ようやく到着
羽田空港から京急蒲田まで、快速に乗り、祖母の家へと向かう。セギョンも腹をすかし私も目の前に座ってる人が、なんだか、朝マックに見えてヨダレが出てくる。早く、お昼を食べたい・・・
(月岡さん、東京は暑いよね。今日、何度あるの?)
(ちょっと見てみようか。)
相棒(Iphone 6s)をONにし、yahooを開いた。天気を見る前にニュース欄で、関東39度と出ていた。
(セギョン、39度だってさ。)
(ふーん、39度か・・)
(えーーーー39度???)
私たちも驚いた。今、いた羽田空港で38度を記録している。埼玉の熊谷で39度。暑いわけだ。電車の中はクーラーがガンガン効いてるが、京急蒲田から祖母の家までは歩きだ。無事にたどり着けるのか・・・
京急蒲田駅に到着。 駅3Fから1Fに降りて国道から呑川沿いを歩き、キネマ通りに入ればすぐだ。よし、行くぞ!
(月岡さん、何かおばあちゃんに持って行きたい。)
(へ? 別に大丈夫だよ。)
(ううん、やっぱり何か買っていく。)
韓国のオンナも意外に情が厚い。ティファニーもそうだけど、外国人は人情というのを大切にしてるような気がする。
セギョンは、1Fの京急ストアにある、ケーキ屋でプリンとエクレアを購入。早速、祖母の家へと向かった。 セギョンも楽しみのようでワクワクしている。このくそ暑い中、汗びっしょりになりながらようやく着いた。
(おばあちゃん?来たよ。)
(ああ、よく来たね。暑かったろう?早くあがんな。)
(こんにちは。セギョンといいます。初めまして。あの、これ、どうぞ。)
(まぁ、いいのかい?ありがとう。よく来たね。暑いから早く入りなさい。)
祖母も嬉しそうで良かった。私もセギョンもまず、汗だくの服を脱ぎ、お風呂に入ることとした。祖母が入浴の準備をしてくれていたのだ。 シャワーを浴び、湯船に入り、シャンプーをし、お昼時の入浴なんて、チョー最高!!
(月岡さん、気持ちいいね。ご飯よりこっちの方が全然いい!!笑い。)
(すごい、さっぱりするよね。もう、髪を洗いたくてさ・・)
少し、水でシャワーを噴射。 もう、何とも言えん・・・セギョンも私もこの猛暑の中を這いずって来た甲斐があったってもんだ。
入浴を楽しみ、あとはお昼ご飯。もう何もいうことはない。 祖母が浴衣を用意してくれていた。着替えは洗濯中。この暑さならすぐに乾くだろう。
(さっぱりしたろう?お風呂上りには肌さわりの良い、浴衣が一番いいんだよ。きつくないように帯も簡単にしたから。)
(私、日本に来たら、この浴衣を着て花火を見るのが楽しみだったんです。)
(それは良かった。来週には、六郷土手というところで花火大会があるんだよ。愛と一緒に行っておいで。浴衣は大丈夫かい?)
(少し、ゆったりめでとても楽です。ありがとうございます。)
セギョンは、黄色とオレンジの可愛い柄、私は水色と青の涼しげな柄の浴衣だ。どちらも祖母の手作り。
(この浴衣は、おばあちゃんの手作りなんだ。和裁が得意なの。)
(へぇ・・すごいなぁ。でも、とても素敵。)
セギョンもご満悦のようだ。私も気持ちが楽になりすぎてしまい、睡魔が襲ってきた。しかし、お昼も食べたい。祖母が作るご飯は格別なのだ。
(こういう暑い日はね。さっぱりとしたものを腹八分目で食べるのがいいんだよ。)
そういって用意されたのは、冷麦だ。麺つゆにつけてスルッと食べる。セギョンも???な表情で不思議そうに眺めている。
(あの、この白い麺みたいのは何ていうんですか?)
(これはね、冷麦って言って、素麺というのと似てるんだよ。日本では夏によく食べるものでね。)
まぁ、とにかく食べてみようじゃないか?セギョンくん。
韓国にも冷麺というのがあるが、それと同じようなものだと思えばよい。
冷麦を箸で取り、麺つゆにつけてお口の中へ・・・・ どうだ? セギョン?
(うん!美味しい。やわらかくて。それにこのピリッとした、おつゆがすごくいい!)
セギョンも箸が進む・・・麺つゆには少し、わさびを入れる。それに刻み海苔を少々。私も負けじと食べまくる。
(おばあちゃん、さっぱりして美味しいよ。)
私もセギョンも、冷麦を食べたあとはお風呂上りの効果もあり、睡魔が襲った。
窓を全開にして外の空気を入れて、心地よい風鈴の音色、ほのかに香る、蚊取り線香、それに枕にはアイスノン。庭からはセミの泣き声が響き、お昼寝には準備万端ではないか。
(月岡さん、もうだめ・・・死ぬ・・・)
そう言って、セギョンは気を失った。 私も続き、夢の中へと扉を開けた・・・
少し寝たのか、目が覚めると夕焼けのキレイな景色が見える。夕方になったのか?と時刻をみるともう、18時。夏は日が暮れるのが遅いんだったな。
セギョンも起きて庭先の夕焼けを見ると、
(わぁ・・きれい。日本の空っていいよね。)
祖母の家は、庭があり、その作りも昔風で昭和の雰囲気そのものだ。お盆の時期になると親戚が集まり、手作りの料理を食べ、花火もした。だけど、今となっては誰も来ない。親戚の人たちも年を取り、高齢にもなってるし、またその子供たちも、今ではいい大人になっている。近くに住んでいても、よほど億劫なのか、祖母にも会いにこない。親、兄弟なんて所詮、そんなものなのだろう。
(2人とも、さっきも入ったけど、またお湯を入れたから、お風呂に入っておいで。夕飯は、ちらし寿司を作ったからね。)
(わぁ・・本当?おばあちゃんのちらし寿司、大好きなんだ。)
(ちらし寿司ってなに?)
(韓国でもない?こう、お鮨をまぜて・・なんていうか・・卵焼きを細く切ったのと、あと海苔も細くして・・)
まぁ、見ればわかる。とにかく、入浴2回戦にしよう。
セギョンと私は、浴衣を脱ぎ、お風呂へドボンした。
お風呂から上がり、私はすっかり竹内さんのことを忘れていたのを思い出した。すぐにLINEにアクセス。
(竹内さん、羽田に着き、今、蒲田の祖母に家にいます。)
すると竹内さんも、
(私、今、品川駅にいるの。会えない?)
いや、参ったな。これからディナータイムで・・どうしようか・・・
(竹内さん、うちに来ない?品川駅なら快速で一駅だし。)
(え?いいの?だっておばあちゃんいるんでしょ?)
(ううん、全然、平気よ。おばあちゃんも歓迎だから。)
(うん、じゃ、これから向かうね。)
急遽、竹内さんも参加することになってしまった。祖母にもう一人、来ることを伝えると・・
(そうかい。賑やかになっておばあちゃんも楽しいよ。その子の浴衣もちゃんと用意するから。それと来たら、お風呂に入れてあげなよ。それからみんなで夕飯にしよう。)
セギョンにも伝えると、
(月岡さんの友達にも会えるなんて、楽しみ。)
祖母の家が、なんだか民泊みたくなってしまったが、親戚が集まってるみたいでなんだか楽しい。
あと、一人・・・
それは、瞳だ。 羽田空港に着いたら、真っ先に連絡しようと思っていたが、なんだか気持ちが進まない。あれだけ、会いたかったのに、急によそよそしくなってしまっている。私はいったい、どうしてしまったんだろう。 でも、東京に戻ってきたのも、瞳に会うことがまず一番初めだったのだ。 考えていても始まらない。
私は、瞳にダイヤルした。