いざ、妖精の国
あの会議の後、私は普通に次の日には学園に帰して貰った。
私が居ても捜査が格段に進むわけじゃないし、ミィたちが居たら別なんだけど二人とも人間に力を貸すのは嫌みたいだしね。
私がお願いすればまだ聞いてくれるとは思うってか私のお願いは聞かせるんだけど、そんな面倒なことを私がするつもりはないし。
わざわざ他の人の為に私がお願いなんてするわけないじゃない。
【さあ、リルディア。 準備はいいかい?】
【リルディアといっしょにかえれるのうれしいよ!】
【ミィフォレントはもうしばらく帰ってないからね】
目の前の妖精たちは楽しそうに会話をしているけども、私はそんなに乗り気じゃないのよねー。
一緒に帰らない理由をセルディアに説明して納得させるのも大変だったし、ディオ先生に説明するのも面倒だったし、それなのに行くのは妖精の国ってわけわかんないとこだし。
妖精王相手だからって私が下手に出るとでも思ってるのかしら?
「準備出来たわよ」
【じゃあ、行くよ】
サイスが私の部屋の壁に何かを描くとそこはキラキラとしたモヤがあり、不思議なことにガラスでもなくただの壁なのにモヤの奥に森が見えた。
ガラスだったとしてもこんな街中に森があるのはおかしいんだけど……。
「これは魔法とは違うの?」
【そうだね、妖精の禁則事項ですってことかな】
「あー、はいはい。 ここに入ればいいのね」
こんな未知の魔法か何かよくわからないモノに入るなんて嫌で仕方ないけども……ここに入らなければ行けないのならば仕方ないわ。
嫌だけど何となく約束を破ってはいけない気がするのよね、ミィやサイスも何も言ってないから本当に私の勘ではある。
まあ、私に危害が与えられないなら何でもいいわ。
【さあ、どうぞ】
にっこりと微笑むサイスに少し不安が襲いながらもここでそんな不安なんかに怯えていたなんて思われたら屈辱だから現れたモヤに体を入れる。
壁にぶつかることなくモヤの中を通り過ぎた私の目の前には先ほど見た森があった。
どこか神秘的なその森は……燃やしたいくらいにムカつく。
神秘的? 私にとっては何それ美味しいの?状態だわ。
いくら綺麗な森だったとしても私以上に綺麗なものなんて何一つありはしないのよ、それに何だか視線も感じるし……私をただで見ようだなんて舐めてるんじゃない?
「サイス、妖精ってのは随分か弱い女の子に失礼な生き物なのね」
【かよわい?】
【いつも弱々しく見える人間の女のことだね、リルディアとは真逆なんじゃない?】
「うるさい。 何なのよ、この違和感のある森は……誰かに見られてるような感じがするし」
静かな森なのに今は不自然で仕方ないわ、視線は感じるのに姿は見えない、声も聞こえない。
ミィもにこにこしててサイスも楽しそうに笑ってるし、絶対に妖精がどこかに居るんでしょ……私を笑うなんて許されないんだからね。
【進んでいいよ】
辺り一面森しかないのにどこに進めばいいのよ……。
サイスは私が困るのを楽しんでるみたいだけど、私はそんなサイスを楽しませるつもりは全くと言ってないし……この周りに居る見えない妖精たちにも一泡吹かせたいわね。
もう一度辺りを見回しても私の部屋もなくなってるから戻ることも出来ないし、進むとしてもこの森を迷わずに進めるのかもわからない。
ミィもサイスも私の様子を眺めているだけで役に立ちそうもないし。
「ここからは私の好きにしていいってことね?」
【もちろん】
よくわからないけども、これは妖精からの試練かもしれないわね。
妖精の国だなんて人間が行くことなんてないだろうし、ミィやサイスだって最初は人間である私のことを信用してなかったんだもの。
人間嫌いな妖精たちが素直に私を妖精の国に招くとは思わない。
……でも、この私を試そうだなんてありえなくない?
私が他人を試すのはいいわ、私がやることは全てが許される。
だけど、私を試そうとするのは私が許さないわ、今回は二人が言うから仕方なく、仕方なくここまで来ることになったのよ?
「”火よ、我が力となりて敵を燃やし尽くせ、地獄の炎”」
シアンから貰ったネックレスを掲げ、練習した火の魔法の呪文を唱える、サイスが何でもしていいって言ったんだからムカつくし、この森を燃やし尽くしてやるわ。
しかし、私が出した魔法は木に燃え移ることなく炎は段々と静まっていく。
妖精が居るから魔法が発動しないの? でも、魔法自体は発動してるから発動しないってわけじゃないでしょうしね……。
私を見ている妖精が私の魔法を止めたのか、それともこの森では魔法は使えないのか。
【いきなり燃やそうとするなんて流石リルディアだね】
【むぅ、あのにんげんのまりょく】
魔法が使えないんなら自力で妖精の国に行くしかないみたいだけど……。
「やーめた」
【リルディア?】
「だって、何で私がこんな大変な思いをしてまで行かなきゃいけないの? サイスが連れて来たんだから常識的に考えてサイスが案内するべきじゃない。 私は妖精にも妖精王にも妖精の国も興味がないの」