帰省 1
新学期も近くなり、春休みもあとわずかになってきた。 週末の土日に私は祖母のいる蒲田に帰省することにした。 セギョン、ティファニーも一緒に連れて行くことになり、竹内さんとは、直接、祖母の家で会うことになった。
蒲田へ帰省するに、祖母が私たち3人の航空券まで手配してくれた。
(おばあちゃん、いいの?こんなことまでしてもらって・・・)
(何いってるんだい。まだ、大学生なんだから無駄なお金を使うんじゃないよ。飛行機代くらい、なんてことないから。)
本来なら、バイトでもなんでもしてお金を得て、飛行機や新幹線などのチケットくらいは自分たちでしなければならないのに、私たちは、バイトすらもしておらず、そういうことを考えないとこがまだ、子供なのかもしれない・・・ セギョンもティファニーも、本当にいいの?って感じで恐縮している。
(ありがとう。明日、3人で帰るから。)
秋田から羽田まで、JAL、朝9時の便で向かうことになった。約一時間ほどだから、午前中には祖母の家に着くだろう。 JALで帰省なんて、私は本当に幸せな女だ。
(月岡さん、ほんとにいいの?)
(アイ、おばあちゃんに早く会って、ありがとう、言いたい。)
私だけでなく、セギョンとティファニーにも飛行機代を出してくれるなんて祖母には本当に感謝だ。
秋田駅まで、タクシーで行こうかと話していたが、大学が春休みでもゴミの回収は来るようで、絵美理さんの会社の人が、この日も大学にパッカー車で来ていた。
(3人とも、どこか行くのか?)
(秋田空港へ行き、東京に帰省するんですよ・・・)
(あ、そうか。じゃ、社長に連絡するから送ってってもらえ。)
お兄さんはそういうとすぐに電話してくれた。
(社長、今、来るっていうから、待ってれ。)
いゃ・・何から何まで本当に助けてもらってしまう・・・絵美理さんにも・・・
(お待たせ・・さ、乗って。)
絵美理さんが来てくれ、早速、車に乗り、大学を後にした。
(絵美理さん、ありがとうございます。ほんとうに・・・)
(いいのよ。この車で空港まで行けば、その分、交通費も浮くじゃない?笑。)
秋田空港に着き、搭乗時間までまだ2時間ほどある。
絵美理さんが、空港内にある、(こもれびカフェ)というお店で、コーヒーでもしようということになり、お店に入った。
(まだ、時間があるね・・・3人とも朝は食べたの?)
(いや・・空港に着いたら、コンビニでおにぎりでも買おうか?なんて話してたんですけど・・)
(じゃ、モーニングセット、頼んじゃおうか。)
そう言うと、絵美理さんは4人分のモーニングセットを注文した。
(いいんですか?朝までご馳走になって・・)
(いいわよ。笑。ちゃんと食べて東京に行きなさいよ。)
朝食まで、頂くことになり、本当にありがたい。 朝の温かいコーヒーと、焼きたてのサンドイッチは格別に美味しい。 モーニングを楽しみながら女同士、話していると1時間、2時間などあっという間に過ぎてしまう。
搭乗時間になってきた・・・
(絵美理さん、いろいろとありがとうございます。)
(また、帰ってきたら連絡して。迎えにくるから。)
(はい、ありがとうございます。)
私、セギョン、ティファニー、絵美理さんにお礼を言い、搭乗口へと向かった。
秋田から羽田までは、飛行機なら1時間ほどだ。それから京急に乗り、京急蒲田駅まで快速ですぐだし、駅から祖母の家までも10分ほどだから、それほど遠いという距離でもないようだ。 JAL,9時の便に入り、席についた。
(なんだか、私たちすごく恵まれてるよね・・・)
(セギョンもそう思う? 何かいいことでもあるのかな・・・)
(さっきのサンドイッチ、美味しかったね・・)
(絵美理さんにも、お礼しなきゃ・・ね。)
そんな会話をしながら、秋田空港を飛び立った。
朝も早かったせいか、機内では3人とも爆睡した。 1時間なんてわずかなもので、寝たかと思ったら、羽田にもう間もなく到着・・・とアナウンスが聞こえてきた。
羽田空港に到着して、京急線のホームに向かった。
京急蒲田駅を出て、呑川沿いを歩いていき、キネマ通りに出ると祖母の家まではすぐだ。3人で川沿いを歩いていると、
(何か、黒くて汚い・・・)
(異臭のような変な、においもするよ。)
セギョンもティファニーも、こんな汚い川を見れば驚くのも無理ない。
(でも、昔は、澄んできれいな川だったみたいよ。魚とか泳いでたり・・)
(あ、何か泳いでるよ???)
(え?ほんと? あれ、かるがも?)
(まじか?こんな汚い川で?笑。)
川の話題で盛り上がりながら、祖母の家に着いた。
(こんにちは。セギョンです。)
(ティファニーです。初めまして。)
(まぁ、よく来たね。さ、入って。)
(おばあちゃん、飛行機のチケット、ありがとう。)
(私たちの分まで本当にありがとうございました。)
(いいんだよ。そんなお礼なんて。可愛い(孫)たちが帰って来たんだから、おばあちゃんも何かしてあげないとね。あ、ティファニーって言ったっけ?初めてだね?去年の夏はいなかったね??)
(はい、初めてです。)
(おばあちゃん、去年は、ティファニーはいなかったよ。だから、今年は連れてきた。)
(そうか・・・じゃ、すぐにお昼の支度するから、ゆっくりしてな。もう、ご飯は炊けてるから、あとは、おかずだけだからね・・)
私たちも手伝おうと、思ったが、祖母は、何でも一人でやらないと駄目なタイプで、手伝いなどかえって重荷になるようだ。 賄いも高齢の人にとってほどほどの運動になるのかもしれない。 私たちも、泊まる部屋に手荷物を持っていき、部屋着に着替えることにした。
(愛? みんな浴衣きたらどうだい? ちゃんと用意してあるから。)
(月岡さん、私、浴衣のほうがいい。着てもいい?)
(ユカタ? アイ、浴衣って?)
セギョンは去年、着たけど、ティファニーは知らないか・・・
(ほら、ティファニー、おいで。着させてあげるから・・・)
祖母がティファニーに浴衣を着付ける。私はセギョンに、セギョンは私に、と着付けた。
(サラサラしてとてもいい、何これ? すごく気持ちがいい。)
(いいだろう?女の子は浴衣姿が本当によく似合うからね。)
夏に着た、浴衣とは色もデザインも違う。 私は、オレンジと黄色の花模様、セギョンは赤とゴールドの薄い縞模様、そして、ティファニーは、青とピンク、黄色の風景のようなデザイン。
ティファニーもセギョンも、ご満悦のようで良かった。 浴衣姿の私たちも庭に出てインスタにパチリ、パチリと載せまくった。
(去年も思ったけど、ここの庭、昔の景色みたいだね・・・)
セギョンのいうとおり、祖母の家の庭は、今風ではない。戦後の焼け野原のあとに建った家だから庭も家も昔風なのだ。家の中も、古い木造で黒光りしている。だけど昔の時代の造りはとても頑丈で物持ちもいい。それにコンクリートを使わないから風通しも良いし、夏も涼しく感じる。昔の大工さんたちは腕が良かったらしいし、だから築60年、70年経ってもビクともしないというのはそこなのだ。 地方にある(お城)や(神社)などがいい例だろう。
大工なんて言葉が出てくると、元さんたちを思い出してしまう。あれから一年、か・・
(さぁ、お昼の用意が出来たよ。魚の干物にしたから。ご飯もすすむよ。)
祖母の作ってくれた、賄いは、金目鯛と真鰺の干物、そして、白菜の朝漬け、焼き海苔、卵焼き、豆腐とわかめのお味噌汁・・
(わぁ、美味しそう・・・)
(早く、食べたい・・・)
お昼のランチと突入した。
金目鯛と鰺の干物は、火であぶり、少しこげが着いたとこで醤油をかけて食べる。これが、炊きたてのご飯にはとてもよく合う。それに焼き海苔、味噌汁とくれば、もう言うことはないだろう。 セギョンもティファニーもインスタしながら、よく食べている。
(お魚、美味しいね。豆腐のお味噌汁も最高!!)
(この冷たい野菜、ピリっとして美味しいよ。アイ、これなんていうの?)
(これは、白菜の漬物。お新香っていうの。日本の食卓では定番だよ。)
日本の食事というのは、外国人に好評なものが多いような感じがする。特に、家庭で出されるような、ご飯、味噌汁、納豆、焼き海苔など、朝食で食べるようなものが喜ばれる。
(みんな、お昼、食べたら少し昼寝をしたらどうだい? 今日は暖かいし、心地よい風も入ってくるから、ゆっくり休みな。)
祖母が私たちのために、昼食後に横になれるように庭先の部屋に枕とタオルケットを用意していてくれていた。
昼食も終わり、祖母と一緒に私たちも、片付けと洗い物を手伝った。
(とても美味しかったです。私、日本の食事、大好き。)
(たくさん、食べてすいません・・・・)
セギョンもティファニーも喜んでくれて良かった。
食事を終えた、私たちは庭先の部屋で横になった。窓からカーテン越しに入ってくる風が心地よい眠気を誘ってくる。天気も良く、庭にある桜の木も実が咲こうとしていた。 セギョンもティファニーもすでに気を失っている・・・
高校を卒業し、ちょうど一年が経った。 最後の日に担任が言った、
(高校生活、3年間は、あっという間でした・・・・)
その言葉のように、一年間は、あっという間に過ぎた。私も19歳になり、今年には20歳、成人となる。 成人という大人の入り口に入ったとき、私は何を想うのだろうか?
大学を無事に卒業するときは、私は22歳になっている。 そのとき、セギョンもティファニーもどんな感じになっているのだろうか? そんな時まで、あと2年ほどだ。
と、iphoneに着信が入った・・・
その人は・・・・




