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ぶりっ子少女の夢は玉の輿  作者: 猫目 しの
異世界の日々
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ラースと子供たち

 


ラースと私が初めて出会ってから1年が経った。

一年前に家に帰った時に私を大好きなセルディアとクリュスは見事な土下座を披露してくれてサラも謝らせた。

もちろん、泣き落としで。


一年前からずっとラースの元に1週間に3、4回ぐらい通っている。

今では筋肉がつかないように体力をつけるようにしたし、ラースに身の守り方も教わった。


その間にラースの子供とも遊んだ。

私が可愛いのはわかっているけどラースの子供も毛並みがふわふわで可愛かったよ。





『待ってー!』


『絶対追いついてやる』




今私は湖の周りでラースの子供のピケとキルクと鬼ごっこ中。

もちろん、私は子供だしピケとキルクは狼だからすぐに負けちゃうけど。




「キルク、本気で走ったら私すぐに負けるじゃない」



森の中は安全ってわけじゃないけどラースがいつも見守って居てくれてるから他の魔物は襲って来ないみたい。

他のラースの一族の狼たちとも仲良くしてるし、人間だけど認めてくれてる。


ここには住めないけど仲間ってのが嬉しい。




『捕まえたぞ!』


『つーかまえたっ!』



キルクとピケが飛びかかってきたので私は地面に倒れてしまう。

まあ、今回も汚れていい服装を着てきたから大丈夫だけど。


帰りは湖で水浴びしてから帰るし。



「もうっ、このこのっ」



捕まってしまえば鬼ごっこからただのじゃれあいに変わる。

ただピケとキルクの毛を撫で回してるだけだけど。



『きゃー!』


『こんなの気持ち良くないんだからなっ、離せよっ!』




撫でると素直に喜ぶピケと言葉ではツンツンしながらも思いっきり尻尾を振ってるキルク。

この私が私以外に可愛いと思えるのはこの2匹だけではないだろうか。


因みにキルクはキルクの言葉の通りに撫でるのを止めたら尻尾がぺたんと垂れ悲しそうに見上げてくるのも可愛い。

実際ラースもキルクもピケも表情は変わらないんだけど、何となく感情がわかる。


ピケとキルクが居たら私はもっと可愛くなるんじゃないの?

まあ、利用する気は全くないけど。

利用しなくたって私は可愛いし、2匹も私の友達だ。




『お前ら飯だ』



ウリウリと両手で2匹を撫でていたがラースの言葉を聞き手を離すと2匹は一斉にラースの元に走って行く。

いっぱい運動したらお腹空くからね。


いつも2匹がご飯を食べてる間、私はラースと修行だ。




『今日はピケとキルクと一緒にリルディアにも狩りを教える』



狩りって事は本当に魔物を殺すのか……。


転生する前は私自身が殺さなくても守ってもらえればいいと思ってたけど今はそんな考えはない。

仲間想いの魔物とは違って人間は醜い。

いくら私が可愛いからって裏切られるかもしれないし、1人でも戦える能力は必要。


特に私は魔法が使えないから接近戦を鍛えなきゃ。

まあ、筋肉がついてしまわないように気をつけてるけど。




『大丈夫か?』


「大丈夫よ、私は強くならなきゃいけないんだから」



座ってる私の隣に来てくれたラースの毛を優しく撫でる。

ふわふわしたピケやキルクとは違いラースの毛はシュッとしていてちょっと硬い。

ああ、確かラースの奥さんのミーナの毛も硬かったかも。




『それでこそ我らの友だ』


「でも、初めて殺す事になるから落ち込んだら慰めてね?」


『ああ』



ラースは私の気持ちを落ち着かせるかのように頬をペロペロと舐めてくる。

やっぱりラースは私の友達だ。




『あー、お父様がウワキしてるっ!』


『ウワキはダメだぞっ!』



大好きなラースと2人で喋って居たらご飯を食べ終わったであろう2匹がキャンキャン騒ぎながらやって来た。

浮気って……どこで覚えてきたの?


ラースは子供たちが浮気って単語を口にしたからちょっと慌ててるし。




『お、お前らどこでそんな言葉を覚えて来たっ!』


『『母様(ははさま)』』


『ミーナーっ!』



ミーナは冗談で言ってるんだろうけどね。

今日は里帰り(?)してるけどいつも私とラースが話してるの微笑ましく見てるもん。



浮気騒ぎから少し経ってやっとラースが落ち着いたので狩りをする為に獲物を探している。

ラースが落ち着く前にキルクに『リルディアも父様じゃなくてもっと若い奴にしろよっ。 お、お……俺……何でもないっ!』って可愛く言われたから今もキルクを抱き締めてるけど。

今は口では抵抗してるけど大人しく私に抱かれてるし、キルクは可愛い。


ラースの背中でまったりしてるピケも可愛いけど。




『近くに居るな』



私には気配なんか感じれないけどラースにはわかるみたい。

仕方なく抱いていたキルクとラースの背中に居るピケを地面にと下ろす。



『茂みの向こうだ。 気付かれないように覗いてみろ』




言われた通りにそっと茂みの向こうを覗けば大型犬と同じくらい大きなうさぎと小型犬ぐらいのうさぎが居た。

普通のうさぎと違うのは羊の様な角があるくらいだろう。




『美味しそー』


「食べれるの?」



ピケは小さいけど狼なんだね。

生きてるうさぎを見て美味しそうだとは思えないんだけど……。


まあ、他の女みたいに可愛いから殺せないなんて言わないけどね。




『人間の食用にもなっている角うさぎだ。 今からあの大きいのを我が仕留めるから見ていろ』



ラースは歯を剥き出しにしたかと思えば一気に大きい方のうさぎに向かって行った。

うさぎの方もラースに気付いて逃げようとしているのがわかったが、ラースの方が早くうさぎの首筋に鋭い牙を突き立てる。


正直グロい。

ラースの牙が刺さっている首からはうさぎの血が流れてるし、うさぎはまだ生きてるのか後ろ足がバタバタ動いてるし。


吐きそうになるのを口を押さえて我慢する。

こんなのここでは普通なんだ、血なんて毎月毎月見てたでしょっ。



だけど、私の身体は震えて止まらない。

生き物が血塗れで死ぬ所なんてテレビでしか見たことがないし、こんな間近でなんて……。



『お父様かっこいーっ!』


『父様だからなっ』




子供でもやっぱり魔物だからか2匹は平気なんだ。

人間と感覚が一緒のわけがない。


もう息がないのか動かなくなったうさぎをラースがずるずると引き摺ってくる。

うさぎの血がついたのか口元が真っ赤。



弱肉強食の世界。




『リルディア、大丈夫か?』




ちょっとボーっとしていたのかラースが心配そうに私を見上げていた。



「……大丈夫よ、ラース」




ラースを怖がってはいけない。


私がラースを怖がったらラースはきっともう私に会わなくなる。

私を怖がらせたくないから。



『震えているぞ』


『おねーちゃん?』


『大丈夫か?』




ピケとキルクもやっと私の状態に気付いたのか足に擦り寄ってきた。

いつもツンデレなのに今はデレてくれてるのかキルクは心配そうにしてる。



「大丈夫だって。 …ただ、生き物が死ぬ瞬間を初めて見たからビックリしてるだけだよ」



しゃがみ込んでキルクをぎゅっと抱き締めながら小さく告げる。

……この温かさがいつかは失われるんだ。


キルクを抱き締めていればドクドクと心臓が動いているのがわかる。

知らない人より知っている人が死ぬ方が辛い。


多分、あの時も死んだのが私じゃなくて暁だったら私は狂っていたと思う。

今はラースやミーナ、キルクやピケが死んだら私は泣くでしょうね。




『出来るか?』


「出来るって自信持って言えないけど頑張る」


『なら、まだ近くに角うさぎの子供が居るはずだ。 子供だからと言っても魔物だから気をつけろ』



子供……。

やっぱり神へのお願い事の1つは攻撃系にしとけばよかったかなって思うけどもう遅いしね。

音を立てないように茂みを覗いたりして仔うさぎを探す。




「居た……」



茂みに隠れるようにして仔うさぎが木の後ろに居た。

親はもう殺されて居ないのに戻ってくるのを待っているだろうか。


……私は持ってきていたナイフを取り出して後ろから仔うさぎの首筋を掴み地面に押さえつける。


多分、首さえ掴めば後ろを向けないだろう。

仔うさぎは押さえつけられたからかバタバタと前足も後ろ足も動かしていた。




『すぐにナイフで切れっ』



「……ごめんね」



私はナイフを振り上げて一気に仔うさぎの身体にナイフを突き立てた。

ナイフで肉を切る感覚が手に伝わる。


気持ち悪い……。


仔うさぎはぴくぴくと震えていたが次第に元気がなくなり動かなくなった。

私は生き物を殺したんだ。



偽善者になるつもりはない。

食べる為には殺さなきゃならないし、身を守る為にも殺さなきゃならない。

強くなる為にも殺さなきゃならない。


だけど、この気持ち悪い感触はずっとついてくるだろう。

殺す事に慣れたとしても。




『リルディア、よくやった』



近くで見守っていてくれたラースが近寄って来て私の頬を舐める。

返り血がついてしまったのかもしれない。

手やナイフは仔うさぎの血で真っ赤になっている。



「出来たよ、ラース」


『ああ』




ラースが目元を舐めてやっと私が泣いているのがわかった。

手が震える、こんな簡単に死ぬんだ。


ナイフからそっと手を離せば私はぎゅっとラースに抱き付く。

私の手が血塗れなのだからラースの毛にもついてしまうのにラースは嫌がらずに大人しくしてくれてる。


ラースの口元もまだ親うさぎの血で真っ赤なのに私は気にならなかった。

私はラースに抱き付いたまま声を殺して泣いた。




……異世界で生きる為にどれほど手を赤く染めればいいんだろう。




しばらくぎゅっとラースを抱き締めていればやっと落ち着いたので、ラースと一緒にキルクとピケの狩りも見守った。

2匹とも仔うさぎが逃げ回っていたので苦戦していたが何とか狩れたみたいだ。


満足げな2匹を抱きかかえながら湖に戻る為にラースの後ろをついて行く。

狩ったうさぎ達はラースと2匹のご飯になった。


うさぎの角は素材に出来るから売れるらしく私が貰ったけど。




『俺の狩りはどうだった、リルディア』


『木にぶつかって居たくせにー』


『ピケだって転けてただろっ』




腕の中でキャンキャン騒ぐ2匹は可愛い。

ラースと同じく口元真っ赤だけどね。


でも、2匹抱えてるだけでも重いのに暴れないで欲しい。



「喧嘩しないの」




ラースは微笑ましそうにこっちを見てくるだけなので私が注意するしかないだろう。

可愛いんだけど私のこの身体はまだ6歳だからそんなに力がないから暴れたら落としちゃうよ。




『はーい』


『……俺は悪くない』



素直なピケとツンデレなキルク。

2匹の可愛さにさっきまでの恐怖が薄れてくるような感じがするよ。


大好きだよ、ピケもキルクも。



 

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