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午後の作業

お昼休みも終わり、午後の作業を開始。


カートに清掃道具を入れ、ホームに向かった。午前中に比べると、それほど乗客の人も多くなく、気持ち的にも余裕が出てきた。


(さ、行こうか。)


片瀬さんの音頭で、午後の作業が始まった。座席の向きを変えるのも、午前に比べるとずいぶんと捗り、動きもよくなっている。


(月岡さん、だいぶ出来るようになってきたじゃない?慣れるとスピードも付くでしょ?)


(はい。何だか体が自然についてくるようで朝の作業に比べると楽になってます。)


一つ一つ、座席を変えながら、迅速に動く自分が窓ガラスに映る。中々、サマになっているようで嬉しくなってくる。片瀬さんも私を見ながら座席のゴミや新聞、雑誌を回収し、後を追ってくる。一方、ティファニーもセギョンも黙々と作業をこなし体で覚えてきてるようで順調に進んでいる。


どんなことでもそうだが、始めは出来なくても、繰り返しやっていると徐々に出来るようになってくる。これは、清掃作業ということだけでなく、他のことにでも同じことが言えるはずだ。それに、出来なかったことが出来るようになってくると面白くなってきて楽しい。


午後の作業は15時で終了、後は、清掃道具の片付け、控え室の掃除、明日の準備などで30分ほどかかる。ユニフォームを着替えて控え室をでるのが16時前になる予定だ。


セギョンもティファニーも作業を終え、控え室に戻ってきた。各班の人たちとも手分けして、控え室の掃除や明日の準備に取り掛かり、一人、一人、更衣室に戻り着替えをしている。


(月岡さん、明日はどうしてるの?)


(え?明日は、授業も休みですし、寮で今日のことをティファニーたちと報告しながらまとめようかと思ってるんですけど・・)


(もしね、月岡さんたちが良かったら、もう一日、やってみない?)


それを聞いてた、セギョンが、


(やりたいです!すごく楽しい。月岡さん、明日も来ようよ。)


へ・・?明日も・・ですか?


(アイ、明日もやろうよ。もう一日、体験したい。)


ティファニーも乗り乗りだ。でも、私、ちょっと疲れちゃったんですけど・・・なんて言ってられないか。


(明日もやろうか?)


(Way to go !!  やったね!)


(じゃ、明日も6時30くらいには、この控え室に来てくれる?)


(分かりました!!)


私たちも着替えを済ませ、明日に備え、控え室を後にし、帰ろうとしたとき、


(月岡さん!!)


片瀬さんが何やら、私たちに?


(大学まで、私が車で送ってあげるから乗っていきなさいよ。疲れたでしょ?笑)


(え?いいんですか?ありがとうございます。)


疲れたところに片瀬さんから救いの手だ。私たちも遠慮なしに送ってもらうことにした。

セギョンもティファニーも後ろの座席に座ると、即座に夢の世界へといった。車中の中で、片瀬さんが語り始めた。


(月岡さん、清掃ってお仕事、どんなイメージする?)


(え?どうしたんですか?う・・・ん、仕事は大変だけど、でも楽しいですよ。)


(私ね、今の仕事に就く前は普通の会社員として働いてたんだ。でもね、ある日、上司に呼ばれて、移動になったの。そこがさ、何もない部屋で机と椅子があるだけ。とうとう私にも来たんだな・・・って思った。ふと、同僚なんか見ると、20代の若い子ばかりでね。同期の人たちもほとんど辞めていて、私も気が付くと48歳なんて年齢になってたんだ。でも、なんとか定年まで居たいって思いながら働いてたんだけどね。)


(え?そのとき48歳って?じゃ、今、おいくつなんですか?)


(いくつに見える?笑。63歳。フフフ・・)


(えーーー?ぜんぜん見えないですよ。)


(何も出ないわよ。笑。)


(それで、その会社はどうしたんですか?)


(いつも通り、出勤した。でも、いままで仲良くしていた人たちも、どんどん私を避けるようになり、終いには口も聞いてくれなくなったかな・・・そんな状態でまともに職場に居れなくなり退職した。高卒で新入社員で入り、自分なりに一生懸命に働いた。でも、用がなくなれば終わりよね。会社なんてそんなもんかって思った。30年も働いたのにね。)


(でも、どうして新幹線の清掃の仕事をしようと思ったんですか?)


(始めは、気晴らしにパートでもしながら次の職場を探そうって思ってたの。でも、50近い女を雇う会社なんてまずないでしょ?まして、秋田なんて田舎でさ。求人みてたら、新幹線の清掃スタッフ募集なんてあったから、とりあえずここでバイトでもしようって軽い考えだったの。でも実際に仕事をしてみると、もう嫌で嫌でたまらなかった。)


(なんで、嫌だったんですか?)


(まず、作業着なんて着たことなかったし、それに、清掃の道具を持ちながら働いてる姿をかつての同僚なんかに見られたくなかったの。それに、私が今の職場に来たときはもう

それこそ女独特の雰囲気で、すぐに辞めようと思った。でもね。辞めたとこでまた無職でしょ?そこから探すとなると、もう至難の業でどうしようもなかった。今でこそ、キレイなユニフォームになり仕事もキレイに仕上げるけど、以前は、もう、とてもじゃないけどいい加減なんてもんじゃなかった。笑。クレームも凄かったし。)


(じゃ、何で(7分間の奇跡)とまで言われるような仕事になったんですか?)


(今の部長が移動でこの清掃を担当するようになったの。そのときに清掃の環境を見て、すぐにでも改善策を練らなければダメになるって思ったらしいのね。それはそうよ。だって作業はチャランポランだし、入ってもすぐに辞めていく、休む、人が足りない、もう劣悪ったらない。私もよくそんな環境の中で働いていたな・・なんて思うわよ。笑。でもね、部長は決して、怒ったり攻めたりしなかった。 そんなときに、休憩時間に部長が来てさ・・・)


【みんな、聞いてくれ。清掃の仕事っていうと本当に低くみられ、敬遠されるし、時には罵声も浴びせられることもあるだろう。でも、今一度、清掃をしてキレイにするということをよく考えて欲しい。この新幹線だって掃除をしてくれる人がいなかったらどうなってしまうと思う?もう汚れて、汚くて乗るのも嫌になるだろう?それを貴女たちは毎日、座席を掃除しゴミを取り、窓を拭きと(清掃)という作業をしているからこそ、乗客も安心して利用できるんだ。 そうだと思わないか? 貴方たちは、(清掃作業員)じゃない。(スター)だ。新幹線を守る(スター)なんだ。】


(いったい、何を言いたいんだろうって私も思ったの。でも、部長が乗客から手紙をもらってそれを読まれたときには、もう涙が出てきたな・・・)




清潔な座席、行き届いた掃除、きれいな窓、とても快適に利用させていただいております。すばらしい清掃作業員の方たちに感謝します。




(こんなにも、いい加減に仕事してるのに、感謝します?・・・なんて言われていいのかよって・・・ 私はなんて酷い仕事をしてたんだろうってもう、自分を責めた。 これは私だけでなく周りの同僚もみんな思ってた。)


(その後はどうしたんですか?)

(部長も間に入れて、もう一度、作業を見直すことから始めたの。そうすると無駄なことばかりが出てきてね。今まで、なんでこんなにもすぐに辞めていくのかって思ったら、一人に対する仕事の量がとても多かったのよ。それを何人かで分割し割り当てながら作業のプログラムを作っていった。そうしたら、今までこんなにも時間がかかっていた作業が短時間で終わるようになり、それに作業着も一新して、明るい緑の色のユニフォームに変えて、そして、作業する前に乗客と新幹線に挨拶をしようってなっていった。それを見ている乗客からも好評で話題になっていったんだ。)


(それが、今の(7分間の奇跡)なんですね。)


(そうね。効率よく作業をすれば早くキレイに仕上がる。それが出来たとき乗客も私たちもお互いに気持ちよくなれる。それを実感したとき、本当の喜び、感謝という気持ちを持てるようになるのよ。そうなると職場の環境も良くなっていき入ってすぐに辞めるなんてことがなくなっていったな。私もあと2年で定年だけど、希望があれば嘱託で働くことも出来るし。本当によくここまで改善したなって思う。笑。)



寮に到着し、セギョンとティファニーを起して片瀬さんにお礼をいった。


(ありがとうございました。)


(明日で最後になるけど、楽しみに待ってるから。今夜はゆっくり休みなさいね。)



片瀬さんの車は私たちを後にし、ヘッドライトが少しづつ小さくなり消えた。













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