魔族の話③
「勇者ってなぁに?」
そんな感じの絵本があった気がしないでもないけど、私には関係ないことだったから良く覚えてないわよ。
それにそんなのはあっちでも良くあった王子と姫的なおとぎ話じゃなかったっけ?
「リルディアちゃんも見たことあるんじゃないかな? 勇者が魔王を討伐する話を」
「でも、あれっておとぎ話じゃ……だって魔王なんて居ないでしょ?」
「もちろん、魔王はおとぎ話の存在さ」
はあ? 魔王がおとぎ話なのに勇者が居るの?
「魔王とは大昔にあった大国のことだ」
「大国?」
私とライアの話が進まないことにめんどそうにしながらもディオ先生が説明してくれた。
千年前に勇者のおかげで滅んだ大国のことを……。
千百年前に滅んだ大国、アステリオはとても横暴な国だった。
王族貴族は毎日毎日豪華な暮らしをしてた、平民は家畜のように扱われ、財産は全て奪われて、逃げ出そうにも国境には国が用意した屈強な男たちが居て逃げ出そうとするものは容赦なく拷問が行われるそんな国だったみたい。
容姿の良い女たちは何人の貴族にも犯され、子供を産まさせられてた。
周辺の小国はそんなアステリオに逆らうことも出来ず自分たちを守る為にアステリオに従うしかなかった。
そんな時に一人の青年が小国の小さな村に降り立った。
青年は言葉がわからなかったのかコミュニケーションを取ることは難しかったけど、青年の優しさに村の人は青年を仲間だと信用していった。
そして、幾年か過ぎ青年は村長の娘と婚約した。
村長の娘はとても美しい人で青年とは相思相愛だった。
しかし、そんな楽しい時間も終わりはあっけなかった。
青年が街に売りに出ている時にたまたま小国に来てた大国の王子が婚約者を気に入って国に連れて帰ろうとした。
もちろん、村の人は止めてくれと懇願したそうだけど、そんなことを王子が聞くはずもない。
王子の命令によって村人は惨殺された。
青年が村に戻ってきた時には酷い有様だった。
家は焼かれ燃え落ちていて、付近には血まみれの死体。
生きてるまま焼かれたのは木に縛りつけられている黒焦げの死体。
抵抗しながらも犯されたのか女の死体は裸のまま。
男も女の大人も子供も関係なく死体は転がっていた。
青年は帰りが遅くなったことを後悔した、すると遠くの方で子供の泣き声が青年の耳に届いた。
泣き声のした方に行くと両親のそばで泣いてる一人の男の子がいた。
この村のたった一人の生き残り、青年は男の子から話を聞いた。
大国の王子がやってきたこと、婚約者が連れて行かれそうになったこと、村人は抵抗し懇願したこと、……その結果殺されたこと。
男の子は偶然地下倉庫に居て奇跡的に助かっていた。
青年は凄まじい怒りを感じた。
穏やかで優しい青年は他人に怒りを感じることなんて初めてだった。
青年は男の子を近くの村に預けてから王子の乗った馬車を追った。
連れ去らわれただけならまだ婚約者を助けられるかもしれない、そんな期待をしていた。
けれど、現実は残酷だ。
青年が馬車を見つけた時には馬車は壊れており中には誰もいなかった。
そう、中には……。
馬車の近くには婚約者の死体があった。
その死体は縛られており、尚且つ魔物に喰われた跡があった。
そう、大国の王子は魔物に襲われた際に婚約者を生贄にして逃げ出していたのだ。
青年は喰い散らかされた死体を抱き締め声を上げて泣いた。
一晩、二晩、三晩、青年は婚約者の死体から離れることはなかった。
そうして、しばらくすると青年は婚約者の死体を丁寧に埋葬した。
怖かっただろう、目の前で仲間が殺されて。
怖かっただろう、生きたまま魔物に喰われて。
憎いだろう、大国の全てが。
青年はたった一人で大国に向かった。
青年には力があった、魔法ではない、全てを壊せる力を……。
大国の全ての王族、貴族は青年によって殺された。
虐げられてた人々は自分たちを助けてくれた青年を勇者と呼び称えた。
しかし、勇者にされた青年は人知れず大国からも小国からも姿を消した。
「国民は確かに横暴な王族貴族からは助かった。 しかし、虐げられた国民は自分たちで生きていく術を知らなかった。 生きていく術を知らない国民はそのまま死に向かっていった」
「そうして、滅んだ大国を吸収して大きくなったのがこの国だよ。 アステリオの隣にあった小国、勇者とその村があった、ね?」
なるほど、それが昔にあった話なのね。
まあ、大分脚色されてるとこも千年前のことならあるでしょうし話半分に聞いてたらいいかな。
「それから、百年に一度に魔法とは違う別の力を持った者が現れる。 子供、大人、姿は違うが全員が全員、国を滅ぼせる力を持っているから勇者と呼び、その力を自国に向けられないように気をつけている」
ふーん、言葉がわからないってことはもしかしたらその勇者も私と同じ地球から来たかもしれないし、また違う世界からやってきたのかもね。
「……あの……それなら、リルもその勇者なの?」
「え~、それはないよ~。 だって、リルはこの国に生まれたんだし、それにそんな危ない力なんて持ってないもん」




