風帝キャリー・レイモンド⑤
「またオデの邪魔を……!」
「不気味な化け物だね、こんなのに苦戦してたのかい」
「オデを馬鹿にするな!!」
自分が馬鹿にされてることに気づいたのか風帝に狙いを定め素早い動きで突進して行く魔族。
素早く近付いて来る魔族に恐怖も何もないのかにやりと小さな笑みを浮かべれば向かってくる魔族に自らも向かって行く。
そして、風帝と魔族の拳と拳がぶつかった。
いくら風帝とは言えこっちは女で相手はごつい魔族、痛がるのは風帝の方だと思っていたのに……。
「ぐああああっ!!」
膝を地面につき痛がっているのはごつい魔族の方。
風帝は何でもなかったかのように普通にその場に立っていた。
「嘘……」
「ありえない……」
フィアもそんな風帝の様子をぽかんとしたように見ているけど、だってあり得ないでしょ。
さっきの冒険者だって弱いわけじゃなかったのに剣は全く効かなかったし、むしろ剣の方が負けてたのに素手と素手で風帝が勝ってるんだよ?
いくら風帝が獣人だからってそんな魔族に勝てるなんてありえないじゃない。
「魔族ってのはこんなものかい? 案外脆いんだね」
余裕綽々で笑ってる風帝を睨んでる魔族はぶつぶつと何かを呟いたと思えば魔族の体の周りには黒い靄が纏わりついていた。
そして、風帝からすぐに離れた魔族は風帝に向かって構えてる。
「オデに膝をつかせるなんて許さない! 虫ごときに紋と魔法を使うことになるなんて恥だけどこれで終わりだ!!」
……あの黒い靄みたいなのはこの魔族の魔法みたいね。
紋ってのが何かはわからないけど、簡単にはいかなさそうな雰囲気。
「終わりって……あんたがか?」
「は……?」
私たちは風帝を見ていたはずなのにいつの間にか風帝は魔族の後ろに居た。
そんな風帝に驚いたような魔族だったけど……その首からは血が噴き出してきた。
「結構簡単に殺せるねえ」
「……簡単に殺せるのは風帝だけだろう」
「地形を壊していいならあんたも出来るだろう?」
風帝が振り返ればその指からは長い爪があり、ぽたぽたと血が垂れていた。
最初に来た時にはあんな爪はなかったけどあれも魔法なのかしら?
「フェーの使者様……」
フィアが風帝を見る目はキラキラしていて憧れてる人を見てるみたいに頬も紅潮している。
帝唯一の女性で獣人だから憧れるものなのかもしれないわね、私は別にそんな憧れなんてものはないんだけどね。
どんな女よりも私の方が凄いんだからね!
「それにしてもよくわかったな」
「ああ、ディオの奴に手紙を貰ってからすぐに依頼を片付けてきたんだよ。 後のことは部下に任せて来たからね」
「……相変わらずだな」
シアンも風帝のことは良く知ってるのか風帝の言葉に呆れたような表情をしながらも納得はしてるみたい。
言葉使い的には男勝りってかイメージ的には女海賊って感じかもしれない。
「それより、シアン。 セシルトってのはどいつだい?」
「ああ、リルディア目当てだろうとは思ってた」
「もちろん、糞真面目なディオがあたしに嘘を言うとは思わないけど自分の目で確かめないと気が済まないんだよ」
獣人は妖精を崇めてるって言うからもしかしたら私に何か文句でも言いたいのかもしれないわね。
別に他人に何を言われようが私はどうでもいいんだけど……ちょっと面倒なとこはある。
シアンが私のことを指差したのが見えれば風帝はどんどんと私に近付いて来た。
「ふーん、あんたがディオの言ってたリルディア・セシルトかい?」
「そうだけど、何か文句でも?」
いつもなら猫を被るけど風帝は女なんだから猫を被っても無駄だろうし、こんな女に負けたなんて思いたくないから強気に行くわ。
こんな女が何かしても私には無意味だもん。
「ディオが言ってた通り盲魔なんだな」
「ええ、貴女の大好きな妖精様は盲魔な私が好きみたいよ?」
ディオ先生が私やミィのことを報告しているなら私が盲魔だなんてことは知ってるだろうし、何か妖精は魔力の多い人が好きみたいなデマもあったみたいだから気に入らないのかしら。
じろじろと上から見下ろされるなんてムカつくわね。
【リルディア~?】
「ミィ、何か花出してちょうだい」
ムカつくし、さっさと私には出来ないことを見せつけて妖精であるミィの祝福を受けてることを知らしめましょう。
ミィは私の言葉を聞いてぽんぽんと私の周りに花をたくさん降らせる。
薔薇、チューリップ、ひまわり、ツツジ、様々な花が私の周りから降ってるのを見れば風帝は驚いたように目を見開いている。
ふふん、これが私が特別だって言う証拠よ。
男勝りな女だと真っ先に力を見せた方がいいのよ、嘗められる前にね。
「……」
ぽかんとしたような表情をしていた風帝は何も言わずに膝をつくと地面に落ちた花を一輪拾う。
何も言わずに静かだから何を考えているのかはわからないわね。




