いざ、妖精の国④
人の話を聞かないマイペースでムカつく妖精たちの話を聞き流していれば頂上に漸くたどり着いたようだった、一番高い木の上だからか周りの景色がよく見えるわ。
景色って言っても左右どこも森しか見えないんだけど。
「で、あの木の家に居るの? なんかボロい感じなんだけどさ……妖精王ってあんなボロの家に住んでるの?」
『あれはリトがつくったのよ!』
『妖精には家なんて必要ないからね。 妖精王様はずっとこの木に住んでいたんだけどもリトが泊まる時に野宿は嫌だって家を作ったんだよ。 その時から変わってないね』
変わってないってわけじゃないでしょう。
雨風に晒されてボロボロになってるし、この様子じゃ家の手入れなんかもしてないでしょうし、妖精に家を手入れするって考えがあるのかもわからないけど。
まあ、妖精には家が必要ないんなら修繕することも必要ないか。
「さっさと面倒なことを終わらせましょう」
『面倒なこととは私のことですかね?』
不意に聞こえた声に振り返るとそこにいたのは黒い長髪の男だった、優男って感じの男なんだけど……ぞわりとした悪寒が背筋を駆け抜ける。
強く見えなさそうな男なのにコイツには敵わないって本能が思ってるみたい。
『妖精王様!』
『ミィフォレント、会えて嬉しいよ。 サイスシアもロードンロも来てくれてありがとう』
ミィやサイスが嬉しそうに男の周りを飛んでるのを見れば本当にこの男が妖精王って奴なんでしょうね。
「会いたくもない人に会わせられたら面倒になるのは当たり前じゃない。 で、アンタが妖精王?」
『私のことはグレイスって呼んで欲しいな、リトがつけてくれた名前なんだ』
「グレイスね、わかったわ。 アンタたち妖精って本当にリトって男が好きなのね、ミィからも呆れるくらいその名前を聞いたわ」
『私たちにとってリトは大切な友達だからね』
リトって奴の話になるとグレイスも嬉しそうに笑うのね。
妖精は魔族から狙われてるみたいだし、人間には妖精の姿は見えないし、妖精の数が分からないけど友達が少ないのかもしれないわ。
『僕たちはリルディアを妖精王様に紹介したかったんだ。 ミィと僕が選んだ巫女だって!』
『リルってふわふわなの』
サイスの言葉はわかりたくないけどわかるのに、ミィの言いたいことは全く分からないわ。
前にもふわふわって言ってたけど何がふわふわなのかさっぱり。
『変わった魂の持ち主のようだね、魔力がないのもそのせいかな?』
「魂とかわけわかんないこと言わないでよ。 私は会いたいなんて思ってなかったんだからね」
私を上から下まで見るとグレイスは小さく微笑んでる。
上から目線に聞こえるのでイラッとしてしまうけど、マイペースなミィたちの親玉なんだから偉そうなのもわからなくないわ。
だからと言ってムカつくことに変わりないんだけどね。
『ミイフォレントたちが気に入るのもわかるよ』
『リルディアは最初っから僕らのことが見えてたみたいなんだよね。 だからリルディアには巫女として他の奴らを守って貰おうと思って! 今は妖精王様も力が衰える時期だし……僕たちが見えるリルディアなら最適だよ』
「いや、勝手に決めないでよ。 自分たちの力でどうにかならないの?」
魔族に狙われてるって言ってたけどもそんなの私には関係ないからね?
妖精を守っても私には何の得にもならないし、危ないことに自分から首を突っ込んで怪我をするのも馬鹿らしいじゃない。
『妖精王様の力が衰える時に僕らの力も衰えるんだよ。 後五十年くらいはこのままかな』
「ふーん、そんなものなのね。 でも、だからって私には関係ないのは変わりないじゃない。 私は私のこと以外で動くつもりはないわ。 探したら私以外にも妖精が見える人が居るかもしれないし、そっちを探したらいいんじゃない?」
『もう、リルディアは素直じゃないね』
はあ? どこをどう見たら私が嘘をついてるように見えるのかわからないわ。
私以上に素直で可愛い女の子がどこにいるってのよ。
『それならば、巫女として働いてくれるのであれば報酬を渡そう』
「報酬?」
『ああ、私の可愛い子供たちを助けてくれるのならば報酬として私に出来ることなら何でも叶えよう』
……なるほど、妖精王からすれば妖精たちは自分の子供も同然ってことね。
だから、嫌いな人間にも自分の子供たちの為ならばお願いが出来るってわけ……。
「妖精王って一体何が出来るの? 何の役にも立たないんなら意味がないんだけど」
『ふむ、何が出来るか、か……妖精王と言えど私もこの世界の一員であるからな。 神のように全知全能ではない、ある程度のことは出来るよ』
その”ある程度”がどこまで出来るかによって色々変わってくるんだけど。
でも、妖精王って名乗ってるくらいなんだから基本的に何でも出来そうよね……玉の輿に乗るまでは死にたくないから役には立つでしょう。
例え力が衰える時期だって言っても妖精からしたらそうなだけで人間からすれば凄いと思うわよ。
「……でも、守るって言ってもどうすればいいのよ。 いくら私が世界一の美少女でもまだ10歳なんだけど? それに体が祝福の痣だらけになっても嫌だし」