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ぶりっ子少女の夢は玉の輿  作者: 猫目 しの
異世界の日々
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別れは突然に

 


『シャイニングトカゲの後ろには回り込むなっ! そいつの尻尾は岩をも砕くぞ!』




初めて魔物を殺した日から3年が経った。

未だに肉を突き刺す感触に慣れないが、これを私の覚悟として主な武器は小型のナイフにしている。

ナイフが効かない魔物も居るからナイフに毒を塗ったりして対応した。


ナイフに塗る毒は毒の性質を持つ魔物から頂戴している。

武器の使い方も毒の取り扱い方もラースが教えてくれた。



私はもう9歳なので来年からは王都魔法学校、リトリールに入学が決まっている。

ギルドにも通ってお金を貯めるつもりだからなかなかこの森に来れないかもしれないけど。



ラースの声を聞きシャイニングトカゲの尻尾に気をつけながら弱点である首を狙う。

シャイニングトカゲはドラゴンに近い身体で鱗が硬くて普通の刃物では役に立たない。


ただし、首の言わば喉仏がある場所は柔らかいので刃物で殺す時はそこを狙わなきゃならない。

まあ、シャイニングトカゲは魔法が効くからほとんどの人は魔法で倒してるけど。



わざとシャイニングトカゲの後ろに回り込めばシャイニングトカゲも私に気付きその大きな尻尾を振り上げる。

振り下ろされるのが分かれば尻尾を避けすぐに前に回り込みナイフを喉仏に突き刺す。

シャイニングトカゲの目はまだ後ろを見ていたから前に回り込むなんて危ない事が出来るんだけど。



私のナイフについてる毒は貴重な物で魔物の個数が他に比べて少ないらしい。

体内に入れば一発で死ぬので体力もなく筋肉もない私にはピッタリだ。



シャイニングトカゲの目が白目になったと思えばその大きな身体はグラリと傾き大きな音を立てて地面に倒れた。



『見事だ、シャイニングトカゲは大きくて傷のない綺麗な鱗が売れる。 剥ぎ取るぞ』



ここ1年くらいはラース達のご飯を練習代わりに私が狩っている。

素材はラース達には必要ないから私が貰ってギルドに登録したら売るつもり。


初めて一緒に狩りをした角うさぎの角は記念として残すつもりだけど。



ラースの指示通りに丁寧にシャイニングトカゲの鱗を剥ぎ取り始める。

確かに太陽に当たってキラキラ光って綺麗かも……。


持ってきた鞄に鱗を入れればシャイニングトカゲの解体をする。

解体の仕方はギルドのお兄さんらに教わった。


綺麗に解体出来ればもう夕方になっているので帰らなければならない。




「ラース、また明日来るからミーナとピケとキルクによろしくね。 ミーナのお腹の赤ちゃんにも会いたいから明日は早めに来るから」



鞄を背負えばラースの毛を優しく撫でる。

ちょっと毛は硬めだけど暖かくて私は大好きだ。



『ああ、明日はまた別の獲物を狩るぞ』


「うん、じゃあね」




ちゅっとラースの額にキスをすれば立ち上がり森から出る為に出口に向かう。

この森に居る魔物は一通り倒したのでもう1人で森を歩く事は出来る。

それもこれも全部ラースのおかげなんだけどね。


歩いていれば出口が見えてきた。

だけど、いつもとは違い男の人が数人立って森を見回している。



「ここだろ?」


「ああ、間違いねぇ。 この森に居る」




街の人ではなさそうだしギルドの依頼で来たのだろうか?

男の人の1人が私に気付いた。



「嬢ちゃん、この森は危ない魔物がたくさん居るんだぜ」



にやにやとだらしなく笑みを浮かべる男に気付かれないように眉をひそめるも何もわからない子供のような表情を作る。




「そうなんですかぁ? この間遊びに来た時に綺麗なお花を見つけたんで取りに来たんですけどぉ」


「花は持って帰ってねぇのか?」


「踏み潰されちゃってたみたいでぇ……」



いくら私が子供だからってこれはわかる。

この男の人達は悪い人だ。


普通のギルドではなく闇ギルドの人間だろう。

可愛い私を見てにやにやしてるし、普通の雰囲気じゃない。





「可哀想になぁ。 兄ちゃんらが家まで送ってあげようか?」


「おい、仕事はどうすんだよ」


「こんな上玉を放っておくのは勿体ねぇだろ? もしかしたら、こんな危ない仕事より儲かるかもしれないぜ」




コソコソと私に聞こえないように話してるつもりかもしれないけど私は目も耳も良いわけで……。

オッサンら丸聞こえなんだけど。


正直、逃げれる自信はある。

このオッサンらがどれだけ強いのか私にはわからないけど私だって修行して強くなったし、逃げ足だって速くなった。


まあ、毒付きナイフを使えばすぐに片付けられるけど私にはまだ人は殺せない。

ギルドに登録する以上、人を殺す依頼があるかもしれないけどそれはもっと大人になってからだろうし。



どう逃げるか、そう私が考えていれば見知った声が聞こえてきた。




「リルディアちゃん、どうかしたのかい?」



遠くから駆け寄ってきたのは街の警備員であるモリーさんだ。

今の時間はこっちでの警備だったのか……私はやっぱり神に愛されてる。

隠れて小さくほくそ笑みながらもモリーさんの顔が見えれば微かに目に涙を溜めた。




「……何でもないですぅ」



モリーさんも私の事を気に入ってくれているのでどうにかしてくれるだろう。

何もしなくても警備員の服装を見ただけでオッサンらは慌ててるし。




「この子に何の用だ?」



私の溜まっている涙に気付いたのかモリーさんはキツい目でオッサンらを睨みつけている。

モリーさんはちょっとつり目だから睨まれると怖いんだよね。




「っいや、何でもないですよ……なぁ?」


「あ、ああ……それじゃあ」




案の定オッサンらも怖かったのか慌てながらも森の中にと入って行った。

モリーさんにただ睨まれただけで逃げ出すなんて何て弱い


モリーさんは慰めるように優しく頭を撫でてくれる。




「大丈夫だったか?」



私は神に愛されてる。

だから、みんな私の事を好きになってくれる。

私はあんなのを神なんて認めない。

何もしていないのに可愛い私に罪を償えなんて……。



「ありがとうございますぅ!」


「可愛いリルディアちゃんを守るのは当たり前だろ。 1人で帰れるかい?」




モリーさんも他の男と変わらない。

私がちょっと可愛く頼めば何でもしてくれるし、買ってくれる。

まあ、流石に私が幼いから恋愛対象ではないみたいだけど。



「はい、大丈夫ですよぉ」


「じゃあね」




モリーさんも仕事だからか残念そうにしながら去って行く。

私もそろそろ帰らなければ門限過ぎてしまい怒られるかもしれない。


森から出るのは名残惜しいけど明日になったらまたラース達に会えるし、明日は何かお菓子を持って行こう。


私は小さな笑みを浮かべればたたっと軽く小走りで家にと向かう。




屋敷に着けば門限に間に合ったので兄のセルディアと晩ご飯を食べすぐにお風呂に入れば明日早起きしようとベッドに入る。

明日持って行くお菓子はメイドに頼んだので明日早くに行っても大丈夫だろう。


今日もたくさん動いたのでもう眠い……。

この身体になって子供は良く寝るとわかるようになった。

まあ、私に体力がないだけかもしれないけど。




――見つ……ぞ……。




ん?

何か声が頭に響くような……。




――……ウルフだ……子供…い……。




ウルフ?

……頭が痛い……。




――そっち…行った……。




何なの、この声……?

頭が割れそうに痛いし……。




――逃げろ、ピケ、キルクっ!




ピケ……キルク……?




「ラースッ!?」



わからない。

何でラースの声や誰かの声が頭に響くの?

逃げろってラースどうしたの?



ただの私の幻聴かもしれないがもしラース達に何かあったとしたらっ。

私はパジャマから動きやすい服装を着ればベルトにナイフを装備し毒をポケットに入れる。

時計を見ればメイドがまだ起きて居る時間なので窓を開ければ近くの木に飛び移り、そのまま塀を越えた。


屋敷から出て行く時の為に見張りが手薄な道を覚えていてよかった。


私は誰にも見られないように急ぎながらラース達が住む森に走る。



幸い私の家の近くに他の家はないので誰にも見つからず森に辿り着けた。

ただの幻聴かもしれないが私の足は止まらない。


ラースの様に鼻が良いわけではないのでこの広い森を走り回らなきゃならないので予測を立てるしかない。

もし、誰かが来た場合ラースが守らなきゃならないのはピケとキルクとミーナだし。

普段ならミーナは守られなくても強いけど今は妊娠してるんだから動けないでしょ。



ラースが逃げそうな方向に向かっていればドンッと大きな音が聞こえた。


あの音は一度聞いた事がある、あれは魔法銃の音だ。

私も一回使おうか悩んだから覚えてる。

急所を狙わなきゃ殺せないし、敵も動くから命中するかわからないから止めたけど。


こんな時間に森で魔法銃をぶっ放すなんてやっぱり何かあったんだ。

私は音が聞こえてきた方に急ぐ。





「手こずらせやがって」


「あーあ、魔法銃なんか使うからせっかくの毛皮が血塗れじゃねぇか」


「仕方ねぇだろ」




しばらく走っていればやっと男達の声が聞こえてきた。

ラースっ……!


男達の姿が見えた、夕方に私を攫おうとしてた奴らだ。

男達の近くに見覚えがある2匹……。


それを見た瞬間、私は目の前が真っ白になった気がした。




「あ? あの時の嬢ちゃんじゃねぇか」


「わざわざ俺達に会いに来たのか?」




にやにやしてる男達が私に話し掛けてくるけど私は何も反応出来ない。


だって……。




「嬢ちゃんも運が悪いなぁ。 子供が見るような光景じゃねぇし」


「育ち良さそうだし魔物なんか初めて見たんじゃねぇの?」


「だったら可哀想だなぁ。 血塗れのライウルフなんて見ちまって」




そこに居たのは綺麗な銀色の毛が血塗れになって倒れてるラースとミーナ。

……散々魔物を殺してきた私が今更血が怖いなんて言わない。


だけど、ミーナのお腹には赤ちゃんが居るんだよ?

ラースは……私の親友……。




もう何が何だかわからない。


気付いた時には私の身体は血塗れになっていた。

周りあるのはズタズタに引き裂かれた男達の死体とラース達の死体。

多分、男達は私が殺したんだろう……記憶がないけど。


毒は使っていないのか蓋が閉まったまま。

私の涙は枯れてしまったかのように出て来ない。

私は手に持っていたナイフを落とせば冷たくなってしまったであろうラースの身体を優しく抱き締める。


……あれ、まだ少し暖かい?




「……ラース?」



そっとラースの胸に手を当てれば弱々しいけどまだ心臓が動いてるのがわかった。

魔法弾に当たったのは当たったけど急所は外れていたんだろう。


慌てて隣に居たミーナの胸に手を当てるがミーナの身体は冷たかった。



『リ……ディア……』


「ラースっ」




冷たくなったミーナを見つめながら歯を食いしばっているとラースから微かに声が聞こえてきた。

先ほどまで閉じられていた目が開いている。




『約束……す、まない……』


「別にいいわ。 だから、死なないで」




わかってる。

ラースのこの血の量を見ればラースはもう助からない事を。

私が光の魔法を使えてたらラースは死なないで済んだ事を。


魔法を使えない事でこんな気持ちになるなんて思っていなかった。



『ピケと、キル…ク……頼む……』




もう涙は枯れてしまったかと思っていたのに私の頬は濡れている。

鼻がツンッとしてきた。




「私には無理よ」



ラースとミーナを助けられなかった私がピケとキルクに会えるわけがない。

それなのに、ラースは優しく笑ってる。

何でよ……。




『あ、と……名前…………きっとオスだ……』



ラースの言葉に一瞬わけがわからなかったが隣で冷たくなったミーナのお腹を優しく撫でる。



「私がつけてもいいの?」




産まれてきてもない死んだ子供に名前をつけるなんておかしいかもしれない。

でも、親友の最後の頼みを無碍にする事なんて私には無理だ。


ラースは私をじっと見つめている。




「じゃあ、この子はラシェル。 私の可愛い弟ラシェルよ」



ラースは私の親友。

だけど、ピケやキルクと同じ家族のように接してくれた。

なら、産まれてくるはずだった仔は私の弟だ。


ラースは満足したのか幸せそうにすると目を閉じ話さなくなってしまった。




おやすみ、ラース、ミーナ、ラシェル。




ラースとミーナは私と変わらないくらいの大きさなので2匹一緒に持てないので1匹ずついつもの湖に運ぶ。

あんな汚い男達と一緒の所で寝かせられないから。


湖の水で血のついた毛を洗ってやり、近くの木の下に石で穴を掘り始めた。

本当は腐敗するから燃やして骨にした方がいいんだろうけど普通の火だったら黒こげになるだけだから意味がない。


2匹が入れるだけの穴を掘っているだけで辺りが明るくなってきた。

自分でも何時間穴を掘っていたかわからない。


穴に2匹を寝かせてやれば優しく上から土をかけて埋めていく。

ちゃんとした埋葬の仕方がわからなくてごめんね?




「ラース、私はもうここに来ないわ。 ピケとキルクは大丈夫、貴方の子なんだから私の力がなくても生きていける。 心配しないでミーナとラシェルと一緒に天国に行っててね」




土を優しく撫でながら呟く私は端から見たら変な人だろうなー。

でも、ここには私しか居ないんだから気にする事はない。




「バイバイ」



メイドが私を起こしに来るまでに戻らないと騒ぎになっちゃう。

最後に摘んできた花を添えれば私は家にと帰った。




 

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