ゼウスはもやしっ子
ゼウス視点→サナ視点→ジークハルト視点で展開します
僕の膝は震えていた。
膝だけじゃない、腕も震えている。
もう、限界だ。
なのに。
「こらっ!ゼウス!休むな!!」
父の叱責が飛び、僕は半泣きになる。
もう、剣が重くて素振りなんて出来そうもない。
大体、なんでこんな事になったのか?
僕にはさっぱりわからない。
もうずっと前から父は僕を見限り剣の稽古なんてつけてこなかったじゃないか!
僕は弱っちい。
細い腕、足、腰。
どう贔屓目に見ても剣を振るう体じゃない。
父は筋肉をつけろ、走りこめといきなり言い出したけど、急には出来ないよ。
最後に剣を持ったの一年以上前で、しかもその屁っ放り腰ぶりに父は呆れて騎士にだけはなるなと言っていたじゃないか!
僕はぐったりとしてその場に倒れこむが父が許さない。
「何してる!起きろ!!」
「む、無理だよ〜〜!
うわぁぁぁん!」
僕は堪らず大声で泣いた。
もう号泣だ。
「こら、泣くな!」
父は僕の泣き声に勝るとも劣らない声で怒鳴るが
僕は聞かずに泣き叫ぶ。
父は遂に手を挙げた。
僕はさらに泣き叫ぶ。
「この、腑抜けめ!」
腑抜けでいいから、稽古辞めたいよ!!
「うわぁぁぁん!」
「なんの騒ぎ?」
僕の泣き声か父の怒鳴り声かに反応して母がやってくる。
「まあ、ゼウス、どうしたの?
剣など持って!」
「と、父様が、稽古だって…ひっく。」
「まあ!ゼウスには剣は無理です!」
「無理なのはわかっている!
だが、後にはひけんのだ!」
父が言う。
後に…ってなんだよ?
何かするの?ぼく??
母が僕をぎゅっと抱きしめ撫で撫でしてくれる。
僕の心はようやく落ち着き始めた。
「ゼウスの声がする!」
「どうしたの、ゼウス!」
「父様、ゼウスに何してるの?」
「姉様達!!」
三人の姉も次々やってくる。
僕を取り囲み撫で撫でしてぎゅっとして、頬にキスをしてくれる。
そして、父を睨みつけてくれる。
母も姉達も僕を守ってくれる。
「いや、殿下より直々にゼウスと剣を学びたいと乞われてな…」
『はぁー?』
母と姉達は口を揃えて父に詰め寄る。
「なんでうちの可愛いゼウスが?」
「剣なんで危ないものを持たなくてはいけないの?」
「断ってよ。」
「ゼウスに剣は無理よ。」
四人に責められタジタジの父。
「何故かはわからないが、殿下はゼウスが剣の名手と思っている。
だから共に学びたいと仰っており、断りの言葉は遮られる始末。
だからせめて少しでもましにと思って…っておい!
ゼウス!!」
父の言葉に気が遠くなりその場に倒れこむ。
僕が剣の名手?
何それ?
僕は騎士団長の息子に生れながら、剣の才能に恵まれないもやしっ子なのに。
殿下ってなんでもできる超人っていう人だよね。
そんな人と剣の撃ち合いなんてしたら一瞬で斬り伏せられるよ!!
ヒィイ!!
***
王城でのお茶会から二ヶ月が過ぎた。
冬の寒さもやわらぎ、桜の蕾が膨らんできた。
しかし、ゼウスは王城には来ていないらしい。
ミカエルから来る手紙で度々王城に遊びにおいでと書かれているが、その度にゼウスがいるなら行くと返事をしている。
すると、ゼウスはいないが来て欲しいと返事がくるので、またの機会にお会いしましょうと突っぱねている。
いくら完璧第一王子といえども攻略対象じゃない男になんて構ってらんない。
そんな暇あるなら攻略済みのルドガーと勉強してカザン対策に励んだ方がましというもの。
王妃様からも手紙が届くが、彼女は王子程強気には出れないので、もっと適当にあしらっている。
しかし、私は吉兆で公爵家の人間だから王家を多少蔑ろにしても許されるけど、オーラス家はそうじゃないだろうに。
どうして、ゼウスは王城に来ないのか?
***
「ミカエル様、顔が怖いです。」
一体何通目なのかは知らないがサナ様からの伺えませんという手紙を受け取り憎々しげにそれを握りつぶしていた。
「これで何度目だ、サナが私の誘いを断るのは!」
「さあ?」
私は首を傾げる。
事実知らない。
ミカエル様は手紙を蝋燭に焼べてしまう。
赤く燃え上がりあっという間に灰になる。
その目は怒りが色濃く灯っていた。
何が物腰柔らかな王子様だよ。
「ふん!」
機嫌悪そうに鼻をならす。
「それで、ゼウスの登城は?」
「残念ながらゼロ様が直々に断りを入れておりまして…。ですが、陛下より勅命を賜る事に成功しましたので、数週間のうちに来るかと思います。」
「やっとか。」
一体どんな奴かは知らないが待たせやがって。
「たかが騎士団長如きがこの私を焦らせやがって。」
吐き捨てるように言いながら席を立つ。
「父上に礼を言いたい。謁見の依頼を出してくれ。」
「畏まりました。」
私は恭しく頭を下げるのだった。