初風呂
避難生活も3、4日、過ぎると、救援物資などが各地から送られてきた。しかし、交通網が寸断されてるため、思うように各避難所まで行き届かない。この益城町の避難所でも直に、大型トラックが来てしまい、救援物資の山になりまたそれを仕分けて配給させる人員も少なくパニック状態になってしまった。熊本市でも一時、救援物資をストップさせることになってしまい、対策を練ることとなった。
まず、救援物資を受け取る中継点を決め、そこから各避難所へ送ること。また、避難所からは、SNS(LINE、ツィッター、フェイスブックなど)を駆使し必要なものを必要なだけと、中継点に送る、無駄の出ない輸送方法をすることに成功した。これが機に、食料や、衛生用品など避難生活に必要な物資が届けられるようになった。
セブンやローソン、ファミマなど、コンビニや、スーパーも所々、営業を再開し避難者たちも長い行列を作り、久しぶりのお弁当やサンドイッチなどを購入していた。しかし、空爆を受けたような市内は、どうすることも出来ず、ただ、呆然とするだけだった。
私もようやく新聞を見ることが出来るようになり、この地震の全容が分かるようになってきた。また関西や関東、東北、中京、北陸と、各地の災害派遣医療チームも続々と福岡市の救命救急医療センターに到着し、各避難所に向かった。余震も、震度3、2と低くなってきてはいるがまだ油断は出来ない。 こういう災害時に必ず起こることがある。それは【空き巣】だ。壊れた家屋に入り、金品を盗むというとんでもない輩が出てくる。避難所にいる人が自宅に戻ってみると通帳やら時計やらがなくなってるという。この避難所だけでも5件の報告があった。 こんなときに、よくも盗みなど出来ると思うとその犯人を処刑したくなる。
ティファニーも私とこの避難所に留まることとなった。秋田で買った、(カロリーメイト)と(ソイ・ジョイ)をリュックから出して、二人で食べた。
(アイ? 地震も少し、収まったのかな・・・でも、あの学生たち、どうなったんだろう・・)
(明日の新聞かもしくは今日の夜、ニュースで分かるかもしれないよ。)
ティファニーと話してると、
(すいません!! お父さんが息してないの!)
小学生の女の子が私たちに動揺しながら言ってきた。
(え?どこにいるの?)
私とティファニーは、その子と一緒に走った。
車中で寝泊りしてるようで、父親らしき人は運転席でぐったりしていた。ティファニーは運転席から引きずりだして、地面に寝かせた。
(AI ? Is there not AED ? アイ? AEDない?)
(Is it AED ? What is it ? AED ? なに?それ?)
(An orange case ! Dangerous ! Economy syndrome ! オレンジ色のケース、ない? エコノミー症候群よ!ヤバイ!!)
エコノミー症候群・・・長時間、座りっぱなしだと足に流れている血管が膝の辺りで(血栓)を起こし、立ち上がったときなど一気にその(血栓)入り込んで血管が詰まる。肺にくると意識を失って死に至ることが多い。
(Because I begin curdiopulmonany resuscitation ! 心肺蘇生をやるから!!)
私は一目散に走り、医療チームの看護師たちにお願いした。
(すいません!!エコノミーなんとかって、起こしてしまい、それで、あの、何だっけ・・AE・・なんとかってありませんか?オレンジ色の入れ物だそうです。)
(ここあるから。私も一緒に行くわ。どこなの?)
看護師さんと医師がオレンジ色のケースを持って私と一緒に走った。ティファニーは男性の胸を出して心臓マッサージをしている。
(イチ!ニッ!サン!・・イチ!ニッ!サン・・・)
(ティファニー!!AED! 私が変わるから、用意して!)
看護師と医師がティファニーにAEDを渡し、男性の手をとり脈を診ている。胸に手を当てて眼球を見たりしている。ティファニーは、オレンジケースからパットを2枚出して男性の胸と脇あたりに付け準備に入った。
(I gotta go ! 行きます!!)
中にあるスイッチを押した。 (電源が入ります。近くの人は下がってください・・)AEDから音声が流れた。次の瞬間! ボン! 男性の体が痙攣を起こしたように飛び上がる。すごい威力だ。
(Keep it up ! その調子で頑張って!!)
看護師からも声がかかる。
(パパー!パパー!)
娘さんが泣きじゃくりながら父親を見ている・・・
(I still go ! もう一回!!)
2度、3度、スイッチを押す。しかし男性の体には反応がない。
(ティファニー!人口呼吸と心臓マッサージしかないわ。)
ティファニーは医師に言われてオレンジケースから口笛みたいなものを出し口にくわえ、男性首を起こして口に差し込んで息を吹き込んだ。看護師も心臓マッサージをしている。
男性の体が少し反応した。足がグラッと動き、腕も動き始めた。
(ティファニー、動いたよ!!回復したよ!)
医師と看護師の笑顔が見える。 男性は意識を回復、私はすぐに救急搬送の連絡をした。娘さんは鳴き声ですごい。
(Good ! going ! よくやったね!)
(Well done ! 頑張ったね!)
医師と看護師からもティファニーに激励だ。
(Really nice ! Swwt ! やったね!超~イイ!)
(AI, I couldn’t be happier. アイ、最高に幸せ。)
救急車が到着し、娘さんも父親と一緒に病院に向かった。
(ティファニー、よくAEDの使い方、知ってたね。)
医師が言うと、
(高校のとき、授業で教わったの。心肺蘇生法。日本にはAEDって装置があるから、その使い方も勉強したわ。笑い。)
ティファニーは、イギリス連邦加盟国・ニュージーランド出身。
5年前の2011年2月22日に、クライストチャーチ大聖堂を始め、様々な建物が倒壊、犠牲者185人という大惨事を経験している。このとき私もティファニーも中学生だった。
この犠牲者の中には日本人留学生も含まれている。当時は日本でも大きく報道され、日本から救助隊が派遣されたりと、報道でも取り上げられた。その直後には、この地震を遥かに上回る地震が日本を襲った。
それが、3:11 東日本大震災だ。
ティファニーはこの日本での地震を見て、日本に留学し復興を支援する仕事に就きたいと思い日本に来た。その一発目がこの熊本大震災だ。高校のときに学んだ救命処置の授業が力を発揮した。私もまさか、大学生活スタートにここまで大きな被害を体験するとは思ってもいなかった。
熊本に来て以来、私たちは着替えず入浴もせず・・・だ。 避難所などには仮設風呂があるようだし、汚れたユニフォームも洗濯したい。それに体臭がキツくなっている。医療チームに相談した。
(そろそろ、お風呂や洗濯もしたいのですが・・・)
(医療チームのメンバーたちも、仮設風呂を利用できるんだ。あと電気も開通してるようだし、洗濯も出来るよ。何人かは福岡に戻ったりしてそちらでなんとかしているみたいだし。交代で入ろうか。俺たちもキレイにしたいしな。笑)
医師たちも、ようやくお風呂に入れる・・・と嬉しそうだ。私たちも仮説風呂のある避難所を探した。少し離れたところにグラントがありここにもテントが張られておりここも避難所だった。ティファニーとここにしようと決めた。
ユニフォームを脱ぎ、下着も取り、4日ぶりのお風呂だぜ!!!と湯船に飛び込んだ。仮設風呂は女湯と男湯に別れており、仮設とはいえ、けっこうしっかりした作りだ。女子の自衛隊員の人が見張りにもついてるため、安心してゆっくりと入浴できそうだ。ティファニーも私も、配給になってるボディーソープとシャンプーで思いっきり洗った。
4日ぶりのお風呂はすごく気持ちが良かった。また、疲れもドッと出てしまい、体の脱力感がすごい・・・被災者たちの気持ちが本当によく理解できた瞬間かもしれない。 汚れたユニフォームや下着類は、避難所に設置されてる洗濯機を使わせていただくことにした。代わりに着るのは中学か高校と思われる赤と青のジャージ、2着。これは支援物資として地方から届いたものだが、どうみても使用済みだ。また胸のところに名前の書いた布が縫い付けてある。個人の人が届けたのだろう。でも着替えがあるだけマシ。洗濯もしてあるようだし今夜はこの学生ジャージだ。私は赤でティファニーは青を着た。
(アイ? 下着はどうするの?ブラジャーとパンティ・・)
(洗濯して乾くまで我慢よ。ノーパン、ノーブラ!)
(ノーパン???ノーブラ???)
(日本では今、これが流行りなの。だから気にしないで。)
と、私は嘘をティファニーに伝えた。お風呂上りに洗濯機を使わせてもらおうとしたが
2台しかなく、使用中で他に待ってる人もいる。どうしようか・・・近くにいるおばさんにコインランドリーなどありますか?って聞いてみた。あったとしてもこの震災でくずれてる可能性が高いが・・・
(すいません、この辺に、コインランドリーなんてありますか?)
(コインランドリー?この地域にはないよ。・・・どうしたの?)
洗濯をしたいのだけど、使うひとがあまりにも多いので、という旨を伝えた。
(じゃ、うちの洗濯機使えばいいじゃない?いらっしゃいよ。電気も復旧したし今の時間なら、空いてるから。うちにおいで。)
(え?いいんですか?本当に?)
(構わないよ。おいで。おいで。)
そういうとおばさんは私たちを自宅につれて行ってくれた。でも、いいとは言っても全く初対面だ。やはり気が引ける。でも、こういうときはありがたく使わせてもらうことにした。
このおばさんの家も被害にあっており屋根瓦が落ち、玄関先のガレージも崩れている。
(まだ、私の家はいいほうよ。見てのとおり周りは倒壊してるでしょ?この先、どうすればいいのか本当に考えちゃう・・・)
ドラム型の洗濯機で大きい。私とティファニーの2人分は余裕で洗濯できそう。
洗濯中におばさんがアイスをくれた。
(ほら、お風呂上りだろう? アイス食べな。コンビ二も開いてるとこが多くなってるからね。でも電気が使えるのってこんなにもありがたいとは思わなかったよ。笑。)
おばさんがくれてアイスは(ガリガリ君)私はレモン味、ティファニーはソーダ味を頂いた。
(It’s delicious ! おいしい!)
ティファニーが喜んでいる。
(Yummy ! おいしいね!)
バクバク、遠慮なしに平らげた・・・
一緒に、行動をして、お風呂にも一緒に入り、アイスも一緒に食べてる・・・
ティファニーと過ごしていると、(瞳)と一緒にいるようでどうしても被せてしまう。瞳ともこんなふうによくお風呂に入り、アイスで乾杯!なんてやってたっけ・・・あの事件がなかったら、今頃、私と一緒の大学に来てこの熊本で支援活動をしてたかもしれない・・・
洗濯物は乾燥機にもかけてくれて私たちのユニフォームと下着はフワフワの暖かい仕上がりになった。生肌に温かいパンツとブラジャーはとても気持ちがいい。今日はこのままジャージ姿で過ごしてユニフォームは明日しよう。におばさんにもお礼を言って避難所に戻ることにした。
(もし、寝るところがなかったらまたうちにおいでよ。お風呂もあるし、洗濯も出きるし、ご飯も用意しとくから。笑)
(ありがとうございました。)
熊本の人は、人情味があり温かい。東京ではまずこんなことはありえない。それどころか怖くて初対面の人など自宅になどあげないだろう。
(How did you like it Tiffany ice ? アイス、どうだった?ティファニー)
(It was great. おいしかったよ。)
私とティファニーは、疲れもピークになりフラフラしながら避難所に戻った。