縁起物移動する
途中、第三者視点その後ルドガー視点
朝、シンプルなドレスを纏い馬車に乗り込む。
護衛は30人以上いた。
その中に先日世話になった護衛もいた。
その他メイドや執事などもいて結構な大所帯での移動となる。
やはり公爵でありこの国の宰相を務める父と変装しない縁起物が領地へと移動するのだ。
王都からさほど離れていないとは言え丸一日かかる旅路だからどうしても人数が膨れ上がる。
今日から数日領地に行く事はすでに王都中が知っている。
何故なら国王自らお触れをだしたからだ。
縁起物が移動するのだ、一目見て幸運を授けてほしいと願う人達に慈悲を与えるのも仕事のうちらしい。
ようはパレードだ。
国王自ら発表しただけあって護衛のうち半分以上は近衛騎士団であり、その中に団長もいる。
攻略対象ゼウスの父、ゼロ・オーラスだ。
太陽を浴びすぎて色あせた金髪にグレーの瞳、髪は適当なのに髭は綺麗に揃えてある。
引き締まった体はさすが騎士団長といった感じだ。
因みに初対面。
紹介もされてないのに騎士団長と知っているのはゲームの知識があるからにすぎない。
女好きのギャンブル狂の息子より彼を攻略したいが流石に6歳の子供じゃ無理がある。
てか、攻略できたらできたで怖い。
うっとりと見つめていたら、父が馬車に乗り込んできた。
どうやら出発のようだ。
私達一行は移動を開始する。
屋敷を出てすぐにたくさんの人達道の両側で手に小さな国旗を持って名前を呼んでくる。
天皇のお通りみたいだな。
一瞬引いてしまうのは仕方ないだろう。
「サナ手を振って」
「あ、はい。」
馬車の窓から手を振る。
次の瞬間周りの人達のボルテージが上がる。
「サナ様!万歳!!」
「サナ様!万歳!!」
益々皇族みたいだな…
私の笑顔はひきつるのだった。
***
国のお触れが出て隣国であり、仮想敵国である
ヴァイス帝国の間者はこれを好機とみなす。
間者は帝国よりサナの住むバルド王国の国政に関わる機密事項の持ち帰りと王国に生まれた縁起物の略奪を任務としている。
縁起物は己の住む国に繁栄を齎す。
自分が住む国を愛さない訳がないから当然と言えるだろう。
だが、他国…特に仮想とは言え敵国であるヴァイス帝国はそれが面白くない。
だから無理矢理奪うのだ。
命さえあればどう持ち帰ろうと構わないと皇帝より指示を得ていた。
王都より出て人気がなくなれば襲撃開始だ。
***
「いやー、屋敷周りが騒がしいな。」
今日から姉がいないので部屋から出て屋敷内にある図書室に堂々と向かう。
普段は見つかると絡まれるからこそこそしていたのだ。
その行き途中、使用人の話し声がした。
屋敷の主人が不在だからか、使用人の声も気が抜けていて大きい。
屋敷周りが騒がしい?
そっと足をとめて話を聞くことにする。
「やはりお触れが効いたんでしょうね。」
「サナ様のお姿を一目見ようと王都以外からも駆けつけた国民がいるそうよ。」
「さすが、国の宝、縁起物様。」
お触れ?
なんだそれ?
話を聞く限り、今屋敷周りに姉さんを見るために人が集まっているらしい。
国民に繁栄の威光を見せるのも吉兆として生まれた姉さんの仕事だろうけど、それってとても危険だよね。
うん、例えばどこかの国の間者が姉さんを攫おうとするかもしれない…
「移動の際して近衛騎士団団長様自ら護衛してらっしゃるとの事よ。」
あ、流石にそこは考えてるんだ。
近衛騎士団団長だもの、実力はきっと高いに違いない。
なら、まあ、平気か。
僕は図書室に向かう。
いつものように本を探して書棚をウロウロするがどうにも集中できない。
気もそぞろで適当に本を掴み部屋に向かう。
机に向かい本を開くが、文字が滑る。
何故だろう。
姉さんは大丈夫に決まってる。
だってこの国の近衛騎士団団長が直々に守るのだから。
だけど、なんだか非常に嫌な予感がする。
ふと目に缶が見えた。
中には今まで貰った手紙が入っている。
こんなものを送ってくるから姉さんは…
僕は剣を持ち屋敷を飛び出した。