魔族の話
「一体何なのよ」
魔族が消えた方を見るけど煙のように消えてしまったから何の痕跡もないわ。
あれも魔法の一つなのかしら?
「リルディア」
少し考えていたからぼんやりしていたせいでシアンが目の前に来ていたのに気づかなかった。
シアンはいきなり私の顎に掴み自分の袖で私の柔らかい頬をごしごしと拭いてくる。
「ちょっ、痛いわ!」
「我慢しろ、汚いのがついてたらどうする」
魔族って何か病原菌でも持ってるわけ!
細菌とかついてるなら袖で拭っただけじゃ取れないでしょうに!
「戻ってお風呂に入ればいいでしょ!」
「そうだな」
シアンは私の顎から手を離したから納得したんでしょうね。
全く、ちょっと頬がヒリヒリと痛むじゃないの……どんな細菌を持ってるか知らないけど、止めて欲しいわね。
しかしその瞬間、私はシアンの肩に担がれた。
「はあ!? 下ろしなさいよ! 本当に女の扱いがなってないんだから!」
「うるさい」
いつもより何か怒ってる感じだけど、私の方が怒りたいんだからね!!
「シアン、流石にその抱き方は駄目じゃない?」
「当たり前でしょ! それにスカートなんだから下着が見える!!」
私の下着を見た人に慰謝料を請求したいぐらいよ。
シアンもライアの言葉に考えることがあったのか私を肩から降ろすと今度はプリンセスホールド、つまりお姫様抱っこの体勢に変えた。
最初からこっちだったら私も文句言わなかったのに、ちょっと動いて疲れてしまったんだからさ。
私が大人しくなればシアンは宿に向かって歩き出した。
「あ、私が戦っていたことはもちろん言わないでよね。 面倒ごとに関わりたくないし」
「言っても信用されねえよ」
それもそうね。
学園では私は一度も力を出したことはないから一番信用度が高いライアが言ったとしても信用されないでしょう。
逆に私がライアに無理言って言わせてるってなるかも、特にディオ先生はね。
「なら、よかったわ」
戻ったらディオ先生には睨まれるでしょうね。
私は今回も完全なる被害者なのにディオ先生は酷い男だわ、絶対彼女なんて居ない童貞よ。
……シアンに運ばれているけど、振動もほとんどなくて楽ね。
シアンの胸に頭を預けると私はそのまま目を閉じる。
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「……逃げ回っていた、ねえ」
宿に戻ってきた私たちを待っていたのはやはり私を疑ってるディオ先生で。
ライアの上手い説明を聞きながらも私のことを疑ってるんだから、他の先生はライアの話だから納得して生徒の様子を見に行ったのにね。
「リルディアちゃんは戦えないんですから当然でしょう?」
「なのに、服はそんなに綺麗なのか?」
「か弱いリルディアちゃんが逃げるのを見て楽しんでいたのかもしれません。 魔族の考えは分かりませんが」
にこにことしながらさらっと嘘をつくライアとは反対にアルトの視線は床にある。
ディオ先生は大げさにため息をつくとポケットから何か模様の書かれた水色のお守り?っぽい小さな袋を取り出した。
ライアとシアンはその袋を見てからディオ先生に視線を移す。
「……そこまで、ですか?」
「ああ、一年の強化合宿にに合わせて魔族が現れたんだ。 これは普通じゃねえ」
三人だけで話が通じ合ってるみたいだけど、私もフィアもアルトも何も分ってないんだけどさ。
一体それはなんなわけ?
「おい、一体何だよ」
私が思ってた疑問を二人も感じたのかアルトが問いかける。
「彼らにバレても?」
「お前らは俺は知らない何かを隠してるだろ? さっき人払いは済ましたから問題ねえ」
「わかりました、そこまで覚悟があるならば僕らが知ってるこにはお答えします」
は? 意味わかんないんだけど?
あんな汚れた袋を見ただけでそうなってるわけ?
「も~、リルたちを置いてけぼりにしないでよぉ~! ディオ先生のあれはなぁに?」
「……あれは証だ」
「証~?」
だから、証って何なのよ。
シアンは言葉が足りないんだから!
「水帝の証だよ」
「は?」
ライアの言葉のあり得なさに思わず素が出ちゃったけど、そこは問題じゃない。
シアンは知っていたのか平然としてるけど、フィアもアルトもぽかんとしちゃってるし、私だって話に付いていけてないんだからね。
「水帝って理事長じゃないの?」
「リューは囮だ、上位魔族ともなれば気配すら感じられねえ。 囮であるリューを狙ってくれたら万々歳だな」
それそれだけの為に理事長を囮にしてるわけ?
流石に理事長本人も納得してやってることでしょうけど、やっぱこの世界の人間は理解出来ないわ。
「……ライアは王子だから分かるがシアンは何で知ってるんだよ」
ああ、疑問に思ってなかったけども確かにそうよね?
いくらギルドマスターが父親でも帝の正体なんて息子にも話さないだろうし、シアンが知ってる意味が分からないわ。
私たち三人の視線に気づいたのか小さくため息をついたシアンが取り出したのは赤色のディオ先生と違う模様が描かれた小さな袋だった。




