魔武器と決闘②
あんたみたいなナルシストに話し掛けられて嬉しいわけないじゃん。
中流貴族だし、誰が告白OKすんのよ。
とりあえず、そっとセルディアの後ろに隠れた。
「リルちゃんに近付くなって言っただろ」
「リルディア嬢は僕の未来の妻。 何故近付いちゃいけないんだ?」
「リルは結婚しない」
いや、結婚はするから。
トスシルナとは結婚しないけどライアと結婚するつもりだし。
ライアが無理でも若い帝。
「リルディア嬢、恥ずかしがらなくても大丈夫さ」
「嫌がってるだけだろ!」
ナルシストで当主にもならない奴が何言ってんの。
いくら私が可愛いからってあんたみたいなの相手にするわけない。
私が他の男と話してると邪魔してくる邪魔者め。
「この僕に好かれてるのに嫌がるわけないだろ? さあ、こっちにおいで」
おいで、って言ってるのにどんどんこっちに近付いて来ないでよ。
あんたと話してる暇があるならライアとシアンと話してるわ。
セルディアとクリュスが居るのにどんどんと近付いて来るトスシルナに、セルディアの制服をぎゅっと握り締める。
怖がってるフリすればセルディアかクリュスが助けてくれるでしょ。
「リルディアが嫌がってる」
トスシルナの歩みを止めたのはセルディアでもクリュスでもなくいつの間にか前に居たシアンだった。
あれ、やっぱり私に惚れてるの?
「お前は僕のリルディア嬢の何だっ」
「シアン・フロレイン。 ……リルディアの友達だ」
ああ、友達だと思ってるから助けてくれたのか。
シアンって案外友情に厚いんだね。
「ふんっ、ただの友達が僕とリルディア嬢の邪魔をするんじゃない」
「友達だからこそ嫌がってるリルディアを助けるのは当たり前だ」
「僕のどこに嫌がられる要素があるんだ! 容姿端麗、頭脳明晰、魔法の腕も抜群なんだぞ」
んー、容姿はシアンの方が上でしょ。
シアンって本当に格好いいし、だから女に睨まれるんだけど。
ああ、でもシアンって頭もよかったっけ?
ってか、セルディアとクリュスが1番最初に守ってくれてたはずなのに空気になってるし。
「嫌がってるのもわからないとは末期だな」
「何だとっ! 僕を侮辱するなっ」
そろそろ止めた方がいいかなー。
一応まだ授業中だしね。
トスシルナがシアンの胸ぐらを掴んでいるのでセルディアの後ろから飛び出し、瞳に涙を溜めながら2人を見つめる。
「喧嘩は駄目だよぉ! リル、喧嘩する人大っ嫌い……」
もちろん、“大っ嫌い”はトスシルナにだけ言う。
さり気なくぎゅっとシアンの腕に抱き付きながら見上げてみるけどシアンの表情は変わらない。
うん、本当に友達として心配してくれてるみたい。
私を好きだったら頬を赤らめたり狼狽えたりするはずだし。
「リルディア嬢……そうか、この男に言わされてるんだなっ!」
嫌いと言われたのを認めないトスシルナはキッとシアンを睨み付けながら握り締めた拳を震わせた。
何か勘違いしてるけどここで私が何か言えば更に勘違いされる気がする。
「決闘だっ! 負けたら潔くリルディア嬢から身を引け!」
身を引くも何もシアンとは友達なんだから何もないんだけど。
思い込みも激しいわけ?
「わかった」
「よし、ならば放課後に闘技場に来い。 許可がないから魔法なし魔武器なしの決闘だ」
クルリと背中を向ければトスシルナは近くに居た子分を連れて去って行った。
シアンもこんなわけのわからない決闘受けなくてもよかったじゃん。
トスシルナの声が大きかったからかシアンが私の為に決闘を受けたからか、周りからの視線を感じる。
「シアン、大丈夫ぅ?」
ああ、女たちからの視線がキツいのは私がまだシアンの腕に抱きついてるからか。
シアンは嫌がってないみたいだし、別にいいじゃない。
「問題ない。 リルディアも困ってたみたいだからな」
「シアン……」
私とシアンが見つめ合ってたからかサラとアリスとレイアが割って入ってきた。
私を放置してシアンを心配してるけど多分シアンの実力なら問題ないでしょ。
空気になってたセルディアとクリュスも私の近くに来る。
ライアだけは元の位置でにこにこ笑ってるけど、何が楽しいわけ?
まあ、何でもいいけど。
決闘騒ぎに時間を取られていたのか授業はそれからすぐに終わってしまった。
――全ての授業が終わり決闘の時間となった。
「シアン、大丈夫ぅ?」
シアンがどれだけ強いのかはまだ戦闘の授業をしていないのでわからない。
トスシルナは噂では傲慢でナルシストで性格は最悪だが強いとの噂がある。
もし、シアンが負けてしまえば私は落とさなければならない対象を失ってしまう。
ギルドマスターの息子、それだけでもシアンには価値があるのだから。
「……大丈夫だ」
シアンはトスシルナの強さも気にならないのかいつも通りだ。
本当に勝てるのか心配になってしまうのは当然の心理だと思う。
「待たせたな」
ゾロゾロと子分を引き連れてきたトスシルナは1年にはまだ貸し出しが禁止されている練習用の剣を1つ腰にぶら下げていた。
トスシルナは身長が高いわけではないので軽く引きずる感じになっているが……。
「おいっ、それは持ち出し禁止だろ?」
練習用の剣を貸し出し出来るようになるのは中等部に入ってからのはずなのは皆知っているので眉をひそめ、トスシルナの腰にある剣を見ている。
「ふんっ、決闘をするのに得物を持たない馬鹿がどこにいる。 先生の許可がなければ魔力を使ってはいけないのだから違う得物を持ってくるのが当たり前だろう」
「それだって許可が必要じゃない!」
「卑怯です!」
「正々堂々と勝負しなさい!」
シアン大好きなビッチ共が叫んでるがトスシルナは平然としている。
まあ、ルールとか決めてなかったし卑怯と言えないかもしれないけど。
だからトスシルナはわざとルールを決めなかったのかも。
魔法なし魔武器なしって言ったけど普通の剣を使ってはいけないなんて言ってないし。
「僕は剣を使っては駄目だと言ったか?」
「いや、言ってないな」
ほらね、でもシアンは剣を見ても何も焦ってないように見える。
実力はわかんないけど体術は得意なのかな?
「問題はあるか?」
「ない」
シアンの自信は体術が得意な事に対する表れかもしれない。
私は鍛えたけど素手は無理、毒を使っていいなら別だけどね。
「どちらかが参ったと言う、もしくは戦えないと判断されたら終わりだ」
トスシルナの家は剣術が得意と聞いたことがある。
だけど、体術や魔法が得意とは聞かないし、剣を奪えばシアンの勝ちになる可能性は高い。
情報には価値がある、暁がいつも行ってたしね。
「じゃあ、僕が審判をするよ。 問題あるかい?」
にっこりと笑みを浮かべながらシアンとトスシルナに告げるライア。
確かにこのメンバーなら妥当かもしれない。
トスシルナの子分はトスシルナ贔屓するから論外、ビッチ共もシアン贔屓するから論外、セルディアとクリュスはマシかもしれないけどシアンにもトスシルナにも敵意あるから却下。
私は面倒だから嫌。
だから、ライアしか居ない。
ライアはシアンの友達だけど贔屓はなさそうだし、トスシルナも納得の表情だからライアで構わないんでしょう。
「これより、1対1の決闘を始める。 両者、前へ」
闘技場の真ん中で審判を務めるライアはやっぱり私の夫に相応しい。
王子だし、格好いいし、将来何もしなくても暮らしていけるじゃない。
権力とお金、私に相応しいのは両方を持っている人じゃないと。
まあ、格好良ければ格好良いだけ良いけどね。
「僕に逆らった事を後悔するんだな」
キャンキャンと鳴く犬のようなトスシルナと黙ったまま構えないシアン。
そんなシアンにトスシルナはイラついているみたい。
「開始!」
ライアの開始の合図と同時ぐらいにトスシルナがシアンに向かって走る。
剣を振るうトスシルナだがシアンは無駄な動きもなく避けている。
人の戦う姿は初めて見るけど、シアンは凄いかも。
まあ、ラースには負けるけどね。
「くそっ!」
当たらない剣に冷静じゃなくなってきているのか更に荒く剣をトスシルナは振るう。
私だってそんな剣避けれるわ。
思った以上に早く決着がつきそうな決闘。
ビッチ共はシアンの様子に黄色い声上げてるし、……シアンはこの私の為に戦ってるのよ。
シアンが剣を避けてすぐに足を出せばトスシルナは足に引っかかり転けてしまう。
ダサッ。
他のビッチ共もセルディアもクリュスも笑っているのが見える。
侮辱されているのがわかったのかトスシルナの顔が赤くなってきた。
子分たちも笑わないようにしてるけど堪えられてない。
「この平民がっ! このコーノ様を侮辱しやがって! “水よ、我が力となりて敵を襲え蛇水”」
トスシルナが呪文を唱えると地面から水で出来た蛇が現れ、シアンに向かって行く。
「反則じゃないっ!」
「勝てばいいんだ、勝てば!」
馬っ鹿みたい。
教師の許可なく魔法を使っちゃいけないって校則に書いてるのに。
良くて停学、悪くて退学なのにね。
シアンは向かってきた水の蛇を軽く避けながらもトスシルナに向かって走る。
今まで避けてばかりいたシアンが向かってきているので驚いたのか慌てて剣を構えるトスシルナ。
だけど、遅い。
シアンはトスシルナの隙をついて鳩尾を殴った。
トスシルナの体はくの字に曲がり、手に持っていた剣を落としてしまう。
落ちた剣はシアンが蹴って遠くに飛ばした。
「シアン格好いいー!」
ビッチ共がシアンの戦い方にきゃあきゃあ言ってる。
確かにシアンは強いわね。
ギルドマスターの息子みたいだし、戦い方でも教わってるのかな?
「参ったと言ってないけど、魔法なしの勝負で魔法を使ったんだからシアンの勝ちだね」
ライアの言葉に一気にシアンに近付くビッチ共。
セルディアもクリュスもシアンに話し掛けているのが見える。