仮出所
秋田へ着き、タクシーで学生寮に向かった。ティファニーもクタクタのようでぐっすりと眠っている。学生寮に着いたら、まず、洗濯だ。汚れたユニフォームと安全靴、それに下着・・・何度か熊本でも洗濯はしたが、やはり2日、3日も着替えないとさすがに臭いも凄い。早くお風呂に入り、ゆっくりとしたい。 そんなことを考えながらタクシーの外を見ると、きれいなアゲハ蝶が飛んでいる。黒と紫の何とも言えないキレイな蝶々だ。
私たちを追いかけてくるようにタクシーについてくる・・・
まさか、熊本から追いかけてきたりして? なんて思うのもいいか。
学生寮に着き、時刻はお昼すぎになっていた。キャンパスの中は何故か、生徒たちが通常通り、過ごしている。テラスには昼休みなのか人が出ている。あれ?今日・・土曜日か?日曜日じゃなかったっけ?
(Is it AI? What day of the week is it today? アイ? 今日、何曜日?)
ティファニーも不思議がっている。
(Is it Sunday? う・・・ん、日曜日だったような・・・)
私もよく分かりません・・・
受付の人に聞いてみると・・
(あら?熊本から帰ってきたんですね?お帰りなさい。大変だったでしょ? 今、理事長に連絡しますので・・)
受付のお姉さんたちからも、お帰りなさいと言われちょいと驚き。それに今日は月曜日だそうだ。 私たちは完全に時差ボケをしている。
どす黒い顔とユニフォームとで、まさに戦争から帰ってきたような気持ちで理事長室に入った。
(おお・・よく帰ってきたな。大変だったろう?本当によく頑張った。ま、座ってくれ。)
私もティファニーも、よっこいしょっ・・・と言いながらソファーに腰を掛けた。
(この一カ月の間、本当によくやった・・2人には感謝の気持ちで一杯だ。帰ってきてすぐに授業になり、気持ちも落ち着かず大変だろうが、なんとか気持ちも切り替えて欲しい。今日は、衣服や荷物の整理などもあるし疲れを取るためにも、お風呂に入りゆっくりと休んでくれ。明日からは通常の授業になるけど少しづつ日常を戻して欲しい。食堂から2人には、特別にお弁当を用意してもらってあるから、着替えをして入浴して食事してくれ。本当によくやってくれた。ありがとう・・・)
理事長の話を聞いてるうちにティファニーは、夢の中・・私も疲れが一気に来たようで気絶しそうだ。
(おい、おい・・大丈夫か?笑。まず、入浴してサッパリしてこい。笑)
理事長の言葉も、もはや夢の中で聞いてるようで私たちはフラフラになりながら学生寮のお風呂に向かった。
(AI ... I, finished death アイ・・・私、もうだめ・・死ぬぅ・・)
(fool! It is a bath soon. Get a grip! バカ!もうすぐお風呂だよ。しっかりしな!)
(I cannot walk anymore もう・・歩けない・・・)
(Hey! I do not yet die! こら!まだ、死ぬんじゃないよ!)
私たちは、まるで、負傷を負った兵士のようだ・・・
ようやく脱衣所まで到着し、汚れたユニフォームと安全靴を脱いだ。いやぁ・・・臭せぇ・・・
女とはいえ、さすがに汗まみれになった靴と被服は強烈だ。彼氏がいたら、まず、速攻で破談だろう。
ブラジャーもパンティも汚ねぇーーー お風呂上りにはすぐに洗濯しなければ。睡魔に襲われながらも私とティファニーは、スッポンポンになりお風呂場に入った。
ティファニーも、なんとかシャンプーを手に髪を洗う。私も、シャンプーを手にボディソープも使い、全身を洗浄。 ゴシゴシと全身を洗い、湯船に飛び込んだ。
(気持ちいいね!!!)
ティファニーも少しは意識が戻ったようでご機嫌がいい。私もようやく我に返り暖かい湯に浸った。
(It is ... happiness , huh はぁ・・・幸せ・・・)
女2人の正直な気持ちだ。
(Is it I? Does beer not go for a bath climb? アイ? お風呂上りに、ビール・・いかない?)
(Is it beer? ビイル????)
(want to drink Budweiser!! バドワィザー、飲みたい!!)
私もティファニーもまだ18歳で未成年だ。ビールなんてアルコールは絶対、ダメだ。
(ティファニー、日本じゃ未成年はアルコールはダメなんだよ?)
(? ニュージーランドじゃ、全然、平気だよ? 私なんか真昼間から飲んでたし・・)
(あのね・・ここはニュージーランドじゃないの!japanなのよ!)
(そんなの関係ないじゃん・・いいよ、私、一人で飲むから・・)
(絶対、ダメだよ、私が許さない・・)
(なによ!ビールくらい。いいじゃない!)
(ダメッたらダメ! もう)
(知らんわ。あんたなんか知らない!)
(何?もう・・こうしてやる!)
湯船の中で、女子プロレスが始まってしまった。しかし、ティファニー・・・あんた、おっぱい、本当に大きいのね? コラコラ、揉んでやろうか?ん?ヒヒヒ・・・
(キャァ・・ヤメテ・・・アイ、ヤメテ・・)
お仕置きだよ。ティファニー。アタシに逆らうとこういう仕打ちにあうんだよ。ああん?
(分かりました。ビール、しません。飲みません!)
世話の焼ける女だ・・・
お風呂から上がり、学生寮に戻り、食堂からのお弁当を食べることにした。が・・
さすがにお風呂上りは、疲れがドッと出てしまい、ティファニーも私も食堂で気を失ってしまった。
少し、寝入ってしまったのか、夕日が顔を照らす。
(あれ? ちょっと寝たのかな・・)
ティファニーを見るとグッタリとして寝ている。
お弁当も食べずに食堂のテーブルで2人とも寝てしまっていた。ティファニーを起して寮へと戻ろうとしたときに受付の方に呼ばれた。
(月岡さんに面会よ。東京から・・)
いったい誰だろう?
受付までいくと、瞳の面会でお世話になった刑事さんだった。
(月岡さん、元気してる? 熊本で支援活動してたって聞いた。今日、こっちに帰ってきたんだ?)
(はい。もう、疲れて・・・ぐったりです。)
(あのね、月岡さんに朗報なの。)
刑事さんが嬉しそうに私に言った。
(真行寺さん、仮出所が決まったの。)
え? 今、なんと仰いました????
(今月の末で自宅に戻ることが出来るの。そのことを伝えたくて秋田まで来ちゃったわよ。笑。)
(本当ですか???良かったぁ!! 刑事さん、ありがとうございます。)
瞳が仮出所だ。刑期より3カ月、早い。
(でも、刑事さん、秋田まで来て大変だったんじゃ・・・・)
(まぁ・・・いっか!って気持ちよ。それにちょっと観光もして帰るから。おみやげも買って署に戻れば、大丈夫よ。フフフ・・・)
意外にアバウトな刑事さんだ。 でも、瞳が出所して自宅に戻れるなんてこんなうれしいことはない。早く会いたい・・・
(刑事さん、瞳には会えるのでしょうか?)
(うん・・ただね、仮出所の期間は色々と制限もあって遠出は出来ないの。だから秋田に来ることは無理・・・でも真行寺さんの自宅とか近所とかでは全然OKよ。)
来月になれば、東京ではお盆に入る。それに合わせて会いに行こう。おばあちゃんの家にも行きたいし・・・
(瞳に伝えてください。来月、7月のお盆には帰るって。おばあちゃんの家で一緒にご飯たべよって。)
(分かったわ。伝えとく。月岡さんも疲れてるだろうけど、大学もちゃんとね。)
(はい。大丈夫です。ありがとうございました。)
刑事さんは、大学を後にした。
あ、いけない。ティファニーと寮へ戻らなきゃ。 食堂のラウンジでまだ爆睡しているティファニーを起しにいった。 しかし、よく寝る女だ。ニュージーランドでもこんな感じだったのか・・・
(Is it Tiffany? I already come back to the dormitory. It is night. ティファニー? もう寮に戻るよ。夜になるよ。)
(Finished which dies・・・ もうだめ・・死ぬ・・)
はぁ・・まったく・・世話の焼ける女やのう・・・
ティファニーをおぶって寮へと向かう。お弁当とティファニーを持ち・・・空襲から逃げる親子のようだ。 とにかく今日は朗報が届いた。それだけでも私は嬉しい。よく眠れる夜になりそうだ。