魔武器と決闘③
今の帝じゃなくてシアンが将来帝になるんなら狙ってあげてもいいけどね。
ビッチ共に群がられてるシアンを見ていたが、不意に殴られたトスシルナが気になったのでそっちの方を向く。
トスシルナは膝をつきながら殺意を込めてシアンを睨んでいた。
そして、トスシルナが私を見たのでバッチリ目が合ってしまう。
「きゃっ!」
トスシルナはいきなり私に向かってくれば隠し持っていたのかナイフを私の首につきつけた。
別に逃げれたけど弱い私を演じているので大人しく捕まる。
「リルっ!」
「貴様らのせいで計画が狂ってしまった!」
私が捕まった事に気付いたセルディアとクリュスがトスシルナを睨んでいる。
ビッチ共はいい気味だとでも言わんばかりの顔をしているので後で仕返しはしておこう。
「リルディア嬢の夫となり五大貴族に僕がなるはずだったのに!」
属性が水ならサラとでも結婚しなさいよ。
セシルト家当主は属性が雷じゃなきゃなれないの子供でも知ってるわ。
家を継ぐのはセルディアって決まってるから私と結婚しても当主にはなれないし、むしろ私はあんたと結婚する気ないし。
首に当てられたナイフが少し食い込み首から血が流れているのがわかる。
可愛い私に傷をつけるなんて許さない。
だけど、私がここでこいつを痛めつけたらいけない。
落としたい相手であるライアの前だし、今までの苦労が水の泡になってしまう。
てか、セルディアもクリュスもさっさと私を助けなさいよ。
役に立たない二人にイライラしながらも表面には出さない。
「僕のリルを返せ!」
セルディアのではないから。
「僕が五大貴族になれないのは貴様らが居るからだろう。 それならば貴様らを殺して僕が五大貴族になってやる! これを見よ」
シアンに剣を持ったまま勝てないのに無理じゃない?
トスシルナは私にナイフを突きつけたままもポケットから液体が入った瓶を取り出した。
「これはお父様が作った強力薬だ」
「強力薬っ!?」
強力薬が何かわからないけど何故かライアとシアンが驚いた顔をしている。
「強力薬は魔力を無理に上げてしまう為副作用が強いから禁止されているはずだ。 いや、もう作られていないはずなのに……」
「そんなに危険な物なのか?」
「んー、わかりやすく言えばコップ満タンな水に更に大量の水を増やして溢れさせるみたいな。 一時的に魔力も凄く上がるから昔使われていたけど、三十年くらい前から使った人の体がボロボロになるから禁止され作っていた店もなくなったって父上が言ってたよ」
凄く体に悪いドーピング的な物?
「ああ、これは昔あった強力薬をお父様が改良させて作った物だ。 奴隷を使って幾度と実験を繰り返しようやく出来たのだ」
「この国は奴隷は禁止しているはずだよ」
「あんな便利な道具を買えるのに禁止するなんて間違ってるだろう? 王子様」
確かにライアの言う通りこの国は奴隷を禁止している。
帝国の方はまだ奴隷制度があるらしいけど、この国では奴隷を持って居るだけで罪になる。
だけど、トスシルナの様な貴族はまだ秘密裏に奴隷売買をしているって聞いたわ。
「この事を僕が父上に伝えればどうなるかくらいわかるよね?」
「ああ、牢獄行きだろう。 王子様が生きて伝えられたらの話だが」
にやりと口元に笑みを浮かべたトスシルナは持っていた強力薬を飲んだ。
すると、トスシルナの体から青色の煙が上がってきた。
「なっ、どうなっているんだ!?」
クリュス達が驚くのもよくわかる。
人から煙が出てるなんてちょっと気持ち悪い。
「お前達は避難していろ」
「シアンを置いて行くなんて出来ないわ」
「そうよっ」
「私も一緒に居ます!」
状況がわかっていないであろうビッチ共は逃げずにシアンに群がっている。
トスシルナは時期五大貴族になるあんたらを狙ってるんだから居るだけで邪魔なのに。
「リルディア嬢、君だけは僕の花嫁として生かしてあげてもいいよ。 君の美貌は僕に相応しい」
気持ち悪い、あんたなんかがこの私に釣り合うわけないでしょ。
私に上から目線で言うなんて馬鹿じゃない。
まあ、今そんな事言えば首をバッサリやられるんだろうから私は怯えているフリをする。
さっさと何とかしなさいよ。
「リルディアを離せ」
セルディアやクリュスが悔しそうにしている中、シアンが一歩前に出てトスシルナを睨み付ける。
いつも無表情なシアンが怒っているように見えるのは私の気のせい?
「フロレイン、貴様だけはただ死ぬだけでは許さん。 実験材料として使ってやろう」
「実験材料……?」
「そうだ、お父様は今魔物の能力を人間に移す実験をしている。 その実験が完成さえすればこの国、世界中が僕らトスシルナ家が支配出来る」
こっそり実験してるだろうにこんな場所で言っていいわけ?
今ですらこの状況で勝てるかわからないのに。
いくらお金持ちでもこんな馬鹿な奴はお断りだわ。
「……違法な薬、違法な奴隷、そして違法な人体実験、そこまでしているトスシルナ家には未来はない」
ライアの瞳には怒りが見えた。
この国の王子としてトスシルナ家のやっていることが許せないのだろう。
シアンもライアと同じで違法なことをしてるトスシルナが許せなかったから、あんなに怒ってるのね。
シアンって五大貴族じゃないのに国に対して意外に真面目なんだ。
「王子様には跡形もなく消えてもらう。 “水よ、我が力となりて敵を襲え、蛇水”」
呪文を唱えれば先ほど出した魔法よりも更に二回り大きな水の蛇がライアに向かう。
ライアは避けることなく水蛇を見ていたが、すぐにシアンがライアの前に立った。
シアンは先ほど飛ばした剣を持ち水蛇に向かって行く。
そして、水蛇に向かって持っていた剣を振り下ろした。
「なっ……!?」
水蛇はシアンが振り下ろした剣により切られ消えていく。
トスシルナは自分の魔法が壊されたことにただ驚愕していた。
違法な薬を使ってまで上げた魔力で出した魔法を簡単に消されたように見えたら驚くよね。
だけど、私には剣に赤色がうっすらと纏っているように見えた。
ラースが言ってたけど武器に魔力を纏わすと纏わせた属性が剣の能力になるらしい。
風なら鎌鼬のように斬撃を飛ばせたり、雷ならスタンガンのように感電させたり、火なら燃えるって。
水蛇を切った時に微かに煙があったから多分蒸発したんだと思う。
けど、確か武器に魔力を纏わすことが出来るようになるのは二年になってからって聞いたんだけど。
シアンって何者なの?
「僕の蛇水がっ!」
切られるなんて思っていなかったのか驚愕の表情を浮かべるトスシルナ。
剣に魔力が纏われていた事に気付いてないのかビッチ共はキャーキャー騒いでるし、セルディアとクリュスも素直に感心してる。
ただの剣術で魔法を打ち破れば確かに凄いと思うわね。
私も剣に纏われた魔力に気付かなければ凄いと思うもの。
まあ、わかったからこそシアンが何者かが気になるのだけど。
「貴様っ、ぶっ殺してやる!」
「きゃっ……!」
驚愕していたトスシルナはすぐに怒りの表情を浮かべ、私を突き飛ばした。
受け身ぐらい取れるけど怪しまれてはいけないので私はそのまま地面に倒れる。
シアンが何者かわからないのに下手に受け身なんて取って怪しまれたら嫌だし。
トスシルナの目は血走っていてちょっと怖い。
私はゆっくりトスシルナから離れていく。
「僕はトスシルナ家次期当主でっ、次期五大貴族でっ、次期国王になるんだぞ!」
トスシルナの怒号と共にトスシルナの腕が子供では有り得ないくらいに膨らみ、血管が浮き出ている。
……気持ち悪い。
トスシルナは気にしていないのかナイフを振りかざしながらシアンに向かって突撃しに行く。
薬の副作用なのか見える場所見える場所に血管が浮き出てきて更に気持ち悪い。
あんな性格の悪いトスシルナでも一応戦闘授業では上位に組み込んでいるし、いくらシアンが戦いに慣れていたとしても更に激しくなるのではないかと思っていた。
しかし、勝負は一瞬でついてしまう。
「ぐぁっ!!」
持っていた剣を床に放り投げたシアンはトスシルナのナイフを避けそのまま腕を掴み柔道の一本背負いのようにトスシルナを投げた。
トスシルナは受け身を取れなかったのか背中を打ち付けたようで痛みに顔を歪めてる。
そして、シアンはそのままトスシルナをうつ伏せ寝にさせ腕を背中に捻らせ押さえつける。
よくドラマで刑事がやってたりするけど関節が痛そう。
トスシルナもギャーギャーと痛みに叫んでる。
「お前ら、大丈夫か?」
バンッと闘技場のドアが開いたと思えば一気に教師数人が入ってきた。
先頭に居るのは私たちの担任のディオ先生だ。
……何かまた私、ディオ先生に睨まれてる気がするんだけど。
「大丈夫ですが……どうかしましたか?」
いきなりの教師の登場に困惑しているのかクリュスが首を傾げている。
トスシルナが魔法を使ったからの可能性もあるけど、ディオ先生以外の教師が辺りをキョロキョロと見回して警戒してるから違うのかな?
ディオ先生は他には気付かれないように私を警戒しているのがわかる。
あっ、でもシアンがディオ先生をじっと見ているのは気になるかな。
「さっきこの闘技場にある方向から魔の気配を感じたんだ。 少し前には闘技場の前に居たんだが結界が張られていたみたいで中に入れなくてな」
ああ、だからディオ先生は私を睨んでるのね。
私が魔の者でその結界は私が張ったのだと思って。
でも、何で魔の者がそんな事したんだろう。
トスシルナと何か関係あるのかな?
「シアンのおかげで私たちは助かったわけですね」
アリスは笑顔を作りながらもシアンの腕にぎゅっと抱きつきいた。
「シアンから離れなさい!」
「シアンは私の為にやったのよっ」
シアンの腕に抱き付いたアリスを見たレイアとサラはシアンの周りに行きながらもギャーギャーと言い争いをしてる。
あんた達の為じゃなくて私の為にシアンは決闘を受けたのよ。
ちらっとトスシルナの方を見ればトスシルナは他の先生に連れられて闘技場から出て行った。
「でも、リルちゃんが無事でよかったよ」
「怪我はないか?」
セルディアとクリュスが心配そうに私の側に居る。
……まだディオ先生からの視線を感じるけどね。
「うん、大丈夫だよぉ!」
にっこりと笑みを浮かべればセルディアとクリュスが安心してるのがわかる。
まあ、痛くないってのは嘘だけど。
受け身も取らずに地面に突き飛ばされたから肩と背中がちょっと痛い。
面倒だし言う気はないけどね。
「怪我はしてない?」
まだシアンがビッチ共に捕まってるからかライアが笑顔で近付いて来た。
ライアが心配してくれるなんてラッキー!
「大丈夫だよぉ。 ……でも、リル怖かった……」
少し怖がっているかのように身体を震わせながらもライアの制服の裾をぎゅっと握る。
私は何にも力のないか弱い女の子を演じなきゃいけないんだから。
ライアはほんぽんと優しく頭を撫でてくれた。
んー、この撫で方は私の可愛さにメロメロって感じじゃないね。
何かお化け屋敷で怖がってる子供を慰めてるみたいな感じっぽい。
私はそっち系の好意が欲しいわけじゃないのに。
「もう大丈夫だからね」
まあ、まだ十歳だから今はそれでいいけど。
将来的に好きになってもらえればいいんだからね。
「リル、もう僕が怖い目に合わせないよ」
「俺だってリルちゃんを守ってあげる」
セルディアとクリュスはもう可愛い私にメロメロだからね。
多分、本性さえ見せなければずっと私を愛してるでしょう。
もちろん、バラす気は全くないから。
「リルディア」
「あっ、シアン。 シアンもありがとうっ」!
ビッチ共から離れたのかいつの間にかシアンも居たので笑顔を作ってお礼を言う。
助けてくれたのはシアンだしね。
シアンも私に惚れさせたいけど恋愛に興味なさそうかも。
「お前ら、とりあえず帰っていいぞ。 明日ちょっと話を聞かせてもらうからな」
「わかりました」
ティオ先生の言葉で私たちは解散することになった。
多分、トスシルナは退学になってトスシルナ家は潰れるんだろうなぁ。
まっ、トスシルナなんてどうでもいいけど。