドガーはクズがみに石炭を使って書いていた。
「大丈夫!私のをあげるわ!」
私はルドガーの手を強引に掴み私の部屋に向かう。
勿論、わざとやってる。
ボディタッチは基本のキだよね。
無事に部屋に連れ込む事に成功した私は彼にソファに座るように勧める。
おずおずと座るルドガー。
私は机の中にあった予備のノート数冊と鉛筆と消しゴムを用意する。
「はい、これを使って!」
「え?こんなに??」
「だってこれからたくさん勉強するのよ?
これでも足りないくらいよ。
無くなったら言ってね。上げるから。」
「…」
胡散臭そうに私を見ている。
昨日まで虐めていた奴がいきなり親切にしたってそう易々と信用できないだろう。
「さあ、さっさとやってしまいましょう!」
「…うん」
ルドガーは頷き書き取りを始める。
私もそれを見て書き取りをはじめたのだった。