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韓国からの留学生

私の部屋は、2人部屋でベッドと机があり間取りでいうと8畳くらいになる。通常ならもう一人、いるのだが、幸いにも今のところ私一人で独占している。 授業が終わると、すぐに入浴して夕食。それで部屋に戻り、翌日の準備や英会話の学習、平日はこのパターンの繰り返しだ。 安全靴も汚いし、磨くことにした。靴磨きセットは持参済みだ。ブラシを片手に、さぁ、始めるか!と思ったら、


(すいません・・すいません・・・)


ん? お隣さんか、扉の先で呼んでいる。


(はい、なんでしょう?)


(あの、一緒の部屋の人が何だか、変なんです。)


(変?どうかしたの?)


いきなり来て、変と言われても、どうしようもないが、まずはお隣のお部屋へお邪魔することにした。


(一週間くらい前から、体の調子が悪いみたいで・・)


部屋に入り、その同居人を見ると、風邪を引いてるのか、マスクをして咳込んでいた。しかし、とても苦しそうにしている。


(あの、大丈夫ですか? 病院には?医務室の先生には?)


語りかけるが、咳きで苦しいようで言葉が出ないらしい。 


(医務室の先生も、始めは風邪だろうって言ってたんだけど、病院に行って診察をしてもらいなさいって、行ったんですよ。でも、単なる風邪かなにかって言われてだけで・・でも日に日に症状が悪くなってるみたいで・・・)


(もう、どれくらいこんな感じなんですか?)


(一週間以上になります。)


その子と話していて、私もこれは普通の風邪ではないと感じた。 


(私、この部屋のセギョンと言います。そしてこちらは、小野さんです。)


セギョン??? どこの方??


(韓国から留学に来ています。初めて会いましたね。隣なのに・・笑)


まさか韓国の人だとは思わなかった。だって、普通に日本語だし、それにぜんぜん韓国っぽく見えない。


(いえいえ・・こちらこそ初めまして・・ですね。月岡です、よろしくです。笑。)


咳き込んでる小野さんも、よろしくと言わんばかりに苦しそうに頭を下げている。


とにかく挨拶もそこそこに、どうにかしなければならない。でも、どうしたら・・・


そうだ! 福岡のチーフドクターに聞いてみたらどうか? 何かわかるかもしれない。


(熊本地震でお世話になった、救命救急医療センターのチーフドクターに聞いてみるわ。ちょっと待ってて。)


私は、早速、相棒(iphone 6s)をダイヤルした。



(おお、月岡さん、無事に秋田には着いたかい? どうしたんだ?)


チーフドクターはすぐに出てくれた。


(チーフ、隣の部屋の女の子が苦しそうに咳き込んでいて、それが普通の風邪ではないような感じなんです。)


私は、セギョンに代わり、チーフに病状やその他、詳細を伝えてもらった。 一通り伝えてくれた後、チーフが私と話したいらしいということで私にチェンジした。


(月岡さん、その子のマスクを外してもらい、口の周りがどんな状態か映像で見せてくれないか? Iphoneなら出来るから。)


え?どうやるんだろう? セギョン?わかるぅ?


(月岡さん、こうすれば出来るよ。)


セギョンは手際よく操作してくれ私に教えてくれた。


(チーフ、どうですか?そちらに写ってますか?)


(OK! こちらもタブレットに代えたからよく見えるよ。その子にマスクを外し見れるように言ってくれ。)


(分かりました。ちょっとマスクを外してもらってもいい?今、救命救急の先生とリアルタイムだから。)


小野さんはマスクを外し、顔をiphoneに向けてくれた。 ちょっと待ってくれよ・・・私は小野さんの顔を見て驚いた。口の周りは赤紫に腫れ上がり、頬一面には、にきびを大きくしたような吹き出物がたくさん出ている。これは、間違いなく風邪ではない。


(チーフ、どうですか?)


(よし、いいぞ。顔に沿って、ぐるっと左から右へiphoneを動かしてくれ。)


左の耳あたりから、ゆっくりと顔に沿って右の耳までiphoneを動かした。


(月岡さん、今度は、彼女の背中と腹部を見せてくれるように伝えてくれないか?)


小野さんに頼んだ。 小野さんは着ていたTシャツを脱ぎ、上半身、裸の状態になってくれた。その体を見て、私もセギョンも2度、びっくりだ。


小野さんの体は、頬に出来ている吹き出物が背中、胸、お腹と一面に広がっていた。特に肩からお腹にかけて爛れている。何でこんなになってしまったのか?


(背中と正面を写します。チーフ、映像で分かりますか?)


(ゆっくりと回しながら見せてくれ。)


一通り、小野さんの体の状態をチーフに見せて、回答を待つことにした。


(月岡さん、すぐに連絡するから。そのまま待機していてくれ。)


(はい。わかりました。)


なんだか、益城町にいるみたいだな・・・そんな思いに耽っていると早速、チーフから連絡が入った。


(月岡さん、すぐに119番してくれ。こちらから秋田の救命救急医療センターに連絡してすぐに搬送できるようにするから。大至急、入院の準備だぞ。大学にも連絡して緊急事態だからって対処してもらうんだ。)


(チーフ、そんなに大変なんですか?)


(生命に危険なところまで来ている。早くしろ。)


(はい。わかりました。)


すぐに、大学の緊急連絡先に電話して、総合病院に搬送という旨を伝え医務室の先生にも来てもらうことにした。119番通報し、救急車の到着を待つ。


しかし、どんな病気なのか・・・私もセギョンも感染などしないのだろうか・・・


(月岡さん・・・小野さん、どんな病気なんだろう?)


(医療センターに行けば分かるはずだよ。感染とか大丈夫かな・・)


私もセギョンも、不安になり、もう一度、チーフにどんな病気なのか連絡した。


(あ、チーフ、何度もすいません。小野さんはどんな病気なんですか?)


セギョンも気を利かせてくれて、ipad proでチーフとリアルタイムにしてくれた。


(月岡さん、よく聞いてくれ。恐らく彼女の病気は、スティーブンス・ジョンソン症候群だ。この病気は・・・・)


チーフドクターによれば、この、スティーブンス・ジョンソン症候群というのは薬やウィルスなどに対して免疫機能が過剰に反応して激しいアレルギー症状を起こしてしまうものだそうだ。高熱、水膨れ、粘膜炎症など、激しい症状が起き、まぶたとの癒着や角膜が侵されるため視力障害など失明にもなりうる。最悪の場合、死に至る重篤な病だ。


(月岡さん、お友達に聞いてくれ。彼女、風邪薬、飲まなかったか・・・?)



(セギョン? 小野さん、風邪薬、飲んでた?)


(うん!飲んでた。頭痛薬も一緒に・・・)



(やっぱりな。その風邪薬と頭痛薬でアレルギー反応が出てる。)


リアルタイムでチーフドクターと会話が出来ている。こんな迅速な対応ができるのも、熊本地震の支援活動のお蔭だ。ipad最高! 


(搬送されてから、はっきりしたことがわかるはずだけど、かなり症状は重いぞ。)


(小野さんは、助かるんですか?)


(大学の人は来たか? 大至急、家族にも連絡をするように要請しろ。)


(分かりました。)


私もセギョンも準備体制に入った。 医務室の先生も、大学の職員の人も来てくれて、事の重大さに緊急配備になった。小野さんの家族にも連絡し、秋田県、救命救急医療センターにすぐに来てもらうことになり、119番通報した救急車も大学に到着。小野さんを救急車に乗せ、私たちも一緒に同乗し、医療センターに向った。 時刻は夜20:00。


熊本からようやく帰って来て、ゆっくり靴磨きをしようかと思って矢先でこの事態だ。明日は通常通り、授業がある。 アタシ・・・大丈夫かよ・・ クスン・・・(T_T)

しかし、小野さんを見てると、どんどん酷くなっていくような感じだ。さっきまでは気にならなかったが、目を見ると充血というより真っ赤な血を目に入れてるようで、映画に出てくるような、悪霊みたくなっている。


医療センターに到着し、すぐさま、ICUに入った。私たちは表で待機だ。医務室の先生も、まさかここまで酷くなるとは思ってもいなく、また、始めは風邪の引き始めみたいな感じだったのでそれほど心配はしていなかった。 


(まさか、スティーブンス・ジョンソン症候群だとはね・・・先生も、もっとちゃんと見てれば良かった。)


(先生、この病気って治るんですか?)


(手術の経過を見ないと分からないけど、命にかかわることには間違いないわよ。)



ICUから、執刀医が出てきて、


(みなさん関係者の方? それと保護者の方いる?)


大学の職員が、


(ご両親には、連絡してます。東京にいて、今夜の最終で秋田に来ます。)


(じゃ、先に病状の詳細をみなさんに伝えます。)


執刀医がこれから手術を開始するということと、このスティーブンス・ジョンソン症候群という病状の説明を始めた。


(彼女の病名は、中毒性表皮壊死症というものです。これは、スティーブンス・ジョンソン症候群よりも症状が重いです。失明の恐れもあり、また、体の約三分の一の皮膚が剥がれた状態でかなり危険です。万全を尽くしますが、ご両親がこちらに到着した際にはすぐに呼んでください。)


驚いた・・スティーブンス・ジョンソン症候群より悪いなんて・・・


福岡のチーフドクターに、すぐ連絡した。


(搬送されてどうだった?)


(はい・・かなり危険な状態で、中毒性表皮壊死症という症状で、今、ICUに入ってます。)


(やっぱりな。月岡さん、手術の経過をまた連絡してくれ。こちらの医療センターに待機してるから。)


(わかりました。また医師から何かあると思います。)



セギョンも心配そうで、元気がない。 何かあるまで少し座ってるしかないか。医務室の先生、大学の職員、セギョン、私の4人で待合室に待機した。


一時間ほど経った頃、執刀医が出てきた。 手術の経過は良好だそうで命にも別状はない。血漿交換療法、免疫グロブリンの投与、眼にステロイド点眼という処置がされた。しばらくは入院し経過を見ることになった。


東京から、ご両親も秋田駅に着いたとの連絡があり、こちらへ向かっているという。時計を見ると、23時近い。


(月岡さん、ありがとう。本当に助かった。)


医務室の先生も、職員の人も安堵だ。


(月岡さんが色々と、聞いてくれたおかげで小野さんも助かった。本当にありがとう。)


セギョンからもお礼を言われ、ちょっと照れ気味。


あとは、小野さんのご両親がこちらに来て・・だな。


緊急手術をしてくれた、医師の方たちにもお礼を言い私たちは大学に戻ることにした。


(私はここに残って、ご両親と経過を説明しなければならないから、先に行ってて。)


医務室の先生は、医療センターに残り、私たち3人はタクシーで大学に向かった。


(なんだかホッとしたら、眠くなってきたね。笑。)


(寮に戻ったらすぐに寝なきゃ・・・)


寮に戻るころには0時、周ってるな・・・熊本から帰ってきたその日に、この出来事。私は、とても忙しい女なのかもしれない。





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