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秋田へ・・・

5名の患者の処置も終え、私たち医療チームはこの総合病院から離れた。医師がこのまま一度、福岡に行こう。と高度救命救急医療センターに向うこととなった。総合病院の職員の人がマイクロバスを出してくれるというのでそのまま福岡に向かった。 医療センターに着くと、他県から派遣されてきている医療チームの人たちも集まっていて、これからミーティングを開くようだ。 私とティファニーがチーフドクターの部屋に呼ばれた。 


(2人ともよく頑張ってくれたな。本当に感謝するよ。地震発生から1カ月が過ぎたけど、2人には秋田に戻ってもらうことになったんだ。)


【秋田国際大学】からも、私とティファニーに帰還の要請が出たようで、チーフドクターからも、今週末を目途に・・という調整に入ってることを伝えられた。


益城町、南阿蘇村・・・私もティファニーも被災者と生活を共にした。正直、まだ私自身、支援活動は全くと言っていいほど出来のいい結果ではない。しかし、大学生である私たちも秋田に戻り、授業を再開させて、後、4年間という大学生活を終えなければならない。


住む家を失い、未だに避難所で過ごしてる人たち、家族を失い、仕事を失い・・・なんて被災者たちに、わずか一か月で、(ハイ、さよなら!)なんて私にはとてもじゃないができない。ティファニーも同じ気持ちなはずだ。でも・・・帰らければならない・・・



心の中に葛藤が出る・・・



そのとき、ティファニーが、


(チーフ、私もアイも、まだまだやり残したことがあります。秋田の大学に連絡してまだ支援活動をさせてください! せめて今年・・・いや、秋・・夏まででもいいんです。お願いします!・・・・・)


ティファニーは、泣きながらチーフドクターに訴えかけている。


(私も同じ気持ちです。大学の理事長に連絡をして、せめてあと3か月、いや、1カ月だけでもいいんです! この熊本で支援をさせてくれるようにお願いします!)

私もティファニーと一緒に、チーフドクターに訴えた・・・


チーフは、

(I’m flattered. 本当に嬉しいよ。)




(Are you all right? 大丈夫ですか?)

ティファニーが問いかける。




(I appreciate your kindness. Thanks for saying so. 二人の気持ちに感謝する。ほんとうにありがとう。)


(ティファニー、月岡さん、よく聞いてくれ。2人の気持ちは本当にありがたい。でもな、時には、その(情)というものも、(殺す)ってことも必要なときもあるんだ。たしかに支援は助かるし本当に支えにもなる。だけどな、その支援をする人たちにも家族があり家庭があり生活があり、そして仕事もあり・・なんだ。 そんな支援する人たちがまだこの先も支援活動を・・なんてやってたらその人の生活、どうなると思う?


 被災者の支援で仕事を休みます。なんて一月も二月も会社は休めないんだぞ。いくら復興支援と言ってもな。あまりにも援助だ、人道支援だ、なんて熱くなりすぎるとかえって自分自身の生活にも影響が出てくるんだ。


 月岡さんもティファニーもこの熊本で1カ月の間、支援活動を我々としてくれて本当によく頑張ってくれた。窮屈な寝泊まりをして質素な食事にも不満一つ言わず、感謝の気持ちで一杯なんだ。


だからこそ、ここは一旦、区切りを付けて大学生活に戻り、しっかりと勉学にも取り組んで欲しいんだ。たしかに支援は助かる・・・でもな、いつまでも熊本に居るわけにはいかないだろう? 何のために大学に進学したんだ? そこをよく考えて欲しいんだ。 我々、災害派遣医療チームの連中も交代で代わりながら常駐するし、現地の支援団体や民間の慈善事業の人たちも数多く来ている。それらの人たちも滞在期間を決めて交代しながら支援活動をしていくんだ。


また、夏休みなり冬休みなり、大学にもフリーの期間があるだろう?そんなときにでも一週間、いや2日、1日だけでもいい・・また、この益城町、南阿蘇村に来てくれて支援活動をしてくれれば、それでいいんだよ。それでも立派な支援活動なんだ。だから、2人も大学から帰還要請が出てるのだから、一度、秋田に戻ってまた時間ができたら、俺たち、医療チームに会いに来てくれ・・・待ってるからな。月岡さん!ティファニー!笑。)



チーフドクターが私たちに言った。


私は元さんの言ったことを思い出した。 (頑張る人には神様は試練を与える・・・)


これは神様が与えてくれた試練なんだ。大学に戻り勉学に励め・・と。しかし、この熊本地震は絶対に忘れるな・・とそれを今、このとき、この時間、(神様)は私とティファニーに試練という形で与えてくれている・・・



私もティファニも素直に(神様)の試練を受け取ることにした。



そして別れのとき・・・



前日から宿泊していた福岡、高度救命救急医療センターで身支度をして秋田へ向かう準備をしていた。朝、7時のJAL2050便、福岡空港から伊丹経由で秋田空港へ向かう。約2時間ほどで秋田に着く予定だ。 私とティファニーは早朝5時に起床し、福岡の朝の景色を見ていた。

高度救命救急医療センターから見える朝の景色はとてもキレイだ。朝日が昇りオレンジ色の太陽が私たちを迎えてくれた。熊本で過ごした1カ月が終わりを迎えようとしている。


災害派遣医療チームの人たちがロビーに集まり出迎えてくれていた。他県からの医師たちもいてくれて、こんなに大勢の人に見送られるなんてなんだか恥ずかしい・・・




(2人とも、元気でな。また、会える日を楽しみにしてるぞ。)


チーフドクターが、握手してくれ抱きしめてくれた。



(愛さん・・ティファニー・・・・また・・会え・・る・よね?)

看護師と保健師のお姉さんが涙でクシャクシャになりながら私たち2人を抱きしめる・・



医療チームの人たちから花束を贈られた。可愛いピンクとオレンジの花で、渡されたときには私もティファニーも涙が台風のごとく流れ出て立ち尽くしていた。



福岡空港まで行く、タクシーが到着した。



(Good-bye! I absolutely come to meet!  さよなら!絶対に会いに来ます!)


ティファニーは号泣しながら手を振りタクシーに乗車した。



(ありがとうございました・・・)


私は涙が邪魔をし、言葉が詰まり、これが精一杯の別れの挨拶だった・・・



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